これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

米寿のお祝い

2010年10月24日 21時12分21秒 | エッセイ
 義母が88歳の誕生日を迎えた。
 私の6日後だから、ウチでは連続してケーキを食べることになる。
「おふくろ、米寿なんだよね」
 夫がボソッとつぶやく。
 そうか、八十八だから米寿。これはめでたい。いつもの誕生日よりも、盛大にお祝いしなくては。
 しかし、当の義母はそう望んでいないらしい。
「自分の母親が米寿を迎えたとき、親族を呼んで大々的に祝ったら、その後すぐ亡くなったんだ。父親も同じだったって。縁起が悪いから、特別なことはしなくていいって言ってた」
「そんなことがあったの……」
 急にしんみりする。
 だが、年齢が年齢だけに、米寿のお祝いをしなくても、結果は同じだったのではないか。
「おふくろは昔の人だからね。迷信でも信じるんだよ」
 ならば、普通の誕生祝いにするしかない。

 気持ち程度のプレゼントを買いに、私は駅ビルに向かった。ここには、洒落た雑貨屋さんが何軒も入っている。きっと、義母の気に入りそうなものが見つかるだろう。まずは3階から見ようと思ったが、不意に「明日のパンがない」と気づき、2階のパン屋に寄る。
 そういえば、コミックの新刊も出ていたっけ。4階の本屋にも行かなくては。



 私には、人のものを買うはずなのに、自分のものばかり買ってしまうという悪癖がある。
 今日も悪い性質を存分に発揮し、やっとこ3階に着いても、茶こしだの、ペーパークリップだのと、義母には関わりのないものばかりを手に取った。



 いかん、いかん。

 義母は花が好きだ。エレガントな花柄の多い、ローラ・アシュレイの店はどうだろう??
 私は頭を「義母モード」に切り換え、商品を片っ端から吟味した。

 ああっ、これは!!

 ネームタグに視線が釘付けになる。娘から「楽器ケースに名前をつけたいから買って」と頼まれていたものではないか。
 いそいそとレジに出し、お会計してから我に返った。
「違う~!!」と天を仰ぐ。

 早く、義母のプレゼントを買わなくちゃ……。

 和風雑貨の店で、可愛いお茶碗を見つけた。ウサギと月、ピンク基調の桜、招き猫、犬……。
 私は食器が好きだ。おそらく、主婦はだいたい同じだろう。割れることもあるから、代わりがあったほうがいいけれど、自分ではなかなか買う機会がない。
 一番愛らしいと感じた、イチゴの茶碗をプレゼントにしようと決めた。



 プラス、花で決まりだ。



 娘に、プレゼントを渡しに行くよう頼む。
 まもなく戻ってきて、「おばあちゃん、喜んでいたよ」と報告があった。
 ホッ。

 義母は本当に、米寿のお祝いを「縁起が悪い」と思っていたのだろうか。
 イベントには、何かと手間暇がかかる。
 大正生まれの義母は、控え目で慎み深い。「みんな忙しいのに悪いから」と、両親のことを口実にして、遠慮したのかもしれない。
 今となっては手遅れだが、何となく、そんな気がする。




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コメント (14)
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