これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ブラックホールの弱点

2008年12月11日 20時22分43秒 | エッセイ
 掃除機は吸引力が命。
 私のお気に入りは、ドイツ・ミーレ社製の掃除機、シルバースターだ。娘のミキが生まれた年に某通販で買ったからもう12年も使っているが、どんなゴミでもゴゴーッと吸い込むパワーは衰えない。まるでブラックホールだ。床にまで吸い付くノズルを滑らせて、縦に横にと動かせば、お部屋はたちまちピッカピカ。
 ところがところが、夏からこの掃除機のパワーがダウンしてしまった。弱々しい吸引力となり、床には吸い付かない、大きなゴミにはそっぽを向くといった変わりようなのだ。
 すわ、反抗期か?!
 我が家の掃除は、この春から退職した夫が主に担当しているのだが、彼はこれが許せなかったらしい。手動で出力パワーを最大限まで上げ、強引に吸引力をアップさせた。まるで、映画『風と共に去りぬ』で戦火をかいくぐり、故郷タラへと急ぐスカーレット・オハラである。スカーレットは弱った馬に鞭をくれ、無理やり歩かせた結果死なせてしまう。
 我が家の掃除機も然り。最初はイヤイヤ吸い取っていたが、10分も経てばオーバーヒートを起こして自動停止し、熱が冷めるまでストライキを決め込むのだ。
(8月12日付日記『リングは自宅』参照)
 使い物にならないので、古い掃除機を引っ張り出した。が、ミーレ社製に慣れてしまった今はどうも物足りない。しばらく我慢して使っていたけれども、やはりブラックホールが捨てがたい。
 先日、私はようやく重い腰を上げ、サービスセンターに電話をかけた。すぐにオペレーターの女性が出てくれた。
「故障ですか。修理の前に4点確認していただきたいことがあります。まず、ダストパックがいっぱいになっていませんか?」
「交換したばかりです」
「では次に、フィルターは汚れていませんか?」
「あ、それも説明書を見て交換しました。でも吸引力は上がりませんでした」
「そうですか……。では、布団圧縮袋などにお使いになりませんでしたか?」
「いいえ、使っていません」
「最後に、ノズルやホースに何か詰まっていませんか?」
 これは意外な感じがした。
「特に持ち手のくの字に曲がっている辺りにものが詰まり、吸引力が落ちるというケースが多いんです。今、ご確認いただけますか?」
 まさかね、と思った。問題の箇所は暗くてよく見えない。ノズルを振っても音がするわけではなく、何もないような気がした。しかし、一応懐中電灯で照らして中を確認してみなくては。
 すると、触覚だけを殻から出しているかたつむりのように、円柱の細いものがわずかに見えた。
 
 まさか、本当に詰まっているとは!!

 これぞ、まさにコロンブスの卵である。私は一人で納得し、オペレーターに答えた。
「あのー、鉛筆が詰まっているみたいです」
 すると、女性のホッとしたような声が返ってきた。
「では、それを取っても吸引力が戻らなければ、またお電話いただけますか?」
 私は礼を言って電話を切り、鉛筆の救助に取りかかった。細い棒を突っ込んで刺激を与えても、鉛筆はびくともしない。なまじ吸引力が強いために、くの字形のところまで引っ張られて固定されたのだろう。ノズルを下に向けて揺すっても、出てくるのはたまりにたまったホコリばかり。なかなか鉛筆は救出できない。さらに棒を深く差し込むと、今度は手ごたえがあった。ノズルを逆さまにして落ちてきたのは、なんと長さ12cmの赤い色鉛筆だった。

 こんなに長かったのか!!

 私は仰天した。これは絶対夫の仕業だ。どうやったら、こんなに目立つものを吸い込むというのだろう。色鉛筆だけならともかく、次々と吸い込まれていくチリやホコリがその周りにたまり、ノズルを塞いでいたようだ。これでは吸引力が落ちるのも当然である。

「……でね、中をきれいにしたら、またパワーが回復したんだよ」
 私は夫にことの顛末を話した。めでたくブラックホールが復活したのだ。
 しかし、彼の返事は私の予想を裏切るものだった。
「ああ、よかった。やっぱりミーレのがいいよ。電話してみるもんだなぁ」
 あれ? 反省の言葉はないの? これからは気をつけようとか……。
 理由はすぐにわかった。
 私たちはお互いに、自分の非を認めないという習性がある。
 彼もまた、私の仕業だと思っているのだ。




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コメント (9)
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