一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

日レスインビテーションカップ・プロアマ戦のドラマ(後編)

2009-09-30 18:04:49 | LPSAイベント
駐車場にあるクルマのバックミラーで自分の顔を確認した私は、愕然とした。
なんと、左の鼻の穴から、数本の鼻毛が飛び出ていたのだ。
私はアキバ系オタクを絵に描いたような自分の顔が大嫌いで、旅行中はもちろん、ふだんでも自分の顔は滅多に見ることがない。しかし外出するときぐらい、鏡を見るべきだった。
この顔で昨日、LPSA金曜サロンで船戸陽子女流二段と対峙していたのかと思うと、激しい自己嫌悪に陥る。
しかし見られてしまった?ものはしょうがない。こんなもの、なんでもない。
私は気を取り直して、新橋の街をぶらぶら歩く。こうして昼ご飯の店を物色するのが楽しい。
某所で餃子定食を食し、午後1時半ごろ、某ビルに戻る。
席についてLPSA金曜サロンの棋友とおしゃべりをしていると、石橋幸緒女流王位がいらっしゃり、
「成田さんにフラッグを立てなくてよかったんですか?」
と言う。「個人でスポンサーになってもいいんですよ」。
石橋女流王位はタイトルホルダーにもかかわらず、私のようなものにも、いつもジョーク交じりでにこやかに話しかけてくださる。ありがたいことだと思う。
「いえいえ、今回は中井先生に入れてましたから」
石橋女流王位の勝利のお祝いを言い忘れたまま、私は返す。いやまったく、中井広恵天河の敗退はショックだった。いくら売り出し中の若手女子アマ強豪とはいえ、さすがに中井天河のほうが厚い、とフンでいたのだが…やはり中井天河の調子がいまひとつだったのだろうか。しかしなんであろうと、中井天河に勝つのは、文句なくスゴイ。ここは成田女子アマ王位の充実ぶりを讃えるべきである。
午後2時、準決勝開始。私は例によって2階へ降りるべく、エレベーターの前に行く。本当は階段で下りたいのだが、フロアの構造の関係で、エレベーターで降りるしかないのだ。そこへ中倉宏美女流二段が通りかかり、
「お帰りですか?」
と声をかけてくれる。
「いえ、2階で対局を拝見します。午前は残念でしたね」
「……」
さすがに気落ちしているようだ。
「いや、あ、あの、次がありますよ、次が! ほら女流王位戦とか…あっ…、次は船戸戦でしたっけ?」
「一公さんは船戸さんを応援するんですよね…」
「え、いや、な、中倉先生を応援するに決まってるじゃないですか! いま目の前で話してるんですから!」
私はまたもしどろもどろになって、怪しい激励をする。そういえば18日の将棋ペンクラブ大賞贈呈式では、船戸女流二段に、
「(女流王位戦の予選では)誰が対局者になっても、ボクだけは船戸先生を応援しますから!」
とか言いきったような気がする。まあいい。
2階の対局室へ入る。またも観戦者は少ない。
石橋女流王位×笠井友貴女流アマ名人は、石橋女流王位の中飛車に、笠井女流アマ名人は昔懐かしい玉頭位取り戦法。前局の引き角戦法もそうだったが、笠井女流アマ名人は将棋をよく勉強していると思う。
中倉彰子女流初段×成田弥穂女子アマ王位戦は、成田女子アマ王位のクラシック中飛車に、彰子女流初段は、得意の居飛車穴熊を採った。
笠井女流アマ名人は、軽くうつむいたまま、盤上没我だ。黒のパンプスがピカピカ光っている。現在大学4年だというが、来年はどの道へ進むのだろう。このまま将棋関係の職に就いてもらえればと思う。
中盤になったので、いったん3階の解説場へ戻る。
大盤は石橋×笠井戦を取り上げていた。石橋女流王位が積極的に仕掛けたが、笠井女流アマ名人が自然に受けて、笠井女流アマ名人がやや有利とのこと。
スクリーンに映っている彰子×成田戦は、やや彰子女流初段が指しやすいように思った。
この日は夕方からヤボ用があり、途中で抜けることになっている。勝利者予想は外したし、宏美女流二段は敗れたし、まあ彰子女流初段と成田女子アマ王位は勝ち残ったが、それほど後ろ髪を引かれずに、対局場をあとにすることができる。
石橋×笠井戦は、笠井女流アマ名人がさらに優位を拡げたようだ。石橋陣は穴熊に潜っているが、桂馬を跳ねているのが痛い。その下の7二から妖しく香を据えた。
再び2階の対局室に入る。
笠井女流アマ名人は、うつむいたまま微動だにしない。これは午前の対局から一貫している。その姿には魅かれるものがあるが、ちょっと固くなっている気もした。
彰子×成田戦は一進一退の攻防が続いている。成田女子アマ王位が銀取りを放置し☗1四歩と勝負手を放ったところで、その後の展開はしばし見なかったが、現在は飛車角を成りこんだ彰子女流初段が指しやすいように思われた。
彰子女流初段は、ファンを前にした時のにこやかな顔と、対局時の顔がまるで違う。対局時の顔は厳しく、近寄りがたいオーラを放っている。私はもちろんこちらの顔が好きだ。
石橋×笠井戦は、石橋女流王位がいよいよ苦しい。手がなくなって、☖7一金と締まった。苦しい時は暴発せず、じっと我慢する。この手渡しが女流トッププロならではである。ここで笠井女流アマ名人が、遊んでいる2八の飛車を働かせるべく、☗2四歩と突く気持ちの余裕があれば、殊勲の金星を獲得できると思った。
彰子×成田戦は、以下も彰子女流初段が気持ちよく攻めていたようだが、成田女子アマ王位の追い上げもすごく、☗2五桂と跳ね、端に標準をつけて、イヤミ嫌味と迫る。現在は1手を争う激戦の終盤だ。
石橋×笠井戦をのぞく。盤上には、☗2四歩が指されていた。まだ先は長いだろうが、これは笠井女流アマ名人の勝ちと断じて、彰子×成田戦に戻る。
もうそろそろ会場を出る時間だ。☗1二香に☖2一王。この局面で当然とはいえ、☗3九歩が好手だった。成田女子アマ王位には、大山康晴15世名人を思わせる受けの手がときどき出る。これは大山将棋を並べて体得したものなのか、天性のものなのか、あるいは特技である空手から習得したものなのか…。
いずれにしても、LPSAの女流棋士にはいないタイプの選手である。この将棋は成田女子アマ王位の勝ちと予想して、私は会場をあとにした。

ところが…数時間後に帰宅し、LPSAのホームページで日レスインビテーションカップの結果を見ると、意外なことになっていた。
石橋×笠井戦は、なんと石橋女流王位の勝ち。あの将棋が引っくり返ったのか。石橋女流王位、さすがの勝負術というところだが、負けた笠井女流アマ名人の心情、察するにあまりある。しかし笠井女流アマ名人は若い。これからリベンジのチャンスはいくらでもある。本当の勝負はこれからである。
彰子×成田戦は、あのあとすぐに終局したようだ。やはり成田女子アマ王位の勝ち。もう成田女子アマ王位がLPSA女流棋士に勝っても、誰も驚かない。
彰子女流初段は閉会式の参列をうっかりして、そのまま2階で成田戦の検討を続けていたという。その意気やよし。
これからの中倉姉妹の活躍を、大いに期待したい。
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日レスインビテーションカップ・プロアマ戦のドラマ(前編)

2009-09-29 18:36:06 | LPSAイベント
26日(土)は、「第3回日レスインビテーションカップ」の公開対局を見に、(東京の)汐留に行った。
寝不足のボーッとした頭で、開演の10時ちょっと前に某ビル3階の入口へ着くと、ガラスドアのすぐ向こうに出場選手が並んでいて、入って行ける状態ではない。本日聞き手の船戸陽子女流二段と目があって、(どうぞお入りください)と無言で言われたので、私はコソコソと入室した。
おりよく、出場選手の戦前の抱負が語られはじめた。
今回の出場選手は、トーナメント表の左から、中倉宏美女流二段×笠井友貴女流アマ名人、石橋幸緒女流王位×渡部愛ツアー女子プロ、中倉彰子女流初段×小野ゆかりアマ女王、成田弥穂女子アマ王位×中井広恵天河、である。「女流棋士VSツアー女子プロ・アマ連合軍」という構図だ。
皆さん無難なコメントだったが、宏美女流二段は、対アマ戦のプレッシャーをずっしりと感じているようだった。
今回も、楽しくも残酷な、勝利者予想がある。私は前回の勝敗予想を完璧に当て、肩身の狭い思いをした。しかし願望と予想は違う。贔屓の出場選手に勝ってもらいたいのはヤマヤマだが、予想は予想でシビアにつけねばならぬ。
そんな私の今回の勝敗予想は、まず、中井、石橋の両巨頭は、相手が誰であろうとさすがに手厚いだろう、ということで、「○」。
宏美女流二段×笠井女流アマ名人戦は、宏美女流二段のプレッシャーがかなり大きいと見て、笠井女流アマ名人に「○」を付けた。
彰子女流初段×小野アマ女王は、むずかしいが、小野アマ女王の若さ、勢いを買った。
さらに準決勝だが、ここでも中井、石橋両巨頭の信用は大きく、やはりふたりが決勝に勝ち上がると予想した。
10時15分、対局開始。片上大輔六段の解説も拝聴したいところだが、せっかくナマで対局を観戦できるのだから、私は階下(2階)の対局室へ向かう。
2階は3階とほぼ同じ広さだったから、対局スペースも観戦スペースも、十分に余裕があった。しかしながら観戦者は10人以下だった。真剣勝負をナマで見られるチャンスだというのに、これはあまりに少ない数ではないか。
しかしものは考えようである。マイナビのときのように黒山の人だかりの中を背伸びして見るより、この環境のほうが、ゆっくりと好勝負を堪能できる。なんて贅沢なんだろう、と思う。
渡部ツアー女子プロ、小野アマ女王の高校生コンビと、中学3年生の成田女子アマ王位は、そろって学校の制服を着用。靴ももちろん、学生靴だった。それでよい。
女性が成人しておカネ持ちになっても、絶対に着られない服がある。学校の制服がそれだ。高校生や中学生は、それを堂々と着られる、恵まれた環境なのだ。休日だろうが対局だろうが制服を着て、
「このコの制服姿、なんか羨ましい…」
と、目の前の女流棋士が不快になれば、それはそれでもうけものだ。
将棋はまだ序盤だが、今日も清楚な宏美女流二段が、三間飛車から穴熊に潜ったのが目を引く。宏美女流二段は、対振り飛車の玉の囲いには居飛車穴熊を採用するが、振り飛車でのそれはめずらしい。
しかし宏美女流二段には、美濃囲いからのやわらかい指し手がよく似合うと思う。宏美女流二段には申し訳ないが、この将棋は、笠井女流アマ名人が勝つと思った。
その対極に位置している彰子女流初段も、居飛車穴熊の明示。ショートカットの髪が素敵で、「戦う若奥様」という感じだ。ちょっとうつむいた姿が、鹿野圭生女流初段にそっくりだった。
各局ともむずかしい中盤を迎えたので、私は3階に上がる。
室内前方の大盤解説では、中井天河×成田女子アマ王位の一戦が掲げられている。片上六段がジョークを交えながらしゃべり、屋外用と思われる超大盤とその駒を、船戸女流二段が器用に動かしていた。
しばらくそのやりとりを見ていたが、やっぱり船戸さんは対局者じゃなきゃダメだ、と心の中でつぶやき、私は再び2階へ降りる。
局面は中盤の勝負所だった。
宏美女流二段×笠井女流アマ名人戦は、笠井アマが手厚い。
石橋女流王位×渡部ツアー女子プロ戦は、石橋女流王位が有利か。
中井天河×成田女子アマ王位戦は難しい局面だが、中井天河を持ちたい。
彰子女流初段×小野アマ女王戦は互角、というのが、私の見解だった。
その後、例によって8名の対局者の表情を長い時間観察していたが、動きがあったのが、中井×成田戦である。成田女子アマ王位は、いつもは泰然自若として駒を動かしているが、右手を宙に舞わすような、やや大きな動きで、駒を着手した。
これは成田女子アマ王位、形勢が芳しくないか? と目をやると、意外にも中井天河の表情のほうが険しい。局面を見ると、自陣に火が付いている。うつむき加減で、(こんなはずじゃないのに…)と、戸惑っているように見える。
宏美×笠井戦を見ていると、中井×成田戦が終了したようだった。成田女子アマ王位の明るい笑顔を見れば、どちらが勝ったかは一目瞭然である。大豪、緒戦で姿を消す。中井天河の日レス3連覇はならなかった。と同時に、私の勝敗予想も、連続正解がストップした。
勝ち負けは世の常とはいえ、悄然としている中井天河を見るのは忍びなかった。
気を取りなおして、石橋×渡部戦に目を転じる。私はこの前日札幌にいたのに、札幌在住の渡部ツアー女子プロがそのとき東京にいたとは、皮肉である。
局面は石橋女流王位が着実にリードを拡げ、あとはどう収束するかになっていた。石橋女流王位と渡部ツアー女子プロは、先日ブログ上で公開対局を行ったが、石橋女流王位の完勝だった。ふたりの間には、まだ棋力の差があるようである。しかし渡部ツアー女子プロはこれからどんどん強くなる。その差はすぐに縮まるだろう。
正午前後、石橋女流王位の勝ち。
私はまた宏美×笠井戦に戻る。局面は笠井女流アマ名人の勝勢である。笠井女流アマ名人は、先日のマイナビ予選一斉対局で苦杯を喫し姿を消したが、本人は相当な悔しさがあったと思われる。今日は、竹橋の仇を汐留で打つべく、角道不突き左美濃戦法から、冷静な指し回しを見せている。
宏美女流二段の表情が険しい。スッとひかれた眉は中央に寄り、「ハ」の字型になっている。ほおに手を当て、それがぐにゅっとつぶれる。笠井女流アマ名人が1手指すと、その表情はさらに大きくゆがんだ。それは私がいままでに見たことのない、泣き出しそうな、悲痛な表情だった。しかしこれこそ、指導対局や練習将棋では決して見せない、中倉宏美の真剣勝負の貌であった。
数分後、宏美女流二段の投了。アマチュアに惨敗した宏美女流二段の胸中、いかばかりか。勝負は残酷である。自分が予想した星になったのに、私はいたたまれなくなって、すぐに彰子×小野戦に移った。
こちらは小野アマ女王の姿勢がわるい。それがそのまま形勢の差を表している。将棋は、彰子女流初段がうまく攻めをつなげ、勝勢。最後は小野玉を鮮やかな即詰みに討ち取った。
これで準々決勝の4局がすべて終了した。感想戦を聞くべく、私も3階へ上がるところだろうが、なんだかこの余韻を大切にしたくて、私はそのまま1階に下りた。
自動ドアを渡り、外へ出ようとする。そのときだった。
「ンゴオオッ!!」
突然、鼻と前歯に強烈な衝撃を受け、私はその場でうずくまった。な、何があったのだ!?
前を見ると、大きな透明ガラスが、私の前に立ちふさがっていた。
ここにもガラスがあったのか…!!
透明すぎるんだよ! イテテ…。
鼻を触った手を、思わず見る。鼻や歯茎から、血は出ていないようだ。メガネには当たってなかったようで、それは幸いだった。しかし鼻と前歯が、痛いことは痛い。鼻は腫れてないだろうか。前歯の噛み合わせが、すこしおかしくなったような気がする。
表へ出て、ガラス窓に映った自分の顔を見る。外見の変化はないようだ。
駐車場にあるクルマのバックミラーを覗き、あらためて確認する。
そこに映った顔を見た私は、愕然とした。
(つづく)
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9月27日と4月23日

2009-09-28 01:24:31 | プライベート
きのう9月27日は、羽生善治名人の39歳の誕生日。おめでとうございます。

きのうまで「将棋雑記・北海道旅行編」を書いてきた。私はいつもひとり旅なのだが、学生時代の最初の3回の旅行は、男ふたり旅であった。
1回目は「北海道旅行編」でも書いたが、昭和61年の夏に、幼稚園、小・中学校といっしょだったAH氏と北海道を旅行した。
2回目はその翌年、やはり北海道に、高校時代の友人AK氏と2週間近く旅行をした。3回目はさらにその翌年、やはりAK氏と四国を旅行した。このあたりから男ふたりで旅行する気持ち悪さを感じるようになり、以降はひとり旅が専門となった。
ひとり旅はいい。訪れたい観光地も、泊まる宿も、全部自分で決められる。旅の中での出来事も、全部自己責任だ。なにか失敗があっても、誰を怨むこともない。私は友人がいないのでセルラーフォンを持っておらず、旅先での自分の時間を妨害されることもない。これからも私は、旅行をするときはひとり、誰からの干渉も受けず、夜になれば街を徘徊し、シャレた喫茶店を探すのだろう。そして今後も、セルラーフォンは買うつもりはない。
さて、そんな私と旅行をした貴重なふたり、まずAH氏は早稲田大学法学部卒の秀才である。小さい時は、彼より私のほうが才能があると思っていたが、小学校4年生のとき、能力の違いをまざまざと見せつけられ、「ボクはあいつには勝てない」と、早くも挫折感を味わった。ちなみに彼の誕生日は9月27日であった。
もうひとりのAK氏も、勉強の成績は並みだったが、博覧強記で、雑学に強かった。彼も才能あふれる人物だったが、惜しむらくは現在原因不明の病に罹っており、静養を余儀なくされている。彼の誕生日は4月23日であった。
4月23日といえば、渡辺明竜王の誕生日でもある。そう、私と旅行をしたふたりの友人の誕生日は、将棋の現名人、現竜王と同じなのである。これはちょっと誇っていいのではないだろうか。
そうでもないか。
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重傷じゃなくて、かすり傷

2009-09-27 03:15:48 | 旅行記・北海道編
24日(木)は夜の11時20分に札幌駅前のネットカフェに入った。今回の旅行では3回目の入店である。この日などは、朝に続いて2度目である。それでいてちょっと懐かしい気がするのは、相当ネットカフェにお世話になったからだろう。
この日も「ナイト6時間パック」をオーダーする。1,200円だが、200円の割引券があるので、実質1,000円だ。ちなみに6時間を超えると自動的に「9時間パック」となって、2,000円(実際は割引で1,800円)となる。
まずはブログの更新である。ナイトパックだから時間を気にせず、コメントの返信や本文を書く。それらが一段落すると、時間は午前3時すぎになっていた。
もうシャワーを浴びる気力もない。そのままシートを倒し仮眠に入るが、部屋が煌々と明るいので、眠れない。
仕方がないからまた起き上がって、パソコンを起動させる。そうして自ブログを推敲しようとしたら、画面の文字が三重四重に見えて、これはいかんと思った。ふだんの旅行なら、いやふだんの生活でも、この時間は夢の中である。
まったく今回の旅行は、ネットカフェに入り浸ってばかりで、かなり異常だった。
4時を過ぎる。ここまできたら、あと1時間少しを我慢して、午前5時20分少し前に店を出ちゃおうかと思う。昨夜は午後11時20分の入店だったから、ナイトパックが適用される午前7時までは、最長でも7時間40分しかいられない。それで9時間ぶんの料金を払わされるのがシャクなのである。
5時10分、意を決して店を出る。料金はもちろん「ナイト6時間パック」に割引料金が適用されて、1,000円だった。
とりあえず札幌駅に向かう。構内の開放時間は5時15分からと書いてある。腕時計を見ると5時14分で、すでに中に入れた。
ガランとした札幌駅の構内を、初めて見た。物事はなんでもいいほうに考える。夜更かししたお陰で宿泊費も安くついた。札幌駅の珍しい光景を見ることもできた。いい経験をした、と思うことにする。
さてこの日25日(金)は、東京へ帰る日である。ウチは自営業だし、いまは暇なので、当然27日(日)までいてもよいわけだ。
しかし18日のLPSA金曜サロン・夕方の担当が、船戸陽子女流二段であった。
北海道へはいつでも行けるが、船戸女流二段との指導対局は、月に一度しかない。私は熟慮の末、旅行前に「前割7」で、25日・新千歳空港12時30分発ANA62便のチケットを取ったのだった。
これが中倉宏美女流二段だったら微妙だった。27日までいたかもしれない。つまりファンランキング1位の価値は、それほどのものである。だから1位に選ばれた女性は、気持ちのわるい将棋オタクにからまれて、かわいそうなのだ。
…と、ここまで読んだ読者の中には、もし25日に船戸さんが急遽休みになったらどうしてたんだ、と思う方もあろう。しかし9月10日のエントリ「代わりは利かない」でも述べたように、私は女流棋士の代打は認めないのである。こちらはその女流棋士に焦点を合わせて、旅行の日程を決めているからだ。だから当日、船戸女流二段が休むなどということは、これっぽっちも考えなかった。
問題は昼までの時間をどう過ごすかである。平日だから旅行貯金ができるが、あまり近場でしたくない。できるだけ遠くでしたい。
時間はたっぷりあるので納得がいくまで検討した結果、室蘭を往復することにした。これなら7時ちょうど発の「特急スーパー北斗2号」に乗れば、乗り継ぎで8時29分に室蘭駅に着く。
JR北海道は、室蘭本線・支線の終点である室蘭駅の数百メートルを廃線にし、12年前に新しい駅舎を造った。旧駅舎はそのままの場所に残され、平成11年には有形文化財に指定された。鉄道マニアとしては、一度は訪れておきたい聖地なのである。その途中には郵便局もあり、私にとってはまことに都合がよい。
さらに室蘭は、先ごろ首相に任命された鳩山由紀夫氏の出身地らしい。これは船戸陽子女流二段が教えてくれたものだ。ここでも船戸女流二段の名前が出てくるのか、という感じである。
旧室蘭駅舎は、有形文化財指定だけあって、圧倒的な威容を誇っていた。いちおう観光案内所も兼ねているが、実質的には、ずいぶん豪華なバスの待合室となっている。
帰りも滞りなく接続が完了し、11時31分、新千歳空港に着いた。
前回も書いたが、今回の北海道旅行は、かなり異色だった。列車の中で窓外の風景を堪能しているか、ネットカフェでブログを更新しているか、のどちらかだった。
ただ、北海道の雄大さをあらためて感じたのもまた事実である。大都市の景色は東京のそれと変わらなかったが、ちょっと田舎へ入れば、美しい風景が広がっていた。
実は私は最近、ちょっと傷ついたことがあった。これはもちろん、自業自得の類である。すべて自分がわるい。しかし長崎県の喫茶店のマスターの言葉を借りれば、こんなもの、「かすり傷」ということになる。
5cmを測るのに5cmの物差しを使えば、「5cmは長い」。しかし1mの物差しで5cmを測れば、「5cmは短い」ということになる。
人生も同じである。心の中に重傷を負ったとしても、人間の長い長いながーい一生から見れば、そんなものは、ただのかすり傷にすぎない。2、3日経てばすぐに治ってしまう種類のものなのだ。
それを改めて気付かせてくれた北海道には、大いに感謝したい。次は雪まつりの季節やね。待ってろよ北海道!
私は心の中でそう吠えつつ、検査場のゲートをくぐったのだった。

今回の旅行貯金:
21-09-24 余市郵便局
21-09-25 室蘭郵便局

宿泊の種別:
ビジネスホテル 2泊
ネットカフェ 4泊
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余市→小樽→札幌市中央区北三条

2009-09-26 23:48:45 | 旅行記・北海道編
23日はススキノのビジネスホテルに投宿し、翌24日(木)はホテルで優雅に朝食を摂り、札幌駅前のネットカフェに入ってブログを更新。その後10時44分札幌発の上り函館本線に乗り、小樽で乗り換え、余市で下車した。
下りの函館本線は長万部から山中を走るが、その堂々たる路線名のとおり、かつては優等列車(特急)も走る幹線だった。しかし昭和61年のダイヤ改正で特急列車が廃止され、長万部-小樽間は、一ローカル線に転落した。現在は1両の鈍行列車が数本走るだけの、さびしい路線となっている。
それはともかく、いくら旅行といっても、毎日観光ばかりでは飽きがくる。今日はちょっと趣を変え、余市駅前にあるニッカウヰスキーで、ウイスキーの勉強をしようというわけである。
ニッカウヰスキー発祥の地である北海道工場余市蒸溜所は、無料で工場見学ができ、1日に数回、案内係による工場案内もある。
受付で名前を記入し、敷地内をぶらぶら歩く。石造りの建物と、木々の緑が見事に調和している。遠くの山々が碧い。あたりは静寂が支配し、空気がおいしい。
余市原酒直売所に入ると、ロマンスグレーの紳士(スタッフ)がいる。カウンターの前には5年物から25年物までのウイスキーが置かれてあり、香りの違いを体験することができる。20年物→10年物→5年物と香りを嗅ぐと違いが分かりにくいが、5年物から20年物を較べてみると、その違いが明瞭に分かる。やはり年月を重ねたほうが、香りがまろやかだ。
紳士氏の説明を拝聴したあと、売店に入って唸っていると、もう午後1時が近い。前述したとおり、ニッカウヰスキーでは、無料で工場案内をしてくれるが、午後は1時から開始なのである。
なにごとにおいても「無料」という言葉はトクした気分になる魔力があって、酒を嗜まない私も、ちょっと聞いてみようかという気になる。
チェック柄のジャケットに黒のスカート、つば広の黒い帽子という、バスガイドさんのような格好の女性スタッフが姿を見せる。美人だ。このあと、ベテランのオッサンが工場案内をするんだろうと思いきや、その女性がそのまま案内をするという。これはいいぞと、心の中で相好を崩す。
しかしこの美人、どこかで見たような…小学生のとき転校してきた女の子に、目が似ている。だが決め手には欠ける。
午後一番手ということもあって、見学者は15人ほどいた。いよいよ「大人の社会科見学」の始まりである。ガイドさんは、大きく明瞭な声で、私にも分かるように易しく説明をしてくれる。その合間ににこっと笑う。なんてかわいいんだろう。……あっ、安めぐみだ!! あの笑顔は、タレントの安めぐみちゃんそっくりである。そうか、あのモヤモヤの正体は、彼女だったのか…。そう考えてみると、骨格が似ているのか、声も似ている気がする。
「何か質問はありますか?」と言ってくれるが、聞く質問がないのがつらい。…あっ、矢口真理だ!! この角度から見ると、元モー娘。の矢口真理ちゃんにも似ている。とにかく彼女は、かわいい、ということだ。
40分ほどの工場見学が終わると、ニッカ会館の2階で、ウイスキーの試飲をして、終わりとなる。クルマを運転する人や下戸の人はジュースも用意されているが、私もウイスキーをチョイスする。
10年物のウイスキーを口に含む。香りが高く、優雅な気持ちになる。先ほどのガイドさんが、見学者のひとりひとりに、「ありがとうございます」と御礼を言ってまわっている。まずい…こちらが御礼を言いたいくらいなのに、安めぐみちゃんにそう言われたら、私は飲みもしないウイスキーを買ってしまいそうである。
こそこそとニッカ会館を出る。そのまま工場を出ようとしたが、ピタッと足が止まる。安めぐみちゃんの笑顔が脳裏に浮かぶ。
このまま工場を出ていいのか? あんなに丁寧に説明をしてくれたのに。それでいいのか?
「チッ、バカだな…」
私はそうつぶやくと、踵を返し、売店へ向かうのだった。

「これでよかったんだ。これでよかったんだ…」
とひとりごち、余市駅へ戻る。14時58分の下り列車までまだ時間があるので、駅構内の売店に入る。
あっ…!! なんと、190mlの瓶コカコーラの自動販売機があるではないか!!
なんだこれ、いま北海道では、瓶コーラが普及しているのか?? 掲げられているコピーも、「懐かしい瓶ビールの味をお楽しみください」とか書いてある。
また私は船戸陽子女流二段を思い出し、まるで儀式のように、瓶コーラを買う。しかしさすがに今度はドキドキせず、コーラを飲みほした。
小樽に行き、市内をぶらぶら歩く。寿司屋通り沿いに銭湯(温泉)があったので、迷わず暖簾をくぐる。今日は札幌のネットカフェで最後の夜を過ごす予定だ。ならばのんびりと風呂を満喫するチャンスは、もうここしかない。
日本人のほとんどが働いているであろう平日に入る温泉は、休日のそれより優越感に浸れ、大いに気分がよい。
風呂から上がり番台横に出ると、ここでもいつもの儀式がある。
牛乳を買うのだ。
「白牛乳 腰に手を当て イッキ飲み」
とはよく言ったものだ。これをやらないと、銭湯に入った気分になれない。

北一硝子や小樽運河を瞥見して、札幌に行く。
ネットカフェのナイトパックは午後7時から翌朝7時までの中の最長9時間だから、店にいる時間は午後10時~午前7時にしたい。
それまでどうやって時間をつぶすか。おいしいコーヒーとケーキを味わえる喫茶店を開拓したいが、札幌はビジネス街で、なかなかこれといった雰囲気の店がない。
あてもなく夜のサッポロを歩いていると、時計台が見えてくる。その対角に聳えるビルは北海道新聞社だ。壁に朝刊が張り出されており、スポーツ欄は巨人の優勝を伝えている。将棋欄は今日から王位戦第4局が掲載されている。ベテラン原田史郎氏の観戦記だ。
時計台対面の見晴台を兼ねた喫茶店は、女性向けで、入る気が起きない。そのままぶらぶらしていると、「将棋サロン&カフェ みずなら」の案内板が目に入る。そこの2階に居を構えているらしい。もう夜の8時半だから店が開いているとは思えぬが、ビルのドアが開いたので、上ってみる。
と、廊下の奥がこうこうと光っており、覗いてみると、白髪の紳士が
「いらっしゃい」
と言った。
いっしょにいた女性が、すぐに出ていく。
「ここは…」
「はい、将棋道場です」
私はフラッと入ったのだが、客と思われたようだ。私が東京から来て旅行中だと言うと、それは分かるとして、なぜ旅行中に将棋を指すのか、なぜこの時間に入って来たのか、いまひとつ合点がいかぬようだった。
しかし私は旅先で将棋を指すことはよくある。ただ、道場に入ったのは初めてである。それにしても、北海道最後の夜で、思わぬ展開になった。石垣島では「どうぶつしょうぎ」を指し、札幌ではとうとう「本将棋」を指す。我ながら将棋バカだと思う。
席料を払って、とりあえず1局指すことにする。棋力を聞かれたので、
「アマ三段ぐらいだと思います」
とミエを張っておく。
将棋のほうは、アマ四段・紳士氏が当然ながら後手番になり、紳士氏のゴキゲン中飛車に対して、私の採った玉の囲いが中途半端で、存分に捌かれて完敗した。
「将棋サロン&カフェ みずなら」は、昨年10月25日に開席。白髪の紳士氏は田中美昭さんという普及指導員で、ここの席主である。食事の営業もしており、ランチは500円で提供している。もちろん食事だけの利用も可能だ。夜は11時まで開けているという。北海道の将棋熱は高い。しかし
「いまの時期、将棋道場を開くのは冒険だったでしょう」
と言うと、
「みんなからそう言われましたよ」
と笑う。中原誠16世名人の、40代のころに風貌がよく似ている。
開席から9ヵ月になるが、会員(登録者)は340名に上ったという。ただ、一度訪れたきりの棋客もおり、今後いかにリピーターを増やすかが課題だという。ちなみに道場名かつ店名の「みずなら」とは、「ドングリの木」のことらしい。軽食喫茶の机も、「みずなら」を使っているという。
時間があるので、もう1局指す。今度も当然、私の先手番。4手目、田中氏が☖5四歩と指しかけて☖8四歩と指したので、横歩取り対中座飛車になった。
この将棋は、田中氏の序盤での一失を咎めた私が快勝した。いま思うと、1局目で私があまりにも不甲斐ない負け方をしたので、緩めてくれたのかもしれない。
夜もだいぶ更けたが、客がくる。カレーライスのセットを食している。彼-Y氏はこの店の常連で、近くに勤務先があることから昼食はここで摂り、独り暮らしなので夕食もここで摂るという。
将棋は高校のスポーツ部に在籍していたときから指してはいたが、最近になって将棋熱に目覚めたという。
私とも1局(私の二枚落ち)指したが、序盤のスキをY氏が咎めきれず、そのまま私の勝勢となった。しかしそこからのY氏の粘りがすごく、最後は私が力づくで詰ましたという将棋だった。
午後11時すぎ。私は温かい気持ちになって、道場を出、駅前のネットカフェに向かった。しかしこの中途半端な時間が、翌日の私を疲弊させることになった。
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