むすんで ひらいて

すべてが帰着するのは、ホッとするところ
ありのままを見て、気分よくいるために

思考を包むすべてはオールライト

2015年11月15日 | こころ

本の好きな人たちの集まりでした。

大学院生の馬場くんが、おもしろかったファンタジー小説を紹介しました。

キャリアウーマンの北風さんはちょっと眉をひそめて、

「ふーん。そうやって恋愛とか闘いとか特殊能力が得られるとか、あるんだよね。その話の落としどころはどこなの?」

と、威勢よく尋ねました。

一拍おいて、周りのひとたちが、「それはさぁ~」と言いながら笑いました。

馬場くんがちょっとあわてて、今度はお話の中の自分の好きなところから離れて、

「えーっと、搾取されてる村があって、それを救おうとした勇者がいて・・・」

と、大筋を話しだし、兄貴分の入間さんが勘所を押さえたので、みんなどの辺で感動するか分かったような気がしました。

 

北風さんは思いついたように、

「んー。わたしね、推理小説とか始めの方読んだら、次は最終章読むんだよね」

と、空中でざくっとページをめくる仕草をしたので、驚きの声が上がり、入間さんが

「それって、おもしろいですか?」

と突っ込みました。

「だって、そうすると人と人がどう繋がってたとか、途中の展開も分かるじゃん。それからまた戻って読み直すんだよ」

「へぇー!」

「わたしさ、スポーツ中継とかも生で観られないもん。たとえば日本対ブラジルでサッカーあるでしょ。そしたらやっぱり日本応援したくなるからさ、もし負けちゃったらショックじゃん。だから録画して後で勝ったのだけ観るの。それなら安心じゃん」

「はぁぁー」

そこで北風さんは馬場くんに向き直り、

「いいよ。じゃあ、それ読んでみるよ

と、挑戦状を受け取ったひとのようにそう告げると、ノートに題名を書きつけました。

 

 

 

 

 

                           かうんせりんぐ かふぇ さやん     http://さやん.com/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

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子供の頃の 夏旅行

2015年11月12日 | こころ

それまでで一番手応えがあった。

バドミントンのラケットが弾いた白い羽根は、夏空に高くたかく飛び上がっていった。

降下に入った時、左から吹いてきた風にそれは突然軌道を変え、街路樹のほぼてっぺんにスポッと納まった。

道路を挟んだ二階建てのペンションの屋根を遥かに越える高さだった。

枝を揺することもできず、わたしはただあっけにとられて、またすぐ風で落ちてくるんじゃないかと消えていった先の緑の重なりを見上げていた。

けれど、それきりだった。

どうしようどうしよう、と思っていると、兄が「ああ、しょうがないよ」と言って、ペンションの入り口に置いてある羽根をもう一つもらってきて、わたしたちはまた羽根つきを再開した。

街路樹を避けて、小さな弧を描くように気をつけて。

でもそれは、さっきまでのように、のびのびと楽しいものではなかった。

じきに部屋の用意が整ったので、わたしは少しほっとして室内に入った。

 

ロビーの窓から、さっきの大きな木が見えた。 葉っぱが風にそよいでいた。

その晩、 顔にできたニキビみたいに、そこに吸い込まれた羽根のことが気にかかっていた。

 

 

 

 

 

                           かうんせりんぐ かふぇ さやん     http://さやん.com/

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

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