長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

違った未来

2017年06月28日 23時23分50秒 | 折々の情景
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

いかにの茶碗

2017年06月11日 23時55分55秒 | 折々の情景
 あるとき私は、大切にし過ぎないように普段使いできて、でもそれなりに愛着のわく、デコラティブではないけど機能的な、かといってそれほど素っ気ないデザインではなく、そして飲みやすいよう碗口が薄手で取っ手の持ち具合もバランスのよくとれた、かつ今でいうコストパフォーマンスのある程度ある、コーヒー茶碗を探していた。
 たぶん、昭和60年前後のことだったと思う。
 世の中は景気がよかった。平日のまだ浅い午後だったか、そんな微妙な時間帯の郊外型量販店ではあったが、店内はハッピーライフな空気感に満ちていた。客はまばらであったが、品物は豊富にあって、上記のような様々な条件を満たす候補品にあふれかえっていた。日用品の茶碗売り場(大きく食器というのではなく、である)に、常の展示棚とは別に、畳一畳分ほどの平台が六つほども置かれていただろうか、その平台毎に物凄くたくさんの瀬戸物、陶磁器類が置かれていて、私はあれこれ…いま思えばなんという贅沢な時代だったか(と感じるほどに現日本は文化的に没落した)…迷っていた。
 
 そのときである。
 「…やだ! ボクはこれが欲しいの!!」
 白昼の平穏を切り裂く子どもの叫び。二つほど向こうの平台で、親子連れが争う声が聞こえた。
 茶碗売り場には、私と、三間ほども離れたその未就学児童である男の子とそのお母さん、堆く積まれた数知れぬ無言の茶碗の群れしかいなかった。
 自分の茶碗を探しながら、聴くとはなしにわが耳に飛び込んでくる親子の会話。
 「駄目よ、そんなの、全然子どもらしくないじゃない。子どもはこういうのを買うのよ」
 どうやらお母さんの推奨する茶碗が、その男の子の気に入らないらしかった。
 「やだ、そんなの! これがいいの!! このきれいなのが欲しいの!」

 そこまで主張するに値する、いったいどんな茶碗が欲しいというのだろう、遠目でちらと見たところ、極彩色で彩られた、どうやら九谷の茶碗らしかった。
 「ダメです、こっちから選びなさい! ほらこれとかいいじゃないの、キン肉マンがいるよ、○○ちゃん、好きじゃないの」
 北斗の拳だかドラゴンボールだか忘れたけれど、男の子のご贔屓のアニメキャラで釣ろうとするお母さんの懸命の説得をよそに、男の子は頑として、絶対これが欲しい、これでなきゃイヤだ!と泣き叫ぶ身の構えだ。

 あの頃は、たぶん子どもの茶碗が一つ300円ぐらいで買えた。プリント彩色だったとは思うが。
 九谷っぽい彩色や有田の普段使いなら1200円も出せば、結構素敵な茶碗も手に入ったように記憶している。
 たかが子どもの茶碗、されど、日常使う子どもの茶碗である。日に三度、目にし手にする茶碗である。

 際限なく繰り広げられるドメスティック修羅場の顛末を見届けることなく、私は気に入った茶碗が見つかったので、彼らが気になりつつもお勘定場へ去った。
 あの子は、自分が気に入った茶碗を買ってもらえたのだろうか。
 どんな大人に育ったのだろう、元気ならもう三十代半ばにはなっているはずである。

 …子ども向けのものとはいったいどうあるべきなのか、と、思いを廻らすたび、あの茶碗売り場の一情景を想い出す。

 そして、将来商売になるか、ご飯を食べてゆけるのか…とかそんな狭い目先のことじゃなく、深く生涯の心の愉しみ、一つの価値観を培っていく心の糧として、平生、伝統文化に触れてほしいものである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

観劇の余韻倶楽部、はじめました。

2017年06月06日 16時16分16秒 | お知らせ
 《かわいいコックさん》の絵を描かなくなって幾とせ。
 新暦なれど、本年もまた廻ってまいりました、6月6日。

 今年は気持ちを新たにして、皆さまの好奇心を満たしつつ、愉しんでいただける三味線講座はどのようなものであろう…と捻っておりましたところ、ハタと思いつきました。
 …というのは、常日頃、世の移り変わりを嘆くばかりでなく、何がどう移り変わったのかをのちの世の方々に指し示さなくては、絶滅してゆく種族として怠慢なんじゃなかろかと。

 現在の劇界を鑑みるに…いえ、日常生活社会全般、スタンダードなものが廃れつつあります。
 平和だったは、たった半世紀。あの楽しかった昭和後期から21世紀初頭における文化的スタンダードとは何だったのか。

 まず身近で自分がよく知っている事柄からお伝えしなくては。
 それならば、歌舞伎です。自分が当たり前だと思っていた事柄は、いまや全くマイナーなことになっておりました。
 
 新しく伝統芸能や古典を知りたい皆さま、現在だけでは飽き足らない皆さまに、ついちょっとこの前まで存在していたのに無くなってしまった物事の残像を、お伝えしたく思います。

 【観劇余韻倶楽部:カンゲキの余韻club】略して、観余会。
 お芝居を観てカンゲキした!その余韻に浸りつつ、自分が見たものは何だったのか、改めて確認したい、あっという間に耳を通り過ぎていった劇中の音楽を知りたい、また、初めて歌舞伎や文楽、落語を観に行くのだけれど、気軽に予習がしたい…と思っていらっしゃる方々へ。
 歌舞伎と劇中に使われている音曲を解説し、その曲を弾けるようにお教えする、レクチャー&実技のmix講座です。
 毎月1回開催します。テーマはその月に上演されている歌舞伎の中から1演目を選びます。
 ‐ing形の伝統芸能と親しむ、クラブ活動です。

 詳しくは、杵屋徳桜の長唄三味線教室「三味っちゃおぅ!」http://shami-ciao.com をご覧くださいませ。
  • 杵屋徳桜の長唄三味線教室


  •  初回は、今月上演中の名古屋平成中村座『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめをのしらなみ)』をひきまして、白浪五人男を予定しております。
     観劇のオシャレ、着物のことについてもお話しします。
     
     

     
     
    コメント
    • X
    • Facebookでシェアする
    • はてなブックマークに追加する
    • LINEでシェアする