夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『七回死んだ男』と『恋はデジャ・ブ』(その3)

2009年01月29日 | 映画(番外編:映画と読み物)
反復落とし穴に陥るという自分の特異体質に気づいた当初、
久太郎はこの体質を世の中のために利用できるかもしれないと考え、
どこかで起こる事故や事件を防ごうと、朝刊を読みあさります。
しかし、日本全国どこへでも飛んで行くわけにもいかず、
どんなケースなら自分が助けるのかの判断基準を決めかねて、
スーパーマンのような存在になるのはあきらめます。

9日間我慢すれば次の日がやってくる久太郎とちがい、
いつまで2月2日が続くか皆目見当がつかないフィルは、
パンクスタウニーの町から出ることもできないため、
町の中だけで人助けをするようになります。
毎日、同時刻に木から落ちる子ども、レストランで喉をつまらせる紳士、
行き倒れになりかけている物乞い。彼らを助けるのがフィルの日課に。
さらには、ピアノや氷の彫刻技術まで習得し、
周囲の人びとを楽しませます。

最初は自己チューでいけ好かない男だったフィルが、
人の幸せこそ自分の幸せだと思うきっかけとなったのは、
女性プロデューサーのリタと過ごした日でした。

何度目かの2月2日、リタに事情を打ち明けると、
リタはもちろん怪訝な顔。
けれど、その日をフィルと過ごすうち、リタは彼の言葉を信じ始め、
フィルに再び2月2日が来る瞬間を見定めようとします。
夜が更けて、睡魔としばらくは闘いますが、眠り込んでしまったリタ。
すやすやと眠る彼女に向かってつぶやくフィルの台詞はとても切ない。
「言えなかったけど、思いっきり君を抱きしめたかった」。

「(毎日が2月2日であることよりも)、もっと悲しいのは、
明日になると君はこのことを全部忘れてる。僕に冷たい顔。
でも、明日、将来どうなろうが、今は幸せだからいい」。
そう思えたときに、2月2日のフィルの過ごし方が変わります。

これはひそかに不朽の名作だと思っているんですけど。

そうそう。
『恋はデジャ・ブ』で、フィルにとって見飽きたクイズ番組のシーン。
出題されると即座に回答するフィルに宿泊客たちが喝采を送ります。
これはいいんです。とってもお茶目。
ところが『七回死んだ男』では、
9日間ずっと中継される、同じ日の巨人vs阪神。
巨人ファンとアンチ巨人ファンが混在する家族の前で、
久太郎が試合の展開をすべて言い当てるので、みんな驚愕。
巨人が中盤に1番から9番まで(投手まで!)
9連続ホームランで勝利って、虎ファンとしては、なんでやねん。(--;

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『七回死んだ男』と『恋はデジャ・ブ』(その2)

2009年01月27日 | 映画(番外編:映画と読み物)
『恋はデジャ・ブ』(1993)はアメリカの作品で、
主演のビル・マーレイは、本国では大人気のコメディ俳優。
日本ではいつまで経ってもマイナーですが、彼の出演作はどれも楽しい。
特に『恋はデジャ・ブ』はピカイチ。愛すべき作品です。
それが『七回死んだ男』のあとがきに登場します。
著者の西澤保彦氏は、『恋はデジャ・ブ』から着想を得たそうな。
『七回死んだ男』を読んだあと、再鑑賞しました。

ローカル局の気象予報士フィルは、
ペンシルヴェニア州の田舎町パンクスタウニーへ、
毎年2月2日におこなわれる聖燭節の祭りを取材するため、
女性プロデューサーのリタ、カメラマンのラリーとともにやって来ます。
冬眠中のウッドチャック(リス科の哺乳類)を引きずり出して
春の到来時期を占うというこの祭りに、住民は大盛り上がり。

しかし、フィルは、恒例の取材に嫌気がさしています。
エスプレッソもカプチーノも通じないようなド田舎で、
たいして親しくもなかったイケてない知人に声をかけられ、
物乞いにすがられて、水たまりに足をとられる。
こんな町からは一刻も早く出たいと、
投げやりに取材を終えるやいなや帰途につきますが、
吹雪で足止めを喰らって、もう1泊することに。

ところが、翌朝目覚めると、
ラジオから昨日聞いたのとそっくり同じフレーズ。
出会う人がフィルにかける言葉も、水たまりにはまるのも、
何から何まで昨日と同じ。

やがてフィルは、自分にだけ再び2月2日がやって来ていることを知ります。
そして、何夜眠ろうが、起きればまたもや2月2日。

悪夢のような体験だと思いつつ、
明日起きればまた今日なら、二日酔いもしない。
気に入った女性の趣向を徹底的に聞き出しておいて、
ナンパすることも可能。
現金輸送車の警備員にいつ隙が生まれるのかもわかるから、
大金の入った袋をくすねることもできます。

こうして、しばらくはあきらめて2月2日を過ごしますが、
町の住人全員の経歴を把握してもまだ終わらない2月2日。
いったいいつになったら2月3日はやって来るのか、
フィルは次第に焦り始め、自殺をも試みるようになります。
けれど、車ごと炎上しようが、教会のてっぺんから飛び降りようが、
翌朝は2月2日の自分。

『七回死んだ男』を読んだとき、『恋はデジャ・ブ』を観ていたがゆえ、
デジャ・ブ(既視感)というのか、懐かしさをおぼえました。

まとめきれなかったので、もう少し続けます。

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『七回死んだ男』と『恋はデジャ・ブ』(その1)

2009年01月26日 | 映画(番外編:映画と読み物)
映画を観るか本を読むかになると、ついつい映画優先。
だもんで、本は月に1冊か2冊読めればいいほうです。

その本も激しく東野圭吾に偏っているため、
たまにはちがう著者の本も読んでみようと思い、
某サイトで「ドンデン返しモノでイチオシは?」というトピックを見つけ、
興味を引かれた西澤保彦著『七回死んだ男』を購入。

軽めの文体は、私の好みとバッチリとは言えません。
「やっぱり東野圭吾のほうが好きだなぁ」などと思いつつ、
ちょっととまどい気味に読み始めました。
けれど、のっけからググッと人を引きつける意外な設定に
読み始めたら止まらず、
映画を観る時間を削ってまで読んでしまいました。

この本をお読みになったことがある方は、
どうして映画『恋はデジャ・ブ』と関係があるのかご存じだと思いますが、
先に『七回死んだ男』のあらすじを。

主人公の久太郎は16歳の高校生。
本人が「反復落とし穴」と呼んでいる特異体質の持ち主で、
彼にだけ、同じ日が9日間に渡って繰り返されることがあります。
朝起きて、眠って、起きると、また昨日と同じ日。
それは必ず9日間続き、9日間続いて、やっと次の日が到来。

反復落とし穴は突如として起こり、
久太郎自身が意図的に起こすことはできません。
しかし、反復落とし穴がやって来た場合、
久太郎が意図的に状況を変えることはできます。
たとえば、入試の日にやって来た反復落とし穴。
初日は散々な出来でも、8日間で問題を暗記、9日目に満点で合格。
久太郎にとっての9日目が、
ほかの人にとっては実際のその日となるのです。

さて、お正月。
大繁盛の飲食チェーンを経営する祖父宅に集まった親戚一同。
みんなの関心は、毎年書き換えられる祖父の遺言書。
祖父がこっそり酒盛りするのにつきあった久太郎は泥酔。
そのタイミングで反復落とし穴が。
ところが、反復落とし穴の2日目、祖父が殺されてしまいます。
3日目以降、久太郎はその日の犯人とおぼしき人を祖父から遠ざけますが、
そのたびにちがう人が犯人となってしまい、
なかなか殺人を阻止できません。

初日と同じように、久太郎が祖父の酒盛りにつきあえば、
殺人は起こらないのですが、
悪夢のようなゲロ酔いを経験した久太郎は、
それは最終手段に取っておきます。

読んで納得、これは軽い文体だからこそ引きつけられるんですね。
クスクス笑いながら読んだミステリーでした。

映画の話へと続きます。

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『悲しみが乾くまで』

2009年01月22日 | 映画(か行)
『悲しみが乾くまで』(原題:Things We Lost in the Fire)
監督:スサンネ・ビア
出演:ハル・ベリー,ベニチオ・デル・トロ,デヴィッド・ドゥカヴニー他

大々的に宣伝中の映画で、
チェ・ゲバラを演じているベニチオ・デル・トロ。
ヤク中あるいはアル中患者を演じさせたら天下一品、
マジで中毒なんじゃないかと見紛うほどの役者なので、
『チェ』の宣伝を見るたびに、
あんなに爽やかなデル・トロでいいのか!?と思ってしまいます。

本来のイメージどおりのデル・トロが見られるのはこちら。
デンマーク出身の女流監督のハリウッド進出作です。

オードリーは、不動産業で成功を収めた夫のブライアンと
2人の子どもに恵まれ、幸せな結婚生活を送っている。
ただひとつ、不満なのは、ブライアンがことある毎に
親友のジェリーへの気遣いを見せること。

ジェリーはドラッグからなんとか抜け出そうとしているヤク中患者。
誰からも見放され、治安の悪い地区で暮らすジェリーを
ブライアンだけは面倒を見続けている。
夫婦でゆっくり過ごせそうな夜ですら、
ジェリーに会いに行くブライアンを、オードリーは理解できない。

ある日、子どもにせがまれてアイスクリームを買いに行く途中、
喧嘩の仲裁に入ったブライアンは銃弾に遭う。
葬儀の日、オードリーはジェリーの存在を思い出し、
電話も持たない彼に知らせに行ってくれるよう、弟に頼む。

弟に連れられて来たジェリーは、
サイズの合わないスーツを着た、よれよれの男。
夫が大事にしていた人だからという理由だけで
彼を招いたオードリーだったが、
葬儀から数日が経ち、突如、ジェリーに同居を持ちかける。

主演2人の演技が抜群なのはもちろん、
先入観に囚われない一部の登場人物がとてもいい。
それに、男心も女心もわかっているんじゃないかと思える、
監督の見せ方の素晴らしさ。

たとえば、ブライアンはジェリーに与えるばかりだと
オードリーは思っていますが、ちょっとした会話から、
ジェリーがブライアンのことを気に懸けているのがわかります。
一方通行でない、男同士の友情。

不眠に陥ったオードリーがジェリーに添い寝を頼むシーンは、
おそらく男性なら、誰もが誘っていると思うにちがいありません。
あんなナイスバディの女性が、自分にぴったりくっついて、
ああしてこうしてと頼んできたら。
男性は「嘘やろ」、女性は「そう!」なシーンでしょう。

心の機微に触れられる作品です。
善は受け入れよ。

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イランでヘヴィメタ。

2009年01月19日 | 映画(番外編:映画と音楽)
フランスのアニメ『ペルセポリス』(2007)を観ました。
原作はイラン出身の漫画家の同名作品で、
彼女の半生を綴った自叙伝。
タイトルは紀元前のペルシア帝国の都市の名前です。

マルジャン・サトラピ、愛称マルジ。
1969年にテヘランの上流階級の家庭に生まれた彼女は、
幼少期をイランで何不自由なく過ごします。

しかし、イラン革命を境にさまざまな変化が。
イラン・イラク戦争が勃発して、
政治犯とみなされれば、直ちにしょっぴかれて処刑される時代だというのに、
恐れを知らないマルジは、綺麗事ばかり言う先生を論破してしまいます。
リベラルな両親はそんなマルジを誇りに思いつつ心配し、
ウィーンのフランス語学校へ留学させることに。
ヨーロッパで送る学生生活は次第に自堕落に。

30カ国以上で出版されたベストセラーというだけあり、
とぼけた風味の絵と話にズルリと引き込まれます。

イスラム教の国ならではの慣わしには、唖然とする話も登場します。
女性を逮捕した場合、処女を殺すことはタブーとされているので、
一度結婚させてから死刑に処するとか。
けれど、これが周知されている国では、『ゴジラ』を観て呆然。
「まったく日本人ときたら、切腹するか怪獣を作ってばかり」とぼやきます。

上流階級ゆえの会話なのか、
豆のパイやクロワッサンが出てきたり、
「ウィーンに行ったらザッハトルテを食べなさい。
最高のチョコレートケーキだから」なんて
両親がアドバイスしたりするのは楽しいです。

陰鬱な話も鮮やかに吹き飛ばして豪快。
予想をはるかに超える器の大きさと明るさでもって魅せてくれます。

本筋とは別に、私が笑ったのが表題のこと。
路地で闇商品を売る怪しげな男たち。
その路地を訪れたマルジに次々と声がかかります。
「エスティーヴィー・ワンダー」、「ジャイケル・マクソン」、
「フリオ・イグレシアス」、「ピンク・フロイド」(この2つはなぜかまともに発音)、
「口紅、マニキュア、トランプ」など、
すべて無視して歩いていたマルジがハタと立ち止まったのは
「アイアン・メイデン」の声がかかったときでした。
きっちり値切ってカセットテープを入手したマルジは、
帰宅すると、テニスのラケットをギターに見立ててヘッドバンギング。

ハリウッド映画ではダサイものの代名詞であるABBA(アバ)。
本作でもダサイと罵られていました。
そんなABBAの曲満載の『マンマ・ミーア!』は今月末公開です。

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