これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

第一発見者のゆううつ

2009年01月15日 19時51分22秒 | エッセイ
 授業が終わり、職員室に戻ろうとして廊下を歩いていたら、女子が数人で追いかけっこをしていた。高校生にもなって幼いことだ。
 一人が教室の中に逃げ込み、ドアを閉めた。追う側は、夢中になってドアにはめ込まれたガラスを叩き、開けろと騒ぎ立てている。
 これはまずい。私はとっさに大声を出した。

「ちょっと! やめなさい!!」

 学校現場では、ガラスや蛍光灯が割れることがある。故意であれ偶然であれ、破損したものの代金は生徒に弁償してもらう。
 生徒はお金を払いたくないから、割ったら逃げる。これまた追いかけっこだ。
 私は、なぜか破損現場の近くにいることが多い。「ガシャーン」「パリン」という乾いた音を何度聞いたことか。
 音が聞こえたら、すぐに駆けつける。早ければ早いほどいいので走る。
 たいていは、現場に生徒が残っていて、自分が割ったということを素直に認めるものだ。
 こうして、よく私は第一発見者になっていた。

 しかし、第一発見者には何ひとついいことがない。
 刑事ドラマでも、事件を発見し通報までした第一発見者が、感謝されるどころか真っ先に疑われるではないか。
 日頃の運動不足がたたって、ゼーゼー息を切らして現場に到着したあとは、まずガラスの後かたづけをしなければならない。当事者がケガをしている場合は、先に保健室に連れて行くから、周りの生徒に掃除を頼む。
「なんで、オレがー!!」と文句を言いながらも、生徒は割と協力してくれる。
 そのあとは、破損事故の報告をする。生活指導部や事務室に同じ話を繰り返すと、「忙しいんだ、クソッ!」とイライラしてくる。
 8人の男子が、ふざけているうちにガラスを割ったときには、1人320円として全員から代金を徴収した。「笹木さんが見つけたんだから」と、成り行きで取り立てる羽目になり、「なんで、ワタシがー!!」と口を尖らせた。
 たまたま近くにいただけなのに、とんだ災難だ。
 
「ちょっと! やめなさい!!」
 そんな経緯もあり、大声で注意したのだった。もう、第一発見者になるのは真っ平だ。
「そのガラスは、すぐ割れちゃうの。割ったら、3000円払うことになるんだからね」
 思いがけない言葉に、女子たちも動きを止めた。
「へえ、3000円もするんだ。けっこう高いんだね」
 ガラスから手を離し、どの子も急に真面目な顔になった。
 効き目バッチリ、と気をよくしたとき、横から口を出した生徒がいた。

「でも先生、普通はケガすると危ないからやめなさいって言うよね~」
 とたんに、甲高い笑い声が炸裂した。
 
 ……そ、そうでした……。



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コメント (15)
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