一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第九回 シモキタ名人戦(4)

2020-11-24 00:10:10 | 将棋イベント
ここで星合志保二段の新刊が紹介された。「13路盤で上達!基本戦術と手筋」である。「初志」の揮毫入りで、物販コーナーで販売しているという。先崎学九段は、19路より13路のほうがお好みらしい。「19路は長いです。13路は美しい手っていうのはあまりないんですけどね」



終わりの時間が迫ってきた。最後に質問コーナーである。まずは将棋を趣味にしている男性からで、今回のトークを聴いて、囲碁も始めたくなったという。そこで「囲碁に戦法はあるか」という質問だった。
星合二段いわく、囲碁はそういうものはあまりない、とのことだった。
先崎九段「(アマチュアは)どう打ってもいいんです」
最後に別の男性から、藤井聡太二冠の強さの秘密は? と寄せられた。
先崎九段「藤井君は終盤が強い。将棋は詰む詰まないが大事ですが、藤井君はそこが異常に強い。3手、5手前から強いんですよ。完成されてますね。
羽生さんや私の若いころはインターネットなんてなかったです。だから粗削りだったです。
でも基本は、終盤が強いほうが勝つんです。あと若いほう、勝利への執念が強いほうが勝ちます」
ここで下平憲治氏が登場し、表現者として今後どう活動していくか、と質問があった。
先崎九段「もう50を過ぎましたし、これからは楽しく生きようと思っています」
星合二段「AIに打ち手が似てきたので、自分ならどこに打つか、もう一度自分を見つめ直して打っていきたいです」
先崎九段と星合二段はこの打ちあわせのため、駅構内にある「将棋酒場」に寄っていたらしい。将棋酒場も将棋コーナーのひとつで、そのあたりでも将棋が指せたらしい。私は伺う機会がなかった。
下平氏「これでトークショーのプログラムは終わりです。ある国の調査によると、下北沢はクールな街の世界第2位だそうですね。鮮やかな街並みの中に飲食店その他がいっぱいあって、自慢できる街です。今後もいろいろなイベントを発信して、下北沢を盛り上げていきます」
このあとはグランドチャンピオン戦の決勝戦、表彰式があるようだ。そこまで粘るつもりはないが、指導対局コーナーに行くと、その途中に大盤が掲げられており、上村亘五段が解説を行っていた。現在決勝戦の最中で、対局者はその裏手にいるようだ。アシスタント氏が、タブレットから指し手を入手していた。



将棋は相振り飛車で、まだ序盤。その先に行くと、飯野健二八段、鈴木大介九段が指導対局を行っていた。





鈴木九段は新橋解説会での明快な解説でお馴染みである。また将棋ペンクラブの交流会でも、気軽に指導対局を行ってくれた。
鈴木九段のほうの対局者はひとりだった。あとの人はもう終わってしまったのだろうか。
ちょっと気になったのは、ネットで指導対局を予約した人は、100%現地に来たのだろうか。もし欠席があったなら、その場で対局を募ってもよかったと思うのだが。
将棋は鈴木九段が△4四銀とした局面(第1図)。二枚落ちのようだ。

第1図以下の指し手。▲7二竜△9三玉▲4四歩△7七桂打▲7九玉△8九桂成▲同玉△7七桂打▲8八玉△8九金▲9八玉△9九金▲同玉△9七香▲9八桂(投了図)
まで、男性氏の勝ち。

男性氏は一本王手をしたが、△9三玉に▲4四歩と銀を補充するしかなかった。
ここで上手の王手ラッシュが始まる。途中、△7七桂打に下手氏が何か言ったように見えたが―投了した?―そのまま対局は続けられた。
以下▲9八桂まで進み、鈴木九段投了。「詰まなかったか……」

ここから感想戦である。鈴木九段はサラサラと局面を戻す(部分図)。

「ここで▲4三銀と打ったけど、▲5一銀でしょう。△3一玉に▲4三歩成△同金▲2三飛成(参考図)。これは次に▲1二竜もあるし、やがて勝ちます。

本譜▲4三銀は△同金▲同歩成△同玉で、これは△4五銀と△5五銀が働いてきちゃうから損ですね。
そこで▲3六歩と打ったけど、これ詰めろになってないですよね。ここは▲2三飛成でしょう。こちらが何か受けたら▲1二竜として、これが詰めろ。いわゆる取りドクというやつです。▲1二竜では▲2一竜でも詰めろかな。
本譜は上手に追い上げられちゃいましたからね。こうやってこう取られて……取られ損というやつです」
鈴木九段は一手一手を丁寧に指南する。ほかに対局者はいないから、これは絶好の勉強の場である。私も自分が指導対局を受けているかのように、鈴木九段の講義を聞いた。
「あのね、皆さん勘違いされてるんですけど、下手が終盤まで1手違いで行ったとしますよね。そうしたら下手は2手違いに拡げて勝たないといけないんです。だって下手のほうが駒数が多いんですから。終盤はさらに有利になる手順があるということです。
だから2手違いだったのを1手違いにされて逃げ切る、というのはあまりよくない。本局は3手違いを2手、1手違いにされちゃったでしょ。これはよくないんです」
このあたりは、私たちギャラリーへの講義も兼ねている。ここに来て、いちばんためになる話を聞いてしまった。これで無料とは、私は大儲けをした気分である。
鈴木九段の感想戦はキッチリ終わり、気が付くとグランドチャンピオン戦の決勝戦も終わっていた。しかし私は表彰式を見ず、これで失礼することにする。
コロナ禍において、今年もシモキタ名人戦が行われたことはうれしかった。来年は例年通りの日程で行われることを願う。その中で私も、指導対局を受けられたらうれしい。
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第九回 シモキタ名人戦(3)

2020-11-23 02:15:22 | 将棋イベント
15時30分からトークショーの3回目である。題して「表現者としての囲碁棋士、将棋棋士」。演者は先崎学九段、囲碁の星合志保二段。
先崎九段は例年通り、寝起きのような顔だ。星合二段は初見だが背が高く、モデルかと思った。
冒頭に下平憲治氏が一言述べたがすぐに退き、本編は2人のみのトークとなった。



先崎九段「将棋の先崎です。よろしくお願いします」
星合二段「シモキタ名人戦には初めてお邪魔します。囲碁の星合志保です。今日は表現者と言うテーマですが、私は勝ち負けを念頭に打ってきたので、普段はそこまで考えて打ってなかったです」
先崎九段「棋士はいろいろな面がありますが、重要なのは勝つこと。勝たないと話にならない。勝つためにはスキルを高める。それは研究者なんですね。盤上に指し手を表現することに、芸術家的要素はあると思いますね」
星合二段「どんなところにその要素はありますか」
先崎九段「子供のころから将棋だけに打ち込んできましたからね、そういうものが対局中に出るんですね」
星合二段「それはひとつのことに打ち込んできたこと、芸術でしょうか」
先崎九段「そうですね、その指し手でファンの皆様に何かを感じてもらわないと、私たち棋士が存在する意味がない。AIにならって、その指し手がすべてだと捉えられたらいいことじゃないんです」
なんだか禅問答のようだ。星合女流二段はなかなかの美人で、船戸陽子女流二段にイメージが似ているか。私はズームレンズを持参しなかったことを、このとき心底悔やんだ。
星合二段「私もAIを使って勉強してるんですね。そうすると最近は、この手はAIが好きそうな手だな、と思って打つことがあるんです。でもその一方で、これはAIが好まないけど、私はそこに打ちたいから打つ、というときがあります。対局のリズムを崩したくないという意味もあって……」
先崎九段「コンピューターの手ばかりになると面白くないんですね。将棋のソフトは、奨励会の三段程度じゃ役に立たないんですよね……」
星合二段「囲碁界って、最初の布石が似てきてるんですよ。40手くらいまではパターンが同じなんです」
先崎九段「将棋の世界もそういうところはありますね。ひとつの時代における流行の手というか……」
先崎九段は江戸時代の囲碁の布石などを流暢に語る。先崎九段の奥様は囲碁の穂坂繭三段なので、囲碁にも明るいのである。
星合二段「それで、NHK杯で、山下敬吾九段が初手に『5五』に打ったりするんですね。これはいい手じゃないんですけれども」
先崎九段「あれは山下君なりの現代の風潮に対する反骨精神ですね」
私は囲碁がまったく分からないが、将棋でいえば初手▲8六歩みたいなものだろうか。
星合二段「その碁は山下先生が勝って、NHK杯は番組の終わりに『私の一手』という、その一局の勝因になった手を紹介するコーナーがあるんです。そこで山下九段は、『私のこの一手は、初手の5五です』と言ったんです」
あとで分かったのだが、星合二段は2019年度からNHK杯囲碁トーナメントの司会をしていた。ニヤリとするエピソードである。
先崎九段「そのあたりは同じ棋士として尊敬しますね。
先ほどから評価値という言葉が出てきてますが、将棋と囲碁はAIの評価値が違うんですね。将棋は終盤で悪手が多い。だから一手悪手を指すと振り幅がドーンと変わったりするんです。囲碁のほうはリードしたほうが収束に向かうので、評価値がアテになるんですね。でも将棋はアテにならない。評価値が-1000を越えても、人間が悪手を指しそうな局面ならば、意味がないんです。将棋は逆転のゲームなんです」
星合二段「囲碁は終盤になればなるほど、逆転するのは難しいです」
先崎九段「将棋はワーッと開いて一気に閉じていくゲームなんです」
星合二段「あー……。先生、奥様は囲碁の穂坂繭先生ですね。先生はどのくらいお打ちになるんですか?」
先崎九段は、四、五段ですね、と答えた。「朝とかね、お互い囲碁と将棋の話ばかりですよ。コーヒーを飲みながらね」
このトークショーは、星合二段が聞き手に徹しているようだ。例年の中倉宏美女流二段の役回りである。
ここで話題は本の話に移った。
先崎九段「私は棋士なので、文章で何かを表現しようということはなく、将棋ファンの方によろこんでもらおうと、その一心で文章を書きました。
……下北沢は演劇の街ですけど、将棋は文学や演劇、絵画などの世界とは違う気がします」
星合二段「自分らしい手を考えていくことが表現なのかなと考えます」
先崎九段「人間は自分らしく指す、自分らしく打つことです。何十年も将棋を指してきたんだから……」
星合二段「AIが発達してきましたけれども、アマチュアの皆様には、自分らしい手を打っていただきたいと思います」
先崎九段「AIは囲碁将棋の技術を高めるのに必要だけど、それでファンの方によろこんでもらえるか、となるとどうなのかと思います。……序盤における個性は大事です」
星合二段「AIのお蔭で可能性が拡がったというのは大きいです」
先崎九段「AIを利用するのはいいんですけど、そればかりだとどこかで飽きられますよね。人間のやる手に注目してもらいたいですよね。数字ってつまんないじゃないですか。90:10とか。
将棋で詰みの場面がありますよね。名人戦や竜王戦で、詰まない局面があったとしますよね。そうすると『週刊将棋』で詰まないの記事が載った時、読者は次の号が発行されるまで、1週間考えられたわけです。
だけどいまじゃ、コンピューターが結論出してオワリ。これじゃあね……」
星合二段「こんなことでこれから大丈夫でしょうか」
先崎九段「囲碁と将棋じゃゲーム性が違いますからね。芸術的側面は囲碁のほうが強いんですよ。盤上に散らばる形は囲碁のほうが重要なんですよ。将棋は狭い。将棋は詰む、詰まないが重要だから、そこで間違えたほうが負けるんです。
そこへいくと囲碁は、盤上に美しいものを描くという意識のほうが強いんです。いい手を打ったほうが勝つゲームなんです」
星合二段「私も囲碁ファンから、絵を描いている気分になる、と言われたことがあります」
先崎九段「囲碁にも将棋にも“手筋”がありますが、囲碁は効率がいい形を手筋というんです。だけど将棋の手筋は、相手を破壊するんですね。だから将棋のほうがバタッと決まるんですよ」
星合二段「いいですね。私も戦うのが好きなんで……。将棋をやったとき、詰碁をやってる気分になりました」
先崎九段「それは将棋に向いてるかもしれませんね」
星合任段「囲碁は詰碁の要素のほかにも陣地を取っての勝ち負けがあるので、そこも芸術的要素がある気がします」
先崎九段「囲碁は負けても名局があるじゃないですか。でも将棋の場合は、負けた将棋に名局はないんですよ。盤上でどんなに美しい局面を作っても、最後に負けたら瓦解するんですよ。また将棋ファンも、最後のそこのとこだけしか見ない。
この前の女流王将戦で室谷由紀さんが大逆転負けをしたんですよ。それって2局目と3局目はものすごい名局なんですよ。(3局目は)最後の最後以外は名局なんだけど、最後にとんでもない手をやらかすんですよ。それですべてがパーになる」
星合二段「私もこの前、半目で負けたんですけど、それは将棋ではダメなんですね」
先崎九段「将棋は勝ち負けが分かりやすいんですよ」
私は将棋の敗局にも名局があると思うが、先崎九段の考えも支持する。
(つづく)
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第九回 シモキタ名人戦(2)

2020-11-22 00:19:15 | 将棋イベント
次は14時30分から「武宮先生が聞く、囲碁YouTuberの新しい世界」。武宮正樹九段が女性棋士YouTuberにその魅力を聞くという企画だが、私は前述のとおりYouTubeは興味がないので、これはパスとする。
沿道では指導対局をやっていた。ナイスミドルの男性は飯野健二八段。その右の若手は、田中悠一五段か。いずれもゴーグルにマスク、フェイスシールドを付けている。こうした場での棋士の防御は徹底していて、感心する。
問題はその右の女流棋士で、小芝風花にも見えて、とてもかわいらしい。たぶん飯野愛女流初段だと思うが、やはりフェイスシールドやゴーグルに隠れて、よく分からない。



見物人の中に、LPSAファン氏がいた。LPSAファン氏は医者で、将棋界のよき理解者である。むかしLPSA芝浦サロンの帰り、ふたりでサイゼリヤに行ったのがよき思い出だ。
女流棋士が私を見ると、ニコッと目が笑って、挨拶された。ほかの観客も私を見たので、ちょっと慌てた。やはり飯野女流初段だったようだ。
私も女流棋士の知己がいて誇らしいが、笑顔で挨拶してくれる女流棋士となると、ほかに渡部愛女流三段と島井咲緒里女流二段くらいだろう。ほかの女流棋士は、私への警戒感のほうが勝る。上の3名は歴代の「女流棋士ファンランキング1位」で、私の目は節穴ではなかったと再認識した。
高架下には、バックギャモンや連珠コーナーがあった。囲碁将棋コーナーがないが、それは別所にあるのだろう。
そして下北沢といえばいつもの蕎麦屋である。香り高いそばを食べさせてくれるのだ。
それを食しに行ったが、場所がよく分からない。どうも線路の反対側だったようで、そちらに移ったら、すぐに分かった。
昨年の同イベントの時は行った記憶がないので、2018年の4月以来となろうか。
店内は混んでいたが、私は大テーブルに座れた。大もりを注文する。
ずいぶん待たされて出てきたそれは、挽きぐるみのようで、麺が黒かった。そばの上にネギを直接載せ、すすってみる。ネギの酸味が直接喉に入ってむせたが、それより驚いたのはこのそばだ。
……これ、市販の乾麺じゃないか?
間違いない。この一定の長さ、縮れの少なさ、何より市販品独特の香り。何度も食べたことがあるから分かる。しかもここのそれは、少し芯が残っていた。
蕎麦専門店で、なんでこんなの出してんの⁉
ずいぶん時間がかかっているからおかしいと思ったのだ。もりはそばを茹でるだけだから、そんなに時間はかからない。だが乾麺なら数分は茹でなければならない。それで時間を食ったのか。
よほど一言言ってやろうかと思ったが、ほかにも客がいるし、従業員も高齢ばかりだから、そこはぐっと堪えた。
駅前に戻ると、路上の対局場で、女性同士が将棋対局をしていた。これがグランドチャンピオン戦だろうか。片方の女性は個性的な服装だが、出場者の基準はなんなのだろう。
その向こうでは、森内九段が3面指しをやっていた。線路を隔てているから、さっきとは反対側である。相手はすべて女性で、平手戦だった。
棋士の中には平手の指導対局を嫌う人もいるが、森内九段は平手を厭わない。ただ今回は女性陣が駒落ちの指し方を知らず、平手になった気がした。
観客の中に、ミスター中飛車氏がいた。彼は将棋チームを持っているから、こうした場には熱心に訪れる。
局面は見るまでもなく、3局とも森内九段が優勢。どんなに緩めても、上手が優勢になってしまう。
傍らのテーブルには森内九段の色紙が置かれている。現在行われているグランドチャンピオン戦の副賞だろう。揮毫は「畏天命」。論語の巻八・季氏第十六にあり、天命を畏れ敬い、受け入れる、という意味だったと記憶する。











それにしても、歴代の永世名人は皆さま達筆だ(羽生善治九段はやや個性的だが)。
指導対局は、手前の女性が、ビシッ、と▲4七飛と打った(図)。

図で△5六馬なら▲4一飛成△同銀▲同竜の狙いだ。
だが森内九段はしばらく考えて△4九馬。よく分からないが、うまい切り返しだと思った。
この将棋を見ていたら遅れてしまう。旧線路を越えて東口に戻ると、指導対局を終えた中村真梨花女流三段がいた。中村女流三段には大野教室で指導を受けたことがあるが、ほかに飯野女流初段の姿も見えて、そこに私が顔を出すと、却って気を遣わせてしまう。私は黙ってトークショー会場に赴いた。
(つづく)
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第九回 シモキタ名人戦(1)

2020-11-21 02:34:09 | 将棋イベント
3日(火・祝)は下北沢で「第九回 シモキタ名人戦」があった。いつもは4月29日前後に行われているイベントだが、今年はコロナ禍で延期となり、季節外れの開催となったものである。
今年は同日に埼玉県和光市で「長照寺 大いちょう寄席」も開催予定だったが、木村家べんご志によると、コロナ禍で早々に中止が決まったという。お寺でクラスターになったら笑い話にもならないから、この措置は正着だった。
というわけで、晴れて下北沢に行けることになったのだった。
出演棋士は例年とほぼ同じだが、今年はLPSAの出展、出演はなかった。また指導対局は事前申し込み制で、将棋部門はすでに満席。私はトークショーを楽しむのみとなった。

家を出てしばらく歩くと、財布にお札がまったくないことに気付いた。2日前に社団戦に行った際、お札だけ封筒に入れて出掛けたのだが、それを元に戻すのを忘れていた。Suicaはあるが、現地では行きつけの蕎麦屋に入りたい。つまり現金が必要で、結局お札を取りに戻ることになり、これで遅刻が確定した。
新宿で小田急線に乗り換え、下北沢下車。エスカレーターに乗り東口に出ると、すぐ前がトークショー会場だった。1本目は13時30分からだが、2分程度の遅刻で済んだ。
今回の出演棋士は森内俊之九段と鈴木大介九段。司会進行は本イベントの実行委員長・文壇将棋名人の下平憲治氏だった。タイトルは「将棋棋士に聞く、ゲームの達人の作り方」。
鈴木九段「私は小学生のころからゲームが好きでして、自分で野球盤を作ったりして、サイコロ振って遊んだりしてました」
森内九段「私も子供のころからボードゲームが好きでして、母親とオセロをやった記憶はあるんですけど、勝てませんでした。麻雀も苦手です。棋士は麻雀が好きなんですけど、私は勝ったことがありません」
下平氏「でも森内先生は大貧民が得意ですよね」
それを鈴木九段が引き継ぐ。「森内先生はカードの絵を全部憶えてしまったという伝説があるそうですが」
森内九段「まあ大貧民は割とやることが限られているので……」
ここで新たなゲストが呼ばれる。「激レアさんを連れてきた。」に2回も出場経験があるという、バックギャモン世界チャンピオンの矢澤亜希子さんだ。お馴染みのゲストである。
亜希子さんが、バックギャモンの魅力を説く。「バックギャモンは将棋と違って一発勝負ではないんですね。目標の点数に向かって戦うゲームなんですけども……」。私はルールを知らないが、奥は深そうだ。
ところで私は今日、一眼カメラを持ってきたが、替えのズームレンズは用意しなかった。ひとりずつ撮るには距離が遠すぎて、どうにももどかしい。なんでレンズを持ってこなかったのか、おのが軽率に自己嫌悪に陥っていた。
麻雀の話に移る。麻雀といえば鈴木九段で、昨年は麻雀最強戦で優勝し、「最強位」のタイトルを手に入れた。いま最も乗っている雀士である。下平氏がその最強戦の模様を話すが、リャンピンとかウーピンとか麻雀用語を述べるので、分からない。私は麻雀を知らないのである。
鈴木九段「麻雀も読みは必要なんですよ。たとえば相手が(牌を)二三四五と持っていて、人間は左から順番に置いておくと思うんですよ。それで左から3番目から四が出てきたら、ああその左は二と三があるなと……。麻雀は、場面場面で価値が変わるじゃないですか。それでその時は二を狙ってるんじゃないかと考えまして……」
そういえば丸田祐三九段は、牌の木目で麻雀の柄を憶えてしまったというが、麻雀も鋭い注意力が必要とされるようだ。
鈴木九段の麻雀の本が紹介された。タイトルは「麻雀強者の流儀」。知り合いの棋士がこの本を読んで試合に臨んだが、最下位だったらしい。ただ森内九段は「これほど勉強になった本はない」と感心のテイだった。
森内九段はバックギャモンの使い手だ。試合で外国に行くこともあるという。
「私はあまり社交的じゃないんで、外国人とやるのは得意じゃないんです。そのとき日本の仲間がいると心強いです。私が入賞したのも矢澤さんのおかげです」
しかし矢澤さんは逆らしい。「私はゲームにのめりこんで周りが見えなくなってしまうことがあるんで、知り合いがいないほうが気がラクだったりします」
私も外国は苦手だが、国内旅行はひとりがラクである。知り合いがいない気楽さがいい。
森内九段は今年「森内チャンネル」というYouTubeを立ち上げた。「ゲームの魅力を多くの方に知っていただきたいという思いで作りました」。現在登録数は4万人らしい。「いろいろ大変だけど、スタッフとともに頑張っている」という。ちなみに私はYouTubeをとほんど見ないので、森内九段のそれも名前しか存じ上げない。
今日のイベントでは、棋士はフェイスシールドを装着している。その隅に森内九段のシールが貼ってあって、森内仕様になっているという。森内九段と加藤一二三九段のTシャツみたいなものも販売していて、見る将にも楽しめる構成になっている。



このイベントは今回で9回目だが、第二回のときは森内九段が81面指しをやったという。それに全勝したというので当時Yahooニュースにも出たが、それは誤報だったらしい。
「実際は負けも多くて、いつも『負けました』と言ってました」
9月の蕨将棋教室でOhh氏が森内九段に平手で勝った、と語っていたが、まさかこのイベントだったのではあるまいな。
鈴木九段は12月12日に、麻雀の試合があるという。最強戦だろうか。健闘を祈るものである。
最後に、出演者から一言ずつ。
鈴木九段「このたび叡王戦のスポンサーが不二家さんになりました。いままでタイトル戦のスポンサーといえば新聞社でしたが、これからはいろいろな業種の企業がスポンサーになると思います。
好きなゲームは囲碁ですが、こちらは初段くらいです。こちらも頑張ります」
森内九段「このところ調子も上がってきたので、大きい舞台で戦えるよう頑張りたい」
矢澤さん「これから将棋を始める方は、将棋よりバックギャモンのほうが、日本一になれる可能性が高いです。バックギャモンをいっしょに楽しみましょう」
トークショー1回目はこれで終わり。将棋ファンから見れば、棋士を鑑賞するだけで香一本強くなった気がする。今年も下北沢に来てよかったと思った。
(つづく)
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第13回白瀧あゆみ杯準決勝戦を見に行く(後編)

2019-09-20 12:07:17 | 将棋イベント
▲4八桂、と脇田菜々子女流1級は受けた。高見泰地七段は「大丈夫?」と心配する。こういう時は高い駒でしっかり受けるのが、男性プロの感覚らしい。
▲礒谷真帆女流初段-△加藤桃子女流三段戦は、▲4四桂に△同銀▲同角。これで△7六歩の一手を無駄にできた恰好だ。
さらに△3三銀に、角を逃げず▲4五香。「(逆転の)雰囲気出てきましたネ」と高見七段が盛り上げる。
▲脇田-△山根ことみ女流初段戦は、山根女流初段が△6七金から清算した。
▲礒谷-△加藤戦は、礒谷女流初段が追い上げたが逆転までは至らず、加藤女流三段が寄せに入っている。△6六歩▲同玉の局面で、「△7五銀で詰みでしょう」と高見七段。「対局姿は落ち着いて見えるんですけど」とは、塚田恵梨花女流初段。これは加藤女流三段のことをいっているのか。
ほどなく加藤女流三段が△7五銀を着手。礒谷女流初段が投了した。新人の磯谷女流初段、序盤でチャンスがあったかに見えたが、そこで踏み込めなかった。加藤女流三段は中盤以降の指し回しが見事。さすがに奨励会元初段だった。
▲脇田-△山根戦も△7五銀。しかしこれは▲同角成△同歩▲同玉で、
「これは入玉ですね。脇田さんが一気に勝ちになりました」
と高見七段が下す。何という展開だろう。
とはいえ山根女流初段もそれを阻止すべく頑張る。
高見七段「いま流行りの『宣言法』をやりますか」
私はよく分からないのだが、最近は持将棋模様でそういうルールがあるという。だけど宣言法をやって失敗したら負けになるらしく、塚田女流初段は
「宣言法のタイミングが分かりません。リスクが高いですからね」
と慎重だ。
高見七段「いろんな場所から王手がくるんで、30秒将棋だと分からないですね」
そこに、加藤女流三段と礒谷女流初段が入場した。私たちは拍手をもって迎える。
加藤女流三段「序盤は失敗して苦しかったんですが……。最後はうっかりがあって(△7六歩のこと)混戦になって、失敗したと思ったんですが……」
礒谷女流初段「序盤はよくなった意識があって……そこから弱気になったのが悔やまれます」
高見七段や私たちがいちばん聞きたいのは、図で▲7四歩はなかったかということだ。

高見七段指摘の「△7二金▲7八飛△6三銀▲7三歩成……」の順は後手不利なので、△7二金では△6三銀とする。以下「▲7三角成△同桂▲同歩成△5四銀▲7二歩△8六歩▲8四桂……」が加藤女流三段の読みだ。
「抑えこまれて飛車を狙われると、厳しいですね」
と加藤女流三段。しかしこれは敗者を立てた感想で、実戦になったらそこから何とでも指し回してみせる、みたいな気概は窺えた。
礒谷女流初段は残念だったが、実力のあるところは見せた。また次の対局を頑張ればよい。
2人はそのまま席に座り、脇田-山根戦を観戦する。
こちらも最終盤だ。山根女流初段が入玉を許したかに見えたが、山根女流初段が△8二竜と引き揚げ、先手玉を捕まえんとしている。
高見七段「△8五角から△6三角が詰めろになっている気がするんですけど……」
脇田女流1級は▲2四歩として、「下駄をあずけました」と高見七段。さあ、先手玉が詰むや詰まざるやだ。「以前山根女流初段とすれ違ったんですけど、山根さんが詰将棋を解いてて、挨拶できませんでした」
高見七段は適当なところで笑いをぶちこんでくる。
実戦は山根女流初段が2枚目の竜を△6八竜と活用し、綺麗に詰め上げ、勝ち名乗りを挙げた。終了時刻は16時10分。
高見七段「最後の詰みは見事だったけど、それまでいろいろあって、▲7五同玉の時は山根さんが本意でなかった気がしますが、頑張って逆転しました。先手は上部に逃げても勝ちじゃない、っていうのが将棋の難しいところですね。2枚竜は強力ですね」
対局者が入場した。やはり大きな拍手で迎える。
山根女流初段「居飛車を選択したのは2回目です、望んでいた展開ではなかったけど攻め切れる展開になって、よくなったと思ったんですけど、そこから大変でした」
脇田女流1級「山根さんの四間飛車の棋譜しか見てなかったんで、序盤は作戦負けになりました。最後は勝ったと思ったんですが、詰み筋をうっかりして……。もっと将棋を勉強しないといけないと思いました」
この将棋で高見七段が聞きたいのは、終盤△2八飛の応手である。脇田女流1級は▲4八桂と安い駒で受けたが、金合はなかったのか。
脇田女流1級「最初は金合を考えていたんですが、桂でした。安い駒を打ってしまって」
山根女流初段「▲4八金なら、△5七金▲4九玉△2九飛成▲3九合で1枚使わせて、△4七歩を考えていました」
なるほどこれは先手難局だ。
高見七段「ああ、じゃあ、桂合はいい手だったんですね」
やはり対局者はよく読んでいるということだ。「竜が8二~6二と活躍して、見たことがない動きで、いい将棋でした」
これで決勝戦は、加藤女流三段対山根女流初段という顔合わせになった。勝利者には、対局室に飾ってあったブーケがプレゼントされた。両者に決意を聞く。
加藤女流三段「山根さんは将棋が強いと改めて思ったので、決勝戦は頑張ります」
山根女流初段「私がアマチュアだったころに角落ちで教わったことがあります。平手でも教わりました。それからこの棋戦で当たることができてうれしい。決勝戦は自分の力を出し切ることができたらと思っています」
私は両対局者に指導対局で教わったことがあるので、どちらにも勝ってほしい。改めて、決勝戦は10月6日(日)である。
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