仕事から帰ると、居間で娘がテレビを見ていた。
女性救急隊員の仕事ぶりに密着した、ドキュメンタリーのようだった。どんな仕事をするのだろうと興味を持ち、私もテレビの前に座って見る。
まずは、コンビニ店員から、「血だらけのお客様がいる」という通報を受けて出動する場面からのスタートだ。
お客様というのは、ホームレス風のおじいさんである。左のこめかみから頬にかけて、真っ赤な血が滴っている。私は思わず悲鳴を上げた。
「うわっ、イヤだ! 血だらけじゃん!!」
「ミキも、近寄りたくない」
娘も眉間にしわを寄せ、渋い顔で画面を睨んでいる。
しかし、この救急隊員は、おじいさんにやさしい言葉をかけて、傷の手当てを始めたのだ。会話の様子から、認知症の気配も感じられる。とても、私にはできないと感心した。
次に、午前3時にひき逃げ事件が起き、現場に駆けつける映像が流れる。
「午前3時!? 寝てるし」
娘は寝起きが悪い。おそらく、どんなに体を揺さぶられても、起きて救助に向かうことはできないだろう。
結局、被害者は亡くなったそうだ。路上の血痕などから、かなり凄惨な事故現場だったことが予測できる。私を含めて、神経の細い者ならば、大怪我を負った人を救助するよりも、血の海となった光景を直視できずに、尻尾を巻いて逃げ出すか、卒倒してしまうかもしれない。
さらに、事故の衝撃で脱げた靴や、落ちた財布、預金通帳などが映し出された。暗闇の中で、ゴロリと転がったままになっている。
「あっ、お財布だ」
「通帳もあるって」
私と娘は顔を見合わせた。
「ダメだね、お母さんだったら、助けようとしないで、財布だけ取って帰っちゃうんじゃない?」
「何よ、ミキだって、通帳狙っているくせに」
「あはは、お母さんもミキも、絶対救急隊員にはなれないね」
タチの悪い冗談だ……。
テレビを見ていて思い出したことがある。
娘がまだ1歳だったとき、救急車のお世話になった。熱性けいれんだと思っていたら、深夜になって、急に意識がなくなったのだ。呼びかけても返事がなく、首をダラリと垂らしている。急いで病院に電話をすると、救急車を呼んだほうがいいと言われた。
ところが、救急車に運び込んだとたん、意識が戻ってきた。自分が救急車に乗っていると理解した娘は、「ピーポ!」などと指をさしてはしゃぎ始めた。
あのときの気まずさといったら……。
急患で診察してもらったあとも、困った事態が待っていた。時間は午前2時。行きは救急車だったから、帰りの足がない。タクシープールも空っぽで、私と夫は、フガフガと寝始めた娘を抱え、途方に暮れた。
「どうやって帰る??」
「どうしよう……」
「あっ、見て! タクシーが入ってきたよ!」
「よかった、これで帰れる!!」
最近では、安易に救急車を呼ぶケースが増えており、救急隊員の負担になっているという。
よほどのことがないかぎり、私は救急隊員に頼らないつもりだ。
特に深夜は……。
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
女性救急隊員の仕事ぶりに密着した、ドキュメンタリーのようだった。どんな仕事をするのだろうと興味を持ち、私もテレビの前に座って見る。
まずは、コンビニ店員から、「血だらけのお客様がいる」という通報を受けて出動する場面からのスタートだ。
お客様というのは、ホームレス風のおじいさんである。左のこめかみから頬にかけて、真っ赤な血が滴っている。私は思わず悲鳴を上げた。
「うわっ、イヤだ! 血だらけじゃん!!」
「ミキも、近寄りたくない」
娘も眉間にしわを寄せ、渋い顔で画面を睨んでいる。
しかし、この救急隊員は、おじいさんにやさしい言葉をかけて、傷の手当てを始めたのだ。会話の様子から、認知症の気配も感じられる。とても、私にはできないと感心した。
次に、午前3時にひき逃げ事件が起き、現場に駆けつける映像が流れる。
「午前3時!? 寝てるし」
娘は寝起きが悪い。おそらく、どんなに体を揺さぶられても、起きて救助に向かうことはできないだろう。
結局、被害者は亡くなったそうだ。路上の血痕などから、かなり凄惨な事故現場だったことが予測できる。私を含めて、神経の細い者ならば、大怪我を負った人を救助するよりも、血の海となった光景を直視できずに、尻尾を巻いて逃げ出すか、卒倒してしまうかもしれない。
さらに、事故の衝撃で脱げた靴や、落ちた財布、預金通帳などが映し出された。暗闇の中で、ゴロリと転がったままになっている。
「あっ、お財布だ」
「通帳もあるって」
私と娘は顔を見合わせた。
「ダメだね、お母さんだったら、助けようとしないで、財布だけ取って帰っちゃうんじゃない?」
「何よ、ミキだって、通帳狙っているくせに」
「あはは、お母さんもミキも、絶対救急隊員にはなれないね」
タチの悪い冗談だ……。
テレビを見ていて思い出したことがある。
娘がまだ1歳だったとき、救急車のお世話になった。熱性けいれんだと思っていたら、深夜になって、急に意識がなくなったのだ。呼びかけても返事がなく、首をダラリと垂らしている。急いで病院に電話をすると、救急車を呼んだほうがいいと言われた。
ところが、救急車に運び込んだとたん、意識が戻ってきた。自分が救急車に乗っていると理解した娘は、「ピーポ!」などと指をさしてはしゃぎ始めた。
あのときの気まずさといったら……。
急患で診察してもらったあとも、困った事態が待っていた。時間は午前2時。行きは救急車だったから、帰りの足がない。タクシープールも空っぽで、私と夫は、フガフガと寝始めた娘を抱え、途方に暮れた。
「どうやって帰る??」
「どうしよう……」
「あっ、見て! タクシーが入ってきたよ!」
「よかった、これで帰れる!!」
最近では、安易に救急車を呼ぶケースが増えており、救急隊員の負担になっているという。
よほどのことがないかぎり、私は救急隊員に頼らないつもりだ。
特に深夜は……。
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