漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「廾キョウ」<両手>と「共キョウ」「供キョウ」「恭キョウ」「洪コウ」「哄コウ」「鬨コウ」「巷コウ」「港コウ」

2024年06月10日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 キョウ  廾部にじゅうあし     

解字 左右の手を向きあわせた形。両手にものを載せてささげる意味につかう。部首になる。
意味 両手でささげる。
参考 キョウは両手をつかう意で部首「廾にじゅうあし」になる。廾部は常用漢字で3字、約14,600字を収録する『新漢語林』では20字が収録されている。常用漢字は以下のとおり。
キョウ (部首)
ヘイ・やぶれる(廾+音符「敝ヘイ」)
ロウ・もてあそぶ(王(玉)+廾の会意)
ベン・かんむり他(ム+廾の会意)


    キョウ <両手でささげる>
 キョウ・ク・とも  ハ部          

解字 甲骨文は「四角形の供物+両手(廾キョウ)」で、お供え物を両手でもち、供えるかたち。発音のキョウは両手の廾キョウが表している。金文も供物の形が少し異なるだけで、ほぼ同じ。[簡明金文詞典]の意味は、①供える。②恭敬キョウケイ(つつしみ敬う)。③(供物の)玉器、となっている。篆文で供物が廿のような形に変化し、下に両手がつく。後漢の[説文解字]は、「同也(なり)。廿に従い廾キョウに従う」とする。同は、①同じ意味のほか、②ともにする・いっしょに、の意味があり、こちらを指している。甲骨・金文の「そなえる」意は音符のイメージに出てくる。漢字検索のための部首は「ハ」。
意味 ともに(共に)。いっしょに。「共同キョウドウ」(二人以上の者が力を合わせる)「共学キョウガク」(男女が同じ学校で共に学ぶ)「共鳴キョウメイ」(共に同感の念を起こす)「共産キョウサン」(資産・生産手段などを共有する)「共倒(ともだお)れ」「共食(ともぐ)い」

イメージ 
 「ともに・いっしょに」
(共・洪・哄・鬨)
  両手でものを「そなえる・ささげる」(供・恭・拱)
 「その他」(巷・港)
音の変化  キョウ:共・供・恭・拱  コウ:洪・哄・鬨・巷・港

ともに・いっしょに
 コウ  氵部
解字 「氵(水)+共(いっしょに)」の会意形声。水がいっせいに出ること。
意味 (1)おおみず。「洪水コウズイ」「洪積世コウセキセイ」(洪水の堆積物に覆われた時代の意。実際は洪水でなく氷河に覆われた時代)(2)おおきい。すぐれた。「洪恩コウオン」(大きな恩)
 コウ  口部
解字 「口(くち)+共(いっしょに)」の会意形声。大勢の人がいっしょに口から声を出すこと。
意味 どよめく。どよめき。「哄笑コウショウ」(どよめいて笑う。大声で笑う)「哄堂コウドウ」(その場の人がみな笑う)
 コウ・とき  鬥部
解字 「鬥トウ(たたかい)+共(いっしょに)」 の会意形声。トウは戦いの意。鬨コウは、戦いのとき一斉に声を出すこと。
意味 とき(鬨)。ときの声。戦場などで士気を高めるために一斉にあげる声。「勝鬨かちどき」(勝利して一斉に出す歓声)「鬨頭ときがしら」(ときの声を最初に出す大将)

そなえる・ささげる
 キョウ・ク・とも・そなえる  イ部
解字 「イ(人)+共(そなえる)」の会意形声。人が物をおそなえする、さしだす意。
意味 (1)そなえる(供える)。神仏にそなえる。「供物クモツ」(2)すすめる。さし出す。「供出キョウシュツ」(3)事情をのべる。「供述キョウジュツ」「自供ジキョウ」(4)とも(供)。仕える。ともにする。「供奉キョウホウ・グブ」(①貴人のそばで用をつとめる。②行幸などの行列に加わる。)
 キョウ・うやうやしい  㣺(心)部
解字 「㣺(心)+共(ささげる)」の会意形声。目上の人にものをささげる時のかしこまった気持ち。
意味 うやうやしい(恭しい)。かしこまる。つつしむ。「恭順キュウジュン」(つつしんで従う)「恭賀キョウガ」(うやうやしく祝う)「恭孝キョウコウ」(つつしんで父母に仕える)
 キョウ・こまぬく・こまねく  扌部
 
拱手キョウシュ(「百度」より)
解字 「扌(手)+共(ささげる⇒両手をだした形)」の会意形声。ささげた両手を胸もとで合わせ拝礼をすること。日本では、腕組みをする意となる。
意味 こまぬく(拱く)。こまねく(拱く)。(1)両手を胸の前に重ねあわせて敬礼する。「拱手キョウシュ」(中国で敬礼の一つ)(2)[国]腕組みをして何もしない。「手を拱(こまね)く」「拱手傍観キョウシュボウカン」(腕を組んで見ているだけで何もしない) 

その他
 コウ・ちまた  己部

解字 篆文は 「邑ユウ(まち)+共(いっしょに)」の会意形声。まちの人々が一緒にくらすこと。また、まちなかの小道をいう。現代字は、篆文の邑ユウ⇒巳に変化した巷コウになった。意味は、町のなか・世間、および町中の道。※日本語の「ちまた」は「道股ちまた」で、①道が方々へ分け行くところの意、転じて里や町の中の道などの意味がある。
意味 ちまた(巷)。①町の中の道。②町の中。世間。「巷ちまたの声」「巷間コウカン」(町の中。世上)「巷説コウセツ」(ちまたのうわさ=巷談)
 コウ・みなと  氵部
解字 旧字は「氵(川)+巷(町の道)」の会意形声。町の道が川と接するところ。町の道から人や荷物が川船に乗りかえるところをいう。のち、海に面した港が発達した。新字体は巷の下部が己に変化。
意味 (1)みなと(港)。船の発着所。「出港シュッコウ」「母港ボコウ」「漁港ギョコウ」(2)飛行機の発着所。「空港クウコウ
 <紫色は常用漢字>

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音符「塞ソク」 < ふさぐ >「寨サイ」「賽サイ」 と 「寒カン」「蹇ケン」「騫ケン」

2024年06月08日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ソク・サイ・ふさぐ・ふさがる  土部

解字 甲骨文は、「宀(たてもの)+工ふたつ(工具)+両手」の会意。両手に工具をもち家屋に空いた穴をふさぐことを表す[甲骨文字辞典]。篆文で工が4つになり、両手の下に土がついた形となり、土で家屋の穴をふさぐ形となった。現代字は上部が簡略化された塞になり、ふさぐ・とざす意。
意味 (1)ソクの発音。ふさぐ(塞ぐ)。ふさがる(塞がる)。とざす。「梗塞コウソク」(ふさがる。梗も塞もふさがる意)「脳梗塞ノウコウソク」(脳血管の一部がふさがる疾患)「閉塞ヘイソク」(閉ざして塞ぐ)「塞源ソクゲン」(源みなもとを塞ぐ)「塞栓ソクセン」(塞も栓も、ふさぐ意。血管をふさぐ不溶物。⇒塞栓症ソクセンショウ) (2)サイの発音。とりで。「要塞ヨウサイ」(かなめとなるとりで。堅固なとりで)「山塞サンサイ」(①山中のとりで。②山賊のすみか)「城塞ジョウサイ」(しろ。とりで。=城砦ジョウサイ)「塞外サイガイ」(①とりでの外。②万里の長城の外)

イメージ 
 「建物をふさぐ」
(塞・寨・賽)
音の変化  ソク・サイ:塞  サイ:寨・賽 
 
建物をふさぐ
 サイ・とりで  木部
解字 「木(き)+塞の上部(建物をふさぐ)」の会意形声。木の柵をめぐらして建物をふさいだとりで。
意味 (1)とりで(寨)。小さな山城。「山寨サンサイ」「賊寨ゾクサイ」(賊のたてこもる寨)「堡寨ホウサイ」(堡も寨も、とりでの意)「鹿寨ロクサイ」(=鹿砦ロクサイ。鹿垣ししがき。鹿や敵の侵入をふせぐ垣根)(2)木の柵。
 サイ  貝部

解字 篆文は「宀(たてもの)+工四つ(工具)+両手+貝」の会意形声。「貝(財貨)+塞の上部(建物をふさぐ)」で、建物を財貨でふさぐ、つまり建物に財貨を奉納する形。この建物は神社で、神さまに感謝して財貨を奉納する(賽銭をあげる)こと。また、その祭り。祭りの時、神の意志を確かめるため行なう神占いの道具であるサイコロ(賽子)の意ともなる。のち、サイコロで賭けごとをするので勝負する意となる。
意味 (1)お礼まいり。おまいり。「賽銭サイセン」(神に感謝して奉納するお金)(2)さい(賽)。サイコロ。「賽子さいころ」(神占いの道具)(3)優劣を競う。「賽馬サイバ」(くらべ馬)

   カン <さむい>
 カン・さむい  宀部

解字 金文は「宀(建物)+屮(草)四つ+人+冫(こおり)」の会意。屋内に草を敷きつめ、人(足つき)がその中で、下にある冫(こおり=さむさ)を避けている形で、さむい意味を表わす。篆文は屮(草)が二つになり、その下に人と両手と冫(こおり)がつき両手で草を敷きつめる形になった。現代字は「塞ソク」と上部の形は同じになったが、塞は土で建物の穴をふさぐ形なのに対し、寒は草を建物に敷きつめて、冷たい物(冫:こおり)が来ないよう防いでいる形である。新字体は冬と同じく下に氷(冫:こおり)がこない寒となった。が、私はこの変化はすべきでないと思う。
意味 (1)さむい(寒い)。つめたい。「寒気カンキ」「寒帯カンタイ」(2)さびしい。貧しい。「寒村カンソン」「寒煙カンエン」(ものさびしく立つ煙り)(3)ぞっとする。「寒心カンシン」(恐ろしさや心配で心がぞっとする)「寒慄カンリツ」(ぞっとしておののく)

イメージ 
 「さむい」
(寒・蹇)
 「形声字」(騫) 
音の変化  カン:寒  ケン:蹇・騫

さむい
 ケン・なやむ  足部
解字 「足(あし)+寒の略体(さむい)」の会意形声。寒さのため足が動かず歩行に苦労すること。
意味 (1)あしなえ。歩行に苦労する。「蹇歩ケンポ」(うまくあるけない)(2)なやむ(む)。苦労する。難儀する。「蹇渋ケンジュウ」(なやみとどこおる)「蹇蹇ケンケン」(①苦しみなやむ。②忠義をつくす)「蹇蹇匪躬ケンケンヒキュウ」(「王臣蹇蹇匪躬之故(易経)」(王臣は苦労を重ねて君に尽くし我が躬を考えることも匪(あら)ぬ故。)

形声字
 ケン  馬部
解字 「馬(うま)+寒の略体(カン⇒ケン)」の形声。「馬(うま)+音符・ケン」となり、多様な意味がある。
意味 (1)馬が疾走することをケンという。かける。とぶ。あがる意となる。「騫騫ケンケン」(とぶ。かける)「騫騰ケントウ」(飛びあがる)「騫挙ケンキョ」(勢いよく挙がる。筆勢をいう)(2)馬の腹部が寒さで損なわれることをケンという。そこなう意となる。「騫損ケンソン」(そこなう)「騫義ケンギ」(義を欠く)(3)人名。「張騫チョウケン」(前漢の外交使節。武帝の命により大月氏国に派遣されたが、途中で匈奴に捕まり十余年拘留された。脱走して大月氏に達し、のち漢に戻り、多くの西域での見聞を伝えた)
<紫色は常用漢字>

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音符 「雨ウ」<あめ> と 「屚ロウ」「漏ロウ」

2024年06月06日 | 漢字の音符
 部首「雨かんむり」を追加しました。
 ウ・あめ・あま   雨部 yǔ・yù          

解字 天から雨がふるさまを描いた象形。小点は雨粒。天の形は甲骨文の一型および山を逆さにした型から、篆文で帀へと変化し現在の雨になった。あめ・あめがふる意となる。
意味 (1)あめ(雨)。あめがふる。うるおす。「雨天ウテン」「雨水あまみず」「降雨コウウ」 (2)絶え間なく落ちてくるもの。「砲弾の雨」
参考 雨は部首「雨あめ・あめかんむり」になる。漢字の上部(かんむり)について雨に関する意味を表す。常用漢字で13字、[新漢語林]で合計68字が収録されている。
常用漢字は以下のとおり。
ウ・あめ (部首)
ウン・くも(雨+音符「云ウン」)
ジュ・もとめる(雨+而の会意)
シン・ふるえる(雨+音符「辰シン」)
セツ・ゆき(雨+ヨの会意)
ソウ・しも(雨+音符「相ソウ」)
デン(雨+音符「申シン」)
フン(雨+音符「分ブン」)
ム・きり(雨+音符「務ム」)
ライ・かみなり(雨+田の会意)
レイ・こぼれる(雨+音符「令レイ」)
霊[靈]レイ・たま(巫(みこ)+音符「霝レイ・あまごい」)
ロ・つゆ(雨+音符「路ロ」)
 このうち、会意文字である雪セツ・雷ライ・需ジュ、は音符になる。

イメージ 
 「あめ」
(雨・屚) 
 「もる(屚)(漏) 
音の変化  ウ:雨  ロウ:屚・漏

あめ
 ロウ  尸部 lòu
解字 「尸(やね)+雨(あめ)」の会意。屋根から雨がもること。尸は屋の上部と同じで屋根の意。ここから雨がもること。この字は氵(水)がついた漏ロウにとって代わられ、殆ど使われない。
意味 もる。雨がもる。

もる
 ロウ・もる・もれる・もらす  氵部 lòu
解字 「氵(水)+屚(もる)」 の会意形声。水がもれる意。当初は、水時計である漏刻ロウコクを表す字として使われたが、屚ロウ(雨がもる)の意にも用い、さらに雨以外にも、もれる意で使われる。

漏刻(「なら記紀・万葉」より)
意味 もる(漏る)。もれる(漏れる)。もらす(漏らす)(1)水がもれる。「漏刻ロウコク」(水を漏らして時を刻む。水時計)「漏斗ロウト・じょうご」(斗(ます)に導いて液体を漏らす道具)「雨漏(あまも)り」(2)情報などがもれる。「漏洩ロウエイ」(秘密などがもれること)(3)言いもらす。とりもらす。「遺漏イロウ」(手抜かりのあること)
<紫色は常用漢字>

参考 雨かんむりを含む音符
音符「雪セツ」へ (雪の意味で国字をつくる)

音符「雷ライ」へ

音符「需ジュ」へ

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音符「弓キュウ」<ゆみ> と「躬キュウ」「窮キュウ」「穹キュウ」「引イン」「蚓イン」「弔チョウ」「吊チョウ」「弖て」

2024年06月04日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 キュウ・ゆみ  弓部 gōng

解字 弓の形を描いた象形。甲骨文・金文には弦を張った形と、弓体だけの形の二種がある。篆文以降は弓体の形を表わす。弓は部首になるとともに、音符にもなる。
意味 (1)ゆみ(弓)。「弓矢ゆみや」「弓道キュウドウ」「弓箭キュウセン」(弓と矢。武士)(2)弓の形をしたもの。「弓状キュウジョウ」「弓張月ゆみはりづき」(弓の弦を張ったような月。上弦・下弦の月をいう)
参考 弓は部首「弓ゆみ・弓へん」になる。漢字の左辺および下部に付き、弓および「弓なりにまがる」意味をあらわす。常用漢字で11字あり以下のとおり。
 弓キュウ・ゆみ(部首) 
 引イン・ひく(弓+タテ線、の会意)
 キョウ・つよい(虫+音符「弘コウ」)
 ゲン・つる(弓+音符「玄ゲン」)
 (弓+音符「瓜コ」)
 ジャク・よわい(弓2つ+冫2つ、の会意)
 ダン・たま(弓+音符「単タン」)
 チョウ・はる(弓+音符「長チョウ」)
 テイ・おとうと(象形)
 (弓+音符「奴ド」)
 ビ・や(弓+音符「尓ジ」)
 なお、引イン、弱ジャク、弟テイ、は音符ともなる。

イメージ 
 「ゆみ」
(弓・引・蚓・矧・弔) 
 「弓なりにまがる」(躬・窮・穹)
 「その他」(吊・弖)
音の変化  キュウ:弓・躬・窮・穹  イン:引・蚓  シン:矧  チョウ:弔・吊  て:弖

ゆ み
 イン・ひく  弓部 yǐn

解字 甲骨文字第一字は、弓体の横に大(ひと)を描き、人が弓を引くさま。第二字は、弓体の右横に人の腕が残った形[甲骨文字字典]。金文も甲骨第二字と同形。篆文に至って、弓の横に長いタテ線となり、現代字の引になった。弓を引く、転じて物を引っぱる意となる。
意味 (1)ひく(引く)。ひっぱる(引っぱる)。「引力インリョク」「牽引ケンイン」(2)導く。つれていく。「引率インソツ」(3)ひきだす。ひきよせる。「引用インヨウ」「引証インショウ」(証拠として引用する)(4)しりぞく。さがる。「引退インタイ
 イン  虫部 yǐn
解字 「虫(むし)+引(ひっぱる)」 の会意形声。引っぱって長くしたような虫で、ミミズを表す。
意味 みみず(蚓)。「蚯蚓キュウイン・みみず」(蚯も蚓も、みみずの意)「蚓操インソウ」(ミミズのみさお(操)。ミミズが土を食い水を飲むだけの生活をしている。それがミミズの操(自分の主義・主張)であって、それ以上のものを求めない生き方)「春蚓秋蛇シュンインシュウダ」(春のミミズや秋のヘビのように、字も行も、うねうねと曲がりくねっていること。字がへたなことのたとえ)
 シン・はぐ  矢部 shěn
解字 「矢(や)+引(弓をひく)」の会意。矢を弓で引くこと。矢を射る意であるが、仮借カシャ(当て字)して、「いわんや・まして」の意味となる。日本では、矢を作る人が作った矢を試しに射ることから、矢を作る意で用いられる。
意味 (1)いわんや(矧や)。まして。(2)[国]はぐ(矧ぐ)。矢竹に羽をつけて矢を作る。「矢矧やはぎ」(矢を作ること。矢を作ることを職業とする人。矢師)「矢矧部やはぎべ」(大和朝廷で矢の製作を職業とした人の集団) (3)地名。「矢矧川(矢作川)やはぎがわ」(長野県・岐阜県・愛知県を流れ三河湾に注ぐ河川。名称は矢作橋(愛知県岡崎市)の周辺にあった矢を作る部の民のいた集落に由来している。※はぐ(矧ぐ)は古くは、はく(佩く)。矢竹に羽を佩かせる意か。
 チョウ・とむらう  弓部 diào           

解字 篆文は「人+弓」の会意。亡くなった人の傍らに弓をおき、死者の霊を邪悪から守ること。転じて、死者の霊をなぐさめる意。のち、人の上部が略されタテ線のみとなった。
意味 とむらう(弔う)。死者の霊をなぐさめる。おくやみを言う。「弔問チョウモン」「弔辞チョウジ」「弔電チョウデン
覚え方 ゆみ()ひいた()やつを(とむら)い、チョウジ読む。(「漢字川柳」より)

弓なりにまがる
 キュウ・み・みずから  身部 gōng
解字 「身(からだ)+弓(弓なりに曲がる)」 の会意形声。弓のようにまがる柔軟な身体。
意味 (1)み(躬)。からだ。「躬身キュウシン」(からだ。からだを曲げて礼をする)「鞠躬キッキュウ」(①身をかがめる。②懸命につとめに励むこと。鞠は、身匊キク(これで一字。身をまるくかがめる)に通じ、身をかがめて子を抱き育てる意味にも使われる)(2)自分。みずから(躬ら)。「躬行キュウコウ」(自ら行なう)「率先躬行ソッセンキュウコウ」(人の先に立って、自ら物事を実行する)「躬耕キュウコウ」(自ら耕す)
 キュウ・きわめる・きわまる  穴部 qióng
解字 「穴(横穴)+躬キュウ(み。からだ)」 の会意形声。横穴に躬(み・からだ)を入れること。穴の中で行きづまる意となる。また、穴の中をつきつめて行く意もある。
意味 (1)きわまる(窮まる)。行きづまる。「窮地キュウチ」(2)生活が苦しい。「困窮コンキュウ」「窮乏キュウボウ」「窮民キュウミン」(3)きわめる(窮める)。つきつめる。「窮理キュウリ」(真理を窮める)(4)きわみ。きわまり。「窮海キュウカイ」(海のはて)
 キュウ・そら  穴部 qióng
解字 「穴(竪穴住居⇒家)+弓(弓なりに曲がる)」の会意形声。天井が弓なりになったアーチ型の家。ドーム形。転じて、広く張って大地をおおう空。
意味 (1)丸天井。ドーム形。「穹廬キュウロ」(遊牧民族のパオ)(2)そら(穹)。「蒼穹ソウキュウ」(あおぞら)「天穹テンキュウ」(おおぞら)

その他
 チョウ・つる・つるす  口部 diào

解字 弔チョウ(とむらう)の俗字として明代から使われた字。現代の中国語では弔う意で使われる。日本では釣チョウ(つる)に通じ、つる意で用いる。
覚え方 (まるい輪)に、(きれ)を通してり下げる
意味 (1)つる(吊る)。つるす(吊す)。つりさげる。「吊橋つりばし=釣橋」「吊輪つりわ」「吊革つりかわ」「吊し柿」(つるして干した柿)(2)とむらう。
<国字> て  弓部


  氐の異体字(右上)の第一字が、弖のもとになった字(「漢典の氐」より)
解字 氐テイ(=底そこ)の異体字である「弓+人+一」の人を省いて作った国字。漢文訓読に用いるヲコト点で、漢字の四隅にある点を左下から順によむと「て」「に」「を」「は」となることから、四隅の最初の底にあたる「て」に当てた。異体字は「漢典の氐」より 
 ヲコト点(ごちそう日本語研究所)
意味 (1)助詞の「て」の当て字。「弖爾乎波てにをは」(2)人名。「阿弖流為あてるい」(平安時代初期の蝦夷の軍事指導者。789年に胆沢に侵攻した朝廷軍を撃退したが、坂上田村麻呂に敗れて処刑された)
<紫色は常用漢字>

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音符「垂スイ」<たれる>と「睡スイ」「錘スイ」「唾ダ」「郵ユウ」

2024年06月02日 | 漢字の音符
 春秋戦国期の垂スイが、「字源」(中国)に出ていました。篆文の前の形が分かりますので字形の変遷図に追加しました。
 スイ・たれる・たらす  土部 chuí 
 
解字 春秋戦国期の垂は「草木等の枝葉がたれさがった形+土を盛り上げた形」の会意。たれ下がった枝葉が盛り土の上にあるかたち。篆文は枝葉の茎が右上に折れ、茎の右左にを配する形となり土に続く。楷書は上部がノに変化し、土が上部と一体化した垂になった。意味は、たれる・たれて地につく。垂を音符に含む字は、「たれる」イメージを持つ。
覚え方 の()、よこ二()たて二( | | )よこ二()たてぼう( | 直に
意味 (1)たれる(垂れる)。たらす(垂らす)。「垂線スイセン」「垂直スイチョク」「垂涎スイゼン」(よだれをたらす)(2)上の者が示す。「垂範スイハン」(模範をしめす)「率先垂範ソッセンスイハン」(人の先に立って模範をしめす)

イメージ 
 「たれる」
(垂・睡・唾・錘)
 「上から下へたれる」(郵)
音の変化  スイ:垂・睡・錘  ダ:唾  ユウ:郵

たれる
 スイ・ねむる  目部 shuì  
解字 「目(め)+垂(たれる)」 の会意形声。目のまぶたを垂れて眠ること。
意味 ねむる(睡る)。「睡眠スイミン」(睡も眠もねむる意)「熟睡ジュクスイ」「睡魔スイマ
 ダ・つば  口部 tuò
解字 「口(くち)+垂(たれる)」 の会意形声。口からたれるつばき。
意味 つば(唾)。つばき(唾)。つばする。「唾液ダエキ」「唾棄ダキ」(つばを吐くように忌み嫌う、さげすむ)「唾罵ダバ」(つばを吐きかけてののしる)「固唾かたず」(固は緊張して固くなる意、緊張して唾が口にたまること。かたつばの略で古くは、かたつ、とも言った。現代表記では、かたず、と書く)「固唾を呑む」(事の成り行きを案じ、じっと見つめること)
 スイ・おもり・つむ  金部 chuí
解字 「金(金属)+垂(たれる)」 の会意形声。上から下に垂れる金属のおもり。後漢の[説文解字]は「錘は八銖シュ也(なり)。金に従い垂スイの聲(声)」とする。
意味 (1)おもり(錘)。はかりのおもり。分銅。「鉄錘テツスイ」(鉄のおもり)「鉛錘エンスイ」(鉛製のおもり)(2)重量の単位。[説文]は「一錘は八銖シュ」とするが具体的な重さは不明。

紡錘車を作る(「ばさら日本史」より)
(3)[国]つむ(錘)。円盤の中央に棒をとおし、円盤をまわしながら棒の先のカギを通る糸に縒りをかけて巻き取る紡績用の道具。慣用で錘を用いるが、実際のつむ(錘)は土や木の円盤(地域によっては石の円盤)を木の棒にはめ込んだもので金属製ではない。「紡錘ボウスイ」(糸をつむぐ錘つむ

上から下へたれる
 ユウ  阝部 yóu
解字 「垂(上から下へたれる)+阝(むら・まち)」 の会意。中央から地方(むら・まち)へ通信を下ろしていくための中継所。
意味 (1)ゆうびん。文書・荷物などを送る通信制度。「郵便ユウビン」「郵政ユウセイ」(郵便にかんする国の行政)「郵送ユウソウ」(2)宿駅。宿場。「郵亭ユウテイ」(飛脚や馬の中継所。宿場)
<紫色は常用漢字>

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音符「祭サイ」<肉を祭壇にそなえて神をまつる>と「際サイ」「蔡サイ」「察サツ」「擦サツ」

2024年05月31日 | 漢字の音符
 サイ・まつる・まつり  示部 jì・zhài

解字 金文は「月(肉)+示(祭壇)+又(て)」の会意で、肉を示(祭壇)の上に又(て)で供える形。篆文は「示(祭壇)の上に肉と又(て)を近づけた形。この形が基になり楷書の祭となった。楷書は、手の形が又の変形字となっている。
意味 まつる(祭る)。供物を供えて神をまつる。まつり(祭)。「祭日サイジツ」「祭典サイテン」「祭器サイキ」(祭りに使用する器具)「祭司サイシ」(祭りを司る者)

イメージ 
 供物の肉を供えて神を「まつる」(祭・際・察) 
「形声字」(擦・蔡) 
音の変化  サイ:祭・際・蔡  サツ:察・擦

まつる
 サイ・きわ  阝部こざと jì
解字 「阝(神が降りるはしご)+祭(まつる)」 の会意形声。阝(こざと)は丘のほか、はしごの意味がある。神が降りるはしごの前に祭壇を置き、肉を供えてまつること。そこは神と人との相接するところで、天と地との境になる。また、そこで神とまじわる意となる。[字統]
意味 (1)さかい。きわ(際)。はて。「山際やまぎわ」「際限サイゲン」(最後のところ。きり)(2)まじわる。まじわり。「交際コウサイ」「国際コクサイ」(国と国とのまじわり。inter-national)(3)おり。とき。「際物きわもの」(ある時期だけ売り出す品物。ひな人形・鯉幟など)「間際まぎわ」(差し迫った際)
 サツ・みる  宀部 chá
解字 「宀(建物)+祭(まつる)」 の会意形声。建物のなかで神をまつり、神の意志をよく見ておしはかること。また、よく見てあきらかにすること。
意味 (1)おしはかる。思いやる。「察(サッ)する」(推し量る)「察知サッチ」「拝察ハイサツ」(2)明らかにする。よくみる。みる(察る)「観察カンサツ」「診察シンサツ」「偵察テイサツ」(さぐりみる)「省察ショウサツ・セイサツ」(自分自身をかえりみる)

形声字
 サツ・する・すれる・こする  扌部 cā  
解字 「扌(手)+察(サツ)」 の形声。明代の[字彙ジイ]は「音は察サツ。摩(こする)之(こ)の急也(なり)」と、急に手で「こする」意とする。
意味 する(擦る)。すれる(擦れる)。こする(擦る)。「摩擦マサツ」「擦過症サッカショウ」(すり傷)
 サイ  艸部 cài
解字 「艸(草)+祭(サイ)」の形声。形はサイという名の草むらだが、実際はサイという名の国名や姓に使われる。発音を表す字に草冠を付けて国名や地名、外国語の音訳字とするのは漢字の得意技のひとつ。
意味 (1)くさむら。(2)中国周代の国名。今の河南省上蔡県一帯にあった。(3)姓のひとつ。「蔡倫サイリン」(後漢の人。樹皮・ぼろ布・漁網などから紙を製して献上した)「蔡英文サイエイブン 」(台湾の第7代女性総統。2016.5~2024.5)
<紫色は常用漢字>

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音符「兄ケイ」<神に祈るひと>と「況キョウ」「呪ジュ」「祝シュク」

2024年05月29日 | 漢字の音符
 ケイ・キョウ・あに  儿部 xiōng        

解字 甲骨文は「口(くち)+人(ひと)」の会意。[甲骨文字字典]は、「人が祝詞(のりと)を唱える様子であろう。甲骨文字では同輩の男性はすべて兄ケイと呼称されていて長幼の区別がない」とし、同輩男性の意味に用いた理由は「父祖の祭祀に参列する人」を表したからであろうとする。金文になると長男の意味で用いられるようになり、さらに「兄弟」という語で、あに(兄)の意味ともなった。後漢の[説文解字]は「兄、長ずる也」として兄(あに)の意味が定まった。
意味 (1)あに(兄)。「兄弟キョウダイ」「長兄チョウケイ」「兄事ケイジ」(兄のように尊敬して仕える)「義兄ギケイ」(夫あるいは妻の兄)(2)同輩・友人などに対する敬称。「貴兄キケイ」(貴君)

イメージ 
 「祝詞を唱えるひと」
(兄・祝・呪)
 「形声字」(況)
音の変化  ケイ:兄  キョウ:況  ジュ:呪  シュク:祝

祝詞を唱えるひと
 シュク・シュウ・いわう  ネ部 zhù
解字 「ネ(=示。祭壇)+兄(祝詞を唱える人)」の会意。神に祝詞を唱え幸いを祈る人。
意味 (1)いのる。のる。神に告げる。「祝祷シュクトウ」(おいのり)(2)いわう(祝う)。ことほぐ。幸いを祈る。「祝典シュクテン」(祝いの儀式)「祝福シュクフク」「祝儀シュウギ」(祝いの儀式。祝いの儀式に贈る品物)「祝言シュウゲン」(3)神主。神に祈る人。「巫祝フシュク」(神に仕える者。神職)
 ジュ・のろう・まじない  口部 zhòu  
解字 「口(くち)+兄(祝詞を唱える人)」の会意。口先だけで祝詞を唱える人。祝シュクはネ(=示:祭壇)に祈る形であるが、呪は口先だけで祈る形であり、のろう・まじないの意となる。
意味 (1)のろう(呪う)。のろい。相手に悪いことが起こるよう祈る。「呪詛ジュソ」(呪も詛も、のろう意)(2)まじない(呪い)。不可思議なものの威力を借りて、災いや病気などを起こしたり、また除いたりする術。「呪文ジュモン」「呪術ジュジュツ」「呪縛ジュバク」(まじないをかけて動けなくする)

形声字
 キョウ・いわんや  氵部 kuàng    
解字 「氵(水:流れる)+兄(キョウ)」の形声。水の流れるさまをキョウといい、ありさま・ようすの意。また、そのありさまを他にたとえる意となる。また、「まして・いわんや」の意の助字となる。
意味 (1)ありさま。ようす。おもむき。「近況キンキョウ」「状況ジョウキョウ」(2)たとえる。比べる。「比況ヒキョウ」(比べてたとえる。比喩ヒユ)(3)まして(況して)。いわんや(況や)。強調の助字。「況(ま)して~乎(を)や」「況(いわん)や~哉(を)や」のように、乎・哉などで受ける。
<紫色は常用漢字>

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音符「尽 [盡] ジン」<つきる> と 「儘ジン」「燼ジン」「贐ジン」

2024年05月27日 | 漢字の音符
[盡] ジン・つきる・つくす・つかす  尸部 jìn・jǐn          

解字 甲骨文は、筆に似たかたちのものを手に持ち、皿(うつわ)の中を掃き出している形。皿の中のものがすべてなくなるので、つきる意となる。篆文で聿(ふで)の下の横二線が「大の左右にハがある形」で表され、さらに旧字でその部分が「一+灬」となった盡ジンに変化した。新字体は「尽」に簡略化された。尽の成り立ちは盡の草書体から変化した形とされる。

左から尽の草書・行書・楷書(「書道三体字典」より)
意味 (1)つきる(尽きる)。なくなる。「無尽蔵ムジンゾウ」(尽きることのない)(2)つくす(尽くす)。つかす(尽かす)。だしきる。「尽力ジンリョク」(3)ことごとく(尽く)。すっかり。「一網打尽イチモウダジン」 

イメージ 
 「つきる」
(尽・儘・燼・贐)
音の変化  ジン:尽・儘・燼・贐

つきる
 ジン・ことごとく・まま  イ部 jǐn
解字 「イ(ひと)+盡(つきる)」の会意形声。人の手段が尽きたさま。ことごとく・ままの訓で使われる。
意味 (1)ことごとく(儘く)。みな。=盡(尽)。「儘日」ジンジツ」(終日)「儘数ジンスウ」(全額)(2)まま(儘)。ままよ。なんともなれ。ほどこす方法がない。(3)[国]まま(儘)。そのまま。思いどおり。「儘ならぬ世」「気儘きまま」(自分の思い通りに)「我儘わがまま」(①自分の思うままにする。②相手の事情をかえりみず、自分勝手にする)
 ジン  火部 jìn
解字 「火(ひ)+盡(つきる)」の会意形声。燃えている火がつきて残った燃えかす。
意味 もえさし。もえのこり。「余燼ヨジン」(燃え残り。=燼余ジンヨ)「灰燼カイジン」(もえ残りと灰。燃えてなくなる。=燼灰ジンカイ)「燼滅ジンメツ」(滅びつきる)
 ジン・シン・はなむけ  貝部 jìn
解字 「貝(財貨)+盡(つきる⇒おくる)」の会意形声。旅立つ人に道中の費用を援助するため金銭を贈ること。自分の財貨はつきて、相手側にわたる(おくる)意となる。
意味 はなむけ(贐)。おくりもの。旅立つ人に金品などを贈ること。「贐餞ジンセン」(はなむけ。贐も餞も、はなむけの意)「贐行ジンコウ」(旅立つ人に贐を贈る)「予將に遠行有り、行者は必ず以って贐す(孟子·公孫丑下)」(私は、ちょうど遠方に出かけようとしていた。旅行く者には、必ず餞別を送らなければならない)。「贐送ジンソウ」(はなむけ。餞別)「贐儀ジンギ」(贐の行い。はなむけ)
※「はなむけ」は「馬のはなむけ」の略で、出発にあたり馬の鼻を進む方向に向けること。
<紫色は常用漢字>

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音符「茲ジ・シ」<草がしげる・はびこる>「滋ジ」「慈ジ」「磁ジ」

2024年05月25日 | 漢字の音符
 シ・ジ・しげる・これ  艸部 zī     

解字 甲骨文・金文で分かるように初形は幺幺ジで、幺ヨウ(ねじた糸束)を並べた形。篆文は上部に糸束の末を結んだ形。「ここ・これ・この」などの指示詞に用いられた。のち、篆文の上部が艸(草)と混同され、草がしげる・はびこる意がある[字統]。新字体で用いられるとき、茲⇒兹 に変化する。
意味 (1)しげる(茲る)。はびこる。(2)ます(茲す)。ふえる。ますます(茲)(3)ここ(茲)。これ。この。(4)とし(茲)。年。「今茲コンジ」(今年)「来茲ライジ」(来年)(5)地名。「亀茲キジ」(中央アジアに存在したオアシス都市国家。現在の新疆ウイグル自治区にあり、シルクロード天山南路に位置した。)

イメージ 
 草木がしげる・はびこる意から「しげる」(茲・滋・慈)
 上記から転じた意「ふえる」(磁・孳)
音の変化  シ:茲  ジ:滋・慈・磁・孳

しげる
 ジ・シ・しげる  氵部 zī
解字 「氵(水)+茲(しげる)」 の会意形声。水が行きわたり草木がしげること。
意味 (1)しげる(滋る)。そだつ。そだてる。「滋育ジイク」(草木を育てる) (2)うるおう。養分になる。「滋雨ジウ」「滋養ジヨウ」(3)おいしい。「滋味ジミ」(①うまい味わい。②物事の深い味わい)(4)地名。「滋賀県シガケン」(琵琶湖のある近畿地方の県)
 ジ・シ・いつくしむ  心部 cí
解字 「心(こころ)+茲(=滋。しげる。そだつ。そだてる)」 の会意形声。子を育てる親の心。
意味 いつくしむ(慈しむ)。かわいがる。めぐむ。「慈母ジボ」(いつくしみ深い母)「慈愛ジアイ」(いつくしみ愛する)「慈悲ジヒ」(慈しんで悲しみを取り去る)「慈善ジゼン」(慈しんで善を行なう)

ふえる
 ジ・シ  石部 cí
解字 「石(鉱物)+茲(ふえる)」の会意形声。土の中の砂鉄をひきつけて、ふやしてゆく鉱物(石)。
意味 (1)じしゃく(磁石)。鉄をひきつける性質。「磁気ジキ」「磁性ジセイ」「磁針ジシン」 (3)瓷(硬いやきもの)に通じ、高火度で焼き素地がガラス化したやきものをいう。「磁器ジキ」「白磁ハクジ」(純白の磁器)
 ジ・シ・うむ 子部 zī
解字 「子(こども)+茲(ふえる)」の会意形声。子がふえること。
意味 (1)うむ(孳む)。子孫がふえる。「孳息ジソク」(子孫がふえる) (2)しげる。(=滋)。「孳萌ジホウ」(草木の芽が次々と出る)(3)孜(つとめる・はげむ)に通じる。「孳孳シシ」(つとめはげむ)
<紫色は常用漢字>

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音符「臽カン」<落し穴に人がおちこむ> と 「陥カン」「餡アン」「焰エン」「閻エン」「諂テン」

2024年05月23日 | 漢字の音符
 改訂しました。
 カン  臼部 xiàn          

解字 「人+落し穴」の会意。甲骨文は人が落とし穴におちこんださま。金文はさらに穴の入口の〇印と下にある尖ったクイを描く。篆文から落し穴が臼の字になった。現代字は臽となり落し穴・おちいる意となる。
意味 (1)落し穴。 (2)おちいる。おとす。

イメージ  
 「落し穴におちる」
(臽・陥・諂)
 穴に落ち込むことから「中にある」(餡・焰・閻)
音の変化  カン:臽・陥  アン:餡  エン:焰・閻  テン:諂

落し穴におちる
 カン・おちいる・おとしいれる  阝部 xiàn
解字 旧字は陷で「阝(はしごや階段)+臽(落し穴におちる)」の会意形声。阝(こざと)は一般には丘の意味が多いが、はしごや階段の意味もある。[「阝こざと」と「阝おおざと」
カンは、階段の前に作った落し穴におちること。貴重なものを収めた高床式の倉庫を守るため、はしごや階段の前に作った落とし穴に、おちいる・おとしいれる意となる。新字体は臽の下部の臼⇒旧に変化する。
意味 (1)おちいる(陥る)。おちこむ。「陥没カンボツ」「陥落カンラク」 (2)おとしいれる(陥れる)。「陥穽カンセイ」(おとしあな) (3)(穴があくさまから)かける(欠)。「欠陥ケッカン
 テン・へつらう  言部 chǎn
解字 「言(いう)+臽(おとしいれる)」の会意形声。自分を落としいれて言う。自分の位置を落として他人に、こびへつらうこと。
意味 へつらう(諂う)。おもねる。こびる。「諂笑テンショウ」(へつらい笑う)「諂佞テンネイ」(へつらうこと。諂も佞も、へつらう意)「諂阿テンア」(へつらいおもねる。阿は、おもねる意)

中にある
 アン  食部 xiàn
解字 「食へんの旧字(食べ物)+臽(中にある)」の会意形声。饅頭マンジュウなどの中にいれるあん。
意味 (1)あん(餡)。あんこ(餡子)。小豆などに砂糖をまぜて煮てねったもの。菓子や餠の中に包みこむ。「白餡しろアン」(白小豆等を材料にした餡)「餡蜜アンミツ」(蜜をかけた豆に餡をのせたもの)(2)饅頭や餅の中にいれる引き肉や野菜。「肉餡ニクアン
焰[焔] エン・ほのお  火部 yàn
解字 「火+臽(中にある)」の会意形声。ほのおが奧で燃えているさま。火の燃え始めるさまが原義。のち。ほのお一般に用いる。新字体に準じた焔も通用する。
意味 (1)ほのお。ほむら。「火焰カエン」(2)火が少し燃え上がるさま。「焰焰エンエン」(火が燃え始めてまだ盛んでないさま)
 エン  門部 yán
解字 「門(もん)+臽(中にある)」の会意形声。後漢の[説文解字]は「里中門也」とし、町や村の区域の中に立てられたものを閻という。また、門のある町や村の路地や横町をいう。
意味 (1)路地や横町の中の門。「閭閻リョエン」(閭リョは村里の入り口の門、閻エンは村里の中の門)(2)路地や横町。巷(ちまた)。「窮閻キュウエン」(貧しい町のなか)「窮閻漏屋ロウオク」(貧しい町の中の雨が漏れる家)

深川ゑんま堂(江東区深川)の閻魔様
(3)梵語の音訳用字。閻エンは地獄の門にいるエンという王の意。エンはサンスクリット語のヤマYama(地獄の王)の音訳に使われる字のひとつ。発音はヤマ(yama)⇒イェンマ(yanma)⇒エンマ(enma)と変化したと考えられ、閻魔エンマが当てられる。「閻魔エンマ」は地獄に落ちた死者の生前の行いを裁くという地獄の王。「閻魔帳エンマチョウ」(閻魔が生前の死者の行状を書きしるしているという帳面)「閻浮エンブ」(梵語jambuの音訳字。樹木の名。また、穢(けが)れの意)「閻浮提エンブダイ」(須弥山の南方にあるとされる閻浮樹の茂る島(洲)。人間の住む世界。現世。)(4)姓のひとつ。「閻若璩エンジャクキョ」(清の考証学者)
<紫色は常用漢字>

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