これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

重い思い

2010年10月14日 21時15分02秒 | エッセイ
 休日だったので家でノンビリしていると、娘が中学校から電話をかけてきた。
「腰が痛くて楽器が持てない……。迎えに来てくれる?」
 私は戸惑った。
「えっ、お父さん、いないよ」
 車はあるが、夫は留守だ。私はペーパードライバーなので、車体の大きなエルグランドは運転できそうにない。門を出る前に、ぶつけてしまうのが関の山だ。
 娘でも担げるものだから、車を出すまでもないだろう。
「じゃあ、お母さんがこれから学校に行くから、持って帰ってあげるよ」
「ホント?! じゃあ、校門で待ってるからお願いね」
 急いで支度し、スニーカーを履いて家を飛び出した。幸い、お天気もいいし、散歩ついでだと思えばいいか。
 校門で楽器を受け取った。ケースだけでも十分重いのに、サックスが入ると軽く6kgを超える。リュックのように背負うと、両肩が予想以上に引っ張られた。

 お、重い!!

「バッグもお願い」
 それは聞いていない……。娘は、その日の授業で使った教科書・ノート・参考書・辞書などが満載されたスクールバッグを、さも当然とばかりに手渡した。楽器よりも、こちらのほうが重いかもしれない。
 だが、手ぶらになっても腰痛は治まらないらしく、危なっかしい足取りでフラフラ歩いている。ここはやはり私が、合計12kg以上の荷物の運搬をするしかない。箸より重い物を持ってはいけないと育てられたはずなのに、おかしい。
 まるで姫と従者である。立ち話をしていた娘の同級生が、大荷物を持って歩く私を気の毒そうに見て、「お母さんに持たせちゃダメじゃない」と注意してきた。
 15分後、どうにか家に着いたが、楽器とバッグを2階に運ぶ力は残っていない。ヨレヨレになり、床に倒れ込む。私は考えが甘かったことを反省し、「自転車で行けばよかった」と後悔した。

 翌日、激しい筋肉痛に襲われた。肩や腕は大したことがないのに、左足のふくらはぎに強い痛みがある。意外な場所だ。「どうして、こんなところが痛くなるんだろう??」と不思議に思った。階段を下りるときが特につらく、針で刺されるような痛みが耐えがたい。
 子どもの頃は足腰が強く、大人をおんぶすることだってできたのだが……。

『姥捨て山』では、子が親を背負って山の中に連れて行く。そのまま置き去りにして、口減らしをするのだ。ひどい話だと思ったが、年寄りであっても人間は重い。栄養状態の悪い時代に、人一人背負って山のぼりすることはなかったと信じたい。
 少なくとも我が家の場合、小柄で細い父はともかく、丸々と肥えた母は到底無理だ……。台車がないから母は運搬できず、助かったなどという結末が浮かび、ひとりでクスクス笑いをした。
 母の父、つまり私の祖父は、180cmを超す大男で肉付きもよかった。要介護となったとき、オムツ交換や着替え、入浴などに相当な力が必要で、職員泣かせだったという。

 いやな予感がする。おそらく、母も介護者泣かせの老婆になるのではないか。
 娘の荷物で筋肉痛になる年頃なのだから、重いお婆さんだと困るのだが。
 絶対、捨てに行ったりしないから、痩せてちょうだいと頼もうか……。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (10)
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