長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

深夜の胡蝶

2024年04月27日 01時18分35秒 | 折々の情景
…時計を眺めると12時37分、珍しくとても理想的な時間に就寝できそうだなぁ…と居間のあれこれを片付けていたところ、ハタハタハタ…と中空を羽ばたくものがいる。
おやまぁ…と音の在処を探すと、



アゲハチョウが1頭、天井近くに積んである乱れ箱に止まった。
今日は日中、4頭ばかり越冬蛹が羽化して、昼過ぎには目出度く旅立っていったはずだが…
…そう言えば、本棚の裏のサッシの内側に、サナギが一つ在ったのを思い出した。



明日の朝、太陽の下に翔び立って頂こう…と宿主は眠た顔だが、お嬢さんは益々元気にパタパタと電灯の周りを飛び、天井を渡り歩いている。
仕方ないなぁ……

偶々傍らに、蔵書整理中につき、長き眠りから顔を出していた文庫本が一冊。



おやすみなさい。


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newborn!

2024年04月12日 19時37分27秒 | 折々の情景
令和6年の春は、年々気の早くなるソメイヨシノ殿が思い掛けない茶目っ気を発揮して、大方の予想の裏をかき、4月に入ってからの開花となった。
なんと何年ぶりの新学期、新年度での桜でありましょうか…と、門出を祝うに常になく嬉しい心持ちがして、8日月曜日は薄曇りの花見に出掛けたが、次の日の火曜日は、これまたお天道様がムラっ気を起こして、暴風雨…春の嵐となった。



スズランの新芽も漸く頭を覗かせたものの、こう冷え込んでは幾ら花に誘われようとも、先駆けても良いこともありますまいから、もう暫くお待ちなさい…と越冬サナギたちに心のなかで言い聞かせていたところ…

そんな1週間が過ぎようという金曜日、曇天の寒さに午近くなってようよう、ベランダの植木に水をやりにゆくと、枝に小さきものがぶら下がっておりました。



そはいずくより来たりしか…と、又々今春も、人知れぬ処で密かに蛹化して、無事に羽化した魁の揚羽蝶が1頭。



よくまぁご無事で…と天敵どもや荒天を遣り過ごし、この世に成虫となって現れた強者を称賛しつつも、過剰なおもてなしはいっそ迷惑であろうと、そのままそっとしておきました。



いつの間にか枝に居なくなって出立したものと思っていたところ、午後も3時近くなって結界の外に出ていた姿を見つけました。
首尾よく伴侶に廻り逢えるとよいのだけれど…


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梅花、照星に似たり

2024年02月17日 00時54分25秒 | 折々の情景
一日、一日と過ごしているうちに、年が改まってしまった。
2024年2月10日は、月暦の令和六年正月朔日、元日であった。
新暦の年末、常に懸案事項であった稽古場の模様替えに着手し、蔵書の整理に手を伸ばして以来、旧暦の新年を迎える今日に至っても、いまだ志し成らず、作業進行中なのである。



中学校への三味線授業の帰り道、谷保の天神さまを詣った。
だらだら坂の参道をのぼると冬木立の合間に、白い星々を頂く樹々が見えた。
ぉぉ、何と嬉しいこと…梅が咲いている。

梅林に走り寄りたい気持ちを抑え、ここは菅原道真公へ先に御詣りするのが筋であろう…と本社へ。





阿吽の狛犬さんの奉納年代は、苔むし細石の赴きさえ生じた台座から読み取るのは最早ムリであったが、霊長万物に対する不変の情愛は感じ取れた。





梅が枝に見とれていると、枝を透かした先の青空に三日月が浮かんでいる。
今日は人日、正月七日であるから、七日月である。















殆ど幹が枯れて表皮一枚でつながっている腰の折れた老木があった。
ぐるりと回ってみると、一枝が伸びていて、まだ盛んに花を着けている。



花びらが円くなく、しべが長いこの梅は何と言う名なのであろう。
忙中閑あり…暫し花の下に佇み、時の移ろいに往く諸事を偲んだ。
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池のほとりに

2023年08月14日 15時51分56秒 | 折々の情景
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野辺は緑

2023年04月28日 03時04分14秒 | 折々の情景
この一週間は諸事につき、写真を撮る心のゆとりとてなかった。
越冬さなぎのほぼ総てが、透明な抜け殻となり、ベランダのそこかしこに残されている。
やっと環境整理ができる…と安堵に伴う若干の寂寥感が…しかし、責務を果たして空に同じく晴れ晴れとする。

昨年収穫したレモンの種から実生の苗が育って、少しずつ寸を伸ばしている葉っぱに、此方を食べられては大変…と、先週まで気をつけてハーブから精製された防虫剤を撒いていたのに、すっかり手薄になっていたところへ、今朝の発見。

早くもアゲハチョウのお母さんに新たな命を託された者としては…善処するしかあるまい。
孵化したらお隣の鉢の、大きい樹の葉っぱに移住させるとして、さてはて息をつく間も無く、再び生き物の動向に気をめぐらせる季節が到来したのだった。



出先の所用が済み、久し振りに日比谷公園を散策する。
チューリップの花弁が散った花壇で、巣立ったばかりの小雀たちが、ちょこちょこと何かしら啄んでいる。
♪スズメがね、お庭でちょこちょこかくれんぼ…と、幼い頃、母が童謡のレコードをかけてよく聴かせてくれた、眞理ヨシコの歌声が耳に浮かぶ。

かつては灌木で鬱蒼としていた園内は、虎ノ門に日参していた30年前とは随分雰囲気が変わって、下草が整備され、樹下には雑草然としたネモフィラなどの植栽がなされ、むしろ貧相である。
噴水広場の芝生に、かつては見事なバラ園があったはずだが…。
園庭の手入れの予算を減らしては文化国家とは言えまい。

平成ヒトケタ時代、調べものというよりは、日中の息抜きのため周辺のビジネスマンや学生で溢れかえっていた日比谷図書館も、日比谷図書文化館と名を変え、ひそやかに存在していた。
日常が人々の活気で溢れていたあの時代から、何がどう変わって現在の日本になってしまったのか…人も疎らな虎ノ門のバス停に佇み、私は考える。




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けさの昆虫

2023年04月20日 08時21分46秒 | 折々の情景
オードミュゲの爽やかな匂いに誘われ、羽化したばかりなのか、名も知らぬ蠅とおぼしき昆虫が一匹。
スズランには毒が有るらしいけれど、大丈夫でしょうか…
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檸檬樹の下にて

2023年03月08日 23時23分29秒 | 折々の情景










 二月も末から、日中は20℃を超える日があったりして、思い思いの場所で越冬しているサナギたちの動向が気懸りで、植木の手入れをするつもりで枯葉を捥いでいる手がうっかり羽化した蝶の翅を摘まんでしまった夢を見た。











 こう気候がよいと木の芽も莟も…蛹虫だって気が早い。
 檸檬の摘果をどうしたものか迷っていたところ、ビアブランカ種の枝に新芽が出てきた。
 一方のユーレカ種には新芽がない。実を為す重労働に腐心する余り、新葉を育む余力がない為かもしれない。



 令和5年が明けて怒濤の如き2箇月が往き…明日本番の演奏会が過ぎればもうあと一つ。
 とても気になっていた、昨シーズンのレモンの種から芽吹いて、寄せ植えになっていたままの苗を、一鉢ごとに独立させん…と植え替えたついでに、令和4年度産の檸檬を収穫することにした。



 如月の望月が西の地平に沈んだ朝、ワームムーンの月の色を宿したレモンたちを思い切りよく。
 昨年は4つほどだったのが今年は8つ穫れました。
 ありがとう。



 S町の悉皆屋さんへ手入れものを届ける道すがら、今年初めての黄蝶に出逢った。
 羽化してほどなくだったのか、いつにも増してふらふらフワフワとアスファルトの横丁を漂っていった。

【見出しの写真】
レモンの大きさ比較の為に本を、と、傍らに偶々出ていた円地文子編・作品社刊『日本の名随筆6 庭』を置く…いや待て、文庫本でなくては分かりづらいでしょう、で、
和井内会のメンバー松坂健さん著・盛林堂ミステリアス文庫『海外ミステリ作家スケッチノート』。
2冊だけだと寂しいので、いち早く求めた甲斐荘楠音(かいのしょう・ただおと)の展覧会の図録を加えて。京都国立近代美術館で現在、開催されていて、東京にも巡回するらしいのだけれど、待ちかねて。
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居待ち

2023年02月09日 07時25分20秒 | 折々の情景
枝ばかりの木立に吹く風も、春の気配を見せて嬉しい、このところの空の色。
西に昨晩からの居待ち月が、顔を残しておりました。
旧暦睦月十八日の月が地平に傾きつつある、立春を過ぎた木曜日の朝。
おはようございます。
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寒月

2022年12月09日 06時39分06秒 | 折々の情景
おはようございます。
朝、西の空に残った満月。
別名コールドムーンとかや。
2022年最後の満月だそうですが、太陰太陽暦では霜月十五夜の月。
令和四年十一月十五日の月でしたので、
忠臣蔵の暦日で義士祭を愉しみたい方は、まだまだ、宵の口。

極月十四日は、2023年1月5日(木)ですので、
少々お待ち下さいませ。
茶会をするか、蕎麦屋の二階に集まるかは、お気に召すままに。

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2022年10月28日 15時15分08秒 | 折々の情景
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波はみどり

2022年07月18日 11時12分33秒 | 折々の情景
 一昨日より初伏に入りて蒸す。海の日なり。
 旧友のご実家よりの賜りものの八朔の、最後の一つを食せし折り、ふと、種を蒔いてみむとす。
 ふた月ほどがそのままに過ぎ、やはり無理かと忘れたころ発芽し、双葉が三段目ほどに出ずる。

 ユリ科の雑草の一種と思われるひと本の植物の間近に生え、先に生ふるものは立ち枯れてきたが実を結んだ。
 アールヌーボー調の曲線が、何とも言えぬ風情を醸す、不思議な景色である。
 芳年の新形三十六怪撰の何か…にも似ている。

 12、13、14日と、連日羽化続きの庭に静寂が訪れたものの、未だ檸檬樹に居残っているサナギ二頭が気になるので、朝七時半、様子を見に行く。
 と、一頭のさなぎの周りに俄かに細かい羽虫が群がりて騒がしい。
 余りに恐ろしい風景なので、霧吹きで水攻めを試みるも、どうやらサナギの中から湧いて出てくる。
 …アオムシコバチの誕生。
 彼は寄生されていたのだった。

 大魔神が山から出でて、鬼と化す。
 生育中の幼虫も居ないので、これから来訪せし新たなる幼なごたちの揺籃となることは諦めて、とても久しぶりに殺虫剤を撒く。

 略奪スルモノ サレルモノ ソノ又カタキヲ討トウモノ… 

 世はすべて事も無し…と思えるのはほんの一瞬だけ。


 
  …波はみどり 月はこがねに砕けつつ 
  みなちりぢりの昔かな…

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罠~トラップのある家

2022年07月10日 22時34分35秒 | 折々の情景


2022年7月1日 6:45
 ベランダの片隅で無事に羽化し、大空へ飛び立つものがあれば、また、支障ありて一隅を仮りの寓とするものあり。
 酷暑はただ自然のままでありたいとするものから多くのものを奪う。



 炎熱の床に彼の体から剥がれた翅の一部が残り、本体を恋しがるのか、しきりと蠢くを恐る恐る眺めてみると…



 彼もまたこの世界の片隅でいのちをつなぐものであった。




2022年7月2日 7:22



 半夏生。早朝から既に熱い。暑いのではなく熱い。
 青虫も物憂げに枝上で吐息をもらす。



 レモンの真白き花は香華。
 右手ベランダ床に目をやり、愕然とする。
 昨日とまったく同じところに、羽化直後と思われるアゲハチョウが居る。
 しかし彼もまた、太功記十段目の登場人物のように、既に満身創痍の態である。
 翅全体が白茶けて、右後翅の尾翼が既に欠落していた。
 こは如何なることか…
 我がベランダは呪われているのだろうか。
 それとも時空のはざまで、激闘の末のランボーが地獄の脱出口が、我がベランダ床上なのか……



 昨日からの賓客のお隣に一先ず避難させて、西瓜を補給する。
 苛烈な日差しの下で育ちゆく幼虫たちもまだあるというに…
 猛暑よ、彼らを如何にせん…
 そして、我がベランダよ、汝は如何なるものなるぞ…



 蝶が出現した床をしけじけと眺め、考えを廻らせる。
 そこで、ふと脳裏に浮かんだのが、同じ床材の裏で蛹化して巣立っていった月暦六月朔日の先達のことである。
 この暑さで、彼らは思いも寄らないところで蛹化しているのであった。
 我がベランダは高床式の二重構造になっていて、奈落の上に簀の子、そのまた上にウレタンフォームが敷いてある。
 ……!!

 ひょっとして、このウレタンフォームの下で蛹になって羽化してしまったのかも…
 怖すぎる憶測であったが、次なる悲劇を避けるためにも、真実を知らなくてはならない。

 ペリペリペリ…と捲ってみたが、何もついておらず、ホッとした。
 嫌な予感は的中しなかったが、簀の子の木枠についていたのかもしれない…しかし、それは檸檬の植木鉢台下まで支える板材なので、幼虫やサナギが未だ棲息している現在、すべてを取り除けて真相を追究するわけにもいかなかった。


同7月2日 10:25 



 ここ数年、アゲハチョウたちの生長を愉しく観ていたが、生まれ育った木立でサナギにならんとしている様子は初めて見た。
 さなぎ生活の安寧なることを期して幼虫たちの徘徊する様や、想像を絶する移動範囲であるのに、この酷熱地獄ではさもあろう。

同日午後 16:24



 解決しない謎は新たなる事象を呼び、隣接する植木鉢と植木鉢の間に、前蛹化するものを見つける。

同じく 18:04



 その場所に蛹ありて。



 こちらでも前蛹から脱皮するもよう。


2022年7月3日 8:41










2022年7月4日 6:10

 ここ三日ばかり、朝起きると植木鉢から零れてベランダの側溝や空の植木鉢の中で、面目なさそうにバタバタしている第一の賓客が行方知れずになった。
 側溝除けに伏せておいた植木鉢をひょいと上げると、意外なところに…



 彼もまた酷暑からの避難虫。
 ゼロ・グラビティの如く、視界から消えたものは諦めるしかないのだろうか。



同じく7月4日 13:52



 用事から戻り、再び諦めきれず捜索隊を…と、眺めたベランダの簀の子の端から、行方知れずだった賓客№1が顔を出していて驚く。
 これぞ正しく奇跡の生還、あなたはもしや別名をシルベスター…いや、ジャッキーとおっしゃる御方では。
 背中の翅がぼろぼろの母衣のようになって、あちこちにぶつかり、反動で思い掛けないところに落っこちる賓客を掬い上げるために開発した小道具、レモンの小枝を挟んだピンチの輪っかに摑まらせて檸檬の根方へ。

 当家ベランダの床下はリュブリャナの洞窟なのかもしれなかった。
 賓客はさらに翅を細くし骨骼ばかりが尖り、ガーゴイルにも似てきた。
 彼らは蝶なのである。飛ぶことを本能として生まれた。

 ふと、そよそよとした風に吹かれさせたくなって、檸檬の枝にいざなった。
 すると、翅の浮力に助けられて上方へ登っていく。





 彼は翔び上がることは出来ないのだが、ひらひらとグライダーのように下降して飛べるのだ。
 翼の損傷が激しい第一の賓客は、それでも目を輝かせて風に吹かれているような…
 水分補給中の瀕死のショットより、男っぷりは格段。



 後刻、彼らの様子を覗くと、遅れてきた賓客は緑の叢たる檸檬の葉陰に紛れ込んで、夕風に翅を広げるうしろ姿が宵闇のなかにあった。




 新暦7月4日は今年、旧暦六月六日にあたっていて夜21時、皓々たる月を西の空に見た。



 
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キヘンのひと、リターンズ。

2022年07月03日 03時22分44秒 | 折々の情景
2022年6月30日
 節電に協力するために、午前中に出掛ける。
 最寄り駅までの吉祥寺通りは、どうした方針か何年か前、立派な欅の街路樹の枝を払って、棒状の木立に直接、葉っぱが枝葉末節的に芽吹いた小枝が申し訳程度についているばかりで、日陰もなく涼しくもなく、炎天下にさらされた、これまた炎熱地獄に拍車をかけるイマイチ趣味の悪い三色タイル張りの舗道を歩くのも気鬱。
 生死にかかわるので遠慮して、文化園内を突っ切って井の頭公園駅まで歩く。
 さぞかし快適、涼しかろうと思いきや、あにはからんや…妹でも弟でもハカランヤ。
 これまた、一見オシャレ風な煉瓦様タイルを敷き詰めた歩道が整備されているお蔭で、チイとも涼しくありゃしない。

 公園の木々も整備されてしまったようで、春ごとに美しさを誇った桜樹の枝ぶりも今いづこ、灌木も疎らである。
 手の込んでないゲームの中につくられたテーマパークのようなナンチャッテ公園の如き、風景も幼稚で荒んで見える。
 日本の作庭の伝統を忘れ去った、精神性の貧しさを表象するようなデザインなのだった。
 見てくれだけの二次元世界のパースは、三次元として世に現れる時、四次元の時空に晒された感覚を盛り込むことを忘れているので、魂が入っていないのである。
 魂が入らない仏像と同じく、虚構の都市は人々を不幸にする。

 神宮外苑の再開発で樹齢百年にも及ぼうという美しい樹木たちを、千本余りも伐採するという、恐ろしい計画が推進されつつあるというが、何たること。
 木蔭が出来る木に育つまで、いったい何年かかるか判断できないのだろうか。
 少子高齢化で人口も減るというのに、今後、各種のインフラや都市機能が存続できなくなることは織り込み済みであろうに、こまごまとした人力でのメンテナンスが出来ないような、大規模な構造物を建てることになぜ固執するのか。
 目先の利益に追従して、人間としてあるべき見識・仁徳を失くしてしまったのだろうか。

 東京都がかくも苛烈な熱帯かつ無法地帯になり下がったのは、誰のせいか…還暦を迎えた大人の一人として、未来ある子どもたちに謝らなくてはならぬ…
 それにつけても、この暑さはどうだ。酷熱が怒りを増殖させる。
 アオスジアゲハが一匹、私の気を紛らせるように、熱風のなかをすり抜けて行った。

 
2022年7月1日
 猛暑というとマ行音で可愛らしい感じさえするが、はっきり言って酷暑である。
 今朝も5時半前に目が覚めてベランダに出て見れば、どうしたことか、ベランダ右手の床にバタバタと仰のけになって足掻いているものがある。
 アゲハの大紋を背負った蝶であったが、羽化不全で翅がくしゃくしゃになり、上翅は両方とも折り畳まれたままだった。
 いつの間に、そしてどこに在ったサナギから生まれたのか…狭いベランダの四方八方を見回したが分からなかった。
 とにかく、彼が育った檸檬の根方に…木片を差し出すと掴んだので、移動させた。
 どういう不幸がこの揚羽蝶を見舞ったのか…原因は分からないが、要因の一つはこの酷暑であることは疑いない。
 鳥の嘴や寄生虫や、その他多くの災厄から逃れて羽化できたというのに、不憫である。
 霧吹きで水分を与えると口吻を伸ばしてきた。すかさずスイカの切れ端を足下にしのばせると、吸い続けた。
 自力で飲めるならもう大丈夫。

 やれやれ、朝一番から気が揉めることだなぁ、と、哲学的な思惑に気持ちが沈みそうになったが、
 そういえば…と目を左へ向けると、昨日まで夢見ていた蛹虫、三番手がすでに羽化していた。







 2時間も経ち早や7時50分、網目の上から飛び立ちかねて、機を逸したか…


 
 陽射しは苛烈さを増し、



 なんという素早いフェイント!
 上端を潜り抜けるのかと思いきや、
 下へ急降下すると、
 自分が育った檸檬の垣根の隙間から、しゅばっと中空へ飛び立った。



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マカオン・ノワールの4時間

2022年06月26日 23時45分55秒 | 折々の情景
 〽木陰にしばし やすらひぬ…

 胡蝶に心和らぐのは荒獅子ばかりではなく、人間とても同じこと。
 二頭を間近に見て、クロアゲハが羽化して青空に飛び立つまで、ほぼ4時間を要するらしいことが分かりました。

 普通の黄地に黒のアゲハチョウは2時間程度だったように記憶しておりましたから、これは意外なことでした。
 体が大きい分、翅を動かす筋肉(?)が調うまで時間が要るのでしょうか。

 ともあれ、彼らの今生の仮の宿…旅籠のあるじとしては出立を見送ることが出来て大いに気が済んだことでした。
 そんなわけで、令和4年6月25日朝7時56分。
 



 それから1日が過ぎまして、鎌倉の世なれば、虎が雨が降る月暦五月廿八日の、令和四年の日も暮れて…







 さて、また次に控えしは…




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曜変

2022年06月24日 22時37分50秒 | 折々の情景


 仲夏の胡蝶の夢を見てしより、ここ数日、早朝五時に目が覚めてしまいます。



 鯨組とは別に、一人残ったレモンアゲハの緑くんもそろそろ旅立つ風情。



 昼ごろ様子を窺うと、埴生の宿たるレモンの植木鉢から転がり落ち、テーブルの三隅をうろうろしておりました。

 そいえばユーレカ種を乗せたこっちの植木台は配置換えをして以来、手摺りから孤立しているので旅立ちにくいかもしれない…と、橋を架ける女たる私が(古代マヤ暦占いに拠る)お隣のビアフランカ種の植木台へ板を渡したところ、得たりや応と進み出で…





 夕方四時ごろ再び見ると、その場所にはおらず、どうしたものかと見渡せば、ずいぶん離れたところで既に蛹になっておりました。
 異例の変わり身の早さ…(四時間のうちに前蛹化してさらに蛹化したものと思われ…)



 30℃超えという気温が拍車をかけるのか…
 しかし何と言っても、目下の懸案事項は、軒先で洗濯バサミとともに揺れている、アゲハ・ノワール。



 強風で眩暈でも起こし、羽化に影響しやしないかと些か心配です。
 お昼時は昨日とあまり変わらないように見えましたが、四時間後の十六時。





 そろそろ羽化も近いかも…と、夏の夕暮れは日没まで間があって、明るい六つにまたまた見ると、







 急激に様変わりして、最早カタカナ語よりは直截な命名をと、摺墨(するすみ)と名付けることに。



 映画エイリアンは、空想の産物ではなく、蝶類の生態の地道な観察に基づいて発想したものでは…と、クリーチャーデザイナーの脳内に思いを馳せ…
 東のベランダ、西の空。
 




 明日は早起きしなきゃなりません。
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