これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

いってらっしゃい、いってきます!

2010年11月25日 20時14分55秒 | エッセイ
 出勤するときは、専業主夫の夫と中二の娘が、「いってらっしゃい」と送り出してくれる。
 仕事は決して好きではないが、家族からのエールがあると、職場への足取りも軽くなる。

 夫の現役時代を思い返してみると、結構淋しい思いをさせていた気がする。
 車通勤をしていた頃、夫は「道路が混むから」という理由で、朝5時半に家を出ていた。当時、私の起床時刻は6時だったから、起きるともぬけの空になっている。誰にも「いってらっしゃい」を言ってもらえず出発していたようだ。
 電車通勤に変わっても、空いている時間帯に乗りたがる。せっかちな性格も災いし、結局早朝に出掛ける宿命なのだ。私はほとんど、「いってらっしゃい」を言ったおぼえがない。

 休日などは、遅い時間に出かけることもあった。いつもいない人間が、でかい図体でウロウロしていると、こちらの調子も狂う。普段のペースを取り戻したくて、「早く出掛けてくれないかなぁ」とテレパシーを送ってみたが、効果がなかった。
 居心地の悪さを感じたのは、私だけではなかったらしい。まだ幼かった娘も、夫がいることに慣れず、30分おきに「まだ行かないの?」と尋ねていた。最初は「まだだよ」とやさしく答えていた夫も、だんだん苛立ってきて声を荒げた。
「何だよ、お父さんは家にいちゃいけないのか! もういい。早いけど行くよ」
 夫は乱暴に荷物をつかむと、振り返りもせず、大きな足音を立てて玄関に向かった。私と娘は並んで背中を見送り、「いってらっしゃ~い」と仲良くハモった、なんてこともある。

 今、2人に見送ってもらえる私は、ぜいたく者である。
「いってらっしゃい」のあとには、たいてい娘が「気をつけてね、頑張ってね」とつけ加えてくるので、つい、くだらない反応をしてしまう。
「頑張らないよ、気をつけないよ」と返すと、「何、その返事は。やり直し」とダメ出しをくらう。そこで、「頑張りま~す、気をつけま~す」と訂正してオーケーが出る。
 いつも同じパターンだと芸がないから、ときには「頑張りまちゅ、気をつけまちゅ」と赤ちゃん言葉にするなど、バリエーションも考えねばならない。
 先日は、『のだめカンタービレ』に登場する、シュトレーゼマン風に言ってみた。竹中直人演じる、金髪巻き毛のあの役だ。
「がんばーります! 気をつーけます!」
「ば」と「つ」を強調し、外国人風に発音するのがポイントで、なかなかウケがいい。
 また、テレビドラマ『Q10(キュート)』のロボット、前田敦子ちゃんのように、抑揚のない棒読み調で「ガンバリマス、キヲツケマス」も好評だ。
 送り出される側も、創意工夫が大事だと思う。
 
 夜、飲みに行くときは、「いってらっしゃい」のあとに、夫が「遅くならないでね」と付け加える。
 この一言は余計だ……。
 私は、「うっ、釘を刺されたか」と狼狽しながらも、聞こえなかったふりをしてよそ見をし、足をチャカチャカと動かして、逃げるように去るしかない。
「いってきまーす!!」




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コメント (16)
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