これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

出せなかったファンレター ~栗本薫先生の死を悼む~

2009年05月28日 20時06分57秒 | エッセイ
 ついに、恐れていたことが起きた。
 敬愛する作家、栗本薫氏が亡くなったのだ。5月26日午後7時18分……。まだ、56歳という若さの死であった。
 ニュースを見た瞬間、背筋が凍りつき、打ちのめされるような衝撃を受けた。

 栗本氏の代表作、『グイン・サーガ』は私に、言葉で表現することの醍醐味を教えてくれた本である。
 今でこそ、私は、本を読むだけでは飽きたらず、日常生活のあれこれをエッセイ化するという趣味を持っているが、以前はそうではなかった。
 美しい絵の描かれた漫画ならともかく、活字ばかりの小説を面白いと思ったことはない。まさにエンタメ度ゼロで、つまらないものと決めつけていた。
 しかし、この本は違った。画像に頼らず、文章を読むだけで、登場人物がどんな容姿をしているかがわかる。うっとりするほど美しい男女やら、正視に堪えない不気味な生物やらが書き分けられていた。
 会話や行動から性格をあぶり出し、「本当にこんな人がいるかもしれない」と思わせる、リアルな人物に心を惹かれた。
 さらに、先が読めないストーリー展開に脱帽した。スケールの大きさはもちろんのこと、戦い場面の臨場感や迫力は、言葉でこれだけ表現できるものかと舌を巻いた。氏の圧倒的な筆力に惹きつけられ、それまで一切読書をしなかった私が、1日1冊、この文庫を読み切るようになったのだから、わからないものだ。11年前のその頃、『グイン・サーガ』は62巻まで刊行されていたので、「1日でも早く、全部の本を読みたい」という気持ちで、一心不乱に読破した。

 一度、活字の世界に慣れ親しむと、『グイン・サーガ』以外の本も面白いと感じるようになった。作家により、表現の仕方は全然違う。読み比べているうちに、いつしか私も「何か書いてみたい」という気になり、今の私があるわけだ。

「百聞は一見に如かず」というものの、一見を百聞で伝えることも必要である。
 単語をうまくつなぎあわせて、思いの丈を表現する作業は、なかなか難しい。
 そんなときは、『グイン』をはじめとする本に戻り、プロの文章を参考にする。読んだら、また自分の言葉で書いてみる。

 読むために書き、書くために読む。

 私が一番好きなことを教えてくれたのは栗本薫氏で、『グイン・サーガ』がなければ、私はエッセイを書いていなかった。126巻まで出版されている今、哀しいことに、続きを読み結末を知ることは、もはやかなわない……。
 実は、何度もファンレターを出そうとしたのだが、この気持ちを十分に描写することができず、実現しなかった。亡くなる前に、ぜひ一度、書けばよかったと大いに悔やんでいる。

 栗本薫先生、長い間、多くのファンを楽しませてくださり、ありがとうございました。
 ゆっくりとお休みになって下さい。



いつも応援ありがとうございます。
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^
コメント (17)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする