これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

わが家の家宝

2008年12月14日 20時09分53秒 | エッセイ
 同僚の理科教諭が主催する、日曜地学ハイキングという団体の化石採集に参加してきた。
 今回のお目当ては、絶滅したトウキョウホタテである。
「お子さまの顔より大きな化石が取れます」という魅力的なフレーズに誘われ、練馬から千葉まで、はるばる片道3時間弱かけて行ってきた。
 ときは12月7日。外房線の、とある駅からバスで新興住宅街まで行き、そこからさらに20分歩いて採集場へ向かう。車も人もほとんど通らないのどかな道を、小6の娘のミキと並んでのんびり歩いた。
「へぇ~、27年前の化石だって」
 配られたパンフレットを見ながら感心してつぶやくと、すかさずミキが横から訂正を入れる。
「27年前じゃなくて、27万年前でしょ。27年じゃ化石にならないよ」
 え~ん、間違えた……。
 すると、主催者の一人である貝博士がさらに付け加える。
「正確には、27万5千年前なんですがね……」
 なーに、いまさら5千年増えたからって、どうってことはないさ。

 化石は河川敷などの水辺で取ることが多かったが、今回は小高い斜面を登ったところにある崖っぷちで行った。
 この団体は平均年齢が高いのでお年寄りには過酷な場所だったが、苦労した甲斐があった。なにしろ、大きな化石がザクザク採れる宝の山なのだから。
「次々と開拓されていくので、採集地が少なくなっています」
 主催者たちはそう嘆いていた。

 ミキが崖をハンマーで掘ると、早速鶏卵2つ分くらいの2枚貝を見つけた。ずっしりと重い。すかさず、貝博士が近づいてきた。
「これはビノスガイです。ヴィーナスにちなんだ名前なんです」
 なるほど、美しい。ギリシャ神話における、愛と美の女神ヴィーナスから名前をもらっても名前負けしないだろう。

「この貝は縦になっていましたか、それとも横になっていましたか? 縦になっていれば潜って逃げようとした形跡が見られるので生き埋めになった証拠だし、横になっていればすでに死んでいたものが流されてきたと考えられます」
 へええ、すごい、そんなことまでわかるのか!
 しかし、ミキは隣で考え込んでいる。
「う~ん、この貝、斜めになってたよね……」

 しかし、お目当てのトウキョウホタテはなかなか姿を現さない。他の参加者が次々とトウキョウホタテを掘り当てる中、ミキは段々焦ってきた。化石採集は宝探しと同じなので、根気よく掘り続けなければ見つからない。
 今回、私はついていくだけと宣言したけれども、どうしたものか。手ぶらで帰るのもシャクだ。
 すると、私の同僚がミキを助けに来てくれた。
「よしっ、手伝ってあげるよ」
 彼は化石の専門家だ。これで百人力である。
「この辺があやしいと思うよ」
 さすがにスペシャリストの技術は違う。タガネとハンマーを自由自在に操り、10分後には大きなトウキョウホタテを2個も掘り当てた。

 これはスゴイ!!
「写真を撮らせてもらえますか?」
 他の参加者がカメラ片手に話しかけてくる。
「このあと割れてしまうこともあるので、まず写真を撮っておくんですよ」
 同僚はそう言うとデジカメを取り出し、真剣な表情で写真を撮っていた。
 そのあとも慎重に掘り進み、どうにか完全な形でトウキョウホタテを手に入れることができた!

「いやぁ~、これは素晴らしいですね。大事に持ち帰らないと」
 さきほどの貝博士も、目を細めて2つのトウキョウホタテを眺めていた。
「嫁入り道具になるよ」
 同僚が言うと、ドッと笑いが起きた。しかし、肝心のミキは苦笑いを浮かべている。
「いや、別に、そこまでしなくても……」
 つれない返事に、再び笑い声がこだました。

 じゃあ、これはウチの家宝にしよう。
 人様に採ってもらったものだから、とりわけ大切にしないと。
 果報だけでなく、「家宝も寝て待て」なのだ。



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コメント (11)
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