これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ドクショ ノ ススメ

2009年05月25日 08時36分58秒 | エッセイ
 隠岐諸島のひとつ、海士町には、公立の大きな図書館がない。そこで、「本を読むことを通して、こどもたちの心や国語力をはぐくんでもらい、それをたしかな学力へつなげてもらいたい」ことを目標に、一昨年から『島まるごと図書館構想』をスタートさせたという。
 これは、学校の図書室を使いやすく改良したり、港の待合所などに図書コーナーを設置したり、公民館の蔵書数を増やすなどの工夫を凝らすことで、いろいろな本と出会う機会を増やすというものである。

 地元に住む私の友人は、この取り組みを紹介する冊子を編集している。
 島のこどもたちの詩や作文・俳句を集めたり、島外の知人に短編や書評、短歌を依頼したりして、原稿を調達したらしい。
 かくいう私も、エッセイの寄稿を頼まれたので、大喜びで一大イベントに参加させていただいた。
「砂希先生、図書館冊子が出来上がりましたので送ります」
 先日、彼女からこんな連絡を受け、念願の完成品を手にすることができた。
 題して『この島の、本棚から。』
 
 ページをめくると、小学生の作品がズラリと並んでいる。私は読書感想文のひとつに目を留めた。
『片耳の大シカを読んで』
 これは私も読んだことがある。児童動物文学のパイオニア、椋鳩十の作品は、小学生のときにほとんど読みつくしたものだ。
 かつて、猟師の鉄砲で片耳を失ったシカのリーダーが、再度猟師に追われる。猟師たちは大シカを捕らえることができないばかりか、激しい雨に見舞われ、ほうほうの体で洞穴に逃げ込む。しかし、そこには先ほど捕らえ損ねたシカの群れがいたのだった。シカは逃げたり襲ったりせず、静かに猟師たちを迎え入れた。彼らはずぶ濡れになって凍えた体を、シカたちの毛皮で温め、命拾いをしたという話である。

「いい本を読んでくれた」と思い、私はうれしくなった。『島まるごと図書館構想』バンザイだ。
 娘のミキは、残念ながらこれを読んでいないが、題名だけは知っている。まだ、小学生のときのことだ。
「お母さん、『片耳の大シカ』っていう本、読んだことある?」
「あるある。いい話だよ」
「この前、隣の席の子が読んでいたんだけどさ、本の表紙に黒いシミがついていたの。ちょうど『大』の右上あたり」
「シミが?」
「だから、『片耳の犬シカ』だと思ってビックリした~!」
「はははっ、どういうシカだよ~!!」
 そりゃまた、うまい具合に汚れたものだ。さらに、ミキは続ける。
「もし、このシミが『大』の下にあったら、片耳の太シカだね!」

 今、ミキは中学生になってしまったけれども、1952年に文部大臣奨励賞を受賞したこの名作を、何としても読ませたくなった……。

 海士町は、後鳥羽院が流罪となった地でもある。

 私も流されたいわぁ……。
 海辺でのんびり本を読み、まったり暮らしてみたい。



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コメント (13)
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