これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

痛い通勤

2010年07月11日 19時48分46秒 | エッセイ
 首都圏の朝には体力が必要だ。
 通勤通学電車の混みようといったらない。自動改札を抜けてホームに下りると、すでに何十人もの人が並んで列車を待っている。
 ほぼ5分間隔で到着する電車は、準急も各停もすでに満員だ。ドアが開くと、不機嫌な顔をした乗客がドッと飛び出してくる。穴の開いたビニール袋から、水が噴き出すみたいに。
 降りる客が途切れると、ホームでスタンバイしている人が一斉に動き出す。
 車内は蒸し暑いので、上着はあらかじめ脱いでおく。乗ってしまうと身動きがとれない。本や携帯もバッグから出しておく。たとえ汗をかいても、ハンカチやタオルに手が届かない。まったく不便なことだ。
 発車を知らせる曲が聞こえる。乗り遅れては大変と、排水口の栓を外した風呂水のように、乗客がドアに吸い込まれていく。誰もがストレスに顔を歪め、前後左右の乗客と押し合いへし合いしながら、車内に進む。見ず知らずの人と体が密着するはイヤだけど、贅沢は言えないのだ。
 中には迷惑な乗客もいる。全員が前向きに乗り込めば、目の前にあるのは前の人の後姿だ。顔が見えないと、肌が触れ合ってもそれほど気にならない。しかし、あるとき、目の前のサラリーマンが汗をふきふき、クルリと後ろ向きになって乗り込んだ。後ろにいた私はたまらない。不本意ながら、サラリーマンの胸に突進せざるを得なかった。「あ~れぇ~」と叫びたい気分になる。
 いきなり体の向きを変える人は、何も考えていないようだ。後ろが同年代の男性であってもクルリとやるから、場合によってはオジさん同士で抱き合うはめになる。どちらもお互いから顔をそむけ、この上なく不愉快そうだった。一人だけ、体の向きを変えてはいけないのだ。

 人と人の間にバッグがはさまり、抜くのに苦労することもある。バッグならまだよいが、髪がはさまるととても痛い。洋服ではスカートが危険だ。学生のときは、ふんわりとしたラインのフレアースカートをよくはいた。二十歳そこそこだったとき、スカートの裾が人波に巻き込まれた。引っ張ってたぐり寄せようとしたら、反対側から私のスカートをつかむ毛深い手が見え、心臓が止まりそうになった。心霊写真を見るような、不気味なオーラを思い出す。

 先日は、大変珍しいものがはさまれた。
 二の腕だ……。
 私は決して太っているわけではないが、二の腕にはしまりがなく、動くたびにタプタプ揺れるくらい肉がついている。
 その日、私の隣にはスーツ姿の会社員がいて、後ろから制服を着た男子高生が乗り込んできた。男子高生の大きなバッグが私の二の腕に触れたと思ったら、鋭い痛みが走った。何と、二の腕の余分なお肉が、会社員の背中と大きなバッグにサンドイッチされていたのだ。ローラー式の脱水機にはまったように、二の腕はなかなか抜けない。

 痛い、痛ーい!!

 夏で、肌を露出していたことが災いしたようだ。電車が動くと、振動でようやく腕は抜けた。つねられたような痛みはなくなったものの、心の痛みがおさまらない。

 ううう、肉をはさまれるなんて、アタシってデブなんだ……。

 ブルーな気分で一日を終え、うなだれてパソコンをのぞくと、タイムリーな記事が目に入った。「やせてほしくない部位のランキング」である。男性から見た「女性のここだけはやせてほしくない」パーツを順位付けしたものらしい。さて、どんなパーツが登場することやら。
 驚くことに、第1位は「二の腕」であった。

 マジ!?

 慰められたような、励まされたような……。
 じゃあ、お言葉に甘えて、このままで~。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (14)
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