夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

誤訳もワラける、字幕の翻訳。

2005年04月28日 | 映画(番外編:映画と邦題・字幕・台詞)
昨日の新聞で目にした『週刊新潮』最新号の見出しは、
“また「誤訳騒ぎ」だよ「字幕の女王」戸田奈津子”。

この「夜な夜なシネマ」が居候させてもらっている
HPの管理人さんとはたまに映画にご一緒しますが、
その管理人さんが以前、「あいかわらず字幕は戸田奈津子やなぁ。
字幕の翻訳家って、若い人は全然育ってへんの?」と
おっしゃっていました。
(〈おことわり〉「さるさる日記」サービス終了にともない、そのHPは閉鎖しました。)

決してそんなことはないんです。
ただ、メジャー級のロードショー作品となるとほぼ戸田さん。
管理人さんと一緒に出かけるときは
無条件に楽しめそうな映画を選ぶので、必然的に大作に。
戸田さんばっかりの印象になります。

『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)ではその誤訳の多さに
ピーター・ジャクソン監督が激怒したというのは有名ですが、
戸田さんにはほかにも数々の伝説的誤訳があります。
『アメリカン・ビューティ』(1999)では
4500ドルのソファを45000ドルのソファと訳し、
『13デイズ』(2000)では2週間を2カ月とまちがい、
『ザ・リング』(2002)では66年の流産を66回の流産と。
450万のソファは主人公の家にあったらビビるし、
66回の流産は肉体的に不可能やろ!?
笑える誤訳も多いですが、製作者は憤ることたびたび。

ちょっとマイナーな映画になると、戸田さんはめったに登場しません。
私がすごい翻訳家だなぁと思うのは、
前述の『海を飛ぶ夢』も担当されていた松浦美奈さん。
字幕翻訳用の脚本ってどんなものなのか知りませんが、
まさかどこの国の作品でも英語だってことはないですよね?
松浦さんのこれまでの担当作品を見てみると、
いったいこの人は何カ国語できるんだろうと驚きます。

英語圏のアメリカやイギリス、カナダ、オーストラリアの作品はもちろん、
スペイン語圏の作品は松浦さんオンパレード。
ポルトガル語圏のブラジルもあります。
スウェーデンやフランスや香港まで網羅するなんて、超人。
もしかして、脚本って全部英語なのでしょうか。
仮にそうだとしても、その国のことをまったく知らずに翻訳ができるとは思えないし、
やっぱり超人にちがいありません。

そのほか、私がスクリーンでしょっちゅう出会うのは
林完治さん、太田直子さん、石田泰子さん。たまに菊池浩司さん。
字幕担当が誰かを確かめてから映画を観ることってないけれど、
「おぉぉぉ、またこの人ぉ!」という楽しみは結構あります。

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『海を飛ぶ夢』〈追記〉

2005年04月25日 | 映画(あ行)
観終わった直後は「よかった」と思うわりに
その余韻が長続きしない映画と、じわじわと効いてくる映画がありますが、
『海を飛ぶ夢』はまさに後者です。

尊厳死をどう考えるか。
ラモン本人はもちろんのこと、彼を取り巻く人びとの思いも、
多くは語らないのに響いてくる、そんな感じでした。

ラモンの兄ホセは海の男だったのに、
弟を看病するために農場の仕事を始めます。
弟を愛してはいるけれど、その弟が自ら命を絶つことは絶対に許せない。
その話が出るたびにもの凄い剣幕で怒ります。

ホセの妻マヌエルは献身的な介護を続けます。
だけど恩着せがましいことは何も言わないし、
態度からもそんなことは微塵も思っていないのがわかります。
尊厳死について聞かれると、自分がどう思うかは関係ない、
ラモンの意思がすべてだと口を閉ざします。

父ホアキンにはラモンは死の話をしないし、
ホアキンもラモンには尋ねようとしません。
家族からラモンの思いを聞き、
息子が自分より先に死ぬというだけでも悲しいのに、
自ら命を絶とうと言うなんてと嘆きます。
でも、息子の前ではそんな顔は見せず、
息子のために特製のパソコンや車椅子を完成させます。

兄夫婦の息子で、ラモンの甥にあたるハビエルは
病や老いについてはまったくピンと来ない。
「無知と無邪気は紙一重」と言った私の友人がいますが、
ハビエルはまさにその紙一重。
ラモンやホアキンに向かって無神経な言葉も口にするけど、
ラモンのことが好きでたまりません。

弁護士のフリアは自らも進行性の病に冒されていて、
ラモンと自分の思いはひとつだと思っています。

ラモンと同様、四肢の麻痺した牧師は、
「ラモンが死にたがるのは家族の愛情が足りないからだ」
と、家族の心を踏みにじる発言をします。

尊厳死について、人の思いは実にさまざま。
それをきめ細やかに描写しきったアメナーバル監督はまだ30代前半。
彼の『オープン・ユア・アイズ』(1997)は
トム・クルーズが脚本に惚れ込んでリメイク(『バニラ・スカイ』(2001))。
『アザーズ』(2001)もアメナーバル監督の作品です。
いずれも死をとらえながら生を感じます。

さらにこの監督がすごいのは、音楽も自分で作ってしまうところ。
自分の監督作ではたいがい、音楽も担当。
これがまた心を揺さぶる曲ばかりです。

今後も、アメナーバル監督の作品だと言うだけで
観にいかずにはいられません。

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『海を飛ぶ夢』

2005年04月21日 | 映画(あ行)
『海を飛ぶ夢』(原題:Mar Adentro)
監督:アレハンドロ・アメナーバル
出演:ハビエル・バルデム,ベレン・ルエダ,ロラ・ドゥエニャス,マベル・リベラ他

レディースデイの昨日、ダンナは出張中。
私はまっすぐ帰宅して野球を観るべきか、
本作を観るべきか、悩んだ末に映画館へ。
映画館への道中、ラジオを聴いていたら、
最近風貌がコワすぎる清原がいきなりホームランだとぉ!?

けれど、この作品は清原も吹っ飛ぶ。
上映開始後15分には泣きモードに入りました。
音楽に例えるなら、私の好きな、長調なのに切ない歌。

スペイン、ガリシア地方。
ラモンは20代の頃、引き潮の海に飛び込み、
頸骨を折って四肢が麻痺。
26年間、ベッドで寝たきりの生活を送っている。

兄の家の海の見える部屋で毎日を過ごす。
父、兄夫婦とその息子、誰もが彼を愛してやまない。
穏やかな笑顔を見せ続けるラモン。

しかし、ラモンは尊厳死を望む。
自ら命を絶つこともできないラモンには、
死の手助けをしてくれる者が必要。
その協力者が罪に問われることを案じ、
尊厳死を認めてもらえるよう、訴えを起こす。

人権擁護団体のジェネは、
彼の望みの正当性を弁護したいという女性弁護士フリアを
ラモンと引き合わせる。
彼の主張はやがてマスコミでも取りあげられ、世間が注目する。

テレビでラモンのことを知ったロサは、
生に満ち溢れた瞳のラモンがなぜ死にたがるのか興味を持ち、
ラモンを訪れるのだが……。

人に頼らなければ生きていけない人間は
笑顔の作り方を自然に覚えると彼は言います。
その笑顔はどこまでも優しくて、それを見ているだけで泣かされてしまいます。
すごいですよ、ハビエル・バルデムの演技。
彼はトム・クルーズ共演の『コラテラル』(2004)で
マフィアのボス役をやっていた人ですが、
今年36歳でありながら、実齢より20歳も上のラモンを
何の違和感もなく演じきっています。

彼がイマジネーションを働かせ、
空を飛んでいくその映像の素晴らしさ。
澄み切った空ではなく、薄く曇った大きな雲が空の半分を覆っていて、
それがまた言葉に表せないぐらい美しい。

結局彼は死を選びます。
でも、死をテーマにしていながら、こんなに生を感じ取れる作品に感謝。

原題/英題は“Mar Adentro”/“The Sea Inside”。
この邦題は出色。
観終わった直後より、今日のほうが効いている。
今のところ、今年ベスト1。実話です。

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『ボビー・ジョーンズ 球聖とよばれた男』

2005年04月19日 | 映画(は行)
『ボビー・ジョーンズ 球聖とよばれた男』(原題:Bobby Jones: The Stoke of Genius)
監督:ローディ・ヘリントン
出演:ジム・カヴィーゼル,クレア・フォーラニ,ジェレミー・ノーサム,マルコム・マクダウェル他

ゴルフのコースはなぜ18ホールなのかご存じでした?
ゴルフについてズブの素人の私は、
この作品で18ホールの理由を知りました。

19世紀半ばのこと。
セントアンドリュースに集ったゴルファーのうちのひとりが、
こんなことを言ったそうです。
「ウイスキー1瓶でグラス18杯分がとれる。
 18ホールならちょうど1瓶空く」。
酒瓶が空になった頃が止めどきなんて、洒落てるなぁ。
ただの酔っ払いか。(^^;

この作品は日本では劇場未公開。
それなりに知名度の高い役者陣なのですが、
ゴルフをする人と映画を観る人はかぶらない?
オーガスタの創始者でマスターズの生みの親、ボビー・ジョーンズ。
ゴルフをほとんど知らない私には興味深い物語でした。

主演のジム・カヴィーゼルは『パッション』(2004)のキリスト役。
私個人的には、ジム・カヴィーゼルは、
トビー・マグワイア(“スパイダーマン”シリーズ、『シービスケット』(2003))、
ジェイク・ギレンホール(『遠い空の向こうに』(1999)、『デイ・アフター・トゥモロー』(2004))とともに
伸び盛りの俳優だと思っています。
3人とも決して2枚目じゃないけれど、好青年役がハマります。

さて、ボビーは1902年、ジョージア州アトランタ生まれ。
大のゴルフ好きである父親は、体の弱いボビーが少しでも鍛えられるようにと、
コースへボビーも連れていくのが日課。

ある日、父親のレッスンにやってきたプロゴルファー。
そのフォームに魅せられたボビーは、
木の陰に隠れてプロゴルファーの跡をつけまわす。
最初は追い払っていたプロゴルファーだが、ボビーの根気強さに負けて、
「せっかくだから、息子さんにもプレーさせては?」と、ボビーの父親に進言する。

それ以来、生涯アマチュアを貫き、
「球聖」と呼ばれるほど見事なストロークを披露したボビー。
1920年代には一世を風靡し、1930年には史上初の年間グランドスラムを達成。
そして、この記録は今も破られていないそうですね。

ただゴルフが好きだからやっているだけだと、
プロへの転向を拒みつづけ、ハーバード大へ。
弁護士としても活躍したようです。

「勝った試合よりも、負けた試合に多くのことを学ぶ」とは
ボビー・ジョーンズの言葉です。

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『ヘルボーイ』

2005年04月14日 | 映画(は行)
『ヘルボーイ』(原題:Hellboy)
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ロン・パールマン,ジョン・ハート,セルマ・ブレア,ルパート・エヴァンス他

「奇形」に愛情を示す監督って意外と多いのかも。
『デビルズ・バックボーン』(2001)とはまたちがう、娯楽度の高い作品ですが、
いびつな形に惹かれているのがわかります。

第二次世界大戦の末期、
敗色濃厚だったナチスが一発大逆転を狙って、怪僧ラスプーチンと手を組む。
ラスプーチンとはロマノフ王朝に生きた実在の僧で、
青酸カリ入りのケーキを平らげても、
拳銃で撃たれても死ななかったという伝説の悪党。

この不死身の僧ラスプーチンの妖術を使い、
異界から邪神を呼ぶのがナチスの作戦。
しかし、ラスプーチンが異界の扉を開いた瞬間、連合軍が奇襲をかける。
その結果、ラスプーチンは異界に呑み込まれ、代わってこの世に生まれたのが、
真っ赤な姿に巨大な右手を持つ悪魔の子、ヘルボーイ。
連合軍に同行していた超常現象学者のブルーム教授はヘルボーイを引き取り、息子として育てる。

それから60年後。
老いたブルームはFBIの秘密機関、超常現象調査局で
ヘルボーイや半魚人のエイブと生活をともにしていた。
魔物が頻繁に出没するようになった今、事件が起こると、
ブルームの指揮のもと、ただちにヘルボーイらが魔物退治に駆けつける。
闇に紛れて活躍するヘルボーイは人びとの関心の的であり、ヒーローでもあった。

このヒーローのお目付役を言い渡されたのが、新米捜査官のマイヤーズ。
噂のヘルボーイが実在すると知り、面食らう。
愛想の悪いヘルボーイは、マイヤーズにもそっけない。

やがて、ラスプーチンが生き返り、世界征服を再び企てる。
異界最強の邪神を召還するには、悪魔の子であるヘルボーイが必要だ。
ヘルボーイを自分のもとにおびき寄せるため、画策を始めるラスプーチン。

見た目はイケてないけど、正義の味方で実は心優しいアメコミ・ヒーローの定番。
最後まで楽しんで観られます。
想いを寄せる女性がマイヤーズと出かけて嫉妬するヘルボーイの姿もケナゲ。

ついでに、奇形好きといえばデヴィッド・リンチ。
『イレイザーヘッド』(1972)を観ればそれが瞭然ですが、
単に奇形好きが高じて撮ったはずの『エレファント・マン』(1980)が
感動的な作品として取り上げられ、
監督本人は不満に思っているにちがいない、というのは有名なお話。

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