夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『童貞。をプロデュース』

2012年01月30日 | 映画(た行)
『童貞。をプロデュース』
監督:松江哲明
出演:加賀賢三,梅澤嘉朗

『トーキョードリフター』の公開記念に、やはり第七藝術劇場にて、
同監督の2007年のドキュメンタリー作品を1週間限定で上映中。
『UNDERWATER LOVE おんなの河童』より引きそうなタイトルですが、R指定なし。
童貞とはなんぞやということさえわかる年頃以上の人なら誰にでもお薦めしたい優れもの。

本作は、2007年の映画ランキングにおいて、『キネマ旬報』、『映画芸術』、
そして『映画秘宝』でも高い評価を受けましたが、いまだDVD化されず。
一生観る機会がないかもと思っていた本作を上映してくれたナナゲイに大感謝。

さて、本作は2部構成。2人の童貞くんが登場します。

第1部は「俺は、君のためにこそ死ににいく」。
童貞1号は加賀賢三くん、23歳。
映像学校にかよっていた縁で、松江監督から本作出演の話を受けました。

握手以外では女性の肉体に触れたことがない加賀くんが想いを寄せるのは、
長澤まさみ似のまさみさん(仮名)。
彼女に告白する勇気がなくて言い訳ばかりの加賀くんに松江監督は業を煮やし、
女性恐怖症を克服させようとAVの撮影現場に彼を連れて行きます。

このときのAV監督がハメ撮りで有名なカンパニー松尾
ズボンを脱ぐことに抵抗する加賀くんを見て、
松尾監督と松江監督の2人とも、「恥ずかしいなら俺たちも脱ぐから」と、
下半身すっぽんぽん(映りませんのでご安心を)でカメラを持って撮影を続けます。

「ムリだぁ!」と叫ぶ加賀くんにAV嬢が「じゃあなんで勃ってんの」とツッコミ。
加賀くんの「気持ちはいいけど、気持ちはよくない!」がワラけるけど○。
「すみません」と何度も謝る加賀くんに掛ける松尾監督の言葉も◎。
「迷惑かけていいんだぜ。人間関係とSEXは迷惑をかけるものだから。
ひとりじゃできないんだからさ」。

第2部は「ビューティフル・ドリーマー」。
童貞2号は梅澤嘉朗くん、24歳。加賀くんの友だちで、正確には素人童貞。
居候していた親戚宅にデリヘルを呼んだのがバレ、実家に出戻り。
サブカルオタクの彼は、ゴミ焼却場で働きながら、古雑誌のグラビアを切り抜いています。

そんな彼が心酔するのは1980年代のアイドル島田奈美。
10代のうちに自らの意志で引退した彼女は、
現在は島田奈央子を名乗り、音楽ライターやDJとして活躍しているそうです。

島田奈美に憧れるあまり、梅澤くんは過去に自主映画を撮ったことがありました。
彼女に会うため、タイムマシンをつくる男の話。
松江監督はそれを島田さん本人に見てもらおうじゃないかと提案します。

結論を明かしてしまうと、島田さんひとりのための上映会を企画するも、
島田さん本人は結局来てくれませんでした。
「所詮こんなものですよ」と力なく笑う梅澤くん。
けれど、ラストには彼のとびっきりの笑顔を呼ぶ出来事が待っていました。

加賀くんはまさみさんに告白するまで、梅澤くんは上映会をおこなうまで、
いずれも1カ月ほどの間、自分の日常をカメラに収めています。
好きな女性を目の前にすると、緊張してゲロ吐いちゃうようなふたり。
アホやなこいつらとさんざん笑わされ、あるあるこんなことと共感。
ナナゲイ場内は幸せな笑いに包まれていました。

加賀くんの後日談も傑作で、家族に本作のことがバレて家族会議が開かれたとか。
ばあちゃんの仏壇の前で怒られる加賀くん。
ひょっとして、DVD化されないのは、ばあちゃんに合わせる顔がないから?

第1部と第2部の間で歌う、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(2009)の主役、峯田和伸にはドン引きしたけれど、
マジメに歌えばこんな歌詞も聴けてしまうところは凄いなぁ。

目の前のSEXより、脳内の純愛。
いや~、最高!

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『ジャックとジル』

2012年01月28日 | 映画(さ行)
『ジャックとジル』(原題:Jack and Jill)
監督:デニス・デューガン
出演:アダム・サンドラー,ケイティ・ホームズ,アル・パチーノ,
   エウヘニオ・デルベス,ニック・スウォードソン他

ハリウッドでは大人気のコメディ俳優なのに、
日本ではいつまで経っても知名度イマイチのアダム・サンドラー。
同じタイプのベン・スティラーには、
『ナイトミュージアム』(2006)以来、水をあけられた印象です。

だもんで、最近のアダム・サンドラー主演作は軒並みDVDスルー。
本作はやはり未公開だった『エージェント・ゾーハン』(2008)と同監督の作品で、
DVDスルー必至かと思いきや、
アル・パチーノとジョニー・デップが本人役で出演しているゆえか、各地のシネコンで公開に。
レイトショーで観てきました。客は私を含めてたったの3人。

さて、本作はアダム・サンドラーが双子の兄妹、一人二役。
女装の彼は見るもおぞましいけれど、見ているうちに慣れるのが恐ろしい。

ロサンゼルスの広告会社で重役を務めるジャックは40代の中年男。
可愛い妻と2人の子どもに囲まれ、幸せな日々を送っている。

彼の長年の悩みは、双子の妹ジル。
ジャックとは対照的に自由奔放な彼女は、昔からトラブルメーカー。
独身の彼女は、ジャックの家族とともに感謝祭を祝うため、ニューヨークからやって来る。
案の定、初日からジルに振り回されるジャック。

彼が現在抱えるもうひとつの悩みは、大口顧客のダンキンドーナツのCM契約。
ダンキンドーナツは、新商品“ダンカチーノ”のイメージキャラクターとして
アル・パチーノを起用できなければ契約を解除するというのだ。

アル・パチーノのような大物が、ドーナツのCMを承諾するわけがない。
あきらめつつも、ジルを連れてNBAのレイカーズ戦を観に行くと、
アル・パチーノとジョニー・デップがプライベートで観戦中。
挨拶に出向くと、アル・パチーノがジルを食い入るように見つめる。
あり得ないことだが、ジルに一目惚れした様子。
このチャンスを逃してなるものかと、ジャックは一計をめぐらすのだが……。

91分の作品で、俄然おもしろくなるのは約45分経過後から。
ちょうどここでジョニー・デップとアル・パチーノが登場します。
ジョニー・デップはこの1シーンのみでサヨナラですが、
その後のアル・パチーノのはじけっぷりに唖然。最高です。
よくもこんな役を引き受けてくれたものだと感謝したいぐらい。
オスカー像を壊してしまったジルが謝りながら「でもたくさんお持ちでしょ」と言うと、
「いや、あいにくひとつだけ」とアル・パチーノ。可笑しすぎる自虐ギャグ。

いがみ合っていたふたりが和解するという話はサンドラーの出演作の定番で、
本作も例外ではありません。
はじけながらも、アル・パチーノが和解のきっかけである大事な何かに気づかせてくれます。
こんなおぞましい女装のサンドラーを見せられているのに、
最後はホロリとしてしまった自分にも唖然。(^^;

レイカーズのスター選手だったシャキール・オニールや、
テニス界の悪童、ジョン・マッケンローも本人役で出演。
いろいろ見どころ盛り沢山。

アル・パチーノが裏勝り(=裏地が派手なもので、これはドーナツ柄)の三つ揃えで挑む、
“ダンカチーノ”のCMは必見です。悶絶したど。

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『UNDERWATER LOVE おんなの河童』

2012年01月25日 | 映画(あ行)
『UNDERWATER LOVE おんなの河童』
監督:いまおかしんじ
出演:正木佐和,梅澤嘉朗,成田愛,吉岡睦雄,守屋文雄他

前述の『トーキョードリフター』と第七藝術劇場でハシゴ。
松江哲明監督は『あんにょん由美香』(2009)の監督で、
本作のいまおかしんじ監督はその『あんにょん由美香』の出演者でした。
そして、本作のヒロイン、正木佐和は林由美香にどことなく似ています。

いまおかしんじ監督といえばピンク映画。
本作は日本とドイツの合作で、世界初の「ピンクミュージカル」なのだそうです。
R-18じゃなくてええのかと思うR-15ですが、ポルノでしょと敬遠することなかれ。
撮影は『海洋天堂』(2010)の名カメラマン、クリストファー・ドイルですから。
七藝では女性は1,000円で観賞できます。

蓮沼の広がる田舎町の水産加工工場に勤める明日香。
ある日、まだ生きている魚を見つけて水辺に放してやる。
ところが、水中からいきなり現れた河童が魚をゴクリ。
河童が出たと明日香は騒ぐが、誰も信じてくれない。

車で帰宅途中、路上に再びあの河童が現れる。
驚く明日香に向かって、河童は「俺だ、青木だ」。

「青木」とは、17年前に沼で溺死した、明日香の高校時代の同級生。
直後に河童に生まれ変わった彼は、久々に人間側の世界に来たのだと言う。
頭の皿が乾いた青木に、明日香は風呂を貸してやり、昔話に花が咲くが、
明日香の婚約者である工場主任の滝がいつ訪ねてくるかわからないため、
泊めてほしいと頼む青木を追い出してしまう。

翌日、変装した青木がなんと工場に新入社員として登場。
明日香の同僚、麗子は青木に興味を持った様子。
明日香に話しかけるも滝とのデートを理由につれなくされた青木を、
麗子は廃屋へと誘う。そこは人間だった頃の青木の家で……。

冒頭、工場で歌う社員たちの姿に、『川の底からこんにちは』(2009)を思い出すけれど、
こっちのほうが圧倒的に変。これで掴みは十分、引き込まれます。
全編通して、歌はカタコトの日本語、踊りはヘニャヘニャ。
けれど、演者がやたら堂々としていて、みんなひたすら楽しそう。

ネタバレになりますが、青木はなぜ自分がこちら側に来たのかわかりません。
しかし、途中、レゲエな死神から明日香の寿命があと数日であることを告げられ、
自分は明日香を救うために来たのだと悟ります。

廃屋の押し入れから麗子が見つけたのは、
昔、青木が綴ったまま出せなかった明日香へのラブレター。
青木の明日香への想いを知り、麗子も一役買うことに。
ちゃんと伝えなきゃと青木を後押し。

台詞は棒読みの青木くん、ラブレターの文面は明日香のそれよりずっといい。
「好きです。大好きです。今度、一緒に学校に行きませんか」。

キモくてヘンテコな映画なのに、終わってみればなんだか幸せ。
昼間より明るい夜の十三をウキウキ歩く帰り道。

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『トーキョードリフター』

2012年01月24日 | 映画(た行)
『トーキョードリフター』
監督:松江哲明
出演:前野健太

数年ぶりに、大阪は十三の映画館、第七藝術劇場へ。
『あんにょん由美香』(2009)がめちゃめちゃよかった松江哲明監督。
大阪ではここのみ、しかも2週間しか上映していませんから焦って。

同監督の『ライブテープ』(2009)はまだ観ていないのですが、
ミュージシャンの前野健太がギターを弾き語りながら、
2009年1月1日に吉祥寺を歩く様子を収めた作品でした。
本作は、同じく前野健太が2011年5月27日の夜から翌28日の朝まで、
新宿や渋谷をギター片手に歩く姿を収めています。

2009年のその日と2011年のこの日で決定的にちがっているのは、街の明るさ。
東日本大震災の後、節電のためにネオンが消えた街で弾き語ります。

2011年5月27日、19:35。
小雨のぱらつく交差点で歌うシーンからスタート。
高い位置から彼をとらえた映像は、時折レンズが雨で曇ります。
ビルの谷間、まだ店内に明かりのともる美容室の前、文化住宅の階段、
踏切、閉店後で真っ暗なH&Mや、やや照明暗めのコンビニの前などなど。
これらの場所をギターを背負ってバイクで行き来。
最後は河川敷にて、2011年5月28日、5:34。

通行人は誰も彼を気にすることなく、それが少しせつない。
けれど、そんなことは意に介さずに歌い続ける姿がたくましい。
私はちゃんと聴くからねと、最初は歌詞も聞き逃さんとこうと必死。

しかし、30分を過ぎた頃からかなりつらくなってきて。
イケメンのミュージシャンであれば、見ているだけでも退屈しなかったでしょうけれど、
なにしろこの前野さん、ちんちくりんの井上陽水みたいな感じ。ごめんなしゃい。
好きなタイプの歌とも言いがたく、集中力ダダ下がり。

日ごろ眠っていると、朝はあっちゅうまに来るのに、
こうしてず~っと歌っていると、長いですねぇ、夜って。
72分の中編ですが、空が白むまでを異様に長く感じました。
前野さんが河原にピックを投げたときには、
やっと終わりや!とひそかに喜んでしまった私をお許しください。

と言いつつも、ラストの疾走シーンに妙な爽やかさを感じました。
観終わってからはトーキョードリフター♪と知らぬ間に口ずさんでいるし。

飲み屋らしき看板は「春夏冬」。なぜに秋を抜いたのか気になります。
それと、「オッサンしか友だちのいないふりをするやさしい猫」。
前野さんの歌詞の一部。こんな猫、いそうだなとニヤリ。

〈追記〉アップした直後に「春夏冬」について教えてくださった方が!
    “「秋ない」ってコトで、「あきない」→「商い」→「商い中」
    →「営業中」ってコト”だそうで。ほぉぉぉ、なるほど。
    これってもしかしたら常識で、みなさんご存じでした?(^^;
    やさしい猫さん、ありがとうございま~す。  

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『ビッグ・トラブル』

2012年01月20日 | 映画(は行)
『ビッグ・トラブル』(原題:Big Nothing)
監督:ジャン=バティスト・アンドレア
出演:デヴィッド・シュワイマー,サイモン・ペッグ,アリス・イヴ,
   ナターシャ・マケルホーン,ミミ・ロジャース,ジョン・ポリト他

2006年のイギリス/カナダ作品。日本では未公開。

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』のコンピュータ係、
ベンジーを演じたサイモン・ペッグの出演作のうち、
観逃している作品を探していたところ、
これはトム・クルーズの最初の妻ミミ・ロジャースも出ているじゃあないかと興味を惹かれ。

アメリカの田舎町。
作家志望のチャーリーは、出版社に持ち込んだ原稿が誰かの目に止まるのを待つ日々。
妻のペネロペは警官で、いつもチャーリーを思い遣ってくれる。
「あなたはいつか作家になる。無理して働かなくてもいいのよ」と。

いつまで経っても芽は出そうになく、妻にも申し訳なくて、
チャーリーはIT関連会社のコールセンターに顧客対応係として勤務することに。

隣席にはすでに仕事に慣れているとおぼしきガスという男。
さっそく電話を取ったチャーリーは、
ガスの悪ふざけに乗せられて応対した結果、顧客を怒らせてしまう。
それを上司に知られて初仕事の日にクビに。

すっかり凹んで会社を後にするチャーリーをガスが追いかけてくる。
「クビになったのは俺のせい。罪滅ぼしに儲け話があるのだが」。

飲み屋で話を聞けば、違法ポルノサイトに頻繁にアクセスしている人物を
顧客の中に発見したと言う。
それがこの町の牧師だったため、職業柄、バレてはさぞかし困るだろう。
ゆすれば金を払うにちがいない。一緒にやろうじゃないかと。

ところが、飲み屋のウェイトレス、ジョージーがこれを盗み聞き。
話が終わると顔を出し、自分にも一枚噛ませろと言う。
まずはジョージーが牧師にゆすりの電話、ガスが金を受け取りに行き、
チャーリーはガスのアリバイ工作と、綿密な計画を立てるのだが……。

ちょっとゆすって儲けるつもりが、どんどん死体が増えてゆきます。
そんなブラックコメディで、特にオチはとびっきりブラック。
ちらりと会話に登場する連続殺人鬼“オレゴンキラー”の存在を最後にピシッと。

サスペンスとしてのおもしろさもさることながら、
ほんとにありそうな話がぽろぽろ出てきておもしろい。
田舎町の飲み屋では、自分の職業を明かせば皆一緒。
コールセンターでは同じフロアの社員が全員“スティーヴン”。
上司曰く、「毎回同じ人が応対してくれていると思えば客が安心する」。なるほど。
ちなみに、サイモン・ペッグはガス役です。

ミミ・ロジャースはと言えば、斧が脳天に突き刺さったままソファに座っていました。
トム・クルーズがミミ・ロジャースと結婚する前に同棲していたレベッカ・デモーネイは、
『“アイデンティティー”』(2003)で最初に殺されて、
ぶった切られた首が乾燥機の中でごろんごろんと回っていましたし。
この2人、トムの活躍をどんな思いで見ていることやら。

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