これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

入学式のわな

2010年04月08日 20時56分38秒 | エッセイ
 先日、勤務先の高校で入学式が行われた。
 初々しい一年生は可愛い。しかし、入学式にまつわる思い出にはろくなものがない。
 
 初めて担任を持ったのは、27歳のときだった。あの頃は、肌にシワもシミもなく若かった……。
 拍手で式場に迎えられてから、緊張の連続だったことを思い出す。最後に記念写真を撮ったときは、心底ホッとしたものだ。
 が、ひと月後、出来上がった写真を見てガッカリした。黒系のスーツを着ていったのがいけなかったようで、私も、生徒と同じ制服を着ているように見えるのだ。すっかり生徒に埋もれてしまった……。
 隣には、副担任のアラフォー・ママさんが写っている。白系の、いかつい肩パットが入ったニットスーツがひときわ目を引き、生徒とは一線を画していた。

 こっちのほうが担任みたい……。

 副担任に担任の座を奪われ、私は敗北感を味わった。

 2回目の担任は、33歳のときに受け持った。
 前日に入学式の打ち合わせをして、段取りを確認した。担任が新入生の名前を呼ぶ形式で、呼ばれた生徒は返事をして起立する。クラス全員の呼名が終わったら、担任の「着席」という合図でいっせいに座るのだ。そして、次のクラスの呼名となる。
 そのとき、私は6組の担任だったので、司会者から特別な指示を受けた。
「笹木先生のクラスは最後なので、呼名が終わっても着席させないでください。そのあと私が『新入生起立』と言いますから、座らせてもすぐ立つことになるんです」
「なるほど、わかりました」
 私は納得し、台本にメモを取った。

 当日、黒系の服は避け、ピンクのツーピースで式に臨んだ。これで写真も大丈夫だろう。
 入場が終わると、まもなく新入生の呼名となる。生徒にはあらかじめ、「緊張して、名前を飛ばしちゃったらゴメンね」と言っておいたが、間違いは許されない。全神経を集中させ、生徒の名前を読み上げた。
「以上、40名」
「着席」と言わずに終わらせると、近くにいた先生数人が、小声で「着席」「着席」とささやいた。式の詳細を全員が知っているわけではないので、私が言い忘れたと思っているのだ。
「いえ、言わなくていいんです」と反論したかったが、式典中である。私語は慎まねばならない。結局、何も言えないままで式は進行し、私は「言い忘れた人」にされてしまった……。

 キーッ、悔しい!!

 しかし、服に気をつかったから写真のほうは大丈夫だ。何も心配せずに、でき上がった写真に目をやった。思った通り、ピンクの服は紺の集団に同化しない。でも、入学写真という雰囲気ではなかった。
 私の隣にいた男子生徒が大柄で、ひときわ目立つ体格だったからだろう。前列中央の私とその男子だけが、異様にクローズアップされた写真となっていた。

 この雰囲気は……。ちょっと認めたくないな……。

 自分が認めなくても、生徒は思ったことを口にする。クラスで写真を配布したら、たちまち教室中に笑いが起きた。
「なんか、これ、結婚式の写真みたいだね!」
 
 ああ……、それを言わないで!!
 
 入学式には、わながある。




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コメント (10)
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