一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

逆王手

2024-06-02 23:13:40 | 将棋雑記
第9期叡王戦第4局では、カド番に追い込まれていた藤井聡太叡王が伊藤匠七段に勝ち、2勝2敗のタイに追いついた。
こういうとき、ネット(マスコミ)で踊る表現が「逆王手」である。
将棋のルールを知らない記者が使いたがる常套句だが、伊藤七段だって「王手」を継続中なのだ。観戦記者の田辺忠幸氏などは、「王手はどちらか一方しか掛けられない」と、専門誌でよく諫めていた。
だけど「逆王手」には「クロスカウンター」「どんでん返し」的なカッコ良さがあり、使いたくなる気持ちも分かるのだ。
今回も、数社がこの単語を使った。

「八冠維持」へ逆王手か・それとも…藤井聡太八冠・21歳の“正念場”(中部日本放送)

藤井聡太叡王、完勝でのシリーズ逆王手に“ホッ”?ファンを前にジョーク披露「次局は持将棋がなければ最終局に…」視聴者は爆笑「やめとけw」(ABEMA TIMES)

藤井聡太叡王 逆王手!八冠陥落危機耐えた2勝2敗タイ 激闘「何がよかったかは分からない」 4連覇かけ6・20最終決戦(デイリースポーツ)

いまや将棋中継の代名詞であるABEMAがこの単語を使っているのはご愛嬌である。
王手は片方しか掛けられないから、「両王手」がまだしもの気がするが、これだってどちらか一方が2つ同時に王手を掛けているわけで、意味合いがまったく違う。
でも個人的には、「逆王手」もいいかなと思っている。誤用にしても、将棋の話題が書かれるのはいいことだから。
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夢の終わり

2024-05-21 22:41:35 | 将棋雑記
先日の第37期竜王戦で5組降級が決まった川上猛七段だが、引退の報はなかった。
考えてみたら、川上七段が昨年3月31日にフリークラス満了になったとき、竜王戦はとうに36期が始まっていた。よって、川上七段は第38期も参加できることになる。
そして川上七段は、第38期に4組に復帰しないと、アウトだ。

   ◇

さて、きょうは第37期竜王戦(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)ランキング戦6組決勝・藤本渚五段VS山下数毅奨励会三段戦がある。言うまでもなく、本局に山下三段が勝って優勝すると奨励会三段リーグの次点1となり、累計2で四段昇段の権利を得られる。ABEMAでは今回も中継があり、ありがたいことだった。
将棋は山下三段の先手で、相居飛車になった。その後角を換わったが、お互い角を打ち、じっくりした進行になる。ABEMAの形勢バーはわずかに山下三段よし。今回私は山下三段の応援なので、まずまずだ。
そのまま夕方になった。藤本五段は雁木。山下三段は金矢倉に銀が付き、美しい。形勢バーも「山下65:35藤本」で、優勢に近い有利だ。
しかし山下三段はせわしなく頭を動かし、落ち着きがない。
山下三段、ぶつかっていた6筋の歩を取る。これが若干疑問で、形勢が縮まった。藤本五段は桂で取るが、山下三段は銀を逃げる。すると藤本五段は8筋の歩を突く。以下継ぎ歩の形になったが、山下三段は相当迷いながら桂を取った。しかし藤本五段に8筋の歩を取りこまれ、これじゃあ桂得くらいじゃ合わない。
山下三段は飛車先に歩を打ったが、藤本五段は1枚金を剥がし、そのあとこの歩を取り、王手。あれだけ美しかった金矢倉がボロボロにされてしまった。この間、わずか10分程度ではなかったか。
いやいやいやいや、これが山下三段予定の進行とは思えない。なんで読み直さなかったのだろう。せめて銀を逃げるところで考え直せばまだまだだったが、この進行じゃダメである。私だったらバカバカしくて投げるところである。
本譜は山下三段が玉を引き、夕食休憩まで7、8分となったところで、藤本五段が夕食休憩を申し出た。
大山康晴十五世名人や中原誠十六世名人が得意にしていた手段で、ふだんはもっと早くから休憩に入るのだが、この夕休の間、不利な相手に局面を考えさせ、諦めさせるのである。
本局も、この時勝負が決した。再開後、山下三段も粘ったが、藤本五段は間違えない。19時29分、即詰みまで指して、山下三段が投了した。
本局、山下三段が勝っていれば、仮に四段昇段を選んでも、それが実現するのは10月1日からだった。
よって竜王戦決勝トーナメントでは「奨励会三段」の肩書で参戦することになり、また別の意味で、その戦いぶりが注目されるところだった。
しかし負けちゃったんじゃしょうがない。夢が、終わった。
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陽のあたらぬ戦い

2024-05-13 23:33:05 | 将棋雑記
9日は名人戦第3局、竜王戦6組準決勝のほかに、第35期女流王位戦第2局もあって、賑やかだった。
しかし私が最も注目したのは、第37期竜王戦5組昇級者決定戦・中村太地八段VS村田智弘七段戦である。あちらが華やかな戦いなら、こちらは文字通り、裏街道での陽のあたらぬ戦いである。
これに村田七段が勝ったから驚いた。村田七段はフリークラス。中村八段は第82期順位戦にA級で新加入し、堂々の残留を果たした。そのふたりが戦えば、中村八段が勝つと思う。そこを村田七段が勝つところに、将棋の面白さがある。
そういえば中村八段は、前期4組での残留決定戦でも、川上猛七段との決戦に敗れ、5組に降級した。
川上七段もフリークラス。つまりフリークラスとA級の実力は紙一重、いや紙0.1枚、ということになる。
そのフリークラス棋士に引退へのカウントダウンがあるのが口惜しいが、その一方で毎年プロが4人生まれている現在、こうでもしないと現役棋士が減らない、というジレンマもある。難しいところである。
では、現在フリークラスで戦っている棋士の戦績はどうなのか。フリークラスに降級してしまった棋士で、まだ引退が確定していない棋士の直近10局を調べてみた。

長沼洋八段(59)○○●○●●●○●● 2025年3月31日
増田裕司七段(53)○○●●●●○●●● 2025年3月31日
藤原直哉七段(58)○●●●○●●●○● 2026年3月31日
小倉久史八段(55)○●○●○●●●●● 2027年3月31日
岡崎洋七段(57)●○●●○●○●●● 2028年3月31日
中田功八段(56)●●○●○○●●●● 2028年3月31日
渡辺正和六段(38)●○○○●○○●●● 2029年3月31日
島本亮五段(44)○●●●●●●●●● 2030年3月31日
大平武洋六段(47)●●●○●●●○○● 2031年3月31日
村田智弘七段(43)○○○○●●●●●○ 2031年3月31日
矢倉規広七段(49)●●●○●●●●○● 2033年3月31日
堀口一史座八段(49)●●○●○●●●●● 2033年3月31日
竹内雄悟五段(36)●●○●○●○●●○ 2034年3月31日

13名の合計は41勝で、平均3.2勝。冷静に見れば、やはり勝率は低い。その中で村田七段は、渡辺六段と並んで5勝を挙げている。まだ43歳と若いからスタミナもある。順位戦復帰を期待していいのではなかろうか。
いま、「村田」といえば村田顕弘六段だが、智弘七段にも注目してみようか。
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山下奨励会三段、竜王戦5組昇級!!

2024-05-12 00:06:54 | 将棋雑記
名人戦第3局2日目が行われていた9日、同じ東京で、将棋会館でも注目の一戦が行われていた。第37期竜王戦ランキング戦6組準決勝・井出隼平五段VS山下数毅奨励会三段戦である。竜王戦は各クラス、決勝に進出した時点で、その2名は昇級となる。よって本局、山下三段が勝てば、竜王戦37期にして棋士以外で初めて、ランキング戦昇級者が出現するのだ。
相手の井出五段は振り飛車の使い手で、先日のNHK杯では解説者で出演した。2つほど突っ込みどころがあったが、おしなべて軽快な解説で、いかにも実力者を思わせた。
そして注目の結果は、山下三段の勝ち!! ついに5組昇級を勝ち取ったわけだった。
山下三段は15歳。14歳の藤井聡太四段が竜王戦で大活躍したことを考えれば、山下三段が竜王戦で活躍したって、不思議はない、ともいえる。
そして、本チャンはこれからなのだ。以前も当ブログで記したが、山下三段は現在、次点1を持っている。よって、次の決勝戦に勝てばさらに次点1が付与され、累計2で四段昇段の権利が与えられるのだ(というかそもそも、前期三段リーグで次点を取得したから竜王戦に出られたわけだが)。
いままで棋士編入試験から四段になった例はあるが、三段リーグ次点+竜王戦ランキング戦優勝からの四段は異質。山下三段は今回、アマ1名・プロ5名に勝ってきており、これだけでもう、次点1の価値はある。
ちなみに対プロ5勝の中には、瀬川晶司六段、今泉健司五段と、棋士編入試験でプロ入りした棋士がいるのも感慨深い。
そして決勝の相手は、藤本渚五段。これがまた、作ったような組み合わせだ。
現在は藤井竜王・名人の天下で、伊藤匠七段以外の棋士がパッとしないいま、最も期待されている新たな刺客が藤本五段で、藤本五段に勝ってほしいところもある。しかしそれは、王位戦や王座戦で実現してくれればいい。奨励会員が勝ち抜いてこそ、竜王戦は面白い。
6組の決勝は例年、6月上旬。棋聖戦五番勝負に加えてまたひとつ、楽しみなカードが出現した。
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タイトル戦21回の戦績

2024-05-07 23:19:23 | 将棋雑記
藤井聡太竜王・名人は現在22回目、23回目のタイトル戦を戦っているが、その前までの21回は全勝である。タイトル戦の勝敗が五分と考えると信じられない戦績で、藤井竜王・名人のケタ違いの実力が分かる。
これまで21回以上タイトル戦に登場した棋士は12名いるが、では、藤井竜王・名人以外の11名は、タイトル戦21回の時点で、どんな戦績だったのだろう。ちょっとまとめてみた。なおカッコ内は、個別の勝敗を合わせたものである。

藤井聡太竜王・名人 21-0(74勝15敗.831)
羽生善治九段 18-3(66勝34敗.660)
中原誠十六世名人 16-5(67勝36敗.650)
渡辺明九段 15-6(63勝39敗.618)
大山康晴十五世名人 15-6(67勝42敗.615)
谷川浩司十七世名人 13-8(62勝45敗.579)
森内俊之九段 11-10(53勝55敗.491)
佐藤康光九段 8-13(46勝63敗.438)
升田幸三実力制第四代名人 7-14(53勝64敗.453)
加藤一二三九段 7-14(47勝62敗.443)
米長邦雄永世棋聖 4-17(41勝70敗.369)
二上達也九段 2-19(31勝72敗.301)

藤井竜王・名人の「74勝15敗.831」が凄まじい。タイトル戦に出てくる棋士は一流ばかり。それなのにその勝率が、現在の通算勝率.841とほぼ同じだ。要するに藤井竜王・名人は、誰が相手でも関係ないということだ。ひとりだけレベルが違う気がする。
羽生九段の戦績も素晴らしい。ただそれでも、個別の戦績だと勝率が.650にガクンと落ちてしまう。これでも4勝2敗ペースだから誇れるのだが、上がすごすぎる。
以下はご覧のとおりだが、注目すべきは、タイトル戦の勝敗と個別の勝敗が、ほぼ比例しているということだ。二上九段などは悲惨な戦績だが、タイトル戦に登場すること自体が尊いことを、忘れてはならない。
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