これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

腰痛菌

2010年05月13日 21時06分13秒 | エッセイ
 朝、目を覚ましたら、腰が重かった。「すわ、腰痛か!?」と焦る。
 何を隠そう、私は20代の終わりにギックリ腰を患い、痛い思いをしたことがある。
 早朝のことだった。出勤前の仕度が早く終わったので、床にペタリと腰を下ろし、電車に合わせて時間調整をしていた。振り返ると、30cmほど離れた場所に私の好きな本が積んである。ちょっと読みたい気分になったのが不幸の始まりだった。体をひねって本を取ろうとしたら、「ピキッ」と電流のような衝撃が腰に走った。

「!!!!!」

「あ」に濁点をつける表現があるが、この痛みを表すには、最も適切なのではないだろうか。予期せぬ鋭い痛みに、私は脂汗を流して苦しんだ。
 それからしばらくベルトをつけて過ごし、近所の整形外科で、お年寄りに混じり電気治療を受ける破目になる。劇的な変化はないが、少しずつよくなっているはず、と信じて通院した。
 結果、2カ月ほどで痛みが引き、治療が終わったのだった。
 あの悪夢は、二度とごめんだ。

 職場にも、腰痛持ちの教員がおり、よく腰痛談義に花を咲かせている。
「昨日、整体に行ったら、イシダさんだったからガッカリしたよ」
 どうも、このイシダという整体師は、痛いばかりで治療にならないらしい。
「そうなんですか、私も前回はイシダさんでしたよ。あの方に当たると、かえって悪くなりますよね」
 不思議なことに、彼らの話に聞き耳を立てると、私の腰までダルくなる。腰痛は伝染病ではないはずだが、腰痛菌なる病原菌がいて、保菌者から感染するような感じだ。ちょっと用心しなければいけない。

 隣の席の先生は、若くして腰痛歴の長い女性なので、最近の不安を相談してみた。
「私もこの頃、腰が重いから心配なの」
「痛いですか?」
「ううん、痛くないけど、その一歩手前って感じ」
「それはよくないですよ。早めに病院で診てもらったほうがいいと思います。コルセットをつけて、安静にして過ごさないと、ドカンと来るかもしれませんね」
「……」
 すっかり怖くなり、今日は帰宅してすぐ、腰を傷めたときに買ったベルトを探した。私は割に物持ちがよい。たしか、20代のときに買ったものは、いくらも使っていないはずだ。
「あった!」
 屋根裏の収納庫から、ベルトが見つかった。たぶん、15年以上昔の、年代物ではないだろうか。「マックスベルト」と書かれた箱には、使用説明書も入っていた。



 出産前のSサイズも、余裕ではまる。「ほほっ♪」と、たちまち私は気をよくした。
 ベルトをつけると、腰が伸びて安心感が生まれる。早速明日からしていこう。
「腰が痛い……」
 腰痛歴40年の夫が、顔をしかめ、ゆっくり居間を歩いてきた。先週末から調子が悪いらしい。寝たきりになるほどひどい腰痛に見舞われたとき、夫は鍼治療に出掛ける。治ると、またしばらく経ってぶり返し、一進一退を繰り返している。

 おそらく、この男の腰痛菌は、かなり強力だ……。

 私はさっと身構えた。するはずのない飛沫感染で、こちらまで具合が悪くなりそうだ。インフルエンザ蔓延時のマスクのように、ベルトが唯一の防波堤に見える。
 ああ、腰痛の予防接種があればいいのに。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (14)
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