一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第9期叡王戦第3局

2024-05-03 23:34:37 | 男性棋戦
2日は、第9期叡王戦第3局が行われた。ここまで双方1勝1敗で、第1局に藤井聡太叡王が勝った時点では、藤井叡王がスンナリ防衛すると思った。ところが第2局に伊藤匠七段が勝って三番勝負になってみると、俄然タイトルの行方は分からなくなった。大山康晴十五世名人は、「タイトル戦は偶数局が大事」と述べていたが至言であると、改めて思った次第。
第3局は藤井叡王の先手で、角換わり相腰掛け銀になった。藤井叡王は右金をまっすぐ上がって飛車を引く例の形だが、伊藤七段は金をナナメ右に上がり飛車は不動という、古典的布陣を敷く。この形がパッとしないから後手はいろいろ工夫しているわけだが、一周まわってこれでよければ苦労はない。
先に仕掛けたのは藤井叡王。端攻めもからめて駒得になった。気に早いファンならもう藤井叡王勝ち、というところだが、伊藤七段も反撃する。お返しに銀桂交換で駒損を回復し、さらに、飛車当たりにも構わず攻めを継続する。しかし形勢は藤井叡王がよい。
伊藤七段、角の王手。これにはあぶないようでも玉が横に寄り、角の陰に逃げるのがよい、とAIの読み。藤井叡王の終盤はAI並みだから、当然横に寄ると思っていた。
ところが藤井叡王は玉を上がった。人間的にはそりゃそうだ。
以下数手進んで、藤井叡王の玉頭には、馬銀が迫っている。これには桂受けがABEMA AIの指摘で、藤井叡王が逃げ切れるようだ。さすがは藤井叡王、角の王手に玉を上がったのも、ここまで読んでのことだったんだと、私は心底、藤井叡王に畏怖を覚えた。
ところが藤井叡王は銀受け! ここでAIの形勢バーが逆転した。えええ!? そんなことがあるのか!?
ここでは双方1分将棋になっており、さすがの藤井叡王も読み切れなかったようだ。藤井叡王も人間だったということかと、私は少しほっとした気分になった。
伊藤七段、歩を成る。藤井叡王、銀を取る。ここで私レベルのアマなら、とりあえず金を取って考える。ところが伊藤叡王は黙って銀を取り返した。金得を放棄する代わりに先手を取る順で、むかし米長邦雄永世棋聖が「風邪をひいても後手引くな」と言ったが、それは現代でも生きているのだ。ああ、きょうの将棋を先達にも見てほしかった。
以下、ヨリが戻ったかに見えたが、伊藤七段が巧みに攻めを繋げ、勝勢になった。
そこで藤井叡王は王手ラッシュをかけるが、伊藤七段は冷静に対処する。この辺、AIと指し手がまったく同じで、伊藤七段もまた、勝率7割はダテではないのだった。
伊藤七段、銀を捨て、歩を突きだす。このとき、先ほど受けに打った香の利きが通っているのがミソである。まさに勝ち将棋鬼のごとしで、勝つときはこういうものである。否、こうした将棋を藤井叡王がいままで指してきたのだ。伊藤七段、藤井叡王のお株を奪う会心の手順だった。
藤井叡王、がっくり首を垂れ、無念の投了。棋士は投了の際に冷静を装うものだが、藤井叡王はつらさを前面に出す。まさに将棋に命を賭けているのだと思う。
勝った伊藤七段も見事。形勢が揺れ動いても顔色を変えず、1分将棋にも慌てない冷静さが際立っていた。
さあ第3局まで終わり、伊藤七段の2勝1敗となった。タイトル戦前は藤井叡王の10勝0敗だったから、本当に意外な結果である。しかも、藤井叡王がタイトル戦で連敗するのも初なら、カド番に追い込まれたのも初だという。これも考えてみたら凄いことなのだが、とにかく藤井叡王は追い込まれたわけだ。
藤井叡王はこれまで、「後退」することはなかった。タイトル戦は無敗で、タイトル数も増える一方だった。それが今回、減るかもしれないのだ。そんな状況の下、藤井叡王は第4局でどんな将棋を指すのか。第4局は31日。長くて長くて、待てない。
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