長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

日本の調べ~演奏会ニュース

2022年05月29日 09時19分55秒 | お知らせ
 来る次週末6月5日の日曜日、小田急線・成城学園駅北口ほど近い、成城ホールにて、邦楽演奏会があります。
 主催は世田谷邦楽研究会、恒例の年に一度の三味線を主体にした和楽器によるライブです。

 長引くコロナ禍のため、今年度も開催が危ぶまれておりましたが、区教育委員会関係各方面の皆さまのご尽力によりまして、開催にこぎつけました。
 楽屋用施設がコロナワクチン予防接種会場となる非常時でございまして、参加社中も規模縮小の演奏会となっております。
 今回は、長唄、小唄、新内、筝曲などがお聴き頂けます。
  入場は無料、お出入りは自由ですが、新型コロナウイルス感染防止対策を講じて上演いたします。座席は一つ置きの雁木…千鳥…市松模様状に、ご利用下さいませ。
 また、マスク着用にてのご入場をお願いしております。
 開演は12時半、終演は16時半ごろを予定しております。

 当杵徳社中は、つい先ごろ真っ二つに割れて話題になりました下野国、栃木県那須の殺生石の伝説をテーマにしました古典長唄『三国妖狐物語~さんごくようこものがたり』下の巻「那須野~なすの」、
 すがやかな七夕の風景を情緒的に描いた古典長唄「五色絲~ごしきのいと」、
 平成元年に新作舞踊のために作曲されました現代曲『吉祥天女伝説~きっしょうてんにょでんせつ』より上の巻「白羽の矢~しらはのや」
にて、御目文字仕ります。
 ご来場をお待ちしております。

 プログラム中、わが杵徳会家元が、ご挨拶の辞を述べております。
 文化・芸術に携わる者として、私も肝に銘じつつ、また皆さまにもご紹介いたしたく、ここに転載いたします。


《心外無別法-しんがいむべっぽう》
    心の他に方法はなし

  世田谷邦楽研究会 会長 杵屋 徳衛

 いま世界は「戦争」という、心の荒廃から招く、人類にとって最悪の選択へと向かっております。
 文化が栄えると戦争は起きません。
 戦で荒廃した心の人々を救うものこそが文化です。

 文化の多くは経済的には採算が取れません。

 片や、経済ばかりでは心の疲弊を招き、ひいてはそうした心が戦争に駆り立てます。そこが「文化と経済は車の両輪」と言われる所以です。

 国々を見渡せば、ニュースなどで飛び込んでくる痛ましい映像の奥に映される、生活環境が垣間見える荒涼たる国々などがまだ多くあり、そうした場所で豊富な文化を醸成するのは容易なことではありません。
 だから戦ばかりが起きるのです。

 国によっては前政権の文化を破壊して新しい政権を作るという暴挙で成り立っている国も見受けられます。

 その様な中、追い打ちをかけているのがコロナ禍です。コロナは文化を戦争のごとくに破壊しております。
 こうした時にこそ、精神性の高い修養を積んで文化の灯を守ることこそ、文化人の務めでもあり、戦争をなくして行ける力となるエネルギーとなります。
 我々は文化の灯を守ります。



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松庵梅囃子

2022年05月28日 07時04分10秒 | 稽古の横道
 朝から篠突く雨に襲われた武蔵野一帯も、昼過ぎには雲間から薄日が射してきた。
 三度目の宿替えをして檸檬樹の上層へ巣を張り直した一昨日は、洋々とベランダ空間を睥睨していた蜘蛛が、今朝から姿を消し、些か意気消沈していたところ、気を変えてこのところの案件であった着物の手入れものを出しに、中野行きのバスに乗ったのが八つ半。
 五日市街道から西荻窪の商店街へ入る路地のほど近く、長年お世話になっているK染み抜き店さんへ、コロナ禍で久しぶりに伺うため、お電話したところ、御主人がこの彼岸に急逝されたと聞き絶句する。抗癌剤治療から帰宅しても伏臥せず仕事机に向かっていたというおかみさんのお話を伺い、職人気質を偲びお線香を上げさせてもらった。生前いつも坐するお姿をお見掛けした作業台の後ろ壁が白い。

 そのまま日常の営みに戻る気にもなれず、駅へ向かわず五日市街道へ返し、T和菓子店さんへ、みたらしと磯辺団子、大好物のすあまが一つだけ残っていた残福。それから松庵稲荷を対岸から拝し、日々の食料を求めるべく井の頭通り角のМ浦屋まで逍遥する。
 学生時代の昭和五十六年からの数年間と、平成三年から廿一年までの累計すればざっと四半世紀のあいだ杉並区民であったので、先年、『地方自治の先駆者 新井格』という戦後の初代公選区長の日記を入手したほどに、JR線の西荻窪から井の頭線の三鷹台辺りまでの、住宅地というほど建て込んでおらず、農地も多く空が広い、この土地には愛着がある。

 「6月19日は杉並区長選挙です」という広報ポスターの掲示板を通り過ぎ、選挙のたびに訪れた松庵小学校の東側の道を通って…そういえば何度目の都知事選の時だったか、この場所で出口調査を受けたことがあった…梅の実は生っているかしら、と、足が早まった。
 買い物は口実で、実を言えばこの散策の一番の目的は、梅林の様子が見たかったのである。

 松庵に住まいしていた十数年の間、最寄り駅ではなく、遠回りして私鉄沿線の駅へ出る、通り過ぎるだけの農地の一画ではあったが、そこに在った梅たちの姿を見るのが好きだった。
 寒明けの雨にそぼ濡れた枝々の凛々しさ。
 星かと見まごう白い莟が、屹立する樹々に鏤められ、薄闇の中で輝いている、早春の宵も値千金。
 言うに言われぬ、咲き初めた梅が香の清々しさ。
 生い茂る葉の緑に青梅がつき、やがて零れる実のやや熟れた芳香も捨てがたい。
 まこと、あの梅林がある一帯は桃源郷の如き趣きを醸し出していたのである。

 かの名高き、ゴッホまでもが模写した廣重「名所江戸百景」の亀戸梅屋舗、それが現世に顕れ給うたのが、わが心の松庵梅ばやしであった。

 それが…それが、である。
 久しぶりの再会に胸を高鳴らせていた私の目の前に開けた景色は、一本の木もない、赤茶色の造成用の覆土に、緑色(!)に塗られた薄べったい盛土状の中心部を持つ広場であった。
 申し訳程度に灌木があしらってはあった。が、しかし………
 あの美しかった梅林が、かくも悪趣味な得体の知れぬ空き地に変容していようとは…
 私は愕然として「松庵梅林公園」と書かれた傍らの定礎を眺めた。
 
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風よ、伝えて。

2022年05月24日 23時41分03秒 | 趣味です。
演奏会のある週末を挟んで、数日ぶりに稽古場を開けると、新顔の蘭が独りでほころんでおりました。
彼(彼女?)は一昨年の暮れ、令和3年のお年賀に頂いた2年目の株でして、当家に居着いて初めての開花となったわけで、胡蝶蘭の他のメンバーの花時を三月も遅れてやって来た晩生(おくて)ながら、可憐な佇まいが奥床しく。



時計の秒針に懸念することなく、在処を忘れていた心の落ち付かせどころを、ようやっと暫し取り戻せて、緑の風と戯れんと、朝、レモン樹の葉陰をしけじけと眺めおりますれば…



影しか見えぬ外に張り出した葉上の幼虫二人、随分豊かに育って、今日も仲良く身を寄せているのが見えましたが、重みのため葉が下がっております。
折から、天気晴朗にして風強し……
葉先にいたちびちゃんは手前の枝に避難する機転もあろうに、年長(日長?)の両人がそのまま危うい葉に居続けようとは、呑気にも程があろうと言うもの。

風よ、あの二人に言ってやって、そのまま居ては突風に吹き落とされるよ、疾く奥の枝へ渡りたまえ、と。







今日は五人囃子のうち小編成の方々のみ見つけることができました。



檸檬の花時も過ぎ、子房が緑に変わる頃。
今宵は卯月二十三夜。
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居ぬようで ゐるようで

2022年05月20日 13時45分50秒 | 折々の情景
三日見ぬ間のレモンの葉っぱかな。
越冬サナギが飛び立った後の、空の巣症候群を埋めるかの如く、同日気早なクモが姿を顕し…
実を言えばやっと生き物からの束縛を逃れて清々していたところでもあったのですが、恐ろしい現代社会の闘争の巷の噂話から暫し、心慰められるのも事実。



葉陰に幼虫と思われる黒い筋を見つけたのが、5月15日のこと。



写真は撮ったものの纏めるいとまとて無く、あたふたと一週間が過ぎました。













月曜日に焦げ茶の幼体を4つほど見つけ、さらに翌日もう一匹極々生まれたてのものも見つけ、現在、我がベランダ栽培のレモン樹には、四天王から五人囃子ほどの遊興チームが育ちつつあるのである、と昨日まで思っていたものの…



なんてカッコイイ、小白金蜘蛛。
と、今日も今日とて初夏らしい鮮やかな日差しに、外まで繁りゆく新緑を目を細めて眺めておりましたところ、どうやら、虫に喰われたとしか思えぬ葉の形が目に入って参りました。
内側からは蜘蛛の領域を侵害するので、この角度でしか近づけませんが、どうやら三体の幼虫らしき影を発見。



今夏ふたたび、賑やかな揚羽蝶のシーズンが、わが庵にも訪れた模様。



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卯月十八日

2022年05月18日 22時32分07秒 | 折々の情景
卯月八日はとうに過ぎ、
稽古帰りの居待ち月。
待っていたとは有難い。

月暦、令和四年四月十八日
四つ亥の刻、東の空に。
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そのとき折しも鏑木清方が…(和楽器ライブのお知らせ)

2022年05月15日 15時55分05秒 | 美しきもの
数年前まで黄金週間最終日の催し物としてお知らせしていた、
武蔵野邦楽連盟による邦楽演奏会でしたが、
昨年度より風薫る5月下旬の開催となりまして、
今年は来る5月22日(日)、吉祥寺駅南口ほど近くの武蔵野公会堂、
パープルホールで行います。

和楽器である三味線が活躍する、伝統長唄や現代曲、
筝曲や尺八など、全16番を予定しております。
開演は12時、終演は17時ごろ。
入場無料、お出入り自由ですが、
感染症対策として入場時の検温・消毒などご協力を賜りたく、
(ドレスコードはマスク着用にて)
どうぞよろしくお願い申し上げます。

当杵徳社中は、長唄「竹生島」、同じく「五色絲」、
そして杵屋徳衛作曲の三味線と十七絃による
現代曲「吉祥天女伝説/上の巻・白羽の矢」
を出曲いたします。

長唄「五色絲(ごしきのいと)」は、江戸時代の嘉永五年=西暦1852年、二代目杵屋勝三郎の作曲です。
旧暦七月七日、七夕の節句の乞巧奠(きっこうでん:巧みになることを乞い願うための祭り事)のお供え、飾り物の数々を、縁語や類語を鏤めつつ風雅に詠い込んだ嫋やか(たおやか)な曲です。

先月、同曲の場内放送のための解説原稿を調え、ホッとした私は、
世間の花見の狂騒も大方過ぎ、春の嵐に見舞われた四月中旬のとある雨の午後、
20世紀末、たつきの為に通っておりました一ツ橋へ至る懐かしい竹橋の、
国立近代美術館(これまた懐かしい…昭和の頃はいっときフィルムセンター〈現在の国立映画アーカイブ〉の仮舎がありまして、戦前の珍しい映画フィルム上映会にも行きました)にて開催されております、
鏑木清方の没後50年回顧展へ。

ここ二年ほど、仕事への責任もあり、
美術館・博物館、劇場など、
人の集まるところへは極力伺わずにおりましたので、
人気の同展へも二の足を踏んでいたのですが、
もとより大好きな清方の絵画、
荒天で人が疎らだったこともあり、
画伯の世界との久々の嬉しき逢瀬となりました。

そこで…なんということでしょう、
初めてお目にかかった、大倉集古館所蔵の昭和四年作「七夕」屏風絵。
つい先日書き上げた、五色の糸の世界、そのままの絵が私の目の前に…

実は、唄われる五色の糸が何色を示すのか、
文献を何冊も調べたのですが、
決定的な著作にめぐり合えず、
白青黄赤黒と書いて送稿していたのです。

清方描く乞巧奠のしつらえは、十三絃の向こうに青黄白赤緑の
糸を巻き付けた苧環(おだまき)。
なんという有難い廻り合わせでございましょう……
あらさ、黒じゃなくて緑の黒髪の方だった…と慌てて訂正を先様へお伝えしました。
本番に間に合って有り難いことでした。

そんなわけで、曲間にアナウンスされます解説にも
お耳を傾けて頂けましたなら、尚うれしく、
ご来場をお待ちしております。



供え物の瓜に蜘蛛が巣を張ると、願いが叶うとのこと…
写真は先月より檸檬樹に居着きました当家のささがに、オーチャード・スパイダーです。
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