夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『絶対の愛』

2008年06月30日 | 映画(さ行)
『絶対の愛』(英題:Time)
監督:キム・ギドク
出演:ソン・ヒョナ,ハ・ジョンウ,パク・チヨン他

酷く暗くて重く、ときには絶望的な気分にさせられる、
キム・ギドク監督の作品。
『悪い女 青い門』(1998)、『悪い男』(2001)、など、どれを観ても、
どんだけ屈折した愛情表現やねんと思います。

美容整形を題材にした韓国映画といえば、
『カンナさん大成功です!』(2006)が記憶に新しいですが、
そのとびっきりの楽しさとは対照的なのが本作。凹みます。

つきあって2年になるセヒ(♀)とジウ(♂)。
お互いに好きな気持ちは変わらないが、
セヒはジウのことを想うあまり、ヤキモチの焼きどおし。
ジウがほかの女性と話すだけでも許せない。

ある日、勃たないジウに、「今日会った女性のことを想像して。
私のことをその女性だと思って抱いていいから」と言うセヒ。
無事に(?)終了したあと、セヒは泣きわめく。
「私に飽きたんでしょ?」。
ジウは「なぜそんなふうにばかり考えるんだ」と怒るが、
翌日、セヒはジウの前から姿を消す。

顔を変えればジウに一生愛してもらえる。
そう考えたセヒは、整形手術を受ける決意をしていた。
今でも十分美しいセヒに、医師は手術のビデオ等を見せて、
こんなに恐ろしい手術をしてでも別の顔になりたいのかと言う。
セヒの決意は揺るがなかった。

それから半年。
突然いなくなったセヒのことが忘れられず、
新しい恋にも踏み出せないジウの前に、
整形したセヒが、別人として現れる。
彼女はスェヒと名乗り、ジウを虜にする。

しかし、スェヒとつきあい始めても、
ジウの心の片隅には、セヒのことが残ったまま。
ジウの想いを知ってやりきれなくなったスェヒ(=セヒ)は、
「もう一度会いたい」と、セヒとして手紙を送る。

セヒに会うつもりで出かけたジウは、
セヒのお面を着けたスェヒを見て絶句。
ようやく状況を飲み込み、「恐ろしい」とその場から逃げ出すが、
セヒの顔にメスを入れた医師のもとへ殴り込みに行く。
逆に医師に罵倒されたジウは、その後、驚愕の行動に出る。

怖いです。痛いです。だけど、目が離せません。
顔を見ても誰だかわからない。
手を握って、自分が愛した人なのかどうか確かめる。
ちがうとわかったときの落胆の表情。
人間の浅はかさを目の当たりにするよう。

そして物語は堂々巡り。
救いがないのに観てしまうギドク作品。助けて~。

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映画を観れば温水さんに当たる。

2008年06月25日 | 映画(番外編:映画とこの人)
DVDをレンタルしたら、必ず登場する温水洋一さん。
温水さんを追っかけてるわけじゃないのに、
なんでこんなに温水さんにばっかり会わなあかんの。

前述の『ダメジン』では、ダメ男のうちのひとり、カホル役。
ヤクザに頼まれて携帯電話を買いに行くけど、
なぜかハーモニカを買って帰ってきてしまいます。
愛用しているジャージのポケットには穴が空いていて、
そこに何でも詰め込むものだから、落ちる、落ちる。
ヤクザに歳を聞かれて、「25歳です」。それはないやろ~。

人気コミックを映画化した『ラブ★コン』(2006)は、
背の低い男の子と背の高い女の子を主人公にした、
めちゃくちゃ楽しい学園ラブ・コメディ。
関西弁をこれだけ違和感なく受け容れられる作品は稀かも。
温水さんは、カツラにこだわる教師役で、その名も臼井先生。
生徒にバレないと確信して、新型カツラを着用するのに、
毎度バレバレの愛すべき先生です。

ジャンルは同じ、学園コメディと言えども、
ここに書くのは憚られるのが『すんドめ』(2007)と『すんドめ2』(2008)。
美人転校生に、ひとりでするのを禁止された男子高校生。
何を?って聞かないでください(笑)。
一応、青春映画ですけど、すべてにおいて中途半端。観るのが苦痛。
途中でギブアップしかけましたが、温水さん登場で救われる。
温水さんはこんなマイナーな映画に、高校の偉大なるOBとして登場。
名前は「摺千好男(ずりせんよしお)」でした。

『キャラウェイ 恋愛・ばんざい!』(2006)は、
75分に11話もの短編が詰め込まれたオムニバス作品。
どれもちがったセンスとタイプの話で楽しめます。
温水さんが登場するのは第9話『カミさまもう一度だけ』。
勤め帰りとおぼしき温水さんは、マンションの扉を開けるなり、
一目散に亡き妻の仏壇の前へ。
神妙な面持ちの温水さんが祈りつづけているのは
愛する妻が生き返ることにちがいないと思いきや、
髪の毛が生き返ることを祈っているのでした。

全日空のCM、「来てもらうより行こう」篇の温水さんもサイコー。
家まで来ちゃったマーライオンに水を浴びせられる姿に
笑い死にしそうになった人は多いはず。

ところで、「25歳です」に笑ったけれど、
私と歳がひとつしか違わないことを知りました。
でも、あの老け具合とハゲ具合、
なおかつ、絶対、意地悪な役はできないと思われる愛すべき顔だからこそ、
需要大なのでしょうね。

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『ダメジン』

2008年06月20日 | 映画(た行)
『ダメジン』
監督:三木聡
出演:佐藤隆太,緋田康人,温水洋一,市川実日子,篠井英介,
   ふせえり,笹野高史,岩松了,山崎一,片桐はいり他

自分だけの思い込みや聞き違いなのに、
それが正しくないかもしれないなんて想像すらしないから、
誰かに確認することもなく今まで来て、
ふとしたきっかけで思い込みだったと知り、
「え~っ?」ってマジで驚いた瞬間ってないですか。

三木監督の作品には、毎度そういうネタが満載。
『亀は意外と速く泳ぐ』(2005)や『転々』(2007)、
人気ドラマ『時効警察』も同監督の作品。
本作は、2002年に撮り終えていたにもかかわらず、
プロデューサーが降板したことからお蔵入りしかけ、
2006年にやっと公開された作品だそうです。

神奈川県、川崎市。ある夏の暑い日。
共同生活するダメ男3人、リョウスケ、ヒラジ、カホル。
彼らが真剣に考えているのは、「一生働かずに生きていく方法」のみ。
働かずに生きるため、食べることのできそうな物を探しては焼いてみる。

そんな3人に、近所に住む猫じじい(猫好きのおっちゃん)が
「ダラダラしているならインドに行け」とアドバイス。
100万円あればインドで一生暮らしていけそうだと、
3人はなんとか100万円を貯めることにするのだが……。

小ネタをいっぱい挟んで、話はダラダラ進みます。
このテンポがたまらん!
とにかく、出てくる人がみんなダメダメで変人。
トルエン中毒だったり、中途半端なヤクザだったり、
お風呂でコーヒーを沸かしていたり、年中、川に下半身浸かっていたり、
タコ焼きで原付のタイヤを滑らせたり。

抱腹絶倒ではなく、クスクス笑いの連続です。
インドのことならインド人に聞け、
でもインド人の知り合いがいないから、ちょっと似てるインドネシア人に。
「インドのことなんてわからないよ」と怒るインドネシア人の
店の名前がインドの地名だったりして、
張り巡らされた小ネタに気づけば笑いの渦。
ダメダメなのに、そろってハーモニカが吹けるのも変やっちゅうの。
猫好きの私にとって、猫が焼かれるシーンなんて言語道断なのですが、
その猫がどう見てもヌイグルミで、不覚にも笑ってしまいました。

その他のキャストも超豪華。
吉岡秀隆、伊東美咲、麿赤兒、岡田真澄などなど。

「ムエンボトケって、焼いても煙の出ない人のことじゃなかったの?」。
これにクスッと笑ってしまった人にはオススメ。

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『卒業』

2008年06月15日 | 映画(さ行)
『卒業』
監督:長澤雅彦
出演:内山理名,堤真一,夏川結衣,石井正則,谷啓他

2002年の作品。
堤真一好きなのに、観逃していた作品。

監督の名前を意識せずに観ていて、
なんとなく好きだなぁと思ったら、
あれもこれも同じ監督の作品だったなんてことがありますが、
この監督もどうやら私の好きなタイプのようです。

短大の冴えない心理学講師、真山悟。
ボソボソ話す彼の講義に、学生は退屈して豪快に居眠り。
しかし、ひとりだけ、真山を見つめ続ける学生がいた。

突然降り出した雨のせいで、真山が帰れずに困っていると、
真っ赤な傘を差し掛ける学生。
彼女は杉田麻美だと名乗り、真山の授業を取っているらしい。
麻美は真山に傘を押しつけると、
自分は雨の中を駆け出して行く。
それ以来、何かと真山の前に現れる麻美。

婚約者の宮本泉の両親と会う予定の日、
図書館に立ち寄った真山の前にまたもや現れた麻美は、
傘のお礼にコーヒーをごちそうしてほしいと言う。
時間がないからと断ろうとするが、
強引にスターバックスへ連れて行かれる。

麻美と話すうち、
麻美が真山の行きつけの店や好みにやたら詳しいことがわかる。
訝る隙もないぐらい、一方的に話し続ける麻美。

実は麻美は、真山が昔つきあっていた女性の娘、
すなわち真山の娘だった。
数年前に亡くなった母親が、心から愛していた男性、
そして自分の父親である真山に、
事実を伏せたまま会うことを決めた麻美。
やがて、麻美の母親と別れてから20年経った今も、
真山が自責の念に苦しめられていることを麻美は知る。

最後まで、麻美が真山の娘であることを明かす台詞はありません。
真山も極端に口下手な設定なので、無駄な台詞も説明もなし。
だから、麻美のストーカーとも言える行動が理解できないまま、
「なんじゃ、こりゃ?」で終わってしまう可能性も大です。

自分の母親に対する真山の想いを知り、
嬉しく切なく感じる麻美。
なんとか真山の心を解き放ちたいと願い、
泉に会って、この女性になら父親を任せたいと思う。
こういったことにも余計な台詞がまったくないので、
感じ取れないと、どんどん置いてけぼりを喰らいます。
でも、感じ取れたら、じんわり心にしみるはず。

長澤監督の作品は、「シンと、凛と」という言葉がぴったり。
真っ赤な傘がパッと咲く瞬間がとても美しい。

手を繋いで。
いつまでも、忘れない、永遠。

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『トップ・ランナー』

2008年06月12日 | 映画(た行)
『トップ・ランナー』(原題:The Flying Scotsman)
監督:ダグラス・マッキノン
出演:ジョニー・リー・ミラー,ビリー・ボイド,ローラ・フレイザー,
   モーヴェン・クリスティ,ブライアン・コックス他

アンジェリーナ・ジョリーの最初の夫が主演。
英国アカデミー賞の各部門にノミネートされていたにもかかわらず、
日本では知名度が低すぎて未公開。
でも、レンタルしてみたらビデオスルーも納得。地味すぎや~。

原題は“The Flying Scotsman”。
「空飛ぶスコットランド人」と呼ばれた、
実在の自転車競技選手グレアム・オブリーの半生を描きます。

級友から執拗にいじめを受けるグレアム。
母は心を痛め、警察官の父はふがいなく思うが、
少しでも息子を元気づけようと自転車を買い与える。

以来、自転車の虜になったグレアムは、
来る日も来る日も走り続ける。
いじめっ子たちも自転車には追いつけない。

大人になっても、グレアムは毎日走り続ける。
小さな自転車店を経営しているが、
近所に大型店がオープンし、グレアムの店は閑古鳥。
バイク便ならぬ自転車便で家族の暮らしを支えながら、
自転車競技会に出場しては数々の記録を打ち立てる。

自転車競技のファンで、同じく自転車便のマルキーは、
国内記録保持者のグレアムが配達する姿を見かけて思わず声をかける。
以来、2人は親しくなる。

ある日、グレアムがアワーレコードに出場すると言い出す。
アワーレコードとは、1時間でどれだけの距離を走れるかを競う種目。
マルキーがマネージャーとして資金集めを請け負うことに。
市販の自転車では無駄が多すぎると、
廃材を利用した自転車作りからスタートする。

地味ですけど、意外と見応えがあります。
幼少期のトラウマから、たまにもの凄く落ち込むことのあるグレアムを
丸ごと受け入れて優しく見守る妻アン。
アンの友だちで、マルキーをさりげなく助けるケイティ。
偶然グレアムの店に足を踏み入れたことから、
何かとグレアムを気にかける牧師バクスター。
グレアムに投資を即決する、単なる自転車好きの大企業の社長。
自分の記録が破られようとも、素直にグレアムを祝福する選手たち。
めっちゃ嫌みなオッサン1名を除いて、人の好意があちこちに。
洗濯機を解体して自転車の部品にしてしまう過程なども面白いです。

ドイツと英国の合作で、本国でウケたのは、
ドイツ人も英国人もこんな不屈の精神に溢れた話が
大好きだからだと思われます。
私も好きですけど。

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