これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

この日が来ると思い出す

2010年01月17日 19時49分35秒 | エッセイ
 娘のミキが3歳のとき、七五三のお祝いで親族が集まったときのことだ。
「ほら、ミキのお寿司だよ」
 ラップのかかった一人前の寿司おけには、たまごのにぎり4貫と納豆巻きがちょこんと並んでいた。
「わーい、ミキのお寿司だぁ~!」
 娘は喜びのあまり手を動かし、寿司おけを上下させた。
「あああ……」
 大人が止める間もなかった。整列していたたまごも納豆巻きも、強い振動を受けて全部倒れ、寿司おけの中は無残な状態になった。
「こんなになっちゃって。まあ、自分のだからいいか」
 転倒した寿司に祖父母は失笑したが、当の娘は予期せぬ結末に、ただ呆然としていた。

 15年前の今日も、神戸では同じことが起きたのだろう。
 下から突き上げるような震度7の激震に、高速道路が倒壊し、家やビルがつぶれ、街はメチャクチャに破壊された。それまでの生活が一変し、多くの方が亡くなった。
 その日も東京にいた私は、出勤後、同僚と朝の地震について雑談した。
「分断された道路に、大型バスが宙吊りになっていた映像、見た?」
「ああ、見た見た。信じられないね!」
「倒れた灯篭の下敷きになった人が亡くなったんだってね」
 この段階では、まさか6434人もの方が犠牲になるとは予想もつかない。時間を追うごとに、続々と増えていく死者の数が、災害の恐ろしさを見せ付ける。

 同僚の一人に、神戸出身の佳美さんがいた。佳美さんのプロフィールは、過去の記事『困った味覚』をご覧いただきたい。
 たしか、彼女は一人暮らしをしていて、ご両親は神戸にいるのではなかったか。
「佳美さんちは大丈夫なんですか?」
「うん、実はね、ちょっと前に両親をこっちに呼んで、今一緒に暮らしているのよ」
「えー、それは運がよかったですね!」
「本当ね。引っ越す前に近所の人から『東京は地震が多いから気をつけて』って言われたの。まさか神戸とはね……」
 まったく、皮肉なものである。

 あの日の教訓で、タンスや食器棚には転倒防止グッズを取り付けたが、気休めという気がする。こんなもので、本当に大丈夫なのだろうか。
 特に手薄なのが台所だ。関東大震災の午前11時58分、新潟県中越地震の午後5時56分という具合に、食事の支度をしているときに地震が起きたら恐ろしい。
 一応、観音開きの食器棚には、「ヒラカーズ」という金具を取り付け、皿や茶碗が飛び出さないようにしてある。食器棚も固定してあるけれども、上には殺虫剤や水槽のカルキ抜き、虫除けスプレーなどが並んでいるから、グラッときたら、私の頭上にバラバラと落ちてくるだろう。
 右からは電気ポットの湯を浴び、左からは熱々のフライパンが飛んできそうだ。コンロの炎が服に燃え移り、火だるまになる恐れがある。また、背後の窓は割れ、ヒラカーズをつけていない高所の棚からは、鍋がいくつも降ってくるに違いない。さらに、固定していない冷蔵庫が襲ってくるかもしれない。

 あー、ダメ、生きていられないや……。

 まさに地震は招かれざる客だ。
 頼むから、炊事中だけは来ていただきたくないのだが。
 期日指定、時間指定は到底できないし、前もって連絡ももらえないところが辛い。

 犠牲になった方のご冥福をお祈りいたします。




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コメント (18)
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