一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

世田谷花みず木将棋オープン戦を見に行く(その5)・激闘に感動

2013-05-08 00:40:59 | 観戦記
鈴木環那女流二段の△2六歩に、室谷由紀女流初段は▲8六竜。△7三歩に室谷女流初段、左手を右のほおにあて、▲4八馬と引いた。室谷女流初段は金銀が少ないが、それを馬で補おう、のハラだ。関西流の雰囲気もある。
「自陣の馬は金銀何枚ぶんになりましたかネ」
と解説の島朗九段。ともあれ、長期戦の様相になってきた。
△4五馬の王手に、室谷女流初段、右手でアゴをさわり、▲2八玉と引く。鈴木女流二段も右手を口元にあてて考えている。前傾姿勢になる。後手が攻め切っているのか、先手が受け切っているのか。島九段が「分からない」とつぶやく。まさにゼニの取れる将棋で、私は「こんなに凄い熱戦、帰らなくて本当によかった」と、胸をなで下ろしていた。
鈴木女流二段、△7六飛と打ち、▲2六銀取り。「ここはこれ(▲6六歩)がありますネ」と島九段。▲4八馬が利いている。しかし室谷女流初段は▲2七歩と打った。
ああ、これも重大な逸機だった。鈴木女流二段の玉頭攻めは諸刃の剣で、反撃の▲2四歩がある。だから先手としても、▲2七歩は極力打ちたくなかったのだ。しかし、そう支えたい気持ちもよく分かる。
室谷女流初段、左手を左ほおにあて、▲4五角。ふたりとものけぞる。さっきから30秒将棋が延々と続き、同じ姿勢で指しているので、「伸び」も必要なのだ。
聞き手の上田初美女王(当時)はよく手が見える。たびたび島九段の読みにない手を指摘し、「これであさって(のマイナビ女子オープン第3局)は勝ちますネ」と、島九段に太鼓判を押されていた。
対局場周辺は熱気で包まれている。一階上の踊り場からも覗いている客がいる。みな将棋は知らないだろうが、ただごとならぬふたりの熱気が、客を吸い寄せるのだ。
室谷女流初段は左手をパタパタやり、自らに風を送っている。飛んでいってあおいでやりたいが、そうもいかない。
鈴木女流二段、△2五歩と打ち、お茶を飲む。先ほどから鈴木女流二段はお茶を飲む回数が多い。それがリズムになっているかのようだ。
銀桂交換ののち、△6六竜。次に△2六歩の狙いだが、▲6七歩と横利きを消しに来たらどうするのか。だが室谷女流初段は先ほどから、島九段の二択をことごとく外している。
しかし室谷女流初段は▲6七歩! やっと島九段の予想が当たった。△4六竜に室谷女流初段、襟元に手をやり、首を傾げ、▲4七歩と突きあげる。鈴木女流二段、今度は△4五竜とひとつ引く。
どちらも盤にかぶさっている。室谷女流初段の前髪が額にへばりつき、色っぽい。将棋は体力なのだ。
鈴木女流二段、金桂交換の駒得ののち△4五角だが、▲8一竜にはヒモが付いている。室谷女流初段、一瞬天を仰いで▲5二と。鈴木女流二段、△8一角では大勢に遅れると見て、△6七角成。しかし▲5八銀とハジかれ、△4五馬と引き揚げるようでは変調か。。室谷女流初段、▲6一竜と金を取る。鉄壁の防波堤が、ついに崩れた。この数手は室谷女流初段だけが何手も指した計算になり、形勢がぐっと縮まった感じだ。
鈴木女流二段、気を取り直して△3六馬。2七への打ち込みがあるので、島九段は▲2七金や▲3七金と、馬にあてる手を推奨する。
しかし室谷女流初段は▲2八金!! なるほど、ジカに馬に当てず、ひとつ引いて受けるのが味わい深い。30秒将棋でよくこうした手が思い浮かぶものだ。島九段が大いに感心する。私も然りで、本局、私が最も感心した一手であった。
△4五角に▲3九桂と思いきや、室谷女流初段は▲3七飛!! 今度は強気の受けに出た。いや、攻め駒を責める手というべきか。
とはいうものの、この手はどうだったか。鈴木女流二段、△2七歩~△2五歩~△2六銀とかぶせ、後手の攻め勝ちが見えてきた。
室谷女流初段、▲3九桂と辛抱する。鈴木女流二段、と金に自らアテにいく△4二金!! 中盤、二枚飛車の攻めの防波堤に打った△3一香が、何と先手玉のヨセに参加してきたのだ!!
室谷女流初段はやむなく▲3七歩だが、鈴木女流二段はシャニムニ2七の地点を攻める。
島九段は間隙を衝く▲5五角の王手を推すが、それは△4四金で逆先を食ってしまう。ゆえに上田女王は▲6六角を指摘したが、「なるほどそれは道理ですね」。
果たして室谷女流初段は▲6六角。やはり対局者はよく読んでいる。
鈴木女流二段、やむない△4四金だが、ここに一枚使ったのは痛い。また形勢が縮まった。
時間は午後5時をとっくに過ぎているが、果たして決着が付くのだろうか。いや付くに決まっているが、両者の死闘には、そう思わせない迫力がある。安易に使いたくはないが、本局どちらが勝っても「名局」となろう。
その後も先手陣の玉頭でごちゃごちゃある。鈴木女流二段が駒得の攻めで、徐々に先手玉を薄くしていく。
「これはどうやら、先が見えてきたようですね。確実に決着がつきます」
と島九段。
△3七歩▲同桂に、△3七同金があった。室谷女流初段は泣く泣く▲2九玉。▲3七同玉では、△3六飛▲4八玉△5六桂まで、ピッタリ詰んでしまう。▲5八銀と▲5九香が左辺への壁になっているのが痛いのだ。お互いの下段の香は、鈴木女流二段のほうに軍配が上がったようである。
鈴木女流二段、△3六桂と詰めろ。室谷女流初段、▲3八金。駒を使っては勝ちがないと見たものだが、やや薄い受けだったか。
2筋でバラバラと駒の精算があり、鈴木女流二段、△3五桂と打ち、お茶を飲む。「これで終わりました」と、その仕草が語っている。
△3六香に、室谷女流初段、首をガクッと垂れて投了。ここに鈴木女流二段の連覇なる! 不動駒は3つのみ。対局時間・3時間近く。実に190手の熱闘だった。
観客の前に、両雄が並び立つ。激闘を制した鈴木女流二段は、実にいい表情だ。室谷女流初段は負けて悔しくないはずがないが、精一杯戦った感じ。
「過去6回で、最も激闘だったと思います」
と島九段の弁。そしてそれは、その場にいた誰もが抱いた感慨だった。
表彰式は時間の関係か、鈴木女流二段に楯と花束を贈呈したのみとなった。楯を受け取りながら、客席に顔を向けるのが鈴木流である。
今回、「世田谷花みず木将棋オープン戦」を観戦するのは初めてだったが、手作り感がある、良心的な造りの将棋大会だと思った。現在将棋大会を取り巻く環境は厳しいが、こうした内容の将棋が続けば、未来は明るい。末永く続くことを願っている。
(おわり)
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世田谷花みず木将棋オープン戦を見に行く(その4)・ふたつの下段の香

2013-05-06 01:48:32 | 観戦記
鈴木環那女流二段は鴇色の着物に紫の袴。室谷由紀女流初段は赤紫の着物に紫の袴だった。
ふたりとも第1局と同じく、派手なお化粧こそしていないが、匂い立つような艶やかさだ。昼前に、もうこれで満足だから帰ろうか、などと考えた自分はどうかしていた。
司会の女性がいうには、この着物は玉川高島屋に出店している「鈴乃屋」の提供とのこと。「白瀧あゆみ杯」と違い、「花みず木将棋オープン戦」は服装に頓着しないのかと意外だったが、さすがに決勝戦はキメてくれた。
解説は、このイベントの主催者といっても過言ではない、島朗九段。聞き手は上田初美女王(当時)が務める。
対局場の向かって右に鈴木女流二段、左に室谷女流初段がすわり、午後3時03分、室谷女流初段の先手で、決勝戦が開始された。
▲7六歩△3四歩▲7五歩。室谷女流初段十八番の石田流となろう。棋戦初優勝をこれに賭けた。
鈴木女流二段は左美濃。玉をガッチリ固めて捌く、これもいつもの鈴木流だ。ちなみに鈴木女流二段は、これに勝てば二連覇となる。この棋戦の特徴はよく分からぬが、前回優勝者が次回も必ず出場できる保証はなさそうなので、連覇は稀有なことであろう。
室谷女流初段、▲5六銀と腰掛けて、やや前傾姿勢になる。鈴木女流二段は口元に手をあてて考えている。立ち見の余得で、その光景がよく見える。私の周りにも立ち見は大勢いて、さすがに注目度が高くなっていた。
室谷女流初段、襟元に手をやる。何をやっても絵になる感じである。
聞き手の上田女王は、さすがに手がよく見える。無言でパッパッと駒を進める。
「そういえば、上田さんはあさって(5月1日)がマイナビ女子オープンの第3局でしたねえ」
と、島九段が驚く。「ここに居ていいんですか」
「大丈夫です。きょうは対石田流を勉強していこうと思います」
と上田女王。
対局前のコンディショニングを棋士がどうやっているかは知らぬが、ある程度将棋に触れていたほうが、実戦の勘は上がるような気がする。上田女王も負担にはなっていないだろう。
室谷女流初段、長考で▲6五歩と突っかけ、キッと口を結ぶ。いよいよ開戦だ。
鈴木女流二段はお茶を飲んで△3三角と上がる。アゴをポリポリとかき、体をゆする。意外に動きが多い。
室谷女流初段、▲6七金と上がった。島九段が、あまり指したくないと解説していた手だ。しかし関西流の形に捉われない、森安秀光ばりの力強い手ともいえる。
室谷女流初段に続いて鈴木女流二段も秒読みになったが、慌てず△7四歩と突いた。鈴木女流二段は背筋がピンと伸びて、見ていて気持ちがいい。
室谷女流初段、▲8四銀と突進した。このまま飛車を取り切れればいいが、そう簡単にいかないのが将棋である。
いつの間にか、ふたりとも前かがみになっている。局面は中盤の佳境である。
鈴木女流二段、△9九角成と香を取る。「香を取りながら角成」は私が最も好きな手だが、本局はこれが疑問だったようだ。
盤上に▲8一竜がおり、島九段はとりあえず▲8八歩を推奨する。馬筋を遮断し次の狙いは▲3三香! まさに焦点の捨て駒で、△同金は▲3一角。△同桂は▲2一飛打。△同玉は▲2一飛成で、いずれも先手大優勢だ。
さりとて、前もって防ぐ△3一香では、▲7九飛と打つ手が、△9九馬と△7三桂の両取りとなり、これも後手がいけない。
つまりこの局面で▲8八歩と打てば先手大優勢なのだが、室谷女流初段、ああ、▲7一飛と打ってしまった。これにはホントに△3一香がピッタリで、鈴木陣の囲いがぐっと引き締まった。
室谷女流初段はここで▲8八歩だが、証文の出し遅れ。鈴木女流二段持ちになった。
ところが鈴木女流二段にも疑問手が出る。△5七とと寄ったのがそれで、▲6六角と「王手と金取り」に打たれ、一遍にヨリが戻ってしまった。
本局の棋譜読み上げはM氏。対局前は「読み上げノーミス」を宣言していたらしいが、けっこう間違えている。対局者の熱気に押されているのだろう。
室谷女流初段、袖をたくし上げて▲9三角成。何度も書くが、本当に絵になる。男性棋士は実戦集を出す。女流棋士…イヤ、室谷女流初段は写真集を出せばいいと思う。
傍らに、世田谷区長の姿が見える。さっきは竜王戦の表彰式で賞状を渡していたが、実戦も見物しているとは、やはり将棋がお好きなのだろう。
「先手、7一竜」とM氏の声。しかしここは「右」を付けるのが正しい。鈴木女流二段は、小刻みに体を揺らして考えている。
室谷女流初段、▲6三歩と攻めるかと思いきや、▲5九香と受けた。意外に室谷女流初段も我慢強い。
ふたりの下段の香。どちらがより働くかが、本局の焦点となった。
(8日につづく)
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世田谷花みず木将棋オープン戦を見に行く(その3)・眼福

2013-05-05 01:35:52 | 観戦記
きのう4日は、「博多どんたく港まつり」を楽しんだ。博多はよかねぇー。

(きのうのつづき)
山口恵梨子女流初段は▲8八金。▲8八銀とハッチを閉めたいところだが、△8六歩があるからやむを得ない。ここが矢倉穴熊の神経を遣うところだ。このあたりも、山口女流初段の将棋ではない気がする。
鈴木環那女流二段は△3三桂。これで▲3五歩とは仕掛けづらくなった。
山口女流初段、▲7五歩△同角と呼びこんで▲7六銀だが、これがどうだったか。鈴木女流二段にすかさず△8六歩と突かれ、▲7五銀は△8七歩成で壊滅だから▲8六同歩だが、△同角と手順に逃げられては、大きく目算が狂ってしまった。
私なら半分戦意喪失だが、山口女流初段はしかし頑張る。解説の森下卓九段は、山口女流初段が指すたびに「なるほどー!」を連発して、まるで中倉彰子女流初段のようだ。しかし辛口の解説で知られる森下九段、どこまで感心しているのか分からない。
聞き手の中村真梨花女流二段も、無言で指し手を掲示する。第1局のときもそうだったが、中村女流二段は手がよく見える。「私に指させなさいッ」と主張しているかのようだ。
局面は鈴木女流二段優勢。△8六歩と垂らし、▲7九桂と受けさせたところで勝負あった。最後は△8七桂と直撃し、鈴木女流二段の快勝となった。やはり、相居飛車では鈴木女流二段に一日の長があった。山口女流初段は残念だったが、居飛車の芸域を拡げようとする意欲は大いに買いたい。
仮に実戦で指さないにしても、指導対局でお客さんから、「矢倉の定跡を教えてください」といわれとき、「私は居飛車は指しません」ではプロとはいえない。基本的な定跡をスラスラ並べてこそ、女流棋士として尊敬されるのである。
このあとは、小学生竜王戦と中学生竜王戦の決勝戦があるらしい。女流棋士の決勝戦は午後2時40分からというから、相当時間がある。もう室谷由紀女流初段も山口女流初段も鑑賞したし、よほど帰ろうかと思った。きょうのうちに、録りだめしたテレビ番組を見たかったからだ。
でも室谷女流初段のナマ対局である。すんでのところで思いとどまり、私は昼食に出た。
高島屋で摂らないで、近所をぶらぶらするのが私流。不案内な地で摂る食事は楽しい。しかし安くて量のありそうな定食屋がない。牛丼屋があればそれでもいいのだが、ニコタマには無縁であろう。
結局、最初に見つけた和定食の店に入った。メニューを見ると、日替わり定食が850円とあり、イヤな予感がした。表に掲出されているメニュー表には、800円とあったからだ。
こういう「見積もり」があやふやなところは、信用できない。
食事は焼魚定食で、まあまあだったが、ちょっと…という感じもあった。ただ、食後のコーヒーが絶品で、これだけで500円の価値はあった。
とするならば、及第点ではないのかの意見もあろうが、食事処でコーヒーが美味くても、意味はない。
玉川高島屋の6階に戻ると、小学生竜王戦(正確には小学生高学年)の決勝戦をやっていた。手厚く▲5四金と打ったところで、▲2八に竜がいた。私はそれを、椅子席の後ろから観戦する。観客席は、対局者の関係者でいっぱいのようだ。
解説は森下九段と上田初美女王(当時)。すでに後手クンが敗勢なのだが、森下九段は例によって「なるほど~」を連発し、私たちに観戦の興味をつなげる。
しかし中盤の不利は大きすぎたようで、先手クンの優勝となった。
続いて中学生竜王戦の決勝戦。解説は島朗九段、聞き手は山口女流初段である。
本局は相振り飛車となった。しかしその手順に若干違和感があったようで、山口女流初段が異を唱える。これには島九段も「私は振り飛車を指さないんで…」と、山口女流初段の博識ぶりに、いたく感心した様子だった…というのは島九段一流の謙虚さで、九段は約10年前に振り飛車の斬新な指し方を網羅した「島ノート」を上梓、将棋ペンクラブ大賞・特別賞も受賞している。ここは山口女流初段の顔を立てたというところ。
将棋は後手クンが手厚く指している。世間話になって、島九段が、
「私は世田谷の将棋大会に長く携わっていまして、小学生大会は150人くらい参加してくれてありがたいです。ところでその対局日が毎年4月29日で、前日その準備をするわけですけども、あの、その、ホントにどうでもいいことなんですけども、この4月28日が妻との特別な記念日でして、いつも私は家にいなくて、その、ホントにどうでもいい話なんですけども…」
と、苦しい胸の内?を明かしてくれる。
さらに
「(山口さんは、性格は)穏やかだけど将棋は乱暴なところがありますよねえ」
と口をすべらし、場内から微苦笑が起こった。
局面は後手優勢。先手は序盤で▲2八銀と上がったが、これが不急の一手で、結果的に玉の逃げ道を塞ぐ悪手になってしまった。
島九段は「これ(▲2八銀)がねえ…」と何度も口にした。プロから見れば、これが敗着だったのだろう。
以下も後手クンが正確に指し、勝ち名乗り。彼は2連覇だそうで、なるほど場馴れしている感じだった。
表彰式もしっかり行われた。ここでもらった金メダルと銀メダルは、彼らの一生の宝物になるに違いない。
ここで観客が若干入れ替わる。私はそこにそのまま居残った。ここからなら両対局者も大盤も見える。立ち見はダメと追い出されることもあるまい。
いよいよ「第6回世田谷花みず木将棋オープン戦」の決勝戦である。
決勝のふたりが現れるが、私は目を見張った。鈴木女流二段と室谷女流初段が、艶やかな着物と袴で登場したからだ。
(つづく)
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世田谷花みず木将棋オープン戦を見に行く(その2)・エリコの秘策

2013-05-04 02:53:58 | 観戦記
室谷由紀女流初段は、窮屈な飛車を相手の角と交換したが、飯野陣は角に強い形なので、何の痛痒も感じない。これは飯野愛研修会員、勝勢に近い形になった。
▲8八飛、△4五角…の局面で、飯野研修会員、▲8四歩△同歩と味つけして▲6五桂だが、ここは▲8四同銀△8三歩に▲8五飛打がなかったか。これなら▲8三銀成と▲4五飛を見て、先手必勝だったと思う。
本譜は飯野研修会員が緩み、徐々におかしくなってきた。こうなると、流れは室谷女流初段である。勝負手を次々に繰り出し、たちまち必勝形になった。飯野研修会員も追い上げたが、一枚足らず、室谷女流初段が勝った。
飯野研修会員、この負けは痛かった。将棋に逆転はつきものだが、「これは逆転のしようがない」というモノもある。本局はまさにそうで、優勢になってから、それほど難しい局面はなかったと思う。
厳しい見方をすれば、これを落とすから研修会を卒業できないのだ。
飯野研修会員、悔しかったら、死に物狂いで将棋を勉強するしかない。

午前10時45分、準決勝第2局の開始となる。対局者は、鈴木環那女流二段と山口恵梨子女流初段。解説者は、森下卓九段。聞き手は前局に続いて、中村真梨花女流二段。
まずは対局前のインタビュー。
山口女流初段「(公開などで)対局させていただける中で、(高島屋さんは)いちばん綺麗な場所です。あそこにもかわいいライオンのぬいぐるみがありました。あとで皆さんぜひ、ご覧ください」
鈴木女流二段「山口さんはいま勢いがあるので、振り回されないようにしたい」
森下九段は、昨年もここで解説をしたようで、
「(1年振りなのに)2,3週間ぶりの気がします」
といった。
この感覚はよく分かる。私もあっちこっちの観光地を定期的に旅行しているが、とても1年振りとは思えない。2、3か月振りくらいに思える。歳を取って新たな記憶がインプットされず、時間が短く感じられるのかもしれない。
閑話休題。
山口女流初段の先手で対局開始。▲7六歩に、鈴木女流二段は△8四歩。▲6八銀△3四歩▲6六歩△6二銀に、▲5六歩! 森下九段が「おおっ!?」と叫ぶ。△5四歩に▲4八銀!! ここに山口女流初段の居飛車が確定した。
周りが得意戦法を期待してると、アマノジャクを起こして違う戦法にする棋士がいるかもしれないが、それにしたって山口女流初段は生粋の振り飛車党である。居飛車には変化しようがないと思っていた。これは山口女流初段、この日に備えて秘策を練ってきたようだ。
本局もふたりのお顔は見えないが、鈴木女流二段は無意識のファンサービスなのか、姿勢を正して沈思黙考する。その顔には「意表を衝かれた」と書いてあった。
私は、2008年12月に行われたLPSA・1dayトーナメント「フランボワーズカップ」で、振り飛車党の松尾香織女流初段が、中井広恵女流六段相手に矢倉で臨んだのを思い出した。
その後も山口女流初段は堂々と駒組を進める。
森下九段は、
「私は『菅井ノート』を読んだんですけれども、私の矢倉の感覚が緩んでいたのに気付かされました」
と、その本の優秀性に脱帽した。そして
「(現在の局面は)名人戦と変わりません」
とし、今度は両対局者を最大限にホメた。さすがの森下流である。その一方で、
「この局面は、島-羽生の竜王戦に出てきたのと同じです」
と、恐ろしいことをさりげなくいう。島朗竜王と羽生善治棋王との竜王戦七番勝負といえば、平成2年秋に行われたものだ。その局面を第三者の森下九段が覚えているとは、棋士の記憶力はなんて凄いんだと思う。
ところで今年は、女流棋士の撮影が不可になったらしい。撮れるのは決勝戦の前と、表彰式のときだけと、司会の女性がいっていた。
それは残念ではあるが、さっきから最前列の男性が、委細構わず写真を撮っている。彼は第1局のときもそうだった。
まさか将棋関係者が客席に座って堂々と撮るわけがないから、彼は私と同じ一般愛棋家のはずだ。しかし彼には後ろめたさというものを感じない。2台のカメラを携え、実に堂々と撮っているのである。撮影禁止になっても、撮ったモン勝ちという覚悟か。まあ、私にはできない芸当であった。
山口女流初段、▲9八香。穴熊を目指す。
しかしここは、▲3五歩△同歩▲2五桂と指してほしかった。山口女流初段の本領は、多少無理でも果敢に攻めていくところにある。▲9八香などというベテランが指しそうな手を、元気ハツラツの恵梨子ちゃんに指してほしくなかった。
たしかにここまでの山口女流初段の指し手は、100点満点なのだろう。ただ何となくだが、本で覚えた将棋のような気がした。
(つづく)
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世田谷花みず木将棋オープン戦を見に行く(その1)・美女の競演

2013-05-03 01:19:18 | 観戦記
4月29日は、「二子玉川 花みず木フェスティバル・第6回 世田谷花みず木将棋オープン戦」を見に行った。
朝、最寄駅から山手線を待っていると、入線した電車は緑色一色だった。1963年に山手線が「緑色カラー」になってから今年で50周年で、それを記念し、往年の103系を模したラッピング電車が走っているのだ。
今回はその電車に当たったわけで、まことに運がよい。きょうはいいことがありそうな予感がした。
渋谷駅で東急田園都市線に乗り換える。渋谷に降りたのは久しぶりだが、毎度のこととはいえあっちこっちで工事中で、迷路のようだ。東京在住の私がこうなのだから、地方から来た人は確実に迷子になるだろう。
二子玉川に着く。二子玉川というと世田谷の外れというイメージがあるのだが(失礼)、渋谷からは急行で10分と、意外に近い。
駅前を右に進むと、「玉川高島屋」があった。ここ南館の6階が対局場である。
現在午前9時10分。イベント開始は9時30分から。観戦、というか、用意してある椅子の数は50と調べていたので、席を確保するには早い者勝ちの趣もあった。それゆえ、もし入場を断られたら潔く諦めて帰宅し、翌日からの旅行の計画でも練ろうと思っていた。
だがそれは杞憂で、席のほうは6分の入りで、私は最後尾(前から5列目)の席に座れた。しかしここからだと対局者はもちろん、左手にある解説用の大盤さえよく見えない感じだ。私は将棋を楽しみに来たのではない。まあ、楽しみに来たのだが、それ以上に女流棋士の闘う姿を堪能しに来たのだ。それなのに対局者が陰になっては、私の目論見が根底から崩れてしまう。
定刻にはほぼ席が埋まり、9時40分、今回の対局者と、解説者・聞き手が勢ぞろいした。
すなわち登場順に、山口恵梨子女流初段、鈴木環那女流二段、飯野愛研修会員、室谷由紀女流初段、中村修九段、森下卓九段、島朗九段、中村真梨花女流二段であった。さらに上田初美女王(当時)も聞き手だが、のちに合流することになっていた。
ただどうなのだろう。出場の女性は全員、ナチュラルメイクだった。服装も普段着と見紛うような地味なもので、これから公開対局が始まるとは思われない。好意的に解釈すれば、「将棋だけを見て」の主張かもしれなかった。
話を続けるが、私の注目は室谷女流初段と山口女流初段である。いうまでもないが、「私が勝手に選ぶ女流棋士ファンランキング」の1位と3位であり、彼女らの出場がなければ、私は1日早く旅行を始めていたかもしれない。
室谷女流初段はスッピンに近いが、相変わらず美しい。もう、女帝の風格さえ漂っている。山口女流初段も然りだ。
先日、将棋ペンクラブ関係者が矢内理絵子女流四段を招いて指導対局をお願いしたとき、居酒屋のおかみさんが彼女の美しさに驚いていたので、「矢内先生クラスの美人はほかにもいます」といっておいたが、そのうちのふたりが室谷・山口両女流初段である。
さらに鈴木女流二段がこれまた妖艶な美人で、男性のファンも多い。飯野研修会員も、女流棋士になれば人気が出ること確実な美形である。まったく、今回は絵になる4人がそろったのである。
いよいよ対局。いきなり準決勝で、第1局は、室谷女流初段と飯野研修会員の対決。
飯野研修会員は改めていうまでもないが、飯野健二七段の娘さん。飯野七段は将棋界を代表する甘いマスクで、将棋は中段飛車での捌きを得意とした。順位戦では2年連続8勝2敗の成績を収めたこともあるが、昇級は叶わなかった。2011年7月引退。
飯野研修会員が女流棋士になれば、「伊藤果七段-明日香女流初段」に続いて、2組目の「男性棋士-女流棋士」親子の誕生となる。
対局前のインタビュー。
室谷女流初段「飯野さんとは研修会で対戦したことがあり、今回は3年ぶりの対戦になります…」
飯野研修会員「花みず木ではいい成績を残せず、きょうは試練の日…」
これには場内で爆笑が起こった。
飯野研修会員の先手で対局開始。▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩で、相振り飛車が確定した。どちらも四間飛車となる。
それはいいが、恐れていた通り、ふたりの対局姿が全然見えない。解説は修九段、聞き手は真梨花女流二段だが、大盤も下半分が見えない。この「世田谷花みず木将棋オープン戦」は回を重ねること6回だから、開催においてのノウハウは習得しているはずだが、あまり工夫が感じられないようにも思える。この状況で、ほか観客は満足しているのだろうか。
もっとも今回は「トリック絵画展」が近くで開催されており、思うように将棋のスペースが取れなかったのかもしれない。
将棋は、飯野研修会員が積極的な指し回しで、優位を掴む。室谷女流初段の飛車は中段をうろうろするばかりで、あまり役に立っていない。
飯野研修会員の8筋からの攻めが決まりかけている。室谷女流初段、危うし。
(つづく)
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