白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

例のツケ

2017年09月30日 23時46分34秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日は中央大学囲碁部の現役・OBの練習会がありました。
ほぼ毎月参加していますが、現役の成長に感心することもあればもどかしく思うこともあります。
どちらにしても、応援できる後輩たちがいるのは嬉しいことですね。

さて、本日は最近例のツケが打たれた碁をご紹介します。
幽玄の間で中継された、馬逸超五段(黒)-柯潔九段戦です。



1図(テーマ図)
黒1に対して白2、4・・・。
過去にはほとんど例の無い手でしたが、Masterの出現以来棋士の対局でも時々見られるようになりました。





2図(実戦)
そして、黒7までを交換しておいて、思い出したかのように白8、10へ・・・。
一体何をやっているのかという感じですね。
ただ、実は以前の棋士の対局でも、似たような展開は見られたのです。





3図(参考図)
このような布石で白1とツケる手が大流行しました。
これも突飛な手のようですが・・・。





4図(参考図)
黒9までを交換して白10に回る展開が、まるで基本定石かのように打たれたものです。
これは出来上がりの形こそ違いますが、石の流れは1図~2図とよく似ていますね。
しかし、同じことを目指しているにも関わらず、人間には1図~2図の打ち方はなかなか思い付きませんでした。
棋士は自由な発想で碁盤に向かおうとしていますが、それでも先入観が邪魔をすることはよくあります。
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書評・第10回 剛腕丈和

2017年09月29日 23時49分21秒 | 書評
皆様こんばんは。
昨日の書評で、1つお伝えし忘れていたことがありました。
古典名局選集シリーズは、恐らく全て絶版になっています。
碁の本は寿命が短いですね・・・。

ですが、日本棋院の電子書籍にて復刻されており、パソコンやスマートフォン、タブレットで読むことができます。
値段も安くなっているのでおすすめです。

さて、ついでと言ってはなんですが、今回は同じシリーズの1冊をご紹介しましょう。



本書の主人公は本因坊丈和です。
歴代の名人の中でも屈指の実力の持ち主であり、知名度も高い方でしょう。
ただ、人気は必ずしも高いとは言えません。
それは棋風によるところもあるでしょうが、一番の理由は盤外での権力闘争に力を入れ過ぎたことでしょうね。
盤上で白黒つけず、政治力で名人位に就いた丈和にはダーティーなイメージが残ってしまいました。

ただ、当時の事情も勘案する必要があるでしょう。
名人就位運動を起こした時点で、丈和は既に40歳を超えていました。
全盛期はとうに過ぎていた筈で、丈和もそれを自覚していたようです。
それでも実力は紛れもなく碁界一でしたが、当時の名人にはただ一番であるだけでなく、二番手以降と別格の強さが求められました。
ハンデを与えた上で勝たなければならず、ここが現在のタイトル戦とは大きく違うところです。

そして、名人位の持つ権威も大変なものであり、名人になれば碁界を支配できると言っても過言ではありません。
本因坊家を束ねる立場でもあり、丈和にかかる責任は重大でした。
権謀術数を巡らす姿は美しくありませんが、必ずしも責められるものではないと思います。

さて、人物の評価はさておき、丈和は素晴らしい作品を多数残しています。
本書のタイトルにもなっているように、丈和と言えば剛腕というイメージがあります。
優れた大局観を持ちながらも、全力で戦って相手を打ち倒しました。
戦いの碁が好きな方なら楽しく鑑賞することができるでしょうし、良い教材にもなるでしょう。

本書の解説は高木祥一九段です。
この世代の棋士の勉強法として古碁を並べることは必須であり、碁の骨格作りに大きく影響を与えています。
それだけに、本書は技術的な解説にとどまらず、高木九段の丈和への強い思い入れが表れていると思います。
ただ手順を追うだけでなく、当時の対局姿を想像しながら並べるとより楽しめるのではないでしょうか。
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書評・第9回 黎明秀甫

2017年09月28日 23時59分59秒 | 書評
皆様こんばんは。
本日はこの本をご紹介します。



以前玄妙道策をご紹介しましたが、同じシリーズです。
本書は幕末~明治にかけて活躍した、村瀬秀甫が主人公の打碁解説です。

皆様は家元制時代の棋士というキーワードで、誰を思い浮かべますか?
恐らく、本因坊道策または本因坊秀策を挙げる方が多いと思います。
次点は本因坊丈和、本因坊秀和、本因坊秀栄あたりの争いでしょうか。
いずれも素晴らしい大棋士であり、彼らの残した棋譜には現代の棋士も大いに影響を受けています。

本書の主人公である秀甫も、彼らに劣らぬ大棋士です(道策は別格かもしれませんが・・・)。
ただ、残念ながら知名度には大きな差があります。
碁も強ければ人物も魅力的だと思うのですが、生まれた時代の問題でしょうか・・・。
家元制の崩壊により御城碁(将軍御前での対局)を打つ機会に恵まれず、さらに本因坊就位後僅か4か月で没するという不運もありました。

さて、知名度はさておき、秀甫の残した碁は素晴らしいです。
江戸時代の名棋士たちから受け継いだ技術をベースにしつつも、先進的な考え方を取り入れて新しい境地を切り開きました。
著書「方円新法」の解説はレベルが高いうえに分かりやすく、現代でも通用します。
高校生の頃の私は、学校の図書館で現代語訳版を読んで感動した記憶があります。
また、入段試験に向けて修行していた時期は、秀甫の打碁集を自分で作って並べたものです。

本書ではそんな秀甫の碁を、石田章九段が解説しています。
秀甫の碁の本質に迫り、その魅力を無駄無く伝えているのは流石ですね。
レベルはかなり高い筈ですが、何となく眺めるだけでも楽しめるのではないでしょうか。

現代から見ても水準の高い棋士が江戸時代から数多く存在していたのは日本だけです。
昨今の世界戦では中国や韓国が台頭していますが、それでも囲碁は日本の国技と言って良いでしょう。
情報の多い現代ですが、過去の名棋士達のことをもっと知って頂けたら嬉しいですね。
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DeepZenGo、1000勝到達

2017年09月27日 23時27分02秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
昨日は仕事が溜まっていたので更新をお休みしました。
元来怠け者なので、サボり癖がつかないように気を付けておきましょう。

本日、女流本因坊戦五番勝負が開幕しましたね。
見ているだけでもヘトヘトになりそうな難戦でしたが、両者のしつこさ、粘り強さには感心しました。
流石勝負慣れしているだけありますね。
第2局以降も競った勝負が見られそうです。

さて、もう1つは身内のお知らせです。
中大囲碁部時代の後輩が、地元で囲碁の研究会を開いています。
盛り上がっているようなので、この場を借りて紹介してみたいと思います。
ブログで紹介すると言ったところ、本人が紹介文を書いてくれました。

「20~30代の若手社会人を中心とした研究会です。
月1回程度、長野県松本市で活動しています。
初心者から高段者まで棋力を問わず楽しめる会です。
ぜひお気軽にご参加ください。」


とのことです。
それと、何やら写真を渡されまして・・・。



週刊碁の「囲碁ガール」コーナーに載っていた、この女性も参加してるよ! とアピールされました(笑)。
いかにも会が賑やかになりそうな雰囲気を醸し出していますね。

若い社会人は同世代と打つ機会が少ない、という話はよく耳にします。
そんな方々が気軽に打てる場所が増えれば、囲碁界全体も盛り上がることでしょう。

よね研ホームページ→https://nxxcd140.wixsite.com/mysite/
よね研ブログ→http://blog.goo.ne.jp/rahmen2


さて、本日は久しぶりにDeepZenGoの対局をご紹介しましょう。
DeepZenGoは幽玄の間にて、雨の日も風の日も対局を続け・・・。
とうとう1000勝突破しました。
最新の通算成績は、1059勝40敗・・・。
棋士側も慣れて来てはいるでしょうが、それ以上にDeepZenGo自体が強くなっているようですね。



1図(テーマ図)
山城宏九段(黒)との対局です。
白1まではよくある布石ですが、白3、5とハメ手風? の打ち方です。
続いて黒Aの切りはあまり良い結果にならないので・・・。





2図(実戦)
黒1、3とかわすまでが1つの定型ですね。
昔からある型ですが、一般的には黒良しと判断されていると思います。
お互いに△の石が悪手になっていますが、白の方が罪が重いとみられるのです。
しかし、白6と黒模様を制限する手がぴったりで、全局的には白が打てるという判断でしょう。





3図(実戦)
その後白1、3と連打しましたが、シチョウ当たりとしては当たりが弱い気がしないでもありません。
しかし、これで十分打てるという判断があるのでしょう。





4図(実戦)
後に白△と構えた場面ですが、この時点で正しく形勢を判断するためには、白×の存在価値を正しく判断する必要があります。
中央に壁を作っていますし、攻められそうもないので、これらが白にとってプラスであることは明らかです。
しかし、具体的にはどのぐらいの価値があるのでしょうか?
それはあまりにも難しい問題です。
上辺の黒地がどれぐらいなのか、右辺の白地がどれぐらいなのか、といったことなら想定図さえ作れれば計算できるのですが・・・。

結局のところ、人間には経験に基づくで判断するしかないでしょう。
一般的に、この勘の精度は強い人ほど高くなります。
そして、DeepZenGoはこういったところの判断力において、人間の最高レベルを大きく超えています。
人間の最も苦手な分野がDeepZenGoの得意分野という訳で、棋力に大きな差が付く原因になっています。
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AlphaGo自己対戦 第4局

2017年09月25日 21時49分54秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
三星火災杯は日本勢残念でしたね。
井山九段は中盤で何かポカの類があったでしょうか?
山下九段も序盤で苦しくしてしまった気がしますね。
今回は両者ともに不完全燃焼だったのではないでしょうか。

さて、本日はAlphaGoの自己対戦棋譜をご紹介します。



1図(実戦)
黒1の肩ツキ一本から、黒3と妙な位置に開きました。
そして、白4のカカリに応じず黒の伸び・・・。
正直、何を目指しているのか全く分かりません。
黒1、5の石と3の石の連携も悪いように見えますし・・・。

Master対棋士60番碁では人外の強さを感じましたが、打ち筋は人間なりに推測・理解できるものも多かったのです。
一連の着手にはちゃんとストーリー性を感じました。
しかし、AlphaGo同士の50局には、私には支離滅裂としか思えない打ち筋が多いのです。





2図(変化図1)
例えば同じ肩ツキにしても、後をこのように打ってみましょう。
すると、不完全ながら全体を赤のラインがつながります。
また、将来的に青のラインも引ければ、全体がつながって大模様になるでしょう。
この打ち方は黒が甘いと感じる棋士は多いでしょうが、流れとしては自然です。





3図(変化図2)
右辺を重視するとすれば、このような展開を思い浮かべます。
これも全体のラインがイメージしやすいので、善悪はともかく違和感はありません。
しかし、AlphaGoの打ち方からはこうしたイメージができないのです。





4図(実戦)
しかし、AlphaGoは黒1、3という手を見ており、こうなった時は確かに黒△が丁度良い位置にあります。
こういうところなど、人間があまり重視しない部分で長所のある打ち方なのでしょう。
どうも人間の碁とは全く異質なものを感じますね。

Masterの碁は、上手く吸収できれば棋力アップにつながると思います。
しかし、AlphaGo自己対戦棋譜は劇薬ですね。
うかつに手を出すと自分の碁を破壊しかねないので、取り扱い注意です。
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