これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

メンデル様に質問

2008年06月16日 22時22分28秒 | エッセイ
 子供の頃は、鏡を見て、それから通知表を見て、親から受け継いだ遺伝子の悪さに腹を立てたものだ。
 だから、私は自分の欠点を補うことのできる相手を選び、生まれてくる子供に肩身の狭い思いをさせないようにしたかった。
 最優先事項はスポーツマンであることだ。足が速く、球技・水泳・武道など、なんでもござれという人がいい。それから視力がよいこと。さらに、背が高く、二重まぶたで端正な顔立ちをしていれば、将来子供から恨まれるという心配はないだろう。
 意外とスムーズに、そんな男性が現れた。彼は私が求める条件をすべてクリアしただけでなく、経済的にも恵まれていたし、賭け事はしない、酒は飲まない、タバコは吸わない、暴力はふるわないというオマケつきだった。
 マイナス面としては、かなり年上で、日本人なのにときどき日本語が不自由になること、絵心が皆無で芸術性に欠けること、太りやすい体質であることが挙げられる。『気おつけて』と書かれたメールにはげんなりするが、それらの点を差し引いても、買いの物件だと感じたから夫となった。
 数年後、夫によく似た娘が生まれた。二重まぶたでまつげが長く、誰もが可愛いと言ってくれる。計画通りだ、と私はニンマリした。
 だが、保育園に入り他の子供と比較してみると、そうでもないことがわかってくる。
 運動会のかけっこではビリだし、鬼ごっこをすれば誰一人としてつかまえられない。小学校に入学すれば、視力検査で「D」となり、メガネをかけて生活している。
 おかしいな、予想と全然違うんだけれど……。
 私が狼狽しているにもかかわらず、新事実が続々と明らかになっていく。
 算数のテストでは「32本の鉛筆を8人に分けたら、一人何本になるでしょう」という問題に、娘は掛け算をして「256本」答え、×をくらっていた。「32本しかないんだろーが!」と私は腹を立てる。どうやら問題の意味を理解していないらしい。
 精一杯努力して描いた絵が、3歳児の落書きレベルなのも気になる。私は平均点以上の絵が描けたのだけれども……。
 さらに、8歳くらいから徐々に太ってきた。
「お母さん、こつばんってなあに?」
 娘からこんな質問をされたことがある。
「ほら、腰にある骨よ。この辺だから、触ってごらん」
 私は両手を腰に当て骨の位置を教えたのだが、娘はなかなか見つけられない。
「お母さん、ミキのこつばん、ないよ!」
 なんと、骨盤は肉に埋もれて隠れていた……。
 まずった、遺伝子には、親の性質が現れやすい優性と、現れにくい劣性とがあることをすっかり忘れていた。私と夫のよいところはことごとく劣性遺伝子となり、二人の欠点ばかりがこぞって優性遺伝子となってしまったのだ。
 偉大なるメンデル様、何故このような、神のいたずらとしか思えない現象が起きるのでしょうか。私は娘のために、一生懸命優秀なDNAを揃えたのですが、なんの意味もなかったですね。
 これはもう、本人の自己責任なんじゃないですか。
 ねえ、そうでしょう?



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コメント (2)
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