先日、お風呂上りに台所で涼んだときのことだ。
濡れた髪を拭こうと下を向いたとき、視界の端でとらえた物体があった。
まさか……。
ゴクリと生唾を飲み込んで物体に近づくと、思ったとおり、十円玉のような影が床をすばやく移動していた。
出たよ……。
私は天を仰いだ。
裸眼視力が0.1未満なので、幸いなことに、私にとってその物体は十円玉にしか見えなかった。
本当は、楕円の十円玉なのだろう。2本の長~い触角を持ち、毛の生えた6本の足があるはずだ。
エッセイ仲間に、カエルが死ぬほどキライという女性がいる。
「カエル」という言葉を発することすら拒否し、彼女はカエルを「ヤツ」と呼ぶ。
たとえば、こんな風に。
「子供のとき、学校に行こうとして玄関のドアを開けたら、そこに『ヤツ』がいたのよ。私はショックで動けなかったわ……」
そこまでではないが、私もこの十円玉を憎んでいるので、名前は言いたくない。
いや、私だけではないだろう。ほとんどの人が、十円玉を嫌いなはずだ。
昔の職場の話だが、男性3人、女性2人の5人で向き合って仕事をしていたことがあった。
春先の平和な昼下がり、ややもすれば眠気を催しそうになるときに、突如としてそれは現れた。
カサササササ……
いやらしい音とともに、それは床から机に這い上がり、猛スピードで5人の机の上を横断していった。私は「キャーッ」という悲鳴をあげずにはいられなかったが、「うわぁーっ!!」という、もっと大きな声にかき消されてしまった。
「オレ、ダメなんだよ!! いつもカミさんに捕ってもらっているんだ!!」
見ると、最年長のベテラン男性が、髪をかきむしるようにして取り乱している。
「いや、私だってダメですよ!! 昔、Tシャツに入られたことがあって、それ以来!!」
隣の理論家男性も、顔面蒼白で真っ直ぐ立っていられない様子だ。
残された3人は、唖然として顔を見合わせた。「私たちで何とか退治しないといけないのかな?」と困惑している間に、十円玉は逃走したのだった……。
職場と違って自宅で十円玉を逃したら、「また出没するかもしれない」という恐怖に支配されてしまう。ここはひとつ、確実にしとめなくては。
殺虫剤もあるが、床や壁がテラテラと汚れるので、私はあまり好きではない。やはり、古風に新聞紙などで叩き潰すのが得策だろう。
一体、どこに行ったのか?
十円玉を見失い焦ったけれども、人が近づく気配を察してか、十円玉は走り出てきた。
床からガラス戸に上ったところで、丸めた新聞紙を振り上げた。
バシッ!!
渾身の一撃が十円玉を襲い、衝撃で床に落ちてきた。チャリーンという音の代わりに、ポトッという軽い音がした。すかさず叩いてとどめをさす。
これで、もう大丈夫。
私は深く深呼吸をした。
死亡推定時刻、午前1時2分。
殺害現場の後片付けが大変だ。何重にも重ねたティッシュペーパーで死骸を撤去し、床に散らばった足や羽、体液をふき取るのだから。
カシミアを使うのは、ちょっとシャクだなぁ。
一瞬、夫が愛用している、「ギャツビー アイスデオドラント ボディペーパー」を使おうかと企んだ。
しかし、バレたら泣かれると思い、トイレの除菌クリーナーを取りにいった。念入りに床を拭けばもう大丈夫だ。
私は安心して、もう一度深呼吸をした。
よかった、ゴキブリを退治できて……。
あ、言っちゃった~!
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
濡れた髪を拭こうと下を向いたとき、視界の端でとらえた物体があった。
まさか……。
ゴクリと生唾を飲み込んで物体に近づくと、思ったとおり、十円玉のような影が床をすばやく移動していた。
出たよ……。
私は天を仰いだ。
裸眼視力が0.1未満なので、幸いなことに、私にとってその物体は十円玉にしか見えなかった。
本当は、楕円の十円玉なのだろう。2本の長~い触角を持ち、毛の生えた6本の足があるはずだ。
エッセイ仲間に、カエルが死ぬほどキライという女性がいる。
「カエル」という言葉を発することすら拒否し、彼女はカエルを「ヤツ」と呼ぶ。
たとえば、こんな風に。
「子供のとき、学校に行こうとして玄関のドアを開けたら、そこに『ヤツ』がいたのよ。私はショックで動けなかったわ……」
そこまでではないが、私もこの十円玉を憎んでいるので、名前は言いたくない。
いや、私だけではないだろう。ほとんどの人が、十円玉を嫌いなはずだ。
昔の職場の話だが、男性3人、女性2人の5人で向き合って仕事をしていたことがあった。
春先の平和な昼下がり、ややもすれば眠気を催しそうになるときに、突如としてそれは現れた。
カサササササ……
いやらしい音とともに、それは床から机に這い上がり、猛スピードで5人の机の上を横断していった。私は「キャーッ」という悲鳴をあげずにはいられなかったが、「うわぁーっ!!」という、もっと大きな声にかき消されてしまった。
「オレ、ダメなんだよ!! いつもカミさんに捕ってもらっているんだ!!」
見ると、最年長のベテラン男性が、髪をかきむしるようにして取り乱している。
「いや、私だってダメですよ!! 昔、Tシャツに入られたことがあって、それ以来!!」
隣の理論家男性も、顔面蒼白で真っ直ぐ立っていられない様子だ。
残された3人は、唖然として顔を見合わせた。「私たちで何とか退治しないといけないのかな?」と困惑している間に、十円玉は逃走したのだった……。
職場と違って自宅で十円玉を逃したら、「また出没するかもしれない」という恐怖に支配されてしまう。ここはひとつ、確実にしとめなくては。
殺虫剤もあるが、床や壁がテラテラと汚れるので、私はあまり好きではない。やはり、古風に新聞紙などで叩き潰すのが得策だろう。
一体、どこに行ったのか?
十円玉を見失い焦ったけれども、人が近づく気配を察してか、十円玉は走り出てきた。
床からガラス戸に上ったところで、丸めた新聞紙を振り上げた。
バシッ!!
渾身の一撃が十円玉を襲い、衝撃で床に落ちてきた。チャリーンという音の代わりに、ポトッという軽い音がした。すかさず叩いてとどめをさす。
これで、もう大丈夫。
私は深く深呼吸をした。
死亡推定時刻、午前1時2分。
殺害現場の後片付けが大変だ。何重にも重ねたティッシュペーパーで死骸を撤去し、床に散らばった足や羽、体液をふき取るのだから。
カシミアを使うのは、ちょっとシャクだなぁ。
一瞬、夫が愛用している、「ギャツビー アイスデオドラント ボディペーパー」を使おうかと企んだ。
しかし、バレたら泣かれると思い、トイレの除菌クリーナーを取りにいった。念入りに床を拭けばもう大丈夫だ。
私は安心して、もう一度深呼吸をした。
よかった、ゴキブリを退治できて……。
あ、言っちゃった~!
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)