これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

年はじめ 姫と坊主が かくれんぼ

2009年01月01日 07時12分33秒 | エッセイ
「坊主めくり」という遊びをご存じだろうか。
 小倉百人一首の読み札だけを使うゲームである。
 すべての札をふせ、積み重ねた山から順番に1枚ずつめくっていく。このとき、札は全員に見えるように公開するのだ。参加人数に制限はない。
 読み札には絵が描かれている。絵が男性ならばそのまま持っていられるが、坊主の札を取ったら持ち札すべてを捨てなければならない。
 姫の札だったら、捨て札をすべてもらうことができる。
 めくる札がなくなったらゲームセット。持ち札の多い者が勝ちだ。
 男性札は66枚、姫札は21枚、そして坊主は13枚。恐怖の坊主は確率13%とはいえ、結構ひいてしまったりする。
 ルールは地方によって多少の違いがあるけれども、私の実家では最も簡単なこのルールで遊んでいた。
 
 私たち子供が家庭を持ち独立してからも、元旦には実家で新年会を行っている。姉や妹も夫と子供を連れて大集合だ。
 ひとしきり飲んで食べたあとは、恒例の坊主めくりがはじまる。夫と父は入らないが、私と姉、妹、母、義兄、義弟が参加し、童心に返って遊ぶのだ。

 去年の一戦はこんな感じだった。
 最初の一巡は、姫が出ても坊主が現れることがなく、ホッと胸をなで下ろすことが続いた。やや緊張感がゆるみ、義兄が札を表にしたときだ。
「うわっ、出た~!!」

 素性法師  今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな

 義兄は渋い顔で持ち札すべてを捨て、すっからかんになった。
 不思議なことに、1枚坊主が出ると連鎖反応が起こる。恵慶法師、蝉丸が続いて現れた。
「キャー」
「わぁ~」
 姉に義弟が一文無しになり、捨て札の山ができた。
 ここで私の順番が来たが、現れたのは山部赤人だった。

 田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ

 姫じゃなかった…と私はがっかりした。
「ほほほ、いただきー」
 ゲームに強い妹が姫・右近の札をひいた。捨て札全部が妹のものになった。
 続いて姉がひいた札も姫・小野小町だったが、すでに捨て札はない。
「遅かった……」
 こういう場合、もう1枚ひいてよいというローカルルールもあるらしい。しかし、わが家では「今頃~」と笑い飛ばされておしまいだ。
 男性札が無難に続くと、次は姫が連続で出現した。伊勢、右大将道綱母、和泉式部……。

 こんなところで無駄に出ると、あとが困るんだけど……。

 そんな不安が胸をよぎった。
 札の山はすでに半分以下となっている。順番が来て札をめくると……。

 僧正遍照  天つ風雲の通ひ路ふきとぢよ をとめの姿しばしとどめむ

 出た~!! 坊主だぁ~!
「やったー、ついに出たわ!」
 姉は私の持ち札がゼロになったことを喜んでいる。ムカッ。
 しかし、次の回で私は珍しく姫・相模をひき、捨て札すべてを取り返すことができた。
「面白くないわね」
 姉が舌打ちした。捨てたり拾ったりもあったが、ゲームは終盤にさしかかっていた。
 残り少ない札を順番にひくと、どうやら私が最後の一枚をもらうことになるらしい。
 妹の持ち札が一番多いが、姫が来てくれないので捨て札もたまっている。最後の一枚が姫だったら一発逆転もあるかもしれない。

 私もドキドキしたが、他のメンバーも最後の札に神経を集中させている。
 さて、勝負の行方はいかに。
 札に手をかけひっくり返すと、誰もが大声で笑った。
「あははははははー!!!」

 西行法師  なげげとて月やは物を思はする かこち顔なるわが涙かな

 最後の最後に坊主とは……。
 西行さん、泣きたいのはこっちだよ!

 あけましておめでとうございます。
 本年もたくさんエッセイを書きたいと思います。
 よろしくお願いいたします。

 さて、去年の屈辱を果たすべく、今年もこれから実家に行ってまいりま~す!



お気に召したら、クリックしてくださいませ♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^(12/26更新)
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする