これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

トンデモ卒業式

2008年11月13日 20時07分06秒 | エッセイ
 卒業式まで、あと4カ月!
 現在、私は高校3年生の担任をしており、そろそろ表彰生徒選出などの準備に取り掛かろうとしている。

「卒業式」という言葉で私の頭を検索すると、真っ先にヒットするのはこの思い出だ。

 それは、教員1年目で臨んだ卒業式だった。当時勤務していた高校は、底辺校とまではいかなかったけれども中退率が高く、タバコや暴力などの問題行動もしばしば見られるところだった。
 数年前に統廃合の対象となり、残念ながら今はなくなっている。

「卒業証書、授与」
 司会の先生が高らかに宣言すると、壇上には下手から校長が登場する。
「1組、浅田太郎、石川啄郎……」
 舞台の前では担任が卒業生を呼名し、生徒は返事とともに座席で起立する。
「……山田由美、以上33名、代表、村上春香」
 クラス全員の呼名が終わると代表生徒が壇上に上がり、校長から卒業証書を受け取る手はずとなっている。
 代表の女子は、まず来賓に一礼、職員に一礼したあと、舞台正面の階段を上がって校長に向き合った。
「礼っ」
 ここで起立しているクラス全員が頭を下げ、顔を上げたところで校長が卒業証書を読み上げるのだ。
 しかし、どういうわけか礼のあと、校長も代表生徒もお見合いをしたまま動こうとしない。

 一体、何が?

 式場の誰もが異変を感じ取ったことだろう。
 まもなく、バタバタバタと大きなサンダルの音が響いてきた。見ると、舞台から出口に向かって、学年主任の先生が走りに走っているではないか。白髪を振り乱し礼服の背広をヒラヒラさせて、心臓麻痺を起こしそうなほど息苦しい表情で扉の向こう側に吸い込まれていった。
 どうやら、何かアクシデントが起きたらしい。
 しかし、何のアナウンスもなく、相変わらず校長と女子生徒は向かい合ったままなので、一同は二人をじっと見守るしかなかった。とてつもなく長い時間に感じられたが、おそらく5分程度のものだったろう。
 息を切らし、肩を上下に振動させて学年主任が戻ってきた。両手に載っている大きな風呂敷包みから、ようやく何が起きたかわかった。

 卒業証書を忘れたんだ~!!

 卒業証書は担任団が作成し、卒業式まで事務室の金庫で保管することになっていた。その学校では、式場に運び込むのも担任団の役割だったのに、生徒の指導や段取りの打ち合わせなどで失念してしまったのだろう。

「卒業証書、村上春香。昭和47年5月3日生まれ。右は……」
 校長が、やけに落ち着いた声で文面を読み上げ、ことは一件落着した。かのように見えた。
 式が終わり、職員室で打ち合わせがあった。校長はありきたりの挨拶をしたあと、ひときわ大きな声で付け足した。

「この学年は、卒業させるまで本当に苦労しているんだと思いました!!」

 根に持つ校長の痛恨のイヤミに、ドッと笑いが起きた。

 当事者には申し訳ないが、この卒業式は強烈すぎて、20年近く経った今でも忘れられない。
 4カ月後の卒業式では、何はさておき、卒業証書をチェックしよう!



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コメント (8)
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