これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

アーリーショー

2010年06月13日 20時44分35秒 | エッセイ
 DVDの返却期限が迫っているのに、出勤日が続き、見る時間がなかった。
 夜は娘が試験勉強をしており、気を散らすわけにいかない。となると、残る手はひとつ。返却日の朝、早起きして、出勤前に見るしかなさそうだ。
 前夜は、一番風呂に入り9時半に寝る。アラームは午前3時にセットした。果たして、そんな時間に起きられるのか!?
 多少の心配はあったが、耳障りな電子音で無事目が覚めた。辺りはまだ暗い。青汁を飲み、紅茶をいれて、早速再生ボタンを押す。自宅ならではの、アーリーショーの始まりだ。

 作品は『ハイスクール・ミュージカル』、なかなか評判のよいディズニー映画である。
 しかし、開始後10分経っても、気持ちが盛り上がらない。寝ている家族に配慮して、音を小さくしているからだろう。ボリュームを抑えたミュージカルは、まったく迫力がない。『シカゴ』や『NINE』といった作品は、劇場の大スクリーンでサウンドを体感しながら観ている。低年齢層を対象としたこの映画を、つまらないと感じても無理はなかった。
 最初は、行儀よくイスに座って観ていた。でも、時間が経つにつれ足が疲れてきて、しまいには座布団に寝転がって観た。

 いつの間にやら、眠ってしまったらしい。庭でカラスたちが「ギャーッ」「ガー」「アーオゥー」と騒ぐ声でハッと気づいた。一体何羽集まっているのかわからないが、カラスもミュージカルを始めたようだ。おかげで目は覚めたけれども、もはや話の展開についていけない。
「停止して布団に戻ろうかな」と私はリモコンを探した。でも、単純なストーリーが幸いして、話がそれほど進んでいないとわかり、やっぱり続きを観ることにした。
 ハイスクールの卒業を間近に控えたカップルが、卒業後は遠く離れた大学に進むことから、別れの不安を抱く。親の期待や自分の夢を第一に考えつつ、愛する人とも離れたくないと葛藤し、成長していく物語だ。
 一番よかった点は、泣きわめいたり、怒りを爆発させる場面がないところである。登場人物は、最初から最後まで静かに悩み、爽やかに会話を交わし、浮世の汚れを感じさせない。透明感と品のある映画だった。アーリーショーには向かない点だけが残念だ。

 もうちょっと、ボリュームを上げて観たかったな……。

 出勤して、同僚にそんな話をした。
 私のオチに慣れている彼女は、先を想定して釘を刺した。
「先生、観ただけで安心して、返すのを忘れないでくださいね」
「ううっ、だ、大丈夫よっ!」
 あぶない、あぶない。実のところ、DVDは持ってきたが、お店に寄ることは忘れていた。せっかく早起きしたのに、返し忘れては意味がない。
 釘は釘でもぶっとい釘、いやいや杭を打ち込まれたような衝撃を受け、私はしっかりDVDを返却してから家に帰った。
 めでたし、めでたし。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (12)
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