これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

リボンの恋人

2009年07月30日 20時21分54秒 | エッセイ
 お気に入りのスカートがあった。
 白のデニム地に、両サイドを細いリボンで編み上げたデザインだった。



 白いボトムは、どんな服にも合わせやすく重宝したのだが、シミがついてしまったため、思い切って捨てることにした。
 このスカートには、こんな思い出がある。

 その日は、たまたま家を出る時間が早くて、いつもより一本早い電車に乗れそうだった。
 そういうときは気分がいい。始業ギリギリにすべり込む毎日と違って、授業の前にアールグレイを飲む余裕がありそうだ。そんなことを考えていたら、電車がホームに入ってきた。
 私が使っている駅は乗降客が多い。電車のドアが開いた瞬間、ゲートが開いて競馬が始まるように、ドドドドッと人が吐き出されてきた。これから乗ろうという人は、降りる人をよけながら、ホームの端でじっと待つ。
 もう降りる人がいないようなので、電車に乗ろうと足を動かしたときだ。誰かが私を後ろから強く引っ張り、引き留めるではないか。

 なになに??

 驚いて振り返ると、そこには焦った顔の女子高生がいた。
 何と、私のスカートのリボンに、女子高生のバッグのファスナーが引っかかってしまったのだ。
「すみません、すみません!!」
 彼女は必死でバッグを引くが、リボンは金具にガッチリと挟まっているようで、まったく取れない。
「あまり引っ張らないほうがいいよ。どれどれ」
 私は彼女の手からファスナーを引き取った。リボンとファスナーは、別れ別れになった恋人同士が再会したかのように、ひしと抱きあい、ちょっとやそっとでは離れない。
 わずか一瞬、すれ違っただけなのに、こんなことがあるのだな……。
 感心している場合ではなかった。そうこうしているうちに、乗客はあらかた車内に吸い込まれ、発車を知らせるチャイムが鳴った。
「1番線から、通勤準急池袋行きが発車します」
 無情な放送が耳に入る。

 やばい、電車が行っちゃうよ~!

 私もあわてたが、身動きがとれないのだからどうしようもない。やがて、ドアが静かに閉まり、準急電車は振り向きもせずに去っていった。
 私と女子高生だけが、ポツンとホームに取り残された。こうなれば、本格的にリボンとファスナーを引き離さなければならない。私は、ホームにバッグを置いて、両手でチャレンジし始めた。
「あっ、取れたっ!」
 ようやく、ファスナーからリボンを奪い返すことができた。これでやっと電車に乗れる。私は安堵して、大きなため息をついた。
「本当にすみませんでした」
 女子高生は、ずっと頭を下げてばかりで、気の毒なくらい萎縮していた。でも、別に彼女が悪いわけではない。
「気にしなくていいのよ。事故だから」
 そう言うと、彼女はホッとしたように再度おじぎをし、小走りに改札へ向かった。

 いい子だなぁ。

 後姿を見送ったあとで私が乗ったのは、結局いつものギリギリ電車だ。
 もちろん、アールグレイは飲めなかった……。

 毎度ご愛読いただき、ありがとうございます!
 今回で150回目の更新となりました。次回は200回を目標に頑張りたいと思います。
 今後とも、応援のほど、よろしくお願いいたします!!



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (23)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする