これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

似てる? 似てない?

2008年11月30日 20時36分24秒 | エッセイ
 今年の文化祭で、私のクラスはホットドックを販売した。飲み物はつかず、本当にホットドックだけ。切れ目の入ったドックパンに、ホットプレートで炒めたソーセージをはさむだけのお手軽さ。担任である私が面倒くさがりのせいか、生徒も似てしまうものらしい。100円という価格もうなずける。
 この高校では、クラスの出し物をPRするための立て看板を作ることになっている。
「今年は、先生の顔描くからね~」
 自称画家の田中はヤル気十分だが、所属しているダンス部のステージに集中したいのか、こちらもお手軽な素材ですませようとしているようだ。
 しかし、当事者としては、どんな顔にされるのか考えただけでも恐ろしい。
「ん~、こんな感じだよ」
 私が絵のイメージを尋ねると、田中は慣れた手つきで、サラサラッとルーズリーフに下絵を描き始めた。髪型も服装も似ているけれども、ニッコリ笑った顔にはほうれい線とカラスの足跡がクッキリと描かれているではないか。早速私はクレームをつけた。
「このシワはダメ! 修正してよ!」
「だって、シワがなかったら似ないじゃん」
 田中の主張ももっともなので、結局シワは薄い色にするということで妥協した。
 自分では頑張っているつもりだったのに、生徒から見ればこんなもんなんだな……。
悩んだところでどうにもならないのだが、私は相当落ち込んだ。こう見えても、美容にはある程度支出をしている。コラーゲン飲料にヒアルロン酸のサプリ、ローヤルゼリーに鉄剤・ビタミン剤で、しめて月3万5千円だ。もちろん、もっと投資している人もいるけれど、これ以上出しても変わらない気がする。
 そんな私の裏事情を知らない田中はベニヤ板2枚に、せっせとシワ入りの私の顔を描きはじめた。
「どう、進んでる?」
 探りを入れに行くと絵を隠してしまい、「まだダメ」と言って見せてくれない。一体どんな顔に描かれていることやら。
 数日後、期限ギリギリに立て看板が完成したと、田中が照れながら報告しに来た。
「やっとできたから、今並べてきたんだよ」
「へぇー、見たい、見たい!」
 私は階段を駆け下り、看板のもとへと急いだ。すでに生徒が集まっており、しゃべったり笑ったりする声が響いていた。
 しかし、絵を見た瞬間、私は彼らのように笑うことはできなかった。

 なにこれ、最初の下絵と全然違うじゃん!

 顔からはみ出すほどの大きな口は、吸血鬼のように立派な犬歯をむき出しにして、商品であるホットドッグにかぶりつこうとしている。口の周りに飛び散っている赤い水滴はケチャップらしいが、血かもしれないと思われることを期待しているようだ。
 眉毛ほどの大きさしかない目もボサボサの髪も、化け物じみた雰囲気を強調していて、非常に気に入らなかった。
 シワだけは約束通り黒を使わず、肌の色よりやや濃い目の色で描いてあったが、それはもうどうでもよくなった。
 さらに不愉快なのが、見た者の反応である。
「これ、先生に似過ぎだよ~!」
 近くにいた生徒が大笑いで話しかけてきたが、私は決して認めなかった。しかし、教員までもが真顔で同じことを言うではないか。
「いやぁ~、ソックリ! よく特徴をとらえてますよ! 誰が描いたんですか?」

 
 何だかアホらしくなって、コラーゲン飲料とヒアルロン酸のサプリを解約した。
 たっぷり睡眠をとるほうが、美容のためにはよさそうだ。



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コメント (6)
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