これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

いんたーん ★ しっぴ 

2009年11月12日 22時46分08秒 | エッセイ
 インターンシップとは、ご存じの通り「就業体験」のことで、学生が企業などで仕事を体験しながら研修することを指す。
 私の勤務校でも長いこと実施されており、今年度も予定されている。
 しかし、おっちょこちょいの生徒あゆみは、なかなかこの言葉をおぼえられない。
「先生、アタシ、本屋さんでインターシップするんだ~」
「インターシップ? インターンシップでしょ?」
 すかさず、私が突っ込むと、あゆみは「しまった」という顔で苦笑いをした。
 彼女が書いた学級日誌では、クラスメイトの「山本」が「本山」に、「東京都」が「京東都」となっている。テストでもイージーミスを連発するので、一度頭のフタを開けて、思考回路を点検したくなる。
 私はさらに付け加えた。
「そのうち、インターンシッピなんて言うんじゃないの!?」
「いや、それはないね」
 あゆみは口を尖らせて否定した。

 インターンシップが広く行われるようになったのは、1990年代後半からである。
 だが、私たち教員は、それ以前から「教育実習」として、就業体験を行っている。母校で実習した2週間は、同じクラスだった友達が一緒で、顔見知りの先生も多く、最初は同窓会ムードだった。
 しかし、仕事は甘くない。早速、教職の洗礼を浴びた。
「このスリッパ、雑巾で拭いてきれいにしておいて」
 指導教諭が、来客用に貸し出しをする何百足ものスリッパを持ってきた。中には、埃をかぶって白くなったものや、黒い汚れが付着したものもある。おびただしい数のスリッパは、拭いても拭いてもなくならない。実習生3人がかりで、1時間はかかっただろうか。 中腰での作業がきつかった。
 高校時代の別の友達からは、「砂希が授業をしているところを見たい」と言われた。だが、スリッパと格闘しているこの姿は、とても見せられないと悲しくなった。
 終わったあと、指導教諭からねぎらいの言葉があった。
「ありがとう、大変だったでしょ。教員は授業を教えるだけじゃないのよ。こういう汚い仕事もあるって、知っておいたほうがいいよ」
 この体験の重みは、実際に教員になってからわかった。生徒が書いた落書きをアセトンで消し、トイレに散乱しているタバコの吸殻を掃除したり、廊下にこぼれたジュースをふき取って、床にへばりついたガムをはがす……。こんなことは日常茶飯事だ。
 教室に消火器を撒かれたときは、部屋中が雪化粧をしたように粉で真っ白になり、さすがに驚いた。教員10名ほどで片付け始めたものの、粉をふき取るのは根気のいる作業で、非常に苦労したおぼえがある。
 ついでに、授業料や積立金を払わない家庭に、電話で督促するのも給料のうちとなっている。
 先日のニュースでは、1年間の試用期間後に正式採用とならなかった新任教員が、過去最多を記録したと報道されていた。せっかく倍率の高い採用試験に合格したのに、辞めてしまうとは残念なことだ。
 私だって、長い教員生活のうち、一度や二度は仕事がイヤで辞めたくなったことがある。だが、そのたびに、実習中に聞かされた言葉が浮かんできて思いとどまった。
「仕事は、楽しいとか楽しくないの問題じゃない。どこまで我慢できるかだ」
「社会では、理屈より先に決まりがある」

 学校行事としてのインターンシップは、長引く不況で逆風にさらされている。
「今年は受け入れる余裕がないため、申し訳ないのですが辞退させていただきます」とお断りされるケースが目立つからだ。
 インターンシップによって離職率が低下し、定着率が上昇するといわれている。
 次世代を担う人材を育成するためにも、景気の回復を願うばかりである。



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