夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ブレイキング・ニュース』

2006年05月30日 | 映画(は行)
『ブレイキング・ニュース』(原題:大事件)
監督:ジョニー・トー
出演:ケリー・チャン,リッチー・レン,ニック・チョン他

2004年の香港/中国作品。
日本公開は昨年末、今月初めにDVD化されたところです。
監督は『ザ・ミッション 非情の掟』(1999)のような
超硬派なヤクザ映画を撮るかと思えば、
金城武主演の『ターンレフト ターンライト』(2002)のような
ファンタジックな作品も。どちらも好きですが、
この監督の作品の醍醐味は「男泣き」。

香港の市街地の雑居ビル前。
若くて無鉄砲な警部補とその相棒が張り込み中。
その日、銀行を襲撃するであろう強盗団を捕まえるためだ。
ところが、ビルから出てきた強盗団が車に乗り込もうとしたとき、
事情を知らない交通巡査が駐車違反の取り締まりにやってくる。
交通巡査に邪魔されぬよう、別の張り込み中の刑事が画策するが、
異変に気づいた強盗団が発砲。警察との銃撃戦となる。

その場に偶然居合わせたTV局がカメラを回し、
強盗団に命乞いする警官の姿が報道される。
そのうえリーダーのユアンを含む4名を取り逃がした警察は
市民の信頼を失って非難の的。

やがてユアンらが高層アパートに籠城中との情報が入る。
警察は名誉回復のため、強盗団逮捕劇を生中継することに。
マスコミが押し寄せ、600万人の市民が見つめるなかで、
メディア戦略の発案者である組織犯罪課のレベッカが指揮を任されるが……。

緊迫感溢れる90分は携帯とパソコンを駆使した「ショー」。
ユアンらが籠城する一室に、同じアパートに住む殺し屋2名が転がり込み、
一触即発の雰囲気に。手を組むのが得策だと双方は考えます。

私がとても好きだったのは、その一室で食卓を囲むシーン。
腹が減っては戦はできぬと、ユアンが台所に立ちます。
そこへ手伝いにやってくるのは殺し屋のチュン。
初対面のユアンとチュンが一緒に料理を始めると、
ふたりとも実は食べることと料理が大好きで、
自分の店を持つのが夢であることが明らかにされます。
葱、茄子、胡瓜、肉、魚が手際よく切られ、中華鍋で跳ねる楽しげな油の音。
明日の生死はわからない状況で食卓に並べられた皿の数々を前にして、
人質のタクシー運転手が「ええい、このさい」と開ける、とっておきの酒。
そして、幼い子どもたちに言うには、「おまえたち、食えよ。
殺し屋さんと強盗さんの料理だ。滅多に食えんぞ」。

このシーンがあるからこそ、最後にいきる男泣き。
私、ホンマは男やろか。

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トマト、トマト。

2006年05月26日 | 映画(番外編:映画と食べ物・飲み物)
近頃の私はトマトに取り憑かれています。
ひとり暮らしの伯母が入院したために、
入院前に注文していたトマト1箱を代わりに受け取って
病室まで運ぶことになったのですが、
生産農家の事情で入荷が遅れています。
伯母は病室でトマトを心待ちにしているようだし、
毎日トマトに思いをめぐらせていたら、
人の話す言葉を「トマト」と聞きまちがう始末。
数日前には「能楽教室」が「トマト教室」に聞こえました。
なんでやねん。

こんなときにたまたま借りた映画がトマトだらけ。
『最後の晩餐 平和主義者の連続殺人』(1995)は
ブレイク前のキャメロン・ディアスが出演する劇場未公開作品。
3年前にDVD化されていますが、先日レンタル店で見つけて。

一軒家で共同生活を営む自由主義者の大学院生5人。
毎週日曜日の晩、ゲスト1名を招いて議論するのが習慣。
ある日のゲストは愛国心に溢れる戦争礼讃者。
言い争いのあげく、ナイフを振りかざすゲストを
大学院生らはふとしたはずみで殺してしまいます。
事態に動揺しつつも、危険因子の抹殺だと自らを正当化。
庭にゲストを埋めることに。

以後、同性愛者に偏見を持つ牧師をはじめ、
過激な差別主義者を次々と招くと、
議論の途中でひそかに審判を下します。
白、赤、1本ずつ用意したワインのうち、
赤にはヒ素をあらかじめ入れておき、
抹殺が妥当と思われるゲストには赤を勧めて。
いつしか白のデザートワインを勧めることはなくなり、
ゲストは必ず庭に埋められる運命となります。

養分を吸って、庭でトマトが育つんですよ。
これでもか!っちゅうぐらい。オエッ。
生で食べるにも料理に使うにも限りがあり、
トマトを煮詰めてみてもやっぱりキリがない。
瓶に入ったトマトソースが棚にズラッと並ぶ様子は壮観。

トマトが嫌いになりそうな作品ですが、
最初は議論が目的で、料理もとても凝っていた晩餐が、
殺人が目的になるにつれて料理が手抜きになっちゃうのがおもしろい。

トマトといえば、巨大トマトが人に襲いかかる、
“キラートマト”シリーズは外せませんが、
トマトがおいしそうな映画なら『フライド・グリーン・トマト』(1991) を。
アメリカ南部のアラバマ州のカフェが舞台です。
このカフェの名物料理がタイトルそのまま。
スライスして衣をつけるトマトは青いトマト。
油で揚げたあつあつのトマトにわくわくします。

トマト、トマト。

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『寝ずの番』

2006年05月23日 | 映画(な行)
『寝ずの番』
監督:マキノ雅彦
出演:中井貴一,木村佳乃,富司純子,岸部一徳,木下ほうか他

続いて2本目。

芸人が下ネタで笑いをとるのは禁じ手だと言われています。
下ネタというのは話術がなくとも笑いをとれるものだから。
かくいう私も下ネタ大好きですが、
禁じ手だという思いが頭にあるので、
下ネタ頼みの若手芸人さんに遭遇すると先が案じられます。

そして、下ネタに走りつつ品を保つのは難しい。
本作はそのギリギリのところに留まっているのかも。
中島らもの同名小説を津川雅彦が別名で撮った初監督作品。

上方落語界の重鎮、笑満亭橋鶴はいまわのきわ。
弟子たちは師匠の最期に立ち会おうと病室に集う。
思い残すことはないかと一番弟子の橋次が尋ねると、
橋鶴は声を振り絞り、「そ、そそが見たい」。

京都ではそそ、大阪では3文字に当たるその言葉。
死にかけでもエロい妄想を抱く師匠に弟子たちは感心、いや、唖然。
師匠の妻はべっぴんだが、如何せんもうババァ。
若い女性でなければと、橋太の妻、茂子に頼むことにする。

あんまりな頼みごとに怒り狂う茂子だが、
師匠の最後の頼みとあっては断れない。
意を決して病室に乗り込むと、師匠に向かってスカートをまくりあげる。
すると今度は師匠が唖然。
「アホ、そとが見たい、言うたんや」。

3分後、師匠は絶命。始まるお通夜。
思い出話に花を咲かせ、弟子たちは師匠の亡骸の寝ずの番。

橋鶴師匠のモデルはおそらく笑福亭松鶴。
松鶴に倣ってか、橋鶴の十八番は『らくだ』。
噺の中に出てくる「死人のカンカン踊り」を実際にやってみようと、
弟子たちが師匠の死体と肩を組んで踊ります。
死体を演じた長門裕之の力の脱き加減はお見事。

昔、生で聴いた米朝の『地獄八景亡者戯』が懐かしく、
お寺で開催される橋次の独演会、『愛宕山』の場面は、
よく通った寄席を思い出させてくれました。
私が通った寄席は、落語好きの住職が若手噺家に場を提供すべく、
寺の2階を開放していたもの。
1階でお通夜、2階で寄席なんて日もあって、
「ホンマにええのか?それで?」と不謹慎にも笑いました。

そのお寺の寄席で当時よく拝聴した桂吉朝さんが
本作の落語指導と出囃子を担当されていた偶然。
昨年、映画の公開を待たずして、
50歳の若さでお亡くなりになりました。
あの世で笑ってはったらええなと思います。合掌。

ボビー・マクファーリンがなぜか似合う。

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『かもめ食堂』

2006年05月20日 | 映画(か行)
『かもめ食堂』
監督:荻上直子
出演:小林聡美,片桐はいり,もたいまさこ,
   ヤルッコ・ニエミ,マルック・ペルトラ他

昨日は高速を飛ばして邦画を2本ハシゴ。
で、まずは1本目。
パリのルーヴル美術館より気になったのが
ヘルシンキのかもめ食堂。
群ようこ原作の同名小説の映画化です。

ヘルシンキの街角にたたずむ定食屋“ruokala lokki”(=かもめ食堂)。
ウリのメニューはおにぎりだ。
白いごはんにいちばん合う焼魚は鮭だから、
鮭の国ならおにぎりが受け入れてもらえるだろうと
サチエがオープンしたお店。

しかし、1カ月経っても客はゼロ。
毎日通り過ぎるフィンランド人のおばさん3人は
「客がいるところを見たことがないわね。大丈夫かしら」と噂している。

そこへ、記念すべき客第1号の青年、トンミがやってくる。
日本かぶれと見えて、Tシャツにはニャロメの絵。
彼は「ガッチャマン」の歌詞を教えてほしいと言う。

歌詞を途中までしか思い出せなかったサチエは、
カフェで見かけた観光客らしきミドリに
いきなり「ガッチャマンの歌、知ってます?」と尋ねる。
不審な表情をしながらも完璧に歌ってみせるミドリ。

聞けばミドリは特に計画も立てずにやってきて、
これからどう過ごしていいのかわからないと言う。
サチエが自宅に招待すると、ミドリは食堂を手伝いたいと申し出て……。

興味を惹かれる食べ物や飲み物がいっぱい。
なんとか客を呼び込もうと、ミドリが提案するのはおにぎり具材の変更。
トナカイの肉、ニシン、ザリガニを入れたおにぎりを試食する、
トンミの悲壮な顔つきが笑えます。

鮭、梅干し、おかかのおにぎりにこだわりつつ、
入店してもらえなければどうしようもない。
そこでサチエが作るのはシナモンロール。
店先に流れるその甘い香りに誘われて、ついにおばさん方も入ってきます。

揚げたてのトンカツをサクッと切る音、
網で焼かれる魚から滴り落ちる脂、
冷えた体にグッと効きそうなハードリカー、コスケンコルヴァ、
コーヒーを美味しくするおまじない、コピ・ルアック。
店員それぞれの「いらっしゃいませ」がある。
実際に店内にいる気分になります。ほのぼの。

ひとりで先走ってウケてしまったのが
トンミが「僕の名前を漢字で書いて」というシーン。
「トンミ」と言われて私が思いつく漢字の組み合わせはただひとつ。
それしかないやろ!

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ダ・ヴィンチ・コード、その前に。(その2)

2006年05月17日 | 映画(番外編:映画と読み物)
さて、赤瀬川原平さんの『ルーヴル美術館の楽しみ方』。

彼はルーヴルを「パリのメインディッシュだ」と断言しています。
その重み、味わい、栄養価、噛みごたえ、満腹感は
充分いただきましたという気持ちを与えてくれるものだと。

パリの何をメインディッシュにするかは
人によって異なるところでしょうが、
赤瀬川さんにとってはシャンゼリゼがオードブル、
セーヌ河はコールドスープ、エッフェル塔がワイングラスで、
凱旋門は食後のエスプッソコーヒーなのだそうです。

フルコースなんて形式張らずに、
「本日のおすすめ品」だけつまんで帰る人も多いなか、
メインディッシュをひと口だけではもったいなくて、
10日間ルーヴルに通いつめた赤瀬川さん。

そんな彼の一風変わったガイドブックは次の8章から成ります。
“さあ、ステーキをいただこう”
“西洋画は怖いぞ”
“プロレスとラ・トゥールの関係”
“「微笑み」はルーヴルでは貴重だ”
“フェルメールの目はカメラの眼”
“ミロのヴィーナスにみる侘び寂び”
“ズーム・イン!マンテーニャ”
“双眼鏡で絵を見るヨロコビ”。

まず、切符を買って入場するところからおもしろい。
入り口のモギリ嬢は美人揃いで、
高めの椅子に長い脚を組んで座っていらっしゃる。
モギリ嬢と書いたけれども、実際はモギらない。
ビジッと切れ目を入れるだけ。
これはルーヴルに限らず、パリに共通の習慣だそうですね。
カフェなどでお茶の途中で勘定すると、
支払い済みの意味で勘定書にビジッと切れ目を入れるんだとか。
ルーヴルの切符は1日有効で出入りも自由。
だったらいちいち切れ目を入れなくても
その日の切符を持っているかどうかを確認するだけで良いはずが、
「ビジッと切れ目を入れる」ことがなぜか大事なようです。

こんな感じで始まる本書は、笑いに溢れた解説がいっぱい。
西洋画の流血部分を拡大してみたり、
クシャクシャにされた紙、お尻にくっついた水滴、器から流れるミルクなど、
とにかく細かいものや質感を出しにくいものが
見事に表された絵や彫刻を「細密腕自慢」と称して拡大。
中身よりも立派に見える額縁や、床、マンホール、
さらには絵画に入ったヒビの特集に、
掘出し物のコーナーや絵画のなかの路上観察も。

ルーヴル美術館に1日いれば、
そこは肉の文化であることを実感できるそうな。
美術に縁遠くたって、満腹感たっぷりの1冊です。

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