これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

親の見栄

2011年04月21日 21時45分04秒 | エッセイ
 たまには保護者会に出ようと思い、仕事を抜けて、娘の中学校まで足を運んだ。いつもは専業主夫の夫に任せているので、保護者会に顔を出すのは実に2年ぶりである。
 年度初めということもあり、資料がどっさり渡される。中を開けてみると、「年間指導計画・評価計画」というタイトルの、ホチキス留めの分厚い冊子が入っていた。やけに重たいのは、この冊子のせいらしい。
 同業者ということもあり、興味を持ってページをめくる。
 まずは国語からだ。教科の目標や指導の重点、一年間の指導計画と評価の観点などがまとめられている。どの教科も、少なくとも2ページ、多ければ6ページに渡って、びっしり文字が埋められている。
 すべての教科・科目で、1ページにおさまる私の勤務先とは大違いだ。高校は簡素化しているが、中学は文字数を競っているような雰囲気である。
 ふと、音楽のページで手が止まった。
 担当者の名前に引っ掛かる。連名で書かれている教員の中で、見おぼえのある名前があるのだ。

 もしかして、この先生、私の学校で講師をやっているんじゃないかしら。

 勤務先の高校では、芸術は選択科目のみなので、選任の教員がいない。すべて非常勤講師でまかなっている。音楽の先生は、まさに「年間指導計画」に書かれている名前と同じだった。
「世間は狭い」とはいえ、こんな偶然があるものだろうか。
 私の勤務先と、娘の中学は、区も違うし何の接点もない。同姓同名かもしれないが、どうにも気になる。
 家に帰って娘に言うと、去年の「職員紹介」を引っ張り出してきた。これは、教職員全員の顔写真と担当教科・氏名が載っているPTA広報誌である。これを見れば顔がわかる。
 はたして音楽の先生は、私の勤務先にいる人と同一人物なのだろうか。
「あった!」
 娘が指差す写真を見ると……。
 やはり、見たことのある顔が写っていた。

 実のところ、自分の子どもの出来は、同業者に知られたくない。教員と警察官の子どもは非行に走りやすいとも聞くが、私の知るかぎりではあながち間違いではない。問題を起こさなくても、いまいちパッとしない成績だったりして、優秀な子を持つ同僚は少数派のようだ。
 うちの場合も多数派に含まれる。日頃から仕事を優先し、娘の宿題を見てやることもないくせに、見られて困る成績を取るなとは、我ながら勝手な言い草だと思う。しかし、私にも見栄があるのだ。ひとまず、釘を刺しておかねば。
「ねえ、授業中、変なことしないでよ」
「変なことって?」
「おしゃべりとか忘れ物とか」
「…………」
 どうも、娘の反応が悪い。しばし無言となったあと、言いにくそうに答えた。
「あのさ、音楽の教科書、なくしちゃったみたいなんだけど……」

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