これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

すべり込みだよ、人生は(1)

2008年10月05日 18時07分58秒 | エッセイ
 何をするにも、私は期限ギリギリに間に合えばいいと思っている。
 たとえば、朝の出勤時刻。私が勤めている学校は8時半から勤務時間なのだが、いつも8時28分頃に到着する。決して朝に弱いわけではなく、お弁当を作ったり筋トレをしたり朝食の準備などで、あっという間に時間がたってしまうからだ。
 中には7時に出勤する人もいる。特に、育児や家事の負担がない男性は来るのが早い。私は好奇心から早く出勤したがる心理を知りたくて、もうじき定年退職を迎える山田さんに聞いてみた。
「先生はいつも早く来てますね。もしかして、1番ですか?」
「いえいえ、どんなに頑張っても私は3番ですよ。○○先生と××先生は私よりも早いですから」
 控えめな言葉とは裏腹に、悔しそうな表情がちらりと垣間見えた。

 そうか、この人たちにとって、1番に出勤するということはステイタスだったのか!

 理解しがたい欲望に難しい顔をしていたら、逆に私が質問された。
「笹木先生は、遅刻しそうだとハラハラしたことはないんですか?」
 彼もまた、始業寸前にやってくる私が不可解だったらしい。
「いやー、年に1回くらいは電車の遅延で遅れることがありますけれど、普段は間に合いますからね。いつものことだし、別にハラハラしませんよ」
 私が笑って答えると、山田さんは金髪に染めた若者を見るような目をした。
「私は、ゆとりを持って行動しないと不安になるんです。遅れるくらいなら休んだほうがマシですからね……」
 なんと、極端な! 私と彼は、一生平行線のままだろう。

 出勤時刻だけに限らず、書類提出や各種の手続きなども、期限間際にならないとやる気が起きない。仕事の準備もそうだ。教材づくりもテストの作問も、尻に火がつくまで放置してしまう。期限が迫り、「よしやるぞ」と決心すれば、睡眠時間を削ってでも集中して終わらせ、何が何でも間に合わせるのだが。
「もっと早く始めれば、夜更かししないですむんじゃないの?」
 山田タイプの夫にはよくこう言われるが、どうしても私にはそれができない。

 一体、いつからこうなったのだろうと考えてみた。すると、母がよく口にした、私が生まれたときのエピソードにたどり着いた。
「砂希は、予定日を過ぎてもなかなか生まれてこなかったんだよ。陣痛が起きる気配もゼロ。医者には、2週間たっても出てこなかったら、陣痛促進剤を使いましょうって言われたよ」
 今は違うかもしれないが、危険をともなう促進剤を使用すること、それは当時の常識だった。
「そしたら、きっかり2週間後に陣痛が起きて、自然に生まれてきたんだから。まったく、アンタはちゃっかりしてるよ!!」
 胎児にとって、子宮は非常に居心地のよい場所だというから、離れがたかったのだろう。陣痛促進剤を使う直前まで、私はぬくぬくと母の胎内にとどまっていた。おかげですっかり肥えて、身長50cm 体重3744gの、ソーセージのように肉の詰まったベビーになってしまった。2人目なのに、分娩所要時間が14時間を超えたというから、困ったものだ。

 胎児のときからの習性とは。筋金入りだね、こりゃあ!

 ン十年前の10月4日が、私の出産予定日だった。
 山田タイプの人だったら、きっと9月中に生まれていたことだろう。



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コメント (4)
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