これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

待ち時間のつぶし方

2011年11月03日 20時15分43秒 | エッセイ
 体外受精も二度目になると、かなりの余裕が生まれてくる。
 飲まず食わずで病棟入りするのだが、忘れちゃいけないのがペットボトルのお茶である。前回は、ひどい目にあった。採卵手術が終わり、麻酔が切れたとき、「水分をとってもいいですよ」と言われたのに、飲むものが何もなかったのだ。
 かといって、買いに行くほどの元気はない。看護師さんが、給湯室からお茶を持ってきてくれて事なきを得た。今回は学習して、伊右衛門のほうじ茶を用意した。
 手術は外来が終わってからなので、2時すぎだ。段取りもわかっているから、点滴を受けながら、のんびり本を読む。待ち時間は読書でつぶすに限る。その日は、たまたま本を切らしてしまい、石田衣良の『美丘』を娘から借りてきた。吉高由里子主演で話題になった、かのTVドラマの原作本である。
 幼い頃に交通事故にあい、ドイツ製の乾燥硬膜を移植された美丘は、クロイツフェルト=ヤコブ病になることを心配しながら生きている。大学生のとき太一と出会い、やがて愛し合うようになり、幸せの絶頂期を迎える。しかし、皮肉なことに、そこで病気が発症してしまうのだ。最後は、太一に見送られてこの世を去る。
 悲劇なのだが、自由奔放で、言い出したら聞かない美丘のパーソナリティのためか、さほど暗くならないのが救いだ。
 気になったのは、美丘が下ネタを連発するところだろうか。
「じゃあ、いつもひとりでしてるんだ。本ばかり読んでると、インポになるよ」
「なんだ。もうちょっと時間があったら、太一くんの好きな体位がききだせたのに。ねえ、背面騎乗位だったっけ」
「ねえ、麻理さん、こんな部屋で手とか縛られてやってみたくない」
 
 ………………。
 私は閉口した。性描写も多いし、中学生には少々早いのではないだろうか。しかも、「親に見られたら困る」とは思わず、「これ読みなよ」と貸すあたりが理解できない。
 うーむ。
「笹木さん、そろそろ手術を始めますので、準備をお願いします」
 頭の中がこんがらがっていても、進行に影響はない。看護師さんに連れられて、採卵をしてもらった。今回は4個採れたと聞き、安心した。しかも、麻酔の効きがよく、意識がもうろうとしたら「終わりましたよ」と告げられたので、全然痛くなかった。
 麻酔から覚めるときは、いつも気持ちが悪くなって吐き気を感じるが、今回はさほどでもない。体も慣れていくのだろうか。

 採卵した4個に夫の精子を合わせて、そのまま様子を見るという。受精すれば細胞分裂が始まるので、3日後、成長していることを確認してから体内に戻す。場合によっては、すべての卵が受精しないこともあるので、私は緊張した。
 そして、今日が3日後であった。
「1個だけ受精しましたから、今日はそれを戻します」
 ゼロよりはいいが、「たったの1個かぁ」と落胆も感じる。やっぱり歳のせいかもしれない。
 文化の日だというのに、出勤している医師の処置を受け、私は家路に着いた。
 電車の中で、ハードカバーの本を出す。『美丘』は終わったので、今は東野圭吾の『ガリレオの苦悩』を読んでいる。福山雅治でおなじみの科学者、湯川准教授が登場する推理ものだ。つまらなくはないが、何だか物足りない。
 下ネタがないからだったりして……。

 戻した受精卵が着床し、胎児の心拍が確認できれば妊娠成立である。
 陽性反応が出るまでに2週間、心拍確認までにはさらに4週間ほど待たなければ、結果はわからない。結構、時間がかかるのだ。
 風邪をひかないようにして、健全な本を読みながら、ひたすら待つことにしよう。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (16)
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