めいぷるアッシュEnnyの日々是好日

1017夏:読書


紳士協定―私のイギリス物語
佐藤優著



外務省に入省した佐藤優は,ロシア語修得のため26歳の夏,ロンドン郊外ベーコンズフィールドにあるイギリス陸軍語学学校に籍を置くこととなった。
(まだソビエトが崩壊する前の事でソビエトでは外務省職員の語学研修生を受け入れていない)

陸軍語学学校でロシア語を教えるのはソビエト亡命者だ
英語でロシア語を修得しなければならない為
そして外交官にとって必須となる英語力を磨く為のカリキュラムが組まれていた。

バッキンガムシャー州ハイ・ウィカム近郊にある欧日交流基金で学ぶこととなり,ファーラー家に5週間ほどホームステイすることになった.その家には,グラマースクールに通う「グレン」という利発な12歳の少年がいた。この本はその少年と青年期の佐藤との交流を軸に描かれている。

グレンは労働者階級の家に生まれた、成績が良くグラマースクールに進学した事により今までの友達と疎遠になった。
グラマースクールは進学校のためか友達が出来なかった。
唯一の友はラブラードールレトリバーのジェシーだけだった。

この本には外務省の事、外務省同期の友人の事、亡命チェコ人の書店主の事、語学学校のイギリスの友人の事、イギリスの階級制度の事、戦場のメリークリスマスの事などが描かれていますが、それは置いといて人と犬と時間の関わりがよかった。

ジェシーについて佐藤優とグレンの会話。

**抜粋**

*ファーラー家にて
奥さんは、キッチンに行ってサラダの準備を始めた。ラブラードールレトリバーのジェシーはキッチンに入ってこない。尻尾を振りながら食堂の前までついて来たが、そこからまた居間に戻ってしまった。
佐藤「グレン、ジェシーはついて来ないの」
グレン「ジェシーがいてもいいのは1階の居間と廊下だけで、それ以外の部屋や2階には入ってはいけないことにことになっている」
佐藤「よく言うことを聞くね」
グレン「だってそう躾けているもの」
佐藤「日本の僕の実家には、ミーコという雌猫がいる。ミーコはどこにもついてくるし、テーブルの上にも平気で乗る」
グレン「うちにも雌猫がいるよ。タビーっていうんだ。タビーはどの部屋にも行っていいことになっている。でも人がいるときは、タビーは絶対にテーブルに上がらないよ。叱られるのが嫌だからだ。でも人がいないときは、ときどきテーブルに乗っている」
佐藤「どうしてテーブルに乗っていることがわかるの」
グレン「テーブルの上にタビーの毛が落ちていることがあるからね。猫は人間の言うことを少ししか聞かない。でもジェシーは僕たちの言うことを完全に聞くよ」
佐藤「頭がいいんだ」
グレン「いや、ラブラードールレトリバーの中では普通だと思う。ジェシーのお母さんはとても頭がいいよ。ほんものの猟犬だから。僕のお祖父さんのところにいるんだ」
グレンは目を輝かせながら、犬について話しをした。


*ある土曜日のブランチが終わって
グレンは私に「ジェシーと一緒に散歩に行かないか」と言った。「散歩」と言う言葉がジェシーにはわかるようだ。尻尾を左右に激しく振っている。
「行こう。ジェシーは人間の言葉がわかるんだね」と私は言った。
「僕の言葉はだいたいわかる。ジェシーの考えていることも、僕にはだいたいわかる」とグレンは答えた。
佐藤「今、ジェシーは何を考えている?」
グレン「僕とミスターサトウが、どこか遠くまで散歩に連れて行ってくれると思っている」
散歩「遠くってどの辺?」
グレン「牛がいる丘のあたり。少し早足で歩いて30分くらいかかる」
「それじゃ、一緒に行こう」
グレンは引き綱を丸めて手に持っている。ジェシーの体にはつけない。
佐藤「逃げ出したり、知らない人に吠えたりしないのか」
グレン「しないよ。ジェシーはとても厳しくしつけられている」
佐藤「グレンが躾けたの」
グレン「違うよ。犬の訓練所に入れたんだ」
佐藤「訓練所?」
グレン「そうだよ。ラブラードールレトリバーは訓練所で躾けるのが普通なんだ。盲導犬になるくらいの犬だからとても頭がいい」
佐藤「自宅では躾けられないの」
グレン「お手とか、人間を咬んだりしないようにという躾は家でもできるよ。ただ難しい躾もある。もともと猟犬だから、獲物がいると吠えて飼い主に教える。すごく大きな声を出すから、ほんとうに必要なとき以外は吠えないように躾けるのが結構難しいんだ。あともう1つ、とても難しいのは拾い食いをしないように躾けること。ラブラードールレトリバーは他の犬種と比べて食いしん坊なんだ」


*5年後モスクワからロンドンに出張、ファーラー家で

呼び鈴を鳴らすと「ワン、ワン」という犬の鳴き声がした。私が「ジェシー!」と呼びかけると「ワン、ワン、ワン」と大声で連呼した。ジェシーが尻尾を振ってやってくる姿を想像したが、扉が開くとよちよちと歩いて出てきた。口の周りによだれをたらし、鼻のあたりには白髪が交じっている。
「ミスターサトウ、ジェシーは年を取った」という声が聞こえてきた。聞いたことのない声だ。見るとグレンだった。
ジェシーは、絨毯の上に伏せたままでほとんど動かない。
「グレン、ジェシーは具合が悪いのか」と私が尋ねた。
「うん、身体のあちこちが悪くなっている。歯もほとんど抜けてしまった。もう年なんだ。残念だけど、あまり長生き出来ない。ミスターサトウと会うのもこれが最後だと思う。ミスターサトウはモスクワでペットを飼っている?」
「雄猫が1匹いる。シベリア猫という種類で大きな猫だ」
「体重は何キロくらい?」
「この前測ったら11キロあった。太ってるんじゃなくて大きいんだ」
「可愛いでしょう」
「可愛いよ。チーコという名前だ。とても頭がいい猫だ」「僕はジェシーがいなくなったら、もう犬は飼わない。犬と死に別れるのは嫌だ。そのかわりガーデニングをやる」
「ガーデニング?」
「そう。うちの花壇も僕が作っているんだ」とグレンが言った。
あっという間に午後4時になった。私はファーラー家を辞去した。玄関で家族全員が私を見送ってくれた。タクシーに乗って、窓を開けて別れのあいさつの言葉を述べていたら、グレンがそばにやってきた。
「今度イギリスに来るときも必ず連絡して。約束だよ。僕には恋人がいてそろそろ一緒に住もうと思っている。ミスターサトウに紹介する」
「わかった。必ず連絡する」と私は答えた。

車はすぐにM40に入った。私は鞄から、昨夜、レストラン「菊」の帰りに大使館に立ち寄ってピックアップしたモスクワの日本大使館から送られた公電を取り出した。2時間半後の参事官主催の夕食会では、ソ連情勢に通暁していない同僚に、ソ連が解体プロセスに入っていることについてどう説明すれば理解してもらえるだろうかと、考えを巡らした。

ここでこの本は終わります。


1960年生まれの佐藤優は57歳、青春期を通り越し
まさしく青年期の中の出来事が憧憬のように目に
浮かんだ。

お休みなさい。






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