これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

映画でワハハ

2008年11月06日 20時23分09秒 | エッセイ
お断り:この作品は、映画『ホームレス中学生』の内容についての記述を一部含んでいますのでご注意ください。

 笑うポイントが、若干ズレていると感じたことがある。
 あれは、高校生のときだった。友達何人かと、香港の人気俳優ユン・ピョウ主演の映画『チャンピオン鷹(1984年公開)』を観に行った。
 ユン・ピョウはサッカー選手を志す青年で、オジさんと呼ばれる病気の老人と貧しい暮らしをしている。映画の冒頭で、ユン・ピョウが帰宅すると、オジさんが杖をつきながらフラフラと歩いて出迎えるシーンがあった。「おお、おかえり」と言ったとたんに都合よく咳き込むと、うまい具合にポキリと杖が折れてオジさんは体のバランスを崩す。ちょうど階段となっている場所だったものだから、オジさんはゴロゴロと転がり落ちるのだ。
 なんと、陳腐な演出!
 いかにも惨めさを表したい! というわざとらしさに思わず「アハハ」と笑ってしまった。が、友達は誰も笑っていない。
 アレ? ここって笑うところじゃないの??
 友達だけでなく、劇場内のどこからも笑い声が聞こえない。それどころか、可哀想な場面なのに何と不謹慎な! と言わんばかりの冷ややかな視線が集まった。
 どうして面白いと思わないんだろう、と私は首をひねった。

 そして先日、小池徹平主演の映画『ホームレス中学生』を観に行った。
 ショックだった。美少年・徹平くんは、一体何回「ウ○コ」と叫んだことだろうか……。自動販売機の下に落ちている硬貨を必死の形相で探ったり、コンビニ弁当を野良犬並みにガツガツとむさぼり食ったり、果てはふたについたマヨネーズまで舐めていた。

 よく、こんな役を引き受けたなぁ……。

 館内には笑い声が上がっていたが、痛々しくて、私は顔を引きつらせるばかりだった。
 しかも、入浴シーンのおまけつきだ。徹平くんは仲良しの友達に偶然道で会い、誰にも話せなかったホームレス状態を打ち明ける。友達はいたく同情し、家に連れ帰って食事を食べさせようとする。ついでにお風呂にも入れてもらえるのだ。

 由美かおるの入浴シーンなど比較にならない露出度であった。お尻まで見せちゃっていいの?! と、こちらがドキドキハラハラする始末。相当心臓によろしくない。
 そして、このときから徹平くんの生活は上向きになっていく。友達の両親がとても面倒見のいい人たちで、何かと力になってくれたおかげだ。
 友達の母親役は田中裕子が演じていた。父親役は……どこかで見たことがあるのだけれど、すぐには思い出せない。やけに貫禄があり、怖そうでいて温かみがあるような人だった。

 あ、宇崎竜童だ!!

 一世を風靡した、あのダウン・タウン・ブギウギ・バンドのヴォーカリストではないか。道理でスクリーンでも存在感があるわけだ。年をとっても、元祖ロックンローラーはカッコいい。
 物語は進み、徹平くんたち兄弟のために借りた部屋をみんなで掃除する場面となる。田中裕子が、当たり前のようにぬれ雑巾を宇崎竜童に手渡した。すると、彼はやおら窓を拭き始めたのであった。

 ええっ、宇崎竜童が雑巾がけ?!

 おかしくて、私は「クックックッ」と鳩のような笑い声を立てた。しかし、周りは誰も笑っていない。
 アレ? 面白くないの??
 笑うどころか、ハンカチを片手に目頭を押さえる人が目立った。無理もない。赤の他人の優しい気持ちが、スクリーンいっぱいにあふれているのだ。もちろん私だってジーンときたが、それとこれとは別! 

 やっぱり、ズレているかもなぁ……。

 家に帰り、早速夫に「宇崎竜童が……」と報告すると、彼はとても驚き下を向いてつぶやいた。
「宇崎竜童の雑巾がけなんて、想像もできないよ」
 ……夫は笑えずに、痛々しく感じるほうかもしれない。




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コメント (4)
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