これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

やせがまん

2009年09月10日 20時47分39秒 | エッセイ
 歳の差婚をした夫が、定年退職後、家事に専念するようになった。
 掃除や洗濯はともかく、料理だけは「自信がない」と渋っていたのだが、この4月から夕食作りを始め、徐々に腕を上げている。週一回ペースがやがて二回、三回に増え、なんと7月からは毎日作れるほどに上達した。
 専業主婦の母親に育てられた夫は「口は出すけど手は出さない」タイプで、これまで、作る側の苦労や努力をまったく理解していなかった。焼き魚を出せば「生臭い。いらない」と一蹴し、煮物には「柔らかすぎる」と文句をつけ、おひたしには必ず醤油を加えて味付けを直すというイヤなヤツだった。
 一転して作る側の人間となることで、栄養バランスや味つけを考え、毎日違ったメニューを提供する大変さがわかったようだ。毎日、料理番組や雑誌のレシピを見て、「今日は何にしよう……」と悩んでいる。
 最初の頃は、やたらともやし料理ばかりが食卓に上ったり、やけにおかずが少なかったりという失敗をしていた。しかし、調理に慣れてレパートリーが豊富になると、合格点をあげられる水準に到達した。
 とりわけ私の好きな料理は、市販の「トマたま炒めの素」を使ったこの一品である。



 トマト、玉子、豚肉だけでなく、茹でた枝豆を加えることにより、味も見た目もレベルアップしている。一つひとつの枝豆を取り出し炒めるので、手が込んでいて、時間と根気のない私にはとても作れそうもない。
「美味しいね、これ。どうやって作ったの?」
 私が手放しで褒めると、夫は待ってましたとばかりに解説を始めた。

 疲れて仕事から帰ってきたときに、夕食が用意されているとうれしいものだ。私が作っていた頃は、「手がかからなくて調理時間の短いもの」ばかりのメニューだったが、夫が担当になってからはおかずの種類も増え、鮮度にこだわった食材を調達するようになった。
 だが、ありがたいと思う反面、私より上手になってしまうのは面白くない。手抜き主婦の、ちっぽけなプライドなのだろう。ときには、意地悪のひとつでもしてやりたくなる。
 あるとき、茹でたオクラにかかっていた醤油が少なかった。以前、夫に受けた仕打ちを思い出し、同じことをしたいという衝動にかられた。
「このオクラ、味が薄いよ。醤油取って」
「あ、そう? ゴメン」
 醤油を受け取り、夫の目の前で味付けを直す。心なしか夫が、しょんぼりしているように見えた。
 オクラが醤油の色に染まると、美味しさがアップし食欲を刺激する。小口切りにされたいくつかを、箸でつまんで口に入れた。しかし、予想していた味ではなかった。

 しょっぱい……。

 どうやら、醤油を入れすぎたようだ。
 私は夫に気取られぬよう、何食わぬ顔をして、醤油に溺れたオクラを平らげた。



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コメント (20)
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