夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『シービスケット』

2004年01月30日 | 映画(さ行)
『シービスケット』(原題:Seabiscuit)
監督:ゲイリー・ロス
出演:トビー・マグワイア,ジェフ・ブリッジス,クリス・クーパー,
   エリザベス・バンクス,ウィリアム・H.メイシー他

1頭の馬「シービスケット」と運命的な出会いを遂げた
3人の男たちの物語。

1人目はチャールズ・ハワード。
野心がある人間は西部へと移り住んだ1910年代。
彼もまたそのうちのひとりで、
わずかばかりの金で始めた小さな自転車屋から
やがては自動車販売業を営むようになり、莫大な富を築く。

しかし、1929年、大恐慌がおとずれる。
事業の縮小をおこなうなか、ハワードは事故で息子を亡くし、
それがきっかけで妻とも離婚する。

2人目は一匹狼の調教師トム・スミス。
自動車の普及によって馬の需要が減り、
ひと昔前の人間となりつつあった。
西部劇の巡業に同行しながら、森の中で生活している。

3人目は16歳の少年ジョニー・レッド・ポラード。
温かい家族に囲まれて暮らしていた。
文学に親しみ、乗馬の才能も発揮する。
だが、恐慌によって家族は家を失う。
両親はせめて息子にだけは衣食住を与えたいと、
草競馬の興行主にレッドを託す。

数年後、シービスケットの馬主、調教師、騎手として出会う3人。
サラブレッドでありながら、誰からも見放された小柄な馬。
傷ついた男3人と同じく傷ついた馬との出会い。

ローラ・ヒレンブランドのベストセラーを基にしたほぼ実話。
“Based on a True Story”をウリにされると嫌悪感が走る私ですが
(「実話に基づく」のが嫌いなのではなく、それによって感動を押しつけられるのが嫌い)、
これは見終わったあとに「えっ?実話やったん?」というサラッとした流し方。

最初の45分ほどは別々に描かれる3人のつながりがまるでわかりません。
しかし、3人が出会った瞬間、それぞれがピタリとはまって、
ぐいぐいと物語に飲み込まれていきます。

普通なら、レッドが生き別れた両親と再会して……なんて展開になり、
お涙頂戴路線にまっしぐらというところですが、
この作品の主役はあくまで馬。大好感。

怪我をすると即殺されることの多い競走馬ですが、
「ちょっとしたことで命あるものを殺すことはない」と語るスミス。
ここに登場する者たちは皆、2度以上のチャンスを与えられます。

監督は、『ビッグ』(1998)や『デーヴ』(1993)の脚本家。
くどい人間ドラマにしなくても、
きっちり涙腺のツボをおさえる術を知っているようです。

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『ムーンライトマイル』

2004年01月27日 | 映画(ま行)
『ムーンライトマイル』(原題:Moonlight Mile)
監督:ブラッド・シルバーリング
出演:ジェイク・ギレンホール,ダスティン・ホフマン,スーザン・サランドン他

公開時、新聞の広告欄に綾戸智絵さん絶賛のコメントもありました。
主演のジョーを演じるジェイク・ギレンホールは、
現在公開中の『シービスケット』主演のトビー・マグワイアとともに、
かねてから注目している若手俳優です。

物語の舞台は1973年、マサチューセッツ州。
ベンとジョージョーのひとり娘、ダイアナは発砲事件に巻き込まれ、帰らぬ人となる。
ダイアナとの結婚をひかえていた婚約者ジョーは、
3週間前からダイアナの実家に同居していた。
結婚後はベンと不動産の共同経営を始めることになっていたジョーは、
ダイアナの葬儀後も家に残ることにする。

しかし、実はジョーにはベンとジョージョーに打ち明けられずにいる秘密があった。
ダイアナが事件に遭う3日前、親友以上になれないと思ったふたりは婚約を解消していたのだ。
それを言い出せないまま、日々が過ぎてゆく。

数日後、結婚式の招待状がまだ印刷屋にあることを思い出したベンは、
発送されるのを阻止するよう、ジョーに頼む。
印刷屋に出向いてみると、招待状はすでにそこにはなく、ジョーは町の郵便局に向かう。
郵便局員のバーティーという女性の助けを得て、招待状は無事回収される。

ある日、ベンは不動産大会にジョーを連れ出す。
不動産王から大型商業施設の建設計画を聞かされたベンは、周辺の地上げ役を買って出る。
地上げの対象となっている酒場、「キャルの店」を訪れるジョー。
店主のキャルはベトナム戦争に出兵したまま3年が経過。
そして、キャルの恋人だったバーティーが、
彼の帰国を信じて店を手伝っているのだった。

ダイアナに申し訳ないと思いつつ、バーティーと次第に心を通わせていくジョー。
やがて発砲事件の裁判で証言台に立ったジョーは……。

スーザン・サランドン演じるジョージョーは秀逸。
娘の葬儀のあと、参列者からの贈り物に目を通す彼女。
『悲しみに勝つ』『つらいことは起こる』といったタイトルの本を
次々と暖炉に投げ込むシーンや、
「お悔やみの電話をもらえば腹が立つ、もらわなくても腹が立つ」といったセリフで
遺族の気持ちをコミカルに表して、
だから余計に哀しみが伝わってくるようです。

タイトルの『ムーンライトマイル』は、ザ・ローリング・ストーンズの隠れた名曲。

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『歓楽通り』

2004年01月22日 | 映画(か行)
『歓楽通り』(原題:Rue des Plaisirs)
監督:パトリス・ルコント
出演:パトリック・ティムシット,レティシア・カスタ,ヴァンサン・エルバズ他

第二次大戦後のパリ。
娼館がすべて営業停止となり、行き場を失った娼婦たち。
ほかに生きるすべを持たない彼女たちは、街娼として日銭を稼いでいる。
そんな彼女たちのあいだで伝説となっている娼婦マリオンと、
彼女にすべてをかけて愛したプチ=ルイの物語。

プチ=ルイは娼館オリエンタル・パレスで娼婦と客の間に生まれた。
娼館では娼婦全員がプチ=ルイの母親。
女性ばかりに囲まれ、かわいがられて育ったプチ=ルイの夢は
女性に仕えて一生をまっとうすること。
中年となったいまも娼館で忙しく彼女たちの世話をしている。
いつか「運命の女性」に出会えると信じて。

そんなある日、オリエンタル・パレスに新入りの娼婦マリオンがやってくる。
一目見た瞬間に、彼女こそが自分が仕えるべき女性だと、プチ=ルイは確信する。

プチ=ルイの願いはマリオンから愛してもらうことではない。
マリオンが幸せになるために仕えることこそが彼の願い。
自分ではマリオンを笑わせられない。
マリオンが心の底から笑えるように、彼女の「運命の相手」を見つけたい。

美しい容姿と声に恵まれたマリオンは、
プチ=ルイの勧めでABC劇場のオーディションを受け、見事合格する。
その帰り、マリオンはディミトリという男性と出会い、恋に落ちる。

マリオンの幸せそうな顔を見て、
ふたりのために仕えようとするプチ=ルイだったが、
ディミトリは闇市の品物をくすねたお尋ね者で……。

マリオンを演じるのはスーパーモデルのレティシア・カスタ。
ビデオのジャケットはコルセットに身を包んだ彼女で、
タイトルのまま、ケバい雰囲気が漂います。
ちょっとレンタルするのも気がひけそう。

でも、内容はものすごい純愛なのです。
ハゲてて、眠そうな目のオヤジ、プチ=ルイの、
見返りを何も求めない献身的な愛にキュ~ンとなります。
そんな彼だからこそ、娼婦はみんな彼の味方。
マリオンが誘拐されたときも、娼婦たちが総出でプチ=ルイに協力するなど、
からだを張って生きる彼女たちの温かさも伝わります。

小粒ながら(名匠に失礼か)、
酸いも甘いもじゅうぶんに知り得る佳作です。

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『メイド・イン・マンハッタン』

2004年01月20日 | 映画(ま行)
『メイド・イン・マンハッタン』(原題:Maid in Manhattan)
監督:ウェイン・ワン
出演:ジェニファー・ロペス,レイフ・ファインズ,ナターシャ・リチャードソン,
   スタンリー・トゥッチ,ボブ・ホスキンス他

“Made in Manhattan”かと思ってたら、
“Maid in Manhattan”だった。
んで、タイトルのまんま、マンハッタンのメイドのシンデレラ・ストーリー。

マリサはマンハッタンの五つ星ホテル、ベレスフォードの客室係。
ブロンクスのアパートで息子をひとりで育てている。

ある朝、客室係のミーティングで、
退職する支配人の後任を募集するという話が出る。
いずれはマネジメントの職につきたいと思っていたマリサだが、
自分からはそれを言い出せない。
同僚のステファニーはマリサの思いを察し、勝手に願書を出してしまう。

金曜日、息子のタイの学校で、
スピーチ・コンテストがおこなわれることになっていた。
必ず来ると約束していた父親は姿をあらわさず、
緊張と落胆からタイはスピーチに失敗。
週末を父親と過ごすはずだった予定も反故にされる。

タイをひとりぼっちにするわけにもいかず、
マリサは翌日、ホテルにタイを連れて出勤する。
ほかの従業員にタイをまかせ、マリサとステファニーはスイートルームの清掃へ。
そこに宿泊する金持ち女性のキャロラインから、
階下のブティックへコートを返品するように頼まれる。
どうせ返品するのだからと、ステファニーはマリサに試着をすすめる。
渋るマリサもステファニーのしつこさに負けて着てみることに。

そこへ入ってきたのがタイ。
なんと彼は上院議員候補のクリスと一緒だった。
同ホテルに宿泊中のクリスはエレベーター内でタイと意気投合。
一緒に犬の散歩に行かないかと誘われたタイが
マリサの許可をもらいにきたのだった。

ドルチェ&ガッバーナのコートに身を包んだマリサのことを
スイートルームの客とまちがえたクリスは、一目で彼女を好きになる。
誤解を正せないまま、クリスと会うことになったマリサは……。

あるかいな、こんなん、と思いながらも、
女性ならば夢見たい話でしょう。
実際は、ホテルに泊まれば好きなこと言いたい放題と噂のジェニ・ロペが
言われる側のメイド役というのもシニカルでいいかも。
『シンドラーのリスト』(1993)の悪役など、
シリアスな作品を選ぶことの多いレイフ・ファインズが
はじめてロマ・コメに挑戦しています。
脇を固める役者陣(どちらもハゲだ!)がとってもイイ。

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『ハンテッド』

2004年01月19日 | 映画(は行)
『ハンテッド』(原題:The Hunted)
監督:ウィリアム・フリードキン
出演:トミー・リー・ジョーンズ,ベニチオ・デル・トロ,
   コニー・ニールセン,レスリー・ステファンソン他

1999年、コソボ。
セルビア人指揮官の暗殺を命じられた陸軍兵士ハラムは
その任務を遂行し、銀星賞を与えられる。
しかし、彼の脳裏には戦場の凄まじい光景が焼きつき、
次第に精神を病んでいく。

ある日、野生動物保護官として森林を預かるL.T.のもとへ、
FBI捜査官が訪ねてくる。
それは、オレゴンの森で起こった連続殺人事件の捜査を
手助けしてほしいという依頼だった。
一旦は断ろうとしたL.T.だが、殺人現場の写真を見て愕然とする。

L.T.はその昔、軍の兵士たちに
殺人マシーンと化す訓練を施していた。
サバイバル術をたたき込み、何もないところから武器のナイフを作る。
そのナイフ1本で人を確実に殺す訓練。
ハラムはL.T.の教え子のひとりだったのだ。
犯人はハラムしかいない。
そして、彼を捕らえられる者は自分しかいない。
こうして、ハラムとL.T.の闘いがはじまる。

ご存じ、『エクソシスト』(1973)の監督の作品。
私はこの1週間、久々にエグイ風邪をひいて苦しんでいたのですが、
寝込む直前に観たのがこの作品。
そしたら、熱にうなされるなか、
ナイフで「殺せ!殺せ!殺せ!」のシーンが
目をつむると浮かびあがってくるんですよ。
ハラムがL.T.の腕をいまにも引き裂こうとしているところなんか。

コソボを舞台にしておけば、心を病む過程は十分といえば十分、
でもいきなりおかしくなっちゃった感は否めません。
でも、これはそういった過程がどうこうよりも、
クセモノ役者ふたりのハンティングをじっくり楽しめたらいい作品でしょうね。
ベニチオ・デル・トロほど、目の下のクマが似合う役者はおらん。

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