廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

小ネタ集(国内初期盤の音質はどうなのか)

2024年05月30日 | Jazz LP (国内盤)

ケニー・ドーハム / しずかなるケニー  ( 日本ビクター株式会社 RANK 5086 )

音圧が低くこもっているので、ボリュームを上げて聴くことになる。音量を上げると、音像は立ち上がってくる。各楽器の解像度は悪いが、
ドラムの音色が空間に響く様子は再現されている。ただ、全体的に薄いベールをまとったような音質で、お世辞にも音がいいとは言えない。
やっぱりこのタイトルはステレオプレスに限る。




ケニー・ドーハム五重奏団 / ケニー・ドーハムの肖像  ( 日本ビクター株式会社 RANK 5063 )

こちらの音質はまずまずといったところで悪くない。オリジナルと比較してもさほど大きくは遜色ない、と言ってもいいのではないか。
これが出ているならモンテローズの方も出ていておかしくないはずだが、見たことがない。出なかったのだろうか・・・




カール・パーキンス / イントロデューシング  ( 日 JAPAN SALES CO., LTD. TOKYO LPM 20 )

音圧が低く、ボリュームを上げて聴くことになる。音質自体は精彩があるとは言えない。ジャケットはオリジナルに忠実だが、パーキンスの
顔が写真そのままではなく修整されていて、それがなんだが作るのに失敗した人形のような顔になっていて怖い。ただ、盤のほうはフラット
ディスクになっていて、しっかりとした作りになっている。発売元の会社は当時は芝公園に居を構えていたらしい謎の会社で、そのカタログを
見るとファンタジー・レーベルのレコードを主に再発していたみたいだが、なぜかこれやアーゴの "ZOOT" なんかも混ざっている。
これが出ているのであればデックスの方も出ていてよさそうなものだが、見たことがない。




マイルス・デヴィス五重奏団 / シネ・ジャズ/マイルス~ブレイキー  ( 日本ビクター株式会社 FON-5002 )

音質は頑張っていて、オリジナルとさほど変わらない。複数のジャケットデザインがあるが、私はこのジャケットが1番好きである。
このタイトルは10インチで聴くのには向いておらず、12インチか、若しくはCDで聴くのがいい。CDは音が良くて、未発表トラックも
多数含まれていて素晴らしいと思う。元々が端切れのような断片のような楽曲たちなので、未発表トラックと並べても特に違和感なく聴ける。



最近、中古市場でペラジャケを見ることがめっきり減ったような気がする。処分する人が減ったのか、海外に流れているのか、それとも
お店が抱え込んで出し惜しみしているか。いずれにしても、漁盤はずいぶんとやりにくくなった。最後にペラジャケを拾ったのがいつだったか、
値段は覚えていても時期は思い出せない。

以前は仕事帰りに時間が早ければ店に寄って小一時間くらい遊んで帰るのが楽しかったが、それも今は昔。特にユニオンは少し前から
利益追求型へと露骨に舵を切っていて、以前のいい意味での緩さやいい加減さがなくなり、店舗の魅力が色褪せた。今は店舗に行っても、
「おお、これは!」というのがなく、何となく足も遠のきがち。


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たった1枚のリーダー作

2024年05月19日 | Jazz LP (Time)

Tommy Turrentine / S/T  ( 米 Time Records T/70008 )


トミー・タレンタインのリーダー作はこの1枚しかない。40年代からプロとして活動していたが、そのキャリアはビッグ・バンドのメンバーとしてが
メインで、ソロ活動にはあまり積極的ではなかったようだ。トランペットの腕はしっかりとしているのでポツリポツリとサイドマンとして参加
しているアルバムはあるのだが、そのどれもが印象は薄い。弟のスタンレーとは違い、性格的に前に出ようとするタイプではなかったのだろう。

ただ、ここでの演奏をあらためて聴くと、その輝かしい音色や安定したフレーズに「こんなに上手かったっけ?」と驚かされることになる。
瞬発力で聴かせるのではなく、じっくりと長いフレーズで聴かせるタイプなので聴き手に強い印象を残すことがないのだろうが、よく聴くと
演奏力の高さはすぐわかる。でもリーダー作の割には第1ソロは弟に吹かせたりゲストのプリースターにやらせたり、と自身の演奏スペースは
さほど長くなくて、そういうところも彼の印象が前に出てこない要因になっている。

ビッグ・バンドでの経験からの影響か、3管編成で重奏するテーマ部を持つ曲が多く、アレンジの仕方もビッグ・バンドがよくやる処理になっている
箇所が所々見られる。ハードバップの疾走感を表現するよりは管楽器の重奏パートで音楽に厚みを持たせようとするアプローチになっている。
それがここでの音楽をマイルドな印象に仕上げていて、そういうところにもこの人の人柄が反映されているのではないかと思う。

それでも音楽の基調はハードバップで、トミーが作曲した "Time's Up" や "Two,Three,One,Oh!" などは哀感が漂う名曲で聴き惚れる。
スタンレー・タレンタインは後年のアクの強いプレイとは違ってストレートに重い音色を鳴らしていて見事な演奏を聴かせるし、普段は田舎臭い
雰囲気のプリースターも明るめの音色でクッキリとしたソロを取っていて、演奏全体の纏まり感や質感は非常に高く素晴らしい。
タイム・レーベルらしく音質も良く、これはいいレコードである。



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Kevin Grayは現代のRVGになれるか

2024年05月12日 | Jazz LP (Milestone)

Joe Henderson / Power To The People  ( 米 Craft Recordings / Concord CR00655 )


Kevin Gray がリマスターして再発されるレコードの勢いがすごい。筆頭はブルーノートのシリーズだが、それだけにとどまらず、痒い所に手が届く
ようなタイトルも手掛けていてなかなか目が離せない状況となっている。本当なら片っ端から買って聴いてみたいところだが如何せん値段が高過ぎて
簡単には手が出せず、大抵は指をくわえて見ていることが多いのだが、このタイトルだけは反射的に手が出た。

数年前にジョー・ヘンダーソンのアルバムを聞き直そうといろいろ物色した時にこのアルバムはどうしても見つからず聴けず仕舞いだった。
最近海外のジョー・ヘンダーソンの値段高騰が凄まじく、右に倣えで国内の中古価格も異常な値段が付けられるようになっており、もう聴けない
かなあとあきらめかけていたところだったので、これには小躍りした。元々60年代末の作りが安っぽくなった時期のレコードだからオリジナル盤
にこだわる必要はなく、却って現代の丁寧な作りのものの方がいい。音質もケヴィン・グレイが関与しているのだから大丈夫だろうと思ったが、
これが大当たりだった。

このアルバムの肝はハービー・ハンコックのエレピで、幻想的で浮遊感溢れるサウンドが凄い。ハービーはエレピを従来のジャズピアノのような
使い方ではなく音楽の背景を描くように使っていて、こういうところがロック的な発想で音楽の建付けが根本から違っている。そういう中を
ヘンダーソンのサックスが硬質に引き締まった音色で切り裂くように鳴っており、快楽的である。全体的には叙情的な雰囲気ながらも芯は非常に
硬派なジャズが展開されていて、そのバランス感が絶妙で素晴らしい。

そういう音楽的な感動を支えるのがこのレコードから流れてくる音質。楽器1つ1つの音が丁寧に磨かれたかのように輝いていて艶やかで、
この音楽の実像がありありと浮かび上がってくる。オリジナル盤は聴いていないので比較はできないが、この音質であれば変にオリジナルなど
聴かない方がいいのではないかと思えるくらいに生々しく仕上がっていて、これは素晴らしいレコードだと確信できる。

日本が復刻する場合はいかにオリジナルに近づけるかという発想になりがちだが、それだと結局オリジナルを探せばいいじゃんということになる。
しかし、Tone Poetシリーズに代表される海外の最近の復刻は既存の音源からまったく別の良さを引き出そうとしていて、根本的に発想が違う。
そこには新しい価値が提供されており、かつてのジャズが別の魅力を携えて蘇えるという創造的な仕事をしている。それは、古いSP録音の音源に
磨きをかけてまったく新しい録音であるかのように仕立て上げたヴァン・ゲルダーのやったことに似ている。今まさにその中心をケヴィン・グレイが
担っているのだろう。彼は新しい時代のヴァン・ゲルダーになれるだろうか?



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小ネタ集(Savoyのセカンドレーベルはダメなのか)

2024年05月06日 | Jazz LP (Savoy)



Curtis Fuller / Imagination  ( 米 Savoy Records MG 12144 )


結論から言うとダメではなく、全然アリである。なぜなら、音がまったく同じだからだ。

上段があずきレーベルでセカンド、下段がマルーンレーベルでオリジナルということになるが、どちらにも手書きでRVGとX20の刻印がある。
盤の違いはオリジナルには浅い溝からあることと貼られているレーベルの種類が違うというだけで、それ以外は特に違いはない。
ジャケットのデザインは大幅に変更されているがどちらもなんだかなあというデザインであるところは一緒で、頼りない感じの作りも同じだ。

音は、当たり前ながら、どちらも同じ音が出てくる。典型的なサヴォイのヴァン・ゲルダーの音で、鮮度のいい音で聴ける。
ヴァン・ゲルダー・サウンドと一口で括られることが多いけれど実はそうではない。ブルーノートのRVG、プレスティッジのRVG、サヴォイのRVG、
インパルスのRVGは皆それぞれ音が違う。ヴァン・ゲルダーはレーベル毎に音質を変えており、且つ同一レーベル内では音質を揃えている。
意図してレーベル・カラーというものを作っていたということで、こういうところにこの人の感性と技術力の卓越性があった。

セカンド・レーベルをきちんと聴いていくと「オリジナルが1番音がいい」という言説は正しくないということがわかってくる。



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小ネタ集(Riversideのセカンドレーベルはダメなのか)

2024年05月03日 | Jazz LP (Riverside)



Wes Montgomery / The Incredible Jazz Guitar Of Wes Montgomery  ( 米 Riverside Records RLP12-320 )


結論から言うとダメではなく、全然アリである。なぜなら、音はまったく同じだからだ。

ウェス・モンゴメリーの "インクレディブル" を例にすると、上段が青大レーベルでセカンド、下段が青小レーベルでオリジナルだが、青小レーベル
には BILL GRAUER PRODUCTIONS の後にINC.ロゴの入るものがあってそれが青小レーベルのセカンドプレスになるので、厳密に言うと青大
レーベルはサードプレスくらいになる。

この2つを比べてみると、違いがあるのは盤の材質というか仕上げが少し違っていることと貼られているレーベルが違うくらいで、ジャケットは
まったく同じものが使われている。だからレコードを実際に手に取って見てみると、その質感はほとんど同じで何も変わらない。青大は2年後の
リリースということになっているが、製造自体はそんなには離れていないんじゃないかと思う。

で、肝心の音質だが、これがまったく同じ音。注意深く聴き比べてみるけど、まったく同じ音質だ。タイトルによっては違うものもあるかも
しれないが、エヴァンスの "ポートレート" も以前青大を持っていて聴き比べていたがまったく同じ音だったから、おそらくは多くのタイトルで
同様だろうと思う。これはプレスティッジのN.Y.CレーベルとNJレーベルでも同じことが言える。

この2つの価格差はおよそ7~8倍。今はオリジナルの価格が以前の2~3倍になっていて、すべてのタイトルをオリジナルで聴くのは不可能だから、
セカンドであっても躊躇することなく聴けばいいと思う。50年代のレーベルは概ねどれもオリジナルとセカンドの製造時期は隣接していて、同じ
マスターテープを使い、同じ技師がカッティングしているケースがほとんど。現在ネットやSNSでさかんに語られている "オリジナル神話" は
レコード人口の増加に伴い話の内容が雑になってきていて質も劣化しているので、自分の耳で確かめるのが1番いい。



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ミルト・ジャクソンとワンホーン(2)

2024年04月28日 | Jazz LP (Savoy)
Milt Jackson, Frank Wess / Opus De Jazz  ( 米 Savoy Records MG 12036 )
 
 
ミルト・ジャクソンとワンホーンによる代表作ということになると、やはりこれが筆頭ということになる。フルートをホーンという言葉で扱っていいのか
どうかは微妙な気もするけれど、ジャズの世界では毛嫌いされるフルートでここまで素晴らしい作品となったのはほとんど奇跡のように思える。
 
その成功の原因はとにかくフランク・ウェスがフルートを丁寧に静かに吹いたことに尽きる。そしてなぜフランク・ウェスがそんな風に静かに吹いたかと
いうと、収録された全曲が静かで穏やかなテンポで設定されたからだ。こういう雰囲気の中ではフルートでがなり立てる必要がそもそもなかった。
 
フルートは大きな音を出すようには設計されていないので、元々ジャズには向いていない。なのでジャズの中で大きな音で感情的に吹こうとすると
風切り音になってしまう。それはこの楽器本来の音ではないから、耳障りで不快な騒音としか感じられなくなる。それがわかっているから、ここでは
フルートがその本来の美しい音色を発揮できるよう静かな楽曲が選ばれている。
 
その最たるものが "You Leave Me Breathless" で、この曲を初めて聴いた時の衝撃は凄まじいものがあった。深淵の奥底から立ち昇ってくるその幽玄さは
ジャズというにはあまりに異質で、それでいて目が眩むような美しさを放っている。Opus という単語を使っていることからもわかるように、音楽的な
質の高さに制作側も驚いたのだろうと思う。
 
そして、ここで展開される音楽の総仕上げをするのがヴァン・ゲルダー。クールな残響感で全体を大きく覆い、楽器の音色の美しさを最大限に引き出した
録音と再生は単なる技術論で語るにはあまりに芸術的で、ここでの彼は録音技師としてではなく音楽の創造に携わった芸術家の1人として語るに相応しい。
 
 
 
 
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ミルト・ジャクソンとワン・ホーン(1)

2024年04月22日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Milt Jackson / In A New Setting  ( 米 Limelight LM 82006 )


繊細で上質でブルージーなミルト・ジャクソンは、意外とワン・ホーンがよく合う。本来であればそういう持ち味を味わうにはシンプルな構成の方が
良さそうなものだが、管楽器が1本入ることでその分音楽に幅ができるからかもしれない。リード楽器でもあり、和音楽器でもあるこの不思議な
音色を持つ楽器はある時は背景として、ある時は相方として管楽器に寄り添う。その理想形の1つがミルト・ジャクソンのアルバム群の中にある。

マッコイ・タイナー、ボブ・クランショウが参加しているところがいかにも60年代だが、メインストリーム・ジャズながら音楽が古臭くないところが
こういうメンバーに依るところなんだろう。でも、音楽が60年代の箍が外れた感じはなく、しっかりとメインストリームに漬かっているのは
ジミー・ヒースという中庸のサックス奏者のおかげだろうと思う。誰一人尖ったことをやろうとはせず、ミルト・ジャクソンという大物を立てながら
足並みを揃えて演奏を進めていく。

静かな楽曲ではマッコイのピアノの音色が美しく、まるでコルトレーンの "Ballads" のような雰囲気があるし、マイナー・キーのアップテンポな
楽曲ではまるでルパン三世のサントラかと思わせるような粋な演奏を聴かせる。そんな風に、このアルバムは何より音楽が素晴らしい。
おそらくはロックの影響か、各楽曲の演奏時間が短く設定されており、途中でフェイド・アウトするような編集を施されたものもあったりして、
もっと聴きたいという気持ちを搔き立てながらもダレることなく小気味よくサクサクと進んでいき、これも悪くない。

頑固な50年代のジャズに固執することなく、もっと軽やかにステップを踏むような感じが何とも爽快で、それでいて注意深く聴くととても高度な
演奏力に支えられていることがよくわかる、素晴らしい内容だ。ライムライトはいいレコードを作った。このレコードは私のお気に入り。



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選曲の良さに見る天才

2024年04月13日 | Jazz LP (RCA)

Bud Powell / Swingin' With Bud  ( 米 RCA Records LPM-1507 )


レッド・ロドニーの演奏する "Shaw Nuff" を聴いていてすぐに思い出したのがこのパウエルの演奏で、私の中ではこの曲の基準はパウエルのこの
レコードになっている。もちろんパーカー&ガレスピーの演奏がマスターピースで、管楽器で演奏するのが正道だろうと思うけど、ピアノで弾く
この曲の良さには独特なものがあるのを証明している。ピアノ奏者が演奏している例は少ないようだけど、ビ・バップを作った面々の一人である
パウエルならではということなのだろう。

バド・パウエルはモダン・ジャズ・ピアノの演奏スタイルを作った人なのでその路線で語られることがほとんどだけど、私はそういう話にはあまり
興味がなくて、この人の音楽センスにシビれて心酔している。このレコードはたくさん残っているパウエルの記録の中でもそういう彼のセンス、
つまり作曲能力や素晴らしい楽曲を選ぶセンス、そして音楽の良さを大事にする演奏という点で筆頭に挙げられるものだと思っている。

彼は素晴らしい曲を書ける人で、ここでは名曲 "Oblivion" や "Midway" が収録されている。"Oblivion" はマーキュリー盤が初演であちらはソロ演奏
だけど、こちらはトリオでより豊かな雰囲気に仕上がっている。いくら演奏力が高くても、楽曲がつまらなければ聴いていても面白くない。

また、演奏する楽曲を選ぶセンスにも長けていて、このアルバムではジョージ・シアリングの "She" やトミー・フラナガンがムーズビル盤で冒頭に
置いた "In The Blue Of The Evening" 、ジョージ・デュヴィヴィエの "Another Dozen" のような名曲を選んでいる。マイルスやキース・ジャレットが
選曲力の良さで知られているけど、その元祖はパウエルだったのだと思う。これらの知られざる名曲があるあかげで、このアルバムは上質な香り
が濃厚に漂う仕上がりになっている。

そして、こういう優れた楽曲たちの原曲が持つ良さを最大限に生かすように旋律を大事にしながら驚異的なアドリブを混ぜて弾くところに
バド・パウエルのバド・パウエルたる所以がある。演奏力の凄さだけではなく、総合的に豊かな音楽を生み出す天才を感じるのだ。

そして、このジャケットの写真はバート・ゴールドブラットが撮影している。写真の構図としては平凡だが、なぜか心に残る写真ではないか。
そういういろんな面を持った素晴らしい1枚となっている。


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数少ない作品の中の1つ

2024年04月08日 | Jazz LP (Argo)

Red Rodney / Returns  ( 米 Argo LP 643 )


40年代からプロとして活動し、パーカーの傍にいることができたという僥倖に恵まれたにも関わらず、ドラッグで身を持ち崩し、50~60年代は
その足跡がまともに残せなかったレッド・ロドニー。アルバムは12インチは3枚しか残っておらず、上手いトランペッターだっただけに何とも
残念なことだ。

シカゴのローカルメンバーをバックに録音されたこのアルバムはハードバップの豊かな香りが立ち込める名作。ビッグバンドや裏方の活動が主で
自己のリーダー作を持たないビリー・ルートを迎えた2管編成の王道で、このレーベルのイメージにはそぐわない程の本格的なハードバップを
聴かせる。パウエルの名演を想い出す "Shaw Nuff" で幕が開き、緩急自在な曲を並べる構成も見事でこのアルバムは非常によくできている。

テナーのビリー・ルートの存在感が大きく、この人抜きにはこのアルバムは語れない。太くマイルドな音色、適切な音量とスピード感、自己主張を
控えた演奏なのにそういう美点が彼の存在を大きく前に押し出す。この優れたテナーを軸に、無名のバックのトリオも堅牢な演奏を聴かせて
音楽を支える。メンバーに恵まれたロドニーも非常によく歌う見事な演奏に終始する。どこからどう聴いても、これは傑作だとわかるだろう。

これほどのアルバムが作れるのに、アルバム数が少ないというのは惜しいことである。「リターンズ」というタイトルが付くアルバムは例外なく
麻薬禍でシーンから一時消えたミュージシャンの復帰作に付けられるもので、本来は不名誉なものだ。アート・ペッパー、デクスター・ゴードン、
ハワード・マギー、と数え始めればキリがないが、ジャズが一番よかった50年代後半に本来であればもっとたくさんのアルバムを出せたはずなのに
と悔やまれる人は多い。貧しく、教養もなく、モラルも低い層がこの音楽をやっていたということだけど、そういうことが信じられないくらいに
残された音楽は素晴らしい。ジャズというのは不思議な音楽だとつくづく思う。



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小ネタ集(Clef、Norgran編)

2024年03月23日 | Jazz LP (Verve)
最近レコード屋に行ってお店のご主人と話しをしていると、例外なく村上春樹さんの「デヴィッド・ストーン・マーティンの素晴らしい世界」の
話しがまるで口裏を合わせたかのように出てくる。それぞれの文脈は違えどこれだけ複数の人から同時にこの話題が出てくるのだから、その
影響力はさすがだなあと思う。「じゃあ、クレフやノーグランのレコードは売れてます?」と訊くと、そこは意外とそうでもないらしい。
まあ、買う側も「本は本だし」ということでそこは冷静なのかもしれない。

DSMと言えばクレフやノーグランのレコードということになるけど、このレーベルのレコードについては昔から疑問に思っていることがあって、
それが長年未解決のままで残っている。

1.番号あり/なしのジャケットは2作品だけなのか?

下のスタン・ゲッツとパーカーのレコードは、ジャケットの表面左上に「MG X-XXX」というレコード番号が書かれているものと書かれていない
ものの2種類があって、書かれていないタイプが初出だとされている。

 


 

きっと「やっべぇ、うっかり番号を入れるの忘れちゃったよ、まあ次から入れておけばいいよね、誰も気が付かないでしょ」みたいな感じだった
のだろうと思うけど、こういうのはよくわかるのである。だから番号なしが先というのはそうなのかなと私も思うんだけど、こういうのはこの
2タイトルだけなのか?というのがいつも疑問に思うこと。私自身はDSMジャケットなら何でも買うというタイプではないので、これ以外のものが
どうなっているのかがよくわからない。


2."Jazz Series" ロゴのあり/なしはどちらが初出か

クレフ・レーベルには同一タイトルでトランペッターのイラストの腰あたりに "Jazz Series" というロゴがあるものとないものがある。
レーベル下部の "Jazz At The Philharmonic" ロゴについては最近よく言及されるけど、この"Jazz Series" についてはどちらが先なのだろう。

スタン・ゲッツの2枚の10インチには、この "Jazz Series" ロゴがあるものとないものが存在して、私はないタイプのほうが先だったのだろうと
思ったから、わざわざそちらを探して買った。




"Jazz Series" ロゴがないタイプが先だと思ったのにはいくつか理由がある。

・ロゴなしタイプの方が圧倒的に数が少ない
・パーカーを例に取ると、"S/T" はクレフがオリジナルで "Jazz Series" ロゴはないが、"South Of The Border" はマーキュリーが初出でクレフは
 セカンドとなり、"Jazz Series"ロゴがある




・バド・パウエルの "Moods" のように、クレフの前身であるマーキュリーにはこのロゴはない。このレーベルはマーキュリー→クレフ→ヴァーヴ
 という変遷を辿るので、クレフの最初はマーキュリーのデザインをそのまま流用したのだろうと推測できる。




但し、このロゴがあってもなくても、盤の材質や形状、質感には何も違いはないし、音質もまったく一緒。なので、この件は特にこだわる
必要はない、というのが私の結論である。


3."Big Band" にはマーキュリー・レーベルが本当にあるのか

パーカーの "Big Band" の初出はマーキュリー・レーベルだという話があるが、私は40年近くレコード漁りをしていて、1度も見たことがない。
このレコードは愛聴盤なので見かけると必ずチェックしてきたが、そのすべてがクレフだった。本当にあるのだろうか?

また、村上さんはこのレコードを「10インチ盤」と書かれているが、これは12インチの間違いで、そこはご愛敬。そういう勘違いも含めて
レコードの話は楽しいのである。





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ジョー・ゴードンに見出されたアルト

2024年03月17日 | Jazz LP (Contemporary)

Jimmy Woods / Awakening  ( 米 Contemporary Records M 3605 )


ジョー・ゴードンは最後のリーダー作にジミー・ウッズというアルト奏者を呼んだが、おそらくはこの時の演奏が注目されたのだろう、2か月後に
ほぼ同一のメンバーによる録音と別のメンバーによる録音が行われて1枚のアルバムが制作された。これがウッズの初リーダー作になる。
ジョー・ゴードンとの演奏は今度はジミー・ウッズ側から見た音楽という切り口になっていて、ジョー・ゴードンはサポートに回っている。

こちらもゴードンに倣ったかのようにウッズ自作のオリジナルが大半を占めており、意欲的な内容で聴き応えがある。楽曲はゴードンと同様に
ハード・バップからは脱した新しい感覚の音楽になっているが、ウッズ自身のアルトが同時期に出てきたドルフィーに少し似た演奏をしており、
ゴードンのアルバムよりも半歩先を行くような印象を覚える。

61年のゴードン他との録音では曲数が足りなかったのか翌年にワンホーンで追加録音をしており、ゲイリー・ピーコックが参加している。
こちらの演奏は先の録音のものとは少し雰囲気が違っており、しっとりとした抒情的な表情を見せている。そのせいでアルバムとしての統一感には
やや欠けるけど、こちらの演奏も見事な出来である。これだけで1枚作ってもらいたかった。

ジミー・ウッズもこの後もう1枚のリーダー作を作って、その後は途絶えてしまっている。レコード・デビューが遅かったのがまずかったのだろう、
60年代も半ばになるとこういう従来の主流的ジャズは急速に市場から締め出されるようになる。ちょうどその時期だった。どんなに優れた音楽が
出来ても、それは時代のニーズには合わないと見做されてレコードが作られることはなくなっていった。彼のこの後の足跡はよくわからない。
だからこうして辛うじて残されたレコードをコツコツと聴くしかないのだ。



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あるトランペッターの進化(3)

2024年03月13日 | Jazz LP (Contemporary)

Joe Gordon / Lookin' Good  ( 米 Contemporary Records M 3597 )


ジョー・ゴードンはシェリー・マンのバンドを経て1961年に2枚目のリーダー作を作るが、これが音楽的に見事な進化を遂げた傑作になっている。
西海岸での録音だったのでコンテンポラリーが受け皿になっているが、このレーベルのカラーには馴染まない東海岸的なポスト・ハードバップで、
この音楽的変遷はまるでマイルスのそれを思わせる。ここで聴かれる音楽はまるで現代のメインストリーマーたちがやっているような超モダンな
感覚で、彼のエマーシー録音からの7年間はまるでジャズが辿った70年間に相当するかのような錯覚を覚える。

このアルバムはジャケットにも記載があるようにスタンダードは排した全曲ジョー・ゴードンのオリジナルで、彼がトランペット奏者ではなく
音楽家であることを指向していたことがわかる。単にその時代のジャズを演奏しましたということではなく、自分の中に澱のように溜まっていた
音楽的な想いを自身でメロディー化して演奏したところにその他大勢のアルバムとは一線を画す価値がある。どの曲もわかりやすいメロディーで
構成されていて、この時期に台頭していたニュー・ジャズの影響もまったくない。憂いに満ちた翳りのある楽曲も多数あり素晴らしい出来だ。

相方にはエリック・ドルフィーのエピゴーネンのようなジミー・ウッズを選んでいるところが面白いが、このアルバムは全体の雰囲気がゴードンの
曲想で統一されているので、ウッズの個性もうまくその中で中和されていて適度なアクセントとして機能している。全体の演奏にはキレがあり、
ダレる瞬間もまったくなく、正対してじっくり聴くとそのクォリティーの高さには感銘を受ける。

短い期間の中でこれほど正統的に進化を遂げた人はなかなか珍しいのではないか。真面目に音楽に取り組んだことがきちんと形に残るところが
素晴らしいし、何より音楽が変に捻じれておらず、スジがいいところがよかった。彼の音楽や演奏はこの2か月後の別の録音で途絶えてしまうのが
何とも残念でならない。



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あるトランペッターの進化(2)

2024年03月09日 | Jazz LP (Contemporary)

Shelly Mann & His Men / At The Blck Hawk Vol.1  ( 米 Contemporary Records M 3577 )


ジョー・ゴードンのようなマイナーなアーティストになるとその詳細な足跡はわからないが、どうやら1958年に西海岸へ移ったらしい。
どういう理由で西海岸へ行くことになったのかもよくわからないけど、西海岸には彼のようなブラウニー直系のトランペッターがいなかった
からか、すぐに仕事に就くこともできたようで、亡くなる1963年まで彼の地で活動した。

そして1959年頃からはシェリー・マンのバンドの常設メンバーとして参加するようになり、このバンドのカラーを変えることに成功している。
それまでのシェリー・マンのバンドと言えば退屈な編曲重視のアンサンブルものが多く、各メンバーの実力が活かされることのない駄作を
量産していたが、ジョー・ゴードンが加わってからのこのバンドはまるで別のグループへと変貌を遂げた。非常に洗練されたハード・バップの
一流バンドへと。

その最も理想的な成果がこの4枚のアルバムに収められている。コンテンポラリーからのリリースなので一連のシェリー・マンのレコードの中に
埋もれがちだが、これは西海岸で最も優れたジャズ・グループによるスイートで心奪われる名作である。ライヴにも関わらず、まるでスタジオで
演奏されているかのような端正で抑制の効いた演奏が素晴らしい。

まず何と言っても、リッチー・カミューカのテナーに聴き惚れることになる。この人はその実力の割に作品に恵まれず、一般的に代表作と言われる
モード盤もこの人の本質を捉えているとはとても言えず、この4枚のライヴに比べると退屈極まりない駄盤に思えてくる。それに比べてここでの
ふくよかで濃厚な音色によってこれ以上なくなめらかに旋律が歌われる様は筆舌に尽くしがたい。他のレコードで聴く演奏とはまるで別人のよう。

デビュー盤ではブラウニーの影響下にあるような演奏をしていたゴードンは、ここでは各所でデリケートな演奏を聴かせる。"Summertime" や
"Whisper Not" ではマイルスばりのミュートで魅了するし、アップテンポの曲でも伸びやかなトーンとリズムを外すことのないタイム感で
アドリブフレーズを奏でる。どの局面でも音数が適切でここまで豊かな表情で安定した演奏をするトランペットはちょっと珍しいのではないか。
彼の演奏の雰囲気が著しく好ましい方向へと進化しているのが何とも嬉しい。

通常であれば1枚のアルバムとしてまとめるであろうところを4分冊でリリースしているところからも、レーベル側が演奏を切り落とすところが
ないと判断したことが伺える。現にこの演奏はちょっと、というところがどこにもない。アルバム4枚に分けてリリースするというのは異例の扱い
だが、冗長さを感じることはなく、この演奏であればもっと聴きたいという欲求を満たしてくれる。

東海岸のビ・バップに対抗するために始まった西海岸の白人ジャズが初期の形式から脱出しようとした時期にジョー・ゴードンとの邂逅に恵まれ、
世の中の状況に敏感だったシェリー・マンが彼を軸に新しいバンドを作ったのだろう。ジョー・ゴードンにはそうさせる力があったということ
だったのではないかと思う。













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あるトランペッターの進化

2024年03月02日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Joe Godon / Introducing Joe Gordon  ( 米 Emercy Records MG-36025 )


ジョー・ゴードンは1963年に寝煙草が原因の火事で亡くなっている。リーダー作はこの1954年吹き込みのデビュー作を含めて2枚しかないので
一般的知名度は限りなく低いが、サイドマンとしてはコンスタントに演奏が残っていて、当時は有能な演奏家として評価されていた。
大体がこの "Introducing~" というタイトルで登場する人は将来を嘱望されていたケースが多く、その早すぎる死は惜しまれる。

プロとして活動を始めたのが1947年ということだからまったくの新人というわけではなく、そろそろリーダー作を作ってもいいのでは、という
ことで吹き込まれたのだろう。演奏は堂々としたものであり、ラッパもよく鳴っている。1954年と言えばビ・バップがハード・バップへと移行
しつつあった端境期で、このアルバムも様式としてはハード・バップだが、まだ形式的な成熟は見られず、生まれて間もない不安定さの中を
ビ・バップの荒々しい演奏スタイルで進むという内容で、クリフォード・ブラウンがアート・ブレイキーのバンドにいた時の音楽にそっくりだ。
ここにもブレイキーが参加しているので、まさにアート・ブレイキー・クインテットと言われても何も違和感がない内容だ。

クインシー・ジョーンズが作曲した曲を多く取り上げているのがこのアルバムの特徴で、なぜそういうメニューにしたのかはよくわからないが、
スタンダードをまったく入れずに1枚のアルバムを作るところにこの人の音楽上の信念が伺える。そのおかげで非常に硬派な音楽になっていて、
筋金入りの本当のジャズ好きだけに好まれるようなアルバムになっていると思う。そんな中でもクインシー作の "Bouse Bier" が憂いのある
マイナーキーの佳曲で、素晴らしい出来だ。

ただ、この人はこういう荒々しい演奏だけには留まらなかった。この後、西海岸へ移って活動をするのだが、そこで音楽的な進化を遂げる。
そこがこの人の評価ポイントであり、素晴らしいところだったと思う。今回この人を取り上げたのはそのことを書きたかったからに他ならない。
このアルバムはそのイントロである。



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秋吉敏子の貴重な50年代ライヴ

2024年02月18日 | Jazz LP (Verve)

Toshiko Akiyoshi & Leon Sash / At Newport  ( 米 Verve Records MG V-8236 )


ジョージ・ウェインによって1954年に始められたニューポート・ジャズ・フェスティヴァルは現在も続いているのだから驚かされる。真夏の野外で
催されるというのは我々の凝り固まったジャズというイメージには凡そ合わないが、アメリカはそういう価値観ではないのだろう。当時としては
画期的だったようで、1958年には「真夏の夜のジャズ」として映画化もされる。原題には "Night" という単語はなく、「或る夏の日」というのが
正確な訳になる。

ノーマン・グランツの秘蔵っ子だった秋吉敏子もピアノ・トリオとして出演しており、その様子がこのレコードに収められている。写真で見ると
和装だったようで、真夏の野外なのに何とも気の毒なことだが、映画の中に出てくる観客はあまり暑そうな様子はなく、中には上着を着ている
人も多くいるから、日本にような蒸し暑さはなかったのかもしれない。

可愛らしい声で曲名を紹介しながら演奏しているところは生真面目な日本人らしいが、その演奏は骨太なもので、当時の彼女の演奏スタイルが
よくわかる内容となっている。彼女の演奏を聴いていると、ジャズというのは1音1音に思いを込めて演奏する音楽なんだなということを思い
知らされる。そういう音と音の無数の繋がりが大きなうねりとなって聴き手の心を揺さぶるのだ。50年代の彼女の演奏が聴けるレコードは
さほど多く残っているわけではないから、これは重要な一枚と言える。

ヴァーブのこのシリーズには裏面のレオン・サッシュのようにこのレーベルでは他には聴けない多くのアーティストの演奏が含まれていて、
そのどれもが貴重な記録となっている。ドナルド・バードのジャズ・ラボとセシル・テイラーの演奏が含まれたものがよく知られているが、
それ以外の組み合わせも面白く聴くことができる。



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