これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

レズ疑惑!

2009年10月11日 20時26分29秒 | エッセイ
 30代前半に勤務していた学校での話である。
 当時の同僚、涼子さんは私より一回り年上だったが妙に気が合い、何をするにもどこへ行くにも一緒だった。
 視聴覚教室で校外に出れば2人でランチをして帰ったし、マラソン大会での待ち時間は次に行く映画の相談をしていた。学校ではどちらも白衣を着ていて、髪型も同じ肩までのストレートだったから、生徒にも先生にもよく間違われたものだ。
「ねえ、笹木さん。さっき後ろから1年生に『今日は補習あるんですか』って聞かれたのよ。絶対あなたと間違えていると思って振り返ったら、『……何でもないです』と誤魔化していたわ」
 彼女は笑ってそう言った。
 見た目の似ている2人が、いつも一緒に行動していると、ある意味、あらぬ疑いをかけられても仕方なかったのかもしれない。
 言いだしっぺは、野球部の井川という生徒だった。
「笹木先生と片山先生は、レズなんですか?」
 出し抜けにそんな質問をされ、私は呼吸するのを忘れるくらい驚いた。
「レズ!? 何でそう思うの?」
「だって、いつも2人でいるし、見つめあう目が妖しい」
 まさに晴天の霹靂だ!
 そんな事実はないのに、お調子者の井川はその後、あちらこちらにこの話を広めたようだった。
 定期テストが終わる頃、涼子さんもただならぬ雰囲気に気づきはじめた。
「ねえ、笹木さん。今日、変なことを言われたわ。赤点の生徒が、『旦那に笹木とのことをバラされたくなかったら成績を上げろ』ですって!」
「井川ですよ、井川! あいつが言いふらしているんじゃないかしら」
 実はその半月ほど前、歓送迎会に出席するため、私たちはガラ空きの各駅停車に乗ったことがある。並んで座り、笑っておしゃべりしていると、隣の車両にいた井川が私たちを見つけ、チームメイト2人とこちらの車両に乱入してきたのだ。
「先生、邪魔しに来たよ」
 井川は品の悪い笑みを浮かべ、私と涼子さんの前にドカッと座った。あのときの、勝ち誇った眼差しを思い出した。

 そして、迎えた文化祭でのことだ。教員は審査のため、各クラスの出し物を見て回り、出来のいい団体に投票する。一人でうどんやカレーを食べに行くのはイヤなので、私は涼子さんと一緒に採点しながら校内を歩いていた。
「ちょっと、甘いものが食べたいわね」
 彼女の提案に私も賛成した。
「たしか、この先にケーキ屋さんがありましたよ。行ってみましょう」
 2人がけの座席に向き合って座り、私はチョコレートケーキ、彼女はチーズケーキを頼んだ。値段は麦茶つきで150円。手頃なおやつタイムだ。
「今年のクラスは、偉そうなことを言う割に動かなくてダメよ。去年のほうがマシだったわ」
「あら、私のクラスだって、要領が悪くて時間ばかりかかるんですよ。見てるとイライラしますからね」
 お互いに、自分のクラスの愚痴をこぼしていたときだ。ぶしつけにも、私たちのテーブルに割り込んできた生徒がいた。それは、この場では最も会いたくない男子だった。

 井川!!

「デート中すいません。また邪魔しに来ました」
 井川は、ニヤニヤしながら私たちの顔を交互に眺め、三角形になる場所に椅子を置いて腰掛けた。2mほど離れたところから彼の友達数人が、好奇心丸出しの表情で成り行きを見守っている。完全に見せ物だ……。まったく、間が悪いとしかいいようがない。
「行きましょうか」
 私と涼子さんは立ち上がり、井川たちの視線を振り払って出口に向かった。

 今でも、涼子さんとは食事や映画に出かけることがある。
 もし、運悪く井川に遭遇した日には、「やっぱり、そうだったのか!!」と思われるのだろうな……。



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コメント (18)
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