これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

19回目の結婚記念日

2011年03月31日 19時47分53秒 | エッセイ
 結婚してから、丸19年を迎えた。
 年の差婚とはいえ、新婚当時は熱々カップルだった私たちも、今では水道水並みの冷たい関係である。日々の会話は1分未満の事務連絡だし、休日も一緒に出かけることなどなく、別々の部屋で好き勝手なことをしている。一緒に出かける機会があっても、夫が一人で先に行ってしまい、おしゃべりしながら歩くことなどない。ときどき、意見が食い違って口論になり、離婚話にまで発展したこともある。よく19年も持ったと感心する。
 友人も似たようなものだ。夫の悪口で妻たちは盛り上がり、親睦を深めていく。
 だが、中には結婚して20年経っても30年経っても、「夫が一番好き」と言い切る女性がいる。彼女はいつも楽しそうで、満たされている様子だ。ちょっぴり、いや、かなり羨ましい。
 どうせ、一緒に暮らさなくてはならないのなら、せめて浴槽の残り湯程度のぬるい関係にまで修復できないものか。いまさら、ホットになれないことはわかっているけれど、結婚記念日をきっかけにして、多少は努力してみたい。

 心が温まるのに必要なものは、愛の言葉という気がする。新婚の頃は、毎日のように「好きだよ」「愛しているよ」と言い合っていたが、慣れてくると言わなくなる。言わなくても伝わるはずだと思ったら大間違いで、言わなければ、あっという間に冷え切ってしまうようだ。
 もし夫に、「たまには愛しているよ、くらい言ってよ」とせがんだらどうなるだろう。気が狂ったと思われるのがおちだ。逆に、私が唐突に「好きよ」などとささやいた日には、何かの陰謀かと警戒するに違いない。
 まずは、今まで夫を邪険に扱ったことを反省し、自分が変わる必要がある。きつい言い方をやめて、なるべく肯定的な会話を心掛けねば。加えて、夫が自分の意思で「愛しているよ」と言いたくなるように仕掛けたい。

 日曜日、夫を誘って駅前まで出かけることにした。「たまには散歩に行こう」と声をかけると、意外と素直にうなずく。コートを羽織り外に出て、駅までの細い道を、私たちは並んで歩きはじめた。
「あの梅、散っちゃったね」と話しかけると、「そうだね」というつまらない答えが返ってくる。
「まず、100円ショップに行って、それから薬屋さん、スーパーの順に回ろう」と提案すると、「いいよ」と短い返事をする。日頃、会話のない二人が話しても、なかなか盛り上がらない。
 会話が途切れたころ、夫の右手に触れてみた。温かいかと思ったら、予想に反して冷たい。私は、指先をさらに伸ばし、無言で夫の手のひらに滑り込ませる。
 その瞬間、夫が全身をこわばらせた。どうやら、相当驚いたらしい。なにしろ、手をつなぐのは、15年ぶりくらいなのだから。
 でも、夫はつないだ手をふりほどこうとはしなかった。横顔からは、動揺だけでなく、かすかな笑みが見え隠れする。そのまま、200メートルほど歩いただろうか。私の温度で、夫の手が温まってきた頃、いきなり手を離された。
「目に虫が入ったぁ~!」
 夫は両手で目をふさぎ、涙を流して痛がった。気の毒ではあるが、舌打ちしたい場面である……。
 
 結婚記念日のお祝いをする。本来なら、どこかで外食したいところだが、今年は地味に仕出し弁当ですませた。



 ケーキは、立派なあまおうがゴロゴロ入っているデコレーションにした。小さいけれど、義母も含めて、4人でピッタリのサイズである。

 

 売場のお姉さんが、お祝いのプレートを作ってくれた。
 漢字が多くて難しそうなのに、上手いものだ。



 夫も「すごく美味しい」と喜び、上機嫌であった。

 翌日、娘の吹奏楽部で演奏会があった。
 夫が先に席を取っておいてくれたので、私はあとから家を出た。パワフルな演奏を楽しんだあとは、夕方、一緒に家へと向かう。道々、手をつなぐタイミングを計っていたが、クラブの保護者が多くて気が引ける。やがて、交通量の多い道に出たため、夫の後ろについた。
 隣に私がいないと、夫は足が速くなる。徐々にスピードを上げ、振り返りもしない。私はついていけなくなり、じわじわと差が開いた。それでも夫は気づかず、ズンズン歩いていく。
 遠ざかっていく夫の背中を見て、私は叫びたくなった。

 リセットするなよ~~ッ!!

 日曜日の努力は何だったのか。考えるだけ虚しい。かくして、私は一人淋しく家路についたのだった。
 ぬるい関係を目指しても、ハードルが高いようだ。
 水道水でも、夏場はぬるくなるからいいか……。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (24)
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