夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『KANO 1931 海の向こうの甲子園』

2015年01月31日 | 映画(か行)
『KANO 1931 海の向こうの甲子園』(原題:Kano)
監督:マー・ジーシアン
出演:永瀬正敏,坂井真紀,ツァオ・ヨウニン,吉岡そんれい,大沢たかお他

ほぼ1カ月の間に野球の映画が3本も公開されるとは珍しい。
『バンクーバーの朝日』『アゲイン 28年目の甲子園』、そして本作。
野球好きとしては嬉しく、どれもよかったけれど、これがいちばん。
TOHOシネマズ西宮にて。

『海角七号 君想う、国境の南』(2008)と『セデック・バレ』(2011)、
あまりに異なる日本人の描かれ方に、同じ監督の作品なのかと驚きました。
しかし、日本人に対する憎しみは後者にも感じず、
日本人を正しく理解したいというウェイ・ダーション監督の姿勢を感じました。
その監督が脚本と製作を担当した本作は、本国台湾で空前の大ヒット。

本作の監督を務めたマー・ジーシアンは俳優でもあり、
『セデック・バレ』にモーナ・ルダオと敵対するタイモ・ワリス役で出演。
自身、日本人を憎んで当たり前のセデック族の家系なのに、
こんな作品を撮るなんて、それだけで胸が熱くなります。

現在の全国高等学校野球選手権は、1915(大正4)年に全国中等学校優勝野球大会として第1回が開催されました。
1920年代、日本統治時代の台湾のチームも台湾代表として出場を認められていましたが、
出場するのは台湾在住の日本人のみで編成された学校ばかり。
本作は1931(昭和6)年に初出場して決勝まで進んだ嘉義農林学校野球部の実話に基づいています。
「嘉農(かのう)」はみんなに使われていた略称。

日本統治下の台湾へ赴き、会計士となった近藤兵太郎(永瀬正敏)。
かつては愛媛県立松山商業学校を全国出場に導いたこともあるが、
その後は野球を避けるかのような毎日を送っている。

嘉農球部部長を務める教師の濱田次箕(吉岡そんれい)は、
そんな近藤にねばり強く野球部の監督就任を依頼する。
めげない濱田に近藤の妻(坂井真紀)は申し訳なく思うも呆れ顔。

ある日たまたま嘉農野球部の練習を見かけた近藤は、
ちょうどその日も依頼に訪れていた濱田に監督就任を承諾。
1勝もしたことのない嘉農にスパルタ式の厳しい練習を課す。

甲子園出場を果たすという近藤の言葉を最初は誰も信じないが、
毎日「甲子園」を連呼しながらランニングするうち、
それが夢ではないように思えてくる不思議。

初めて試合に勝ったのを皮切りに、快進撃を続ける嘉農野球部。
本命視されていた強豪校を次々と破り、甲子園出場を決めるのだが……。

甲子園で嘉農と対決して敗れた札幌商業学校野球部主将の錠者博美(青木健)が
1944(昭和19)年に台湾を訪れるシーンから始まります。
冒頭、いったい彼にどんな関係があるのかと思いますが、
部外者といえば部外者だった彼の嘉農に対する思いが終盤わかるので、
最初から大事に見ておきたいシーンです。

出番は少なくも灌漑事業に取り組む八田興一(大沢たかお)に励まされる様子は力強く、
パパイヤの木を人間に例える濱田の言葉も面白いです。

日本人と漢人と蕃人の混成チームが勝てるはずはないと嘲笑う者に、
蕃人の足の速さ、漢人の打撃、日本人の守備は目を見張るべき、
この混成チームは必ず最強のチームになると断言する近藤。
厳しい練習には賛否ありましょうが、
近藤の凄いところは、選手にただ「走れ」というのではなく、
自らも選手と一緒になって走るところだと思いました。

『アゲイン 28年目の甲子園』で印象的だった台詞、「ちゃんと負けてから次へ進め」。
近藤も、ちゃんと負けなかったから次へ進めなかったひとり。
ちゃんと負けることができたら、得られる何かが必ずあるはず。

数日前、ニュース番組の1コーナーで本作を取り上げていました。
帰国後の近藤監督に指導を受けたことがある元選手が言うには、
スパルタ式の厳しい練習といっても、近藤監督は選手に決して手を上げなかった。
選手を叩く指導者がいるけれど、叩く人は言葉が足りないんだよ、
言葉できちんと伝えようとしなければと、監督は話していたと。

東日本大震災のとき、世界最大の義援金を寄せてくれた台湾。
なのに、その台湾の新聞には感謝広告を寄稿しなかった日本政府。
2013年のWBCの日本vs台湾終了時、日本が台湾への支援感謝の横断幕を掲げ、
観客席全体から拍手が沸き起こったという話はいつ聞いても泣きそうになります。

本作が台湾で大ヒットしたということはどういうことなのか。
台湾の人たちは私たち日本人にこんな想いを持ち続けてくれている。
それをしっかり受け止めたいです。

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『滝を見にいく』

2015年01月29日 | 映画(た行)
『滝を見にいく』
監督:沖田修一
出演:根岸遙子,安澤千草,荻野百合子,桐原三枝,川田久美子,徳納敬子,渡辺道子,黒田大輔他

シネマート心斎橋で3本ハシゴの3本目。

『南極料理人』(2009)、『キツツキと雨』(2011)、『横道世之介』(2012)と、
いずれも私はハマった沖田修一監督。
出町ふたばの名代豆餅好きとしては、同監督の『豆大福ものがたり』(2013)も気になりますが、
TSUTAYA DISCASでは取扱いなく、買うのは躊躇われ。
どなたかご覧になった方、いらっしゃいませんか。

本作はオーディションで選ばれた演技経験のない7人のおばちゃんが主演。
面白すぎる設定に興味を惹かれて観にいきました。

紅葉の季節、滝を見にいくツアーに参加したおばちゃん7名。
ツアーの旗を掲げるガイドの菅(黒田大輔)を先頭に、バスを下車して山道へ。

ところが途中、菅が行ったり来たりして焦りはじめる。
どうやら道に迷った模様、地図を見て悩む菅。
菅は「ここで待っていてください」と言い残してどこかへ。
しかし、何十分待っても菅は戻ってこない。

おばちゃんたちはしばし考えた末、菅を探しにいくことに。
なんとかなるだろうと思っていたのに、菅は見つからない。
どんどん時間が経ち、日暮れも近づいてきて……。

おばちゃん7名はいくぶん大げさとはいえ、どこにもいそうな人ばかり。
一人で参加した人もいれば、二人連れで参加した人も。
二人連れはバスの中でも食べては喋り、しかも話題は誰某が病気になったという話ばかり。
ガイドの話なんてまったく聞いちゃいません。
物静かなおばちゃんもいれば、愛煙家のケバめのおばちゃん、カメラが趣味のおばちゃんも。
サバイバル状態に陥ってイライラしはじめると、そら物凄いことになります。(^O^)

いちばん笑ったのは、「あんた、年下でしょ。何よ、その物の言い方」に対して、
「四十超えたら女はみんな同い年じゃ、ボケ!」。
そう言った本人が、「道に迷って、周りはおばちゃんばかり」とぼやく矛盾に、
「四十超えたらみんな同い年って言うたんアンタやん」と突っ込まれ。

各人が持っている食糧を出してみるとき、「ルマンドだったらあるけど」とか
(ホワリトロリータはないんかい!と心の中でツッコミ)、
寝転んでみんなが歌いだすのが『恋の奴隷』だったりとか、
アラフィフ以上のおばちゃんなら(おっちゃんも)クスッと笑ってしまうこと必至です。

上手く行くはずもなさそうだった7人がまとまりを見せはじめるとき。
超ポジティブなおばちゃんたちが腹をくくる姿に、
「女は生理があがると最強」と女子会でお姉様方が話していたのを思い出します。

最強だけど、いくつになっても女の子。
おばちゃんやのに「女子会」と言うのを許してや~。

おばちゃんの、根拠のない「大丈夫。」に救われる。

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『スパイ・レジェンド』

2015年01月28日 | 映画(さ行)
『スパイ・レジェンド』(原題:The November Man)
監督:ロジャー・ドナルドソン
出演:ピアース・ブロスナン,ルーク・ブレイシー,オルガ・キュリレンコ,イライザ・テイラー,
   カテリーナ・スコーソン,ビル・スミトロヴィッチ,ウィル・パットン他

シネマート心斎橋で3本ハシゴの2本目。
ノーマークだったのですが、がらがらかと思いきや結構な客の入り。しかも年齢層高し。
予期せぬ混み方を見ると、いったいどこで取り上げられたのだろうと不思議に。
やはり予期せぬ混み方だった『あと1センチの恋』とはちがい、本作はかなり好き。
王道といえば王道、期待を裏切らないスパイ映画です。

CIAエージェントのピーター・デヴェローは、
若手エージェントのデヴィッド・メイソンの指導担当であり、良き相棒でもあった。
しかし、ある任務中にピーターの指示を待てずにデヴィッドが銃を発射、
ターゲットは射殺したものの、一般市民が巻き添えを食らう。
それをきっかけにピーターはCIAを引退する。

5年後、今はスイスでコーヒーショップを経営するピーターのもとへ、
CIAの上司だったジョン・ハンリーが現れる。
ジョンはかつてのピーターの元同僚数名が次々と殺されたと話す。
犯人はロシア人女性で、凄腕の殺し屋。
雇い主はロシアの次期大統領候補アルカディ・フェデロフらしい。

過去に数々の犯罪に手を染めてきたフェデロフは、大統領選に当選するため、
自分の過去を知る者を片っ端から殺していると言うのだ。
ピーターには関係のない話に思えたが、
ジョンが言うには、ピーターの元同僚で恋人だったナタリアが、
フェデロフの側近になることに成功したが抜けたがっているとのこと。
ナタリアに危険が迫っていると知り、ピーターはモスクワへと飛ぶ。

ところが、救出したナタリアを目の前で殺されてしまう。
ナタリアを撃ったのはなんとデヴィッドで、上司から指示を受けてのことだった。
お互いの顔を見て驚くピーターとデヴィッド。

やがて、ピーターはロシア大統領選を巡る陰謀に巻き込まれていくのだが……。

還暦を過ぎたピアース・ブロスナンが演じるピーターは文句なく格好いい。
そしてデヴィッド役のルーク・ブレイシー、私好みのイケメン。
ネットで検索してもほとんど出てこなくて残念。これからの活躍に大期待。
事件の鍵を握る女性アリス役にはオルガ・キュリレンコ
知的なうえにめちゃめちゃ綺麗で、ぞくぞくします。
ピーターとアリスの無駄な絡みがないところもハードボイルドで好感度大。

なんとかならんかったのかと言いたくなる邦題に対し、原題は“November Man”。
これはピーターのコードネームで、「通り過ぎた後には誰もいない」ということだそうな。
12月しか残っていないなんて、洒落ています。

私はどうも、男前なピアース・ブロスナンの恋愛ものよりも、
彼の男くさい話のほうが好きみたい。

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『白夜のタンゴ』

2015年01月27日 | 映画(は行)
『白夜のタンゴ』(原題:Mittsommernachtstango)
監督:ヴィヴィアーネ・ブルーメンシャイン
出演:ワルテル・“チーノ”・ラポルテ,ディエゴ・“ディピ”・クイッコ,パブロ・グレコ,
   M・A・ヌンミネン,カリ・リンドクヴィスト,レイヨ・タイパレ,アキ・カウリスマキ他

「来年度に繰越不可分の有休を消化するために取った休み」第2弾は、第1弾の翌々日に。
レディースデーの水曜日だったので、どこで観ても1,100円。
せっかく戻ってきたなんばパークスシネマのメンバーズカード、
ポイントの有効期限が切れる前に行かなくちゃとは思いましたが、
車で行っても電車で行っても微妙に遠いなんばパークス。
この日の最終目的地は肥後橋だったので、その前にうろうろするのも面倒になり、
久々のシネマート心斎橋で3本ハシゴすることに。
単館系劇場のいいところは、時間の効率が非常にいいハシゴができることですね。

ドイツ人監督による、ドイツ/フィンランド/アルゼンチン作品。
ちょっと愉快なドキュメンタリーで、ロードムービーとも言えます。

ブエノスアイレスで活動するタンゴミュージシャン、
ヴォーカリストのチーノとギタリストのディピとバンドネオン奏者のパブロ・グレコ。
タンゴ誕生の地がアルゼンチンだということは世界共通の認識のはず。

ところが、フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキ監督が、
タンゴ誕生の地はフィンランドだと断言。
フィンランド人はタンゴが自国で生まれたと信じているらしいではないか。
そんな言い分は絶対に認められない、確かめに行ってやろうじゃないかと、
3人はフィンランドへと旅立ちます。

3人はフィンランド各地を巡り、地元のミュージシャンとセッション。
また、農業が本業の音楽家のもとを訪ねたり、国民的タンゴ歌手レイヨ・タイパレに会ったり。
物静かなフィンランド人の中には、陽気なアルゼンチン人に家まで来られて
ノリについていけるだろうかと心配した人もいるようですが、音楽が繋ぐ力は凄い。

タンゴのフィンランド誕生説に物申すと意気込んでいたけれど、
つたない英語で「俺は腹が立っているんだ(=angry)」と言うべきところを
「俺は腹が空いているんだ(=hungry)」と言ってしまい、文句にならずに大笑い。

白夜のフィンランドで道に迷い、困っていると向こうからやってくる車。
リヤカー状のそれの荷台に積まれた箱を遠目に見て「ピーナッツ売りか」と3人は思いますが、
なんとそれは携帯サウナ。さすがフィンランド、スゲェなと感心する姿も可笑しい。

アルゼンチン人が「証拠はないけど、タンゴはアルゼンチン」と力説するのを
穏やかな微笑みを浮かべて聴くフィンランド人。
化け物呼ばわりされても笑っていられるぐらいですから、
やはりフィンランド人は器がデカイのかも。

最後はどこが発祥の地でもそんなことは問題じゃないと思えて。
良いものは世界中のみんなのもの。
もちろん演奏も楽しい、素敵な1本です。

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『セデック・バレの真実』

2015年01月26日 | 映画(さ行)
『セデック・バレの真実』(原題:餘生-賽匇克・巴莱)
監督:タン・シャンジュー

TOHOシネマズ西宮で2本ハシゴしたあと、十三への第七藝術劇場へ。
しばらくぶりに行ったら、「劇場内では食事もご遠慮ください」のアナウンス。
以前は飲食OKだったはずなのに、いつのまに駄目に?
そういえば、ナナゲイの劇場内でほか弁を食べている人を見かけて
笑ってしまったことがあります。だってスゲェにおいなんだもの。
もしかするとあのお客さんはいつもほか弁持参で、クレームでも出たのかしらん。

2013年に公開されたウェイ・ダーション監督の二部作『セデック・バレ』(2011)。
同年の『映画秘宝』のベスト10にランキングされた作品中、
唯一劇場で観逃したのがこれで、とても悔しい思いをしました。
台湾といえば親日家が多いという印象しかなく、後にDVDで観て仰天。
こんなことがあったなんてと、衝撃を受けました。

『セデック・バレ』で描かれたのは、1930年10月27日に起きた霧社事件。
台湾の日本統治時代における最大規模の抗日暴動事件です。

山中に暮らすセデック族は狩猟で生活の糧を得、
自分たちの狩り場を守るために出草(首狩り)をします。
敵の首を狩って持ち帰ってこそ一人前の男。
首を狩れば勇士の証として顔に刺青がほどこされます。
また、布を織れない女は一人前と認められず、布を織れる女の顔にもその証の刺青が。
一人前にならなければ、死して祖霊となることはできないと信じられています。

なのに、突然日本軍がやってきて、「文明的」な生活を強要される。
中には優しい日本人もいますが、大抵がセデック族を見下し、
雀の涙ほどの賃金を与えて労働を課し、反抗的な態度を取れば暴行。
そんな生活に嫌気が差し、武装蜂起を決めたセデック族。
それを統率したのがモーナ・ルダオというマヘボ社の頭目でした。

『セデック・バレの真実』は、霧社事件の被害者と加害者それぞれの遺族への取材や、
歴史学者へのインタビューを通じて事件の真の姿に迫るというもの。

印象に残っているのは、霧社事件の生存者が一所に移住させられたときの話。
同じ台湾先住民族のセデック族と言っても、いくつもの社に分かれています。
しかも敵対する関係で、相手の首を刈っていた者同士。
それが共同生活を強いられ、こんなことになったのはマヘボ社のせいだ、
いや、こんなことにならなくてもどうせ死ぬんだからと、言い争いに。
しかしその言い争いの末に抱き合って涙し、ひとつの家族になってゆくのです。

首狩りなんて恐ろしい、野蛮だと思っていましたが、
『セデック・バレ』と『セデック・バレの真実』を観て、
文化の異なる人びとのことを、何も知らないくせに貶めてはいけないのだと思いました。
文明を与えてやったのだ、感謝しろというのは傲慢でしかない。
文明の発達した生活が果たしてすべての人びとにとって幸福なのかどうか。
相手を理解しようという気持ち、尊厳を守ろうという気持ちが必要だと。

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