北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:原潜運用日本では不可能,イギリス潜水艦事故分析と原子力船むつ事故の歴史

2021-02-28 20:01:12 | 防衛・安全保障
■原潜導入論への明白反論
 潜水艦は静粛性こそが第一と考える以上、原子炉が動き続ける原潜は完全無音潜航が可能な通常動力潜水艦の土俵では勝てないと思うのですが。

 自衛隊へ原子力潜水艦を、という声は一部一般意見として常にありましたが、原子力潜水艦の性能だけしか興味を示さない一部識者も同様の声を上げていまして、一定程度視点としては存在するのか、こう考えさせられるものなのですが、しかし、日本が原子力艦を導入した場合は大幅な防衛力低下を覚悟しなければならない装備なのだな、と考えています。

 イギリスを視れば原子力艦は事故が宿命的に多いのです、2000年から2016年までの間で9件、原子力潜水艦での原子炉からの放射性物質漏えいや原子炉異常、放射性物質漏えいを伴わないものの動力系統の事故、というもの。勿論メルトダウンのような大事故はありません。以下にイギリス海軍原子力潜水艦11隻が2000年から2016年までの動力系事故を。

 タイヤレス。2000年5月原子炉一時冷却装置故障で原子炉停止し漂流。セプター。2002年1月の原子炉に暴走の危険性が発見。セプター。2005年2月3日、非核動力系異常でジブラルタル緊急入港する。タイヤレス。2007年3月21日、北極近くで爆発事故2名死亡、負傷者アラスカへ。アスチュート。2010年12月11日、動力系統異常により緊急帰港へ。

 タービュレント。2011年5月26日、熱交換器故障の高熱で死傷者26名。ヴァンガード。2012年1月微細な破損によりPWR2試験炉の冷却水から放射線が検出。アスチュート。2012年11月12日、原子炉パイプ継ぎ目の不適部品から漏えいが判明。タイヤレス。2013年2月19日原子炉冷却装置破損でデボンポートに緊急入港。以上、9件が発表されている。

 イギリスは1957年10月10日に世界初の原発事故、ウィンズケール原発火災を引き起こし、放射性物質は欧州まで拡散しました。また、ソープ核燃料再処理工場からの放射性漏えい事故では沖合に投棄した無害化核物質の一部に非処理のウランペレット破片が含まれ大問題となりました、故に原子力事故には慎重である筈のイギリスが、原潜はこうなのですね。

 日本で仮に原子力潜水艦を自衛隊が導入した場合、同様の事故を発生させた場合、原子炉から放射能が漏れたといっても微量なので心配ありません、と好意的な世論はどの程度あるのかが大いに疑問です。現在の日本国内原子力発電所のように、事故と同型艦は十年単位で原因究明へ沖留、これは横須賀や呉へ入港出来ない可能性も含め有るのではないか。

 むつ放射能漏れ事故、原子力潜水艦を自衛隊が仮に導入した場合で長期間の運用不能という状況が考えられるのは、1974年9月1日に原子力船むつ、日本原子力船開発事業団の実験船で発生した事故でした。むつ放射能漏れ事故は原子炉遮蔽物に目視できない僅かな隙間があり、ここから高速中性子が一時的に外部へ放射されていた、という水準のものです。

 ヴァンガード事故、イギリスの戦略ミサイル原潜ヴァンガード2012年1月放射線漏えいと似た事故なのですが、しかし母港に帰港できませんでした、風評被害を恐れた漁民による大規模反対運動で沖合に漂泊せざるを得なかったのですね。漂泊したまま受け入れ先はなかなか見つからず、漸く翌年佐世保市が経営難に悩む佐世保重工での修理に名乗り上げた。

 むつ修理はしかし放射能漏れを起こした原子力船の風評被害を恐れ、佐世保のみならず九州全体の反対運動に繋がり、入港したのは1978年10月16日、事故から四年以上経た後でした。修理は長期の漂泊と共に船体老朽化への整備も含み1982年に完了、しかし再度の原子炉作動試験の実施は1990年、事故から16年を経た後でした。原子力事故は響くのです。

 福島第一原発事故程度の放射能はかえって健康に良い、という暴言を首都圏の酒場で聞こえてきたことが在るのですが、そんなに健康にいいならば東海第二原発も吹飛ばすと良いよ、という福島県の方の反論がありまして、何も言い返せなかったのを傍聴、なるほどなあ、感心しました。原子力事故はやはり見えない不安、確実な危険というものがあります。

 もんじゅナトリウム漏れ、1995年に福井県の高速増殖炉もんじゅ試験にて冷却材のナトリウム漏れ事故がありました。放射性物質漏えい事故ではありませんが、これにより実験は2010年まで停止されています、事故発表は大きく遅れた点も含め風評被害を恐れ事故を隠ぺいした、と批判されても致し方ない状況があったのですね。実際、こうした懸念がある。

 セプター2005年2月3日事故、実はイギリス原潜でも似た事故がありました、原子炉以外の動力系統での事故、恐らくディーゼル補助発電機、しかし一番近い基地がジブラルタルであり、スペイン政府に原子力事故を疑われ入港中止が外交ルートで要請、両国で一時係争状態になりかけたのですね。原子力艦の原子炉以外の事故もこうした係争を呼ぶのです。

 潜水艦の寿命は16年、昨今は22隻体制への転換を受け24年となっていますが、むつ事故を視ますと一回僅かでも事故が発生するならば、十年二十年の単位で運用停止を強いられます、そして相当な地域交付金を積み上げても、呉基地の広島県、横須賀基地の神奈川県、自衛隊原子力潜水艦母港には反対するで、アメリカでさえ原潜は前方展開させていない。

 大宮基地、攻撃型原潜の基地があるグアムのアプラ軍港に、グアムの日本名大宮を用いてアメリカ政府と海軍に協力を受けて海上自衛隊横須賀地方隊大宮分遣基地、日本の原子力潜水艦はグアムに基地を造る、これくらいの強硬策ならば可能なのでしょうが、原潜整備含め、恐らく費用で海上自衛隊護衛艦数と潜水艦数は実数も可動数も半分になるでしょう。

 潜水艦事故の国際比較というものを調べている過程で、日本と同程度に潜水艦運用経験がある国、という事で何気なくイギリスを調べた結果、衝突事故や座礁事故も多いのですが、意外な程に原子炉事故が多い事に驚かされ、日本で運用は不可能、こう痛感したものです。当たり前ですが福島第一原発事故後、原子力事故へ寛容な世論は日本には、在りません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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榛名防衛備忘録:ファントム可変翼型F-4FVSをF-14トムキャット代替に提案,広域防空強化

2021-02-27 20:00:15 | 先端軍事テクノロジー
■超音速性能と要撃力を大幅向上
 ニセコ要塞や十和田要塞じゃないんだから、と思われるようなかなり先進的すぎる装備計画というものが歴史を振り返りますと意外に多く驚かされます。今回もその一つを。

 自衛隊のF-4EJ戦闘機、2021年に飛行開発実験団での運用が終了し、長いファントムの時代に幕を閉じます。ファントムは目一杯自衛隊は使い切った、という印象ですが昔初めてファントムを観た時代には既にF-15が航空自衛隊の主力となっていましたので、旧式という印象はぬぐえず、まさか2020年代まで自衛隊で運用が続くとは、思いもしませんでした。

 ファントム。しかし、もしかしたらば自衛隊は勿論世界でももう少し運用が続いていた可能性がありました、それはファントムの改良型がF-14トムキャットの代替として量産されていた可能性が、あったのですね。F-4戦闘機はアメリカ海軍の空母艦載機、次に生産されたのがF-14戦闘機でしたが、実はファントムを抜本的に改良する新型ファントム案が。

 F-111アードバーグ。ケネディ政権時代、新進気鋭の若き大統領を指導者として選んだアメリカでは自動車産業から合理的なマクナマラ氏を国防長官に指名、マクナマラ時代が始りました。マクナマラ国防長官は空軍と海軍が別々の戦闘機を使う事は非合理であるとして、空軍戦闘機と海軍空母艦載機を統合する戦闘機F-111を開発しました。夢の戦闘機でした。

 しかし、空軍と海軍が必要な性能を要求した事で戦闘機は際限なく巨大化し、結局海軍は艦載機として搭載するには10万トン級空母に現行全ての空母を置換えでもしないかぎり、この巨大なF-111は空母の格納庫に収まらない、として採用を拒否しました。しかし現行戦闘機の陳腐化が進む。そこでマクダネルダグラス社がファントム改造型を提案します。

 可変翼の採用。先ずマクダネルダグラス社はファントムの主翼を可変翼に再設計することとしました。先ずいきなり滅茶苦茶な提案ではありましたが、これにより燃料タンクの配置を原型のファントムから大きく見直し、航続距離を延伸すると共に超音速性能を刷新する案です。もう最初の時点から無理だろう、思われるかもしれませんが性能向上は大事だ。

 F-4-FVSという可変翼型ファントムは、更にエンジンを改良し飛行性能を向上させるとともに、コックピット周辺は変更せず、機首部分を僅かに延伸する事で新型のレーダーを搭載、AIM-7スパロー空対空ミサイルの改良型について搭載数を6発乃至8発、長距離から艦隊防空に充てる、というものでした。当たり前ですが、海軍はこの提案を却下します。

 F-111をアメリカ海軍が却下し、F-4 FVSにも興味を示さなかった頃、空軍もF-111を却下します。いや、開発したのだから最低限引き受ける事となり、戦略空軍に戦闘爆撃機として押し付けるという様な無理矢理を通しつつ、空軍はそのまま真っ当な制空戦闘機としてF-15イーグルを開発してゆく。流石にマクダネルダグラス社はF-4 FVSを提案はしない。

 マクダネルダグラス社は、しかし諦めません。いや、アメリカ海軍はグラマン社が開発したF-14トムキャット開発へと進むのですが、マクダネルダグラス社はアメリカ採用に見切りをつけて、今度はイギリス空軍に採用を持ちかけます。丁度、無理にロールスロイス社製エンジンを搭載したイギリスのブリティッシュファントムが短命に終わろうとした頃に。

 イギリス空軍は次期戦闘機として、イギリス本土をソ連ミサイル爆撃機から防衛するには空中戦能力よりも長距離空対空ミサイルを搭載した大型戦闘機が必要であるとして、TSR-2戦闘機を開発していましたが、大き過ぎて不採用となり、後にF-14戦闘機を模索する事となります。そこで同じ可変翼機で売り込んだ、だけではないのでしょうがFVSを売り込む。

 F-4 FVS、しかしイギリスでもファントムを可変翼に再設計する事の技術的障壁は即座に理解でき、要するに費用はかさむが肝心なところはファントムのまま、という部分に気付いたのでしょう、採用される事はありませんでした。その後F-4 FVSは全く音沙汰無くイメージ図だけが残ります。他方イギリスはF-14を希望しますが予算面で実現しませんでした。

 イギリスが欲しいのは長距離ミサイルを用いての迎撃能力なのですから最新型と云ってもスパローミサイルでは射程がイギリスの望むものではなく、F-14が必要と考えられたのは180kmという長射程を誇るフェニックス空対空ミサイルを運用できるからでして、可変翼機が欲しい訳ではありません、無理に変なファントムを採用する必要は無かったのですね。

 トーネードADV,イギリスは結果として欧州共同開発のトーネード攻撃機を原型として独自の制空戦闘機を開発する事となります。ただ、もしイギリスがF-4 FVSを、これこそ未来の戦闘機だ、と開発していたならば、もう少しファントムの寿命は世界全体で高まり、航空自衛隊のF-15導入計画遅延に際し増産されたF-4EJもFVSとなっていた、かも、ね。

 こうした視点で、しかし、F-14トムキャットと可変翼型のF-4 FVSファントムというものを連想しますと、丁度間ぐらいにトーネードADVが思い浮かべられるのは不思議ですね、同じ可変翼ですが、垂直尾翼はファントムと同じ一枚です。つまり、イメージだけは名機ファントムが欧州標準のトーネードに、なったのだ、という可能性は薄いのですけれども。

 F-4 FVSはめげずに今度はフランスに売り込んだとされるのですが、フランスが採用したのは小ぶりなクレマンソー級空母に搭載する小さなF-8クルセイダーのみ、クレマンソー級に搭載出来ない巨大なファントムに興味は無い。しかし、ここで万一英仏が採用したならば、その内フェニックスミサイルを搭載するファントムⅢへ発展したのでしょうか、ね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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令和二年度二月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2021.02.27-2021.02.28)

2021-02-26 20:11:51 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 本日は226事件90周年という日ですが皆様いかがお過ごしでしょう。今週末行事もCOVID-19影響により皆無ですので足利山林火災に奮闘する第12旅団の情景と共に現況などを。

 緊急事態宣言首都圏以外前倒し解除、菅総理の発言が。首都圏を除く六府県に布告されている政府緊急事態宣言について当初の来月初旬までとしていた布告を今月末、つまり日曜日、解除する事が容認できる、と感染症専門家などで成る政府諮問委員会が了承する方針である、NHK26日付報道がありました。病床使用率や新規感染者数、陽性率等を元としたもの。

 大阪府、京都府、兵庫県、愛知県、岐阜県、福岡県、政府は今夜にも閣議を開いて前倒し解除を決定する見通しです。他方首都圏、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、こちらに布告されている緊急事態宣言は、新規感染者数は減少しているものの、リバウンドする、こうした懸念があるとの事で当面は継続する方針という。まだまだ状況は気を抜けません。

 ファイザー社ビオンテック社製ワクチンについて、温度管理が非常に厳しくマイナス60度から80度の管理が求められていましたがアメリカFDA食品医薬品局の調査の結果、通常冷凍庫での二週間保存へ規制が緩和されたとのことです。このワクチンは元々通常冷凍庫で二週間の保存が可能となってはいましたがFDA規制により超冷凍が求められていました。

 FDAの指針変更はファイザーワクチンを長期保存するのではなく、現在の感染拡大という喫緊の課題を前に備蓄よりも製造から二週間以内に接種は完了する、という現状に併せたものなのかもしれません。日本でのワクチン接種計画も、中央に一時的に長期間保存するデポを構築し、接種準備完了の自治体に順次空輸、という手続きがあり得るやもしれない。

 アメリカ型変異種B.1.526というものが東海岸を中心に広がっているとのことで、これは25日付ロイター報道が報じているのですがアメリカコロンビア大学の研究チーム情報として、幾つかの気になる兆候があるとのことです。気になる兆候とは、昨年11月に初めて変異が確認されたものが今月半ばまでにニューヨークで12%を占めるようになった為、と。

 B.1.526変異種はコロンビア大学とカリフォルニア工科大学の研究チームが最初に確認されて後に広く感染確認されるまでの時間が短い事から南アフリカ変異種と同じ様な危険性、恐らくは感染力の拡大、こうした危険性が認識されているという事でしょう。これを示唆するようにニューヨークでは他の変異種の顕著な増大が確認できない、ということでした。

 南アフリカ変異種B.1.351とブラジル変異種P.1,そもそもなぜここまで感染力が強い変異種が立て続けに起こるのでしょうか、この要諦は、そもそもウィルスは変異する、という点に帰結します。要するに2019年まではこのウィルスはヒトに感染するようには変異していなかった、2019年に中国武漢もしくはその近郊でヒトに感染するよう変異したのですね。

 COVID-19の致死率はコロナウィルスとしては非常に強いものがあります、しかし、人間も負けていない訳でして致死率は2%ですので1000万名罹患すれば20万が死亡する訳ですが、人間の免疫力は言い換えれば1000万名罹患しても980万は生き残る、という。これは即ちウィルスは人間の免疫と戦い続ける中で、やはり変異して攻撃力を強めているという。

 ウィルスは変異する、変異した事でヒトにもう尾を振るうようになった訳ですので、更にへにして幾つかの可能性があります、一つは“感染力を増す”、もう一つは“致死率を高めて拡散させる”、一つは“致死率が高まる”、などなど。これはヒト感染を繰り返す事で変異を助長しますので、ワクチン接種によりその前の集団免疫獲得を広めねばなりませんね。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭

・今週末の行事なし

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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【京都発幕間旅情】福井城(福井)柴田勝家造営北ノ庄城継ぐ城郭は今も県庁県警の現役城郭

2021-02-25 20:07:42 | 旅行記
■今も現役!松平秀康の福井城
 城郭は日本中に現存天守閣に城址公園や復興天守として親しまれる郷土の情景ですが、まだ使っている城郭というものもある。

 福井城。柴田勝家が天正3年の西暦1575年に造営しました城郭です。福井城は北陸本線福井駅から指呼の距離に位置していまして、実は柴田勝家の福井城は北ノ庄城という、ここも駅から近傍に城址があるのですが、この北ノ庄城を江戸時代に拡張したものともいう。

 城下町なのだなあ、と痛感しますのは福井駅の駅前広場、恐竜が唸りを挙げる摩訶不思議な空間ではあるのですけれども、この駅前通りを県庁へ、と歩んでゆきますと近代的すぎる駅前から徐々に昔風情の横丁が広がり、その向こうがお堀の向こうの福井城、ひろがる。

 県庁に県警本部、上司というには近代的な建築物が並ぶ不思議な情景の背景には明治維新後に福井県庁、そして現在は県警本部が城址に造営される事となり、いわば近代都市の景観の一部として永らえたもの。言い換えるならば“まだ使用中の城郭”といえましょう。

 重厚な石垣と壮大な掘割、破却され市街地に埋もれた城址が数多歴史にのみ名を残す中に在って、ここ福井城は天守閣や櫓こそ失われてはいるのですが、城郭の威容を今日に伝える遺構は充分に整備されている、というべきでしょうか。そしてこの城の歴史も実に長い。

 朝倉氏、北近江越前戦国の実力者、織田信長に敗れた安土桃山時代の分岐点その一つですが、元々この朝倉氏も越前統治へこの地に城郭を造営していまして旧臣前波長俊が居城としていました。柴田勝家は朝倉氏滅亡後、信長よりこの地を49万石として所領を贈られる。

 天守閣代わりの県庁や県警本部と共に、しかし歴史を紐解きますと城郭としての福井城天守閣もかなり大きかったようです、残念ながら現存しないが柴田勝家は結城氏所領時代には実質武家館であった城郭を大きく拡張し、天守閣に七層の重厚な平城を造営しています。

 柴田勝家の天守閣、北陸の虎と称された武将故に巨大さが垣間見えるのですが、七層天守閣というものは中々に驚かされる事です。実際その規模の大きさ、ルイスフロイスの歴史書に、かの安土城に比肩し、また城下町の規模ではこれを凌いでいる、と記しているほど。

 賤ヶ岳の戦い。天正年間の西暦1583年、北陸の虎柴田勝家は織田信長没後に豊臣秀吉との勢力争いに賤ヶ岳で敗れ滅亡し、柴田勝家は自害の際に城に火を放ち、妻お市の方とともにこの地に散りました。この際に城郭は完膚なきまでに焼失、天守閣もこの時に焼失する。

 丹羽長秀の時代、賤ヶ岳の戦いののちにこの地は丹羽長秀が治める事となります。ただ、丹羽長秀の根拠地は若狭地方、ここに越前加増、という差配が為されましたので福井城の再興には残念ながら至りません。その後に堀秀政、続いて青木一矩の領地ともなってゆく。

 北ノ庄城として福井城が再興されましたのは天下分け目の合戦、咳がはあの戦いの後です。家康次男の結城秀康が勲功大としまして68万石にて越前を付与されると共に城郭再建が始り、柴田勝家の天守閣から現在地に本丸を造営、その最中に結城秀康は松平秀康と改める。

 松平秀康の福井城は四重五階の天守閣を造営します。ただ、こちらも惜しい事に文9年の西暦1669年に火災により焼失し、この後に天守閣は再建されていません。さて、この際に永らくこの地は北ノ庄と称されていましたが、城内の井戸、福の井に併せ地名が変ります。

 福井、この地名は北ノ庄から改まりまして、今に至ります。残念ながら明治維新と陸軍進駐、そして元半紙による城郭開墾により、石垣と掘割を除けば建物は無くなり、今日に至ります。ただ、県都デザイン戦略として2008年より周辺観光整備として復元が始りました。

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青梅-足利山林火災へ陸上自衛隊災害派遣,CH-47J/JA輸送ヘリコプター空中消火の実力

2021-02-24 20:01:18 | 防災・災害派遣
■足利市76ha焼失し延焼中
 首都圏で現在山林火災が拡大中、消防の消火活動は強風に覆われ思うように進まず、東京都知事と栃木県知事は自衛隊に対し災害派遣要請を出しました。

 青梅市の火災は鎮火、足利市の火災は延焼中です。山林火災、これは消防水利から遠い場所で延焼した場合、消防車が現場近くへ進出する事が難しく、また現場付近い進出できたとしても消火栓や消防水利、溜め池等が近くに無い場合は遠方の水源からポンプ車を繋ぎ合わせ、また山林を緊急伐採し防火帯を構築するか、大型ヘリコプターの出番となります。

 立川防災航空祭。自衛隊では東京消防庁や警視庁航空隊を始めとした関係機関との共同訓練を日常的に行っているほか、東部方面ヘリコプター隊の駐屯する立川駐屯地記念行事を“防災航空祭”と位置づけ、災害派遣等の展示を毎年9月に、昨年はCOVID-19により中止されましたが、今回の災害派遣においてもその普段からの備えが活用されたのでしょう。

 陸上自衛隊では木更津駐屯地第1ヘリコプター団、相馬原駐屯地第12ヘリコプター隊、航空自衛隊では入間基地入間ヘリコプター空輸隊に配備されています。ヘリコプター部隊は北宇都宮駐屯地や立川駐屯地に霞ヶ浦駐屯地、厚木航空基地、館山航空基地、入間基地、百里基地などにも配備されているのですが、大型ヘリコプターと云えば上記の二つに集う。

 CH-47J/JAヘリコプターは陸上自衛隊と航空自衛隊に75機が配備されている大型ヘリコプターです。取得費用は1980年代で42億円、現在は55億円とかなり高価なヘリコプターなのですが輸送力は非常に大きく、機内定員は55名ですが過去には200名を無理矢理運んだ事例があり、国内でも災害派遣時に80名程を輸送した事もあります。吊下げ能力も高い。

 バンビバケットという、CH-47には大型の消火用水槽に7.5tの水を収容し吊下げて空中から一気に散水する事が出来ます。7.5tという水がどの程度か問いますと、消防車の内部に搭載するタンクが2tといいますので、消防車数台分の放水を一気に山林火災の真上で散布し、延焼を食い止めるというもの。この方式は福島第一原発事故でも用いられた方法です。

 放水展示というものは稀に例えば小牧航空祭など、航空祭等でも展示されるのですが、UH-1などの多用途ヘリコプターによる放水とはCH-47が行う放水量は文字通り桁が違いまして、もちろん見学者に飛沫が飛ばないように配慮はしているのですが、風向きによっては数百m先まで霧雨のように飛んでくるものでして、水の威力を実感したものでした。

 バンビバケットに収容する膨大な水は、ダムや河川等からホバーリングしつつくみ上げる方式か、飛行場でホースにより充填する方法があります。CH-47JAの航続距離は1000kmありますので、一旦満タンとしたならば何度も水源と火災現場を往復し消火活動を行う事が可能です。放水は胴体下部の点検窓を開けて、風向きと高度を確認した上で的確に狙う。

 東京都での山林火災は本日1630時に鎮火が確認されました。この火災は23日、青梅市沢井の住宅付近から火が出て木造二階建家屋を全焼させ隣家の空き家二軒を焼くと共に強風に煽られ飛んだ火の粉が火災現場から離れた寺院や山林に飛び火、およそ10か所で同時に火の手が上がったとのこと。消防の出動により建物火災は鎮火しますが山林火災は広がる。

 青梅の火災は本日24日に災害派遣要請が出され、まず現場に近い立川駐屯地より多用途ヘリコプターが情報収集等に出動、続いて千葉県木更津駐屯地より第1ヘリコプター団のCH-47輸送ヘリコプターが消火任務に加わり、消火活動を実施しました。派遣規模は3機との事で、1620時頃、鎮火したという。9万5000平方mの山林が焼けたとの報道でした。

 栃木県での火災は今月21日1500時頃、足利市西宮町で発生しました。強風と共に火災は拡大、栃木県知事は21日に陸上自衛隊宇都宮駐屯地第12特科隊へ災害派遣要請を出し、第12特科隊では情報収集を進めると共に群馬県相馬原駐屯地に司令部を置く第12旅団が隷下の第12ヘリコプター隊等を出動させ、ヘリコプターによる消火活動を実施しています。

 76.5ヘクタールへ延焼、足利市は23日、住宅地への延焼のおそれがあるとして先ず火災現場近くの44軒に避難勧告を出しましたが、避難勧告は72軒へ拡大、24日時点で177軒に避難勧告が出され、周辺の学校は休校となる。消火活動は続いていますが強風により消火の見通しは立たないという事ですが、幸い24日までに負傷者や民家への延焼はありません。

 自衛隊への放水は140回行われましたが、住宅街に最も近い場所では火災が70mにまで迫っているとの事です。天気予報を見る限りは明後日金曜日26日には西日本を中心に広範囲で降雨が予報されていますので、受託街への延焼を阻止出来れば幸いですが、上空からの映像を見る限り里山と住宅地が入り組んだ地形となっており、予断を許さないようです。

 夜間の空中消火は不可能ではありませんが、消火を行う事と夜間飛行する事により生じる危険などから一旦打ち切り、明日朝0630時から消火活動を再開するとの事です。山林火災は落雷や強風による木々の摩擦で発生する事も皆無ではないのですが、大半は火の不始末か煙草、その他といた人為的な要因によるものが大半といいます。注意せねばなりません。

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そうりゅう,高知沖衝突事故の検証【3】そうりゅう型潜水艦とドイツ212型AIP潜水艦の比較

2021-02-23 20:05:12 | 防衛・安全保障
■巨大な潜水艦の長期航海
 そうりゅう型は前型おやしお型よりも居住性はなにか違う、とは前々から聞くところでしたが申し訳ありませんがカタログスペックばかりみていました。

 212型潜水艦、ドイツ海軍の主力潜水艦で欧州に広く輸出され韓国海軍も採用している潜水艦と比較すると、これも科員居住区はかなり圧迫されていまして、ただ新規設計だけにAIP機関を既存艦に挿入した日本に対し、液体酸素タンクと機械室を一体化させた212型の設計は特筆されます、ただその分建造費は倍以上大きな潜水艦そうりゅう型と比しても高い。

 212型潜水艦はドイツ海軍が前に運用した206型と比較し、食堂に椅子が付きシャワー室新設など居住性に配慮はありますが、日本の場合は食堂の椅子とシャワーは前型からあり、しかし新型の方が圧迫されている、という事情はあるでしょう。おやしお型設計にAIPを挿入する、つまり新型艦船体を11m長くしていれば、こうした問題を回避できた可能性も。

 212型潜水艦の方が居住性は下回るのでしょうが、興味深いのは212型が各国へ広報の際に任務航海14日間の内半分をAIP動力で推進する、と説明されていまして、他方海上自衛隊では航海30日以上は基本、と云われています。すると居住性は良好でも、それ以上に長期的な航海を行うにはもう少し見合った配慮が必要だった、といえるのかもしれません。

 居住性の悪化が事故原因とは一概には考えないのですが、何らかの判断ミスが無ければ事故は発生しません。もっとも、たいげい型潜水艦とともにAIPからリチウムイオン電池潜水艦へ移行が始まり、そうりゅう型についても鉛電池とAIPシステムの併用から、従来動力にリチウムイオン電池へ換装した方が航続距離が延伸するともいわれ、ここが解決策となるやもしれません。

 AIP区画はそのまま船体中央部に挿入されています、艦内での前後の行き来を大きく阻害しているものですし、狭くなった艦内、しかも前後の交通が分断されていますので、元々閉鎖空間である潜水艦を潜水艦の船体だけを見ますと若干大きくなったように見える一方、乗員が居住する空間だけでなく、行き来できる冗長性にも影響が及んでいる、ということ。

 居住性は前型と比べて悪い、はるしお型よりも悪い、とは耳にするところです。狭くなったためだろう、と理解していたのですが、艦内配置を見ますと、AIP機関を圧し込んだ事で幾つかの大きな設計変更があるのですね。先ず第一に居住区の集約です。おやしお型までの自衛隊潜水艦は三層、つまり艦内三階建て、として設計されていた。此処は同じです。

 はるしお型、おやしお型、勿論その前も含めて、三層の内最下層は電池室、中層は居住区、上層が発令所や機関制御室や魚雷発射室など。ここで狭くなっている訳ですが、問題は其処ではありません、AIP区画が船体中央部に置かれている為に、後方の区画が大きく自動化され、乗員は船体前部だけで殆ど勤務する事に成った点です。心理的にどうなのだろう。

 士官居住区の大部屋化。そうりゅう型は前型おやしお型で分れていた士官室が一つの大部屋となっています、そして寝台も三段式です。士官は全乗員の二割、気にしない人は気にしないのかもしれませんが、潜水艦の場合は士官居住区に士官室と士官寝台が並びますので、故に寝食の場が職場の上官部下勤務の場であり服務指導の場であり休息の場なのです。

 潜水艦に個室は艦長だけ、これはある種当然なのですが、しかし狭い潜水艦で士官用居住区が大部屋一つ、という点は、前型までが二つの固執に分けていまして大部屋集約では無かったのですから人間関係に影響を及ぼす事は無いでしょうか。海上自衛隊の潜水艦は行動期間が長く、それだけ狭い空間で人間関係が続くのです、この配慮はどう為されたのか。

 科員居住区は魚雷室の下だ。科員居住区は艦首側の第一区画、士官居住区は第三区画です。その中間の第二区画には三階が発令所に二階が通信室と電算室、一階は電池室だ。士官と科員が分れているのは軍隊らしい、と思われるかもしれませんが、おやしお型では科員居住区は第一区画と第二区画にありましたので、区画数で半減、容積でみてもかなり手狭に。

 ただ、大部屋が一概に悪いか、と指摘されますと水上戦闘艦ではそれ程大きな問題とはなっていません。むらさめ型護衛艦では科員居住区は12名部屋複数に区分けされていましたが、たかなみ型護衛艦からは30名大部屋に戻されています。すると、そうりゅう型の40名規模の大部屋も無茶苦茶な大部屋とは言い難いのかもしれません、ここからは価値観だ。

 そうりゅう型は航続距離や静粛性において非常に優れた潜水艦です、しかし乗員は人間であり、通常動力潜水艦は例えば世界では大型に区分される212型が二週間程度の行動を念頭としているのに対し、日本はその倍以上が普通の航海です。自衛隊潜水艦の長い行動期間を考えるならば、もう少し人間工学的な配慮を考えなければ、ならないのでしょうね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【防衛情報】ボルスク装甲戦闘車とタルパー装甲戦闘車,ロシア新兵器とアメリカレーザー砲

2021-02-22 20:03:36 | インポート
■週報:世界の防衛,最新12論点
 今回は先ず装甲戦闘車の話題から。機関砲の命中精度にさえ目をつぶれば比較的安価に日本でも量産できるとは思うのですが。

 ポーランド軍はボルスク装甲戦闘車試作型の評価試験を本格化させています。ボルスク、Borsuk装甲戦闘車は水陸両用の装甲戦闘車であり、ポーランド軍では冷戦時代から運用するソ連製BMP-1装甲戦闘車の後継として数千輌規模の量産も見込まれています。水上での推進はウォータージェット方式、2023年までに評価試験を終了し量産は2024年を見込む。

 ボルスク装甲戦闘車は2014年より開発開始され、装軌式、戦闘重量25tで全長7.6mと側面追加装甲装着時の全幅は3.4m、乗員3名と兵員6名を輸送し、ポーランド製無人砲塔には30mmブッシュマスター機関砲とイスラエル製スパイク対戦車ミサイル二発の装甲発射装置を搭載、MTU社製720hpのディーゼルエンジンにより80km/hの速度を発揮します。

 BMP-1装甲戦闘車の後継に位置付けられるボルスクは試作車が30mm機関砲を搭載していますが、40mm機関砲搭載型や自走120mm迫撃砲、指揮通信車や装甲救急車に多目的輸送車などの派生型を開発予定で、車体前面は避弾経始よりは凌波性を考慮した船型形状を採用しており、BMP-1よりも水陸両用を多分に意識したBMP-3を彷彿させる印象です。
■トルコのタルパー装甲戦闘車
 ポーランドのボルスクはNATO規格の中々魅力的な装備に見えますが同じNATOはトルコでも装甲戦闘車の開発が進んでいます。

 トルコ陸軍は11月、同国のオトカ社が開発中のタルパー装甲戦闘車について搭載する30mm機関砲の射撃試験を実施したとのこと。タルパー装甲戦闘車は30mm機関砲と連装する7.62mm機銃に加えウムタス対戦車ミサイルを搭載するミズラク30砲塔システムを採用しており、また本車は、指揮通信車や自走迫撃砲など各種派生型も開発される計画です。

 タルパー装甲戦闘車はトルコ陸軍が初めて開発する装甲戦闘車で、この種の車両が開発される背景にはトルコ軍が新しく導入するアルタイ主力戦車について、現在保有するM-113装甲車やその機関砲搭載型のAIFV系統の装甲車では機動力や不整地突破能力の不足から随伴できない点が課題であるためで、タルパーは810hpのエンジンを搭載しています。
■トルコ,欧州製SAM検討
 自由主義圏においてロシア製装備品は食品や日用品を除けば高い授業料でしかないのでしょうか。

 トルコのフルシアカル国防相は10月21日、欧州共同開発のSAMP/T防空システム導入を検討していると、ブルームバーグ通信へのインタビューへ答える形で表明しました。SAMP/T防空システムはアラベル防空レーダーと射程120kmのアスター30ミサイルを運用するシステムで、ロシア製S-400の補完ないし代替として検討しているとのことでした。

 F-35戦闘機導入の頓挫、トルコが最新鋭であるS-400ミサイルシステムの後継を探す背景にはロシア製ミサイルを導入する事でデータリンクにより情報漏洩の懸念から、アメリカがトルコ発注分のF-35戦闘機引渡を拒否している背景があります。アカル国防相はトルコは長射程対空ミサイルを必要としており、候補にはペトリオットも含まれるとしています。
■ボーイングのレーザー砲
 ボーイングはアパッチにレーザー砲を搭載して無人機を狩る構想などがありましたね。

 ボーイング社とGA-EMSゼネラルアトミクス社はHEL高エネルギーレーザーシステムに関する協力体制について10月14日、覚書を交わしたとの事。ボーイング社は航空機搭載用レーザーシステム等について実績があり、GA-EMSゼネラルアトミクス社は地上車両などの開発に既に実績がある、両社が共同する事でより現実的な技術開発を進める構え。

 100kWクラスから250kWクラスのHEL高エネルギーレーザー兵器システムを想定しているとされる。現在の課題はレーザー技術そのものでは一定の水準にあるが、戦術車輛に搭載可能なHELLiイオンバッテリーシステム、識別追尾ソフトウェアなどの実用段階の技術に未完成の部分があり、将来的には航空機や陸上戦闘車両と水上艦艇に搭載が見込まれる。
■インドネシアにNASAM到着
 NASAM,アメリカ軍も評価試験備を経てワシントンDC防空に活用しているAMRAAMの地上発射型です。

 インドネシア軍の新地対空ミサイルとして発注していたNASAM-2地対空ミサイルの第一陣が11月、インドネシアに到着したとのこと。NASAM-2はノルウェーのコングスベルク製ミサイルシステムで弾薬はアメリカが生産する。インドネシア軍はNASAM-2を空軍へ配備、首都圏国際空港やボルネオ島のマレーシア国境等の重要地域に配備する計画です。

 NASAM-2はAMRAAM空対空ミサイル地上発射型で、六連装発射装置3基と予備弾薬に管制装置を以て一個射撃中隊を構成する。NASAM-2の2個中隊所要の整備費用は整備支援や教育支援を含め9500万ドルと推測されており、インドネシア軍では多島海域や主要都市や空軍基地などの防空を強化する為により多くのNASAM-2中隊を必要としている。
■TOS-2広域焼却兵器
 サーモバリック兵器ですので厳密には火炎放射器ではないのですけれども。なかなか使われる側には廻りたくない装備があるものです。

 ロシア軍は2020年10月より自走重火炎放射装置TOS-2-Tosochkaトーチカの評価試験を本格化させたとのこと。TOS-2トーチカ自走重火炎放射装置はカザン多目的戦術トラックに24連装サーモバリック焼夷ロケット発射装置を搭載したもので、現行のTOS-1がT-72戦車車体を利用した不整地踏破能力は高いものの戦略機動性に限界のある構造と対照的だ。

 TOS-2トーチカ自走重火炎放射装置は220mmサーモバリックロケット弾を採用、これは射程6kmであり、広範囲にわたり高熱により熱焼却し化学剤汚染や生物剤汚染を中和すると共に実質的には陣地帯等を一度に制圧する目的で運用される。ロケット自体は無誘導だが1D14レーザー測距装置と弾道コンピュータを搭載し、その照準は自動化されている。
■ロシアトルナードSMLRS
 自衛隊でも検討されたHIMARSですが今回の話題はロシア版HIMARSというべき装備品が開発されていまして機動力を高めたものという。

 ロシアはトルナードSMLRS多連装ロケットシステムの評価試験を本格化させている。これはロシア軍の配備するスメルチ多連装ロケットシステム及びウラガン多連装ロケットシステムの後継として七年以内に大量配備を計画するもので、アメリカ軍のHIMARS高機動ロケットシステムに対抗するべく八輪型トラックに搭載した軽量なロケットシステムだ。

 トルナードSMLRS多連装ロケットシステムは最大射程120kmの300mmロケット弾を六発搭載、発射装置12両で一個大隊を構成するとのこと。グロナス衛星座標装置に連接し自動目標照準装置により迅速かつ精密な長距離打撃能力を有している。トルナードSMLRSはロケット弾本体にもグロナス誘導装置が搭載され、GPS誘導方式に対抗する装備である。

 120kmの射程は師団砲兵用ロケット砲としては長射程に区分されるものだが、これはアメリカ軍が進めるPrSM陸軍プレジションミサイル計画へ対抗する為に必要とされるもので、射程の他にもシステムが小型化した背景には、スメルチ多連装ロケットシステムのような大き過ぎる車輛では野戦機動性でHIMARSに対抗出来ない、という想定もあるようだ。
■英海兵隊81mm迫撃砲
 自衛隊も採用しているL-16迫撃砲は元々イギリスの設計なのですが、本家イギリスでは新しい機動運用が始まった。

 イギリス海兵隊は2020年12月に81mm迫撃砲機動運用用のCanAm6×6全地形機動車輛を公開しました。CanAm6×6全地形機動車輛は所謂クワッドバギーの六輪駆動版で、イギリス海兵隊はL-16/81mm迫撃砲を搭載した250kg牽引車をCanAm6×6全地形機動車輛により牽引させる事で、従来の迫撃砲牽引車輛では展開困難な地域へ進出させるようです。

 CanAm6×6全地形機動車輛の機動展開を実施したのはイギリス海兵隊第3コマンドー旅団第45海兵コマンドー大隊の迫撃砲小隊で、車両そのものには人員2名が乗車し、3両のCanAm6×6全地形機動車輛が、指揮官車、迫撃砲牽引車輛、弾薬輸送車両、と区分し運用しています。迅速かつ小型の機動運用は部隊の生存性等を高める手段と考えられています。
■インド軍に新型JVPCカービン
 インド軍の新型カービン、一時期ノルウェー軍などが個人防護火器で小銃の後継に充てようとして射程の短さから結局HK-416にしていましたが。

 インド軍はJVPC統合防護カービンの評価試験を完了しました。JVPCカービンの外見はイスラエルのUZI短機関銃やチェコのVP-61短機関銃、ドイツのMP-7個人防護火器によく似た形状となっており、特筆されるべきは弾薬は5.56mm×30mmという短小弾薬を採用した点です、これはMP-7の4.7mm弾やP-90の5.7mm弾と同じ小口径弾薬という。

 JVPC統合防護カービンは100m以内での戦闘を想定したもので、実際に類似した弾薬を用いるMP-7やP-90も100m前後での戦闘を意識した個人防護火器として用いられています、これは非常に小型で扱いやすい反面、小銃の射程である300m前後では弾丸威力が低下し使えない難点で如何に運用するか、興味深い所です。試験は12月7日に完了しました。
■パンツファーァスト3後継
 戦車が目の前に来た時に手元に在れば心強い、自衛隊でも運用している個人用対戦車弾薬の後継に関する話題です。

 オランダ軍は2020年内にもパンツアーファスト3個人対戦車弾の後継となる新型対戦車弾薬の開発を本格化するとの事です。パンツアーファスト3はドイツが1992年に採用した弾薬で弾薬先端部分を調整する事で対装甲用にも対陣地用にも化学エネルギーのジェットを調整する事が可能ですが、無誘導であり交戦距離の延伸に際し精度が問題視されている。

 オランダ軍ではパンツアーファスト3の実用的な射程は300m程度に過ぎない事から、アフガニスタンでの実戦において陣地攻撃に用いた結果、射程不足が強く認識される事となり、後継となる新装備は、少なくとも650m以遠の目標に対し確実に命中する新型弾薬を想定しており、この開発へ1億ユーロから2億5000万ユーロを想定しているとのこと。
■レバノンが装甲ハンヴィー
 レバノンはいま外国製の装甲車を調達しなければならない状況なのかなと。日本製の四駆では不十分なのか。

 レバノン軍はM-1152装甲ハンヴィー300両を5550万ドルにて調達すると12月2日に発表しました。M-1152は輸送型であり2名の乗員と共に後部に8名を輸送可能となっており、アメリカのインディアナ州サウスベンドのアメリカンジェネラル社において製造されているもので、先ずレバノン軍は150両を調達し予備部品と共に運用基盤を構築します。

 M-1152は完全装甲型で機銃座を有し4名を輸送するM-1151と異なり、後部はオープントップ構造を採用しており、ここに装甲箱を設置し簡易装甲車とする事も可能です、が、問題は5550万ドルという費用は経済破綻状態にあるレバノンには厳しい支出、COVID-19感染拡大と穀物倉庫大爆発に揺れるレバノン世論がこれをどう見るかが関心事ともいえます。
■トルコ,制裁で戦車がピンチ
 国産技術というものはやはり大事にしてゆかなければならないものなのですね。

 トルコは陸軍のアルタイ主力戦車についてエンジンとトランスミッションの供給を韓国政府へ要請したとのこと。アルタイ主力戦車は韓国K-2主力戦車を元に韓国の技術協力を受け開発した戦車ですが、エンジンとトランスミッションについてはトルコ政府が要求する性能を韓国製では実現できない為、ドイツMTU社製などを輸入し搭載していました。

 アルタイ主力戦車の機関部をドイツ製から韓国製に切り替える背景には、エーゲ海を巡るギリシャとの対立がトルコのリビア内戦介入に拡大したため、これを巡りフランスなどEUとの関係悪化に波及、この影響からEU諸国であるドイツもトルコへの戦車部品輸出を停止する措置を執った為です。アルタイ主力戦車の開発は継続されますが、難航しそうです。

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【日曜特集】航空自衛隊60周年小松基地航空祭(8)緊急!対領空侵犯措置発動(2014-09-20)

2021-02-21 20:20:40 | 航空自衛隊 装備名鑑
■スクランブル!55分間の緊張
 その時。本番というものは前触れなく突然やってくる場合があります、これは防衛安全保障や危機管理ならば尚更というものなのでしょうね。

 航空祭中断、なにかこのF-15Jが突如滑走路に飛び出てきた、何か違う。うむ、アナウンスもなく牽引車に曳かれるのでもなく、いきなり滑走路にF-15が滑り出してきたのですね、何か違う、違和感の正体というものはどのあたりか、しかしなにか、ある、なんだろう。

 AAM-3,そうこのF-15JはAAM-3,それも実弾が二発搭載されている、とは。AAM-3即ち90式短距離空対空誘導弾、三菱重工と三菱電機により開発された赤外線誘導ミサイルで射程は15kmです、これを二発搭載している、そう実弾のミサイルを備えているという。

 ホットスクランブル、本番ではないか。そう考えて小松空港側で撮影している友人知人に電話してみるが、いや違うだろう、とか無線は入ってないとか、ただ、その直後に航空祭の飛行展示を一時中断します、というアナウンスが入りました。つまり、そういうこと。

 対領空侵犯措置発動、アラートハンガーから滑走路へ滑り出てゆく。飛行情報区として国際民間航空機関ICAOが割り当てた空域に沿って防空識別圏ADIZが設定されていまして、飛行計画を示さない国籍不明機を全国28カ所の防空監視所が確認しますと、発動する。

 F-15J、このころに会場アナウンスで国籍不明機が接近している通知が。ロシア機でしょうか、北朝鮮機か、中国機も近年は日本まではいってくる、もちろん紀伊半島沖も小松の管区です。入間の中部航空方面隊司令部から緊急発進が命じられ、小松に非常ベルが響く。

 緊急発進へ急上昇するF-15J,これはAAM-3を搭載した本番である。これが現実、というものでしょうか。もちろんなは空港で旅客機を待っていますと沖縄では案外緊急発進が多いのですけれども、小松で航空祭のさなかにホットスクランブル、かなり希有ではないか。

 急上昇するもう一機のF-15J戦闘機、実弾搭載の戦闘機に緊張走る。航空管制により国籍不明機へ接近し国際緊急周波数にて英語とロシア語で領空侵犯しつつあることを警告する、自衛隊法では威嚇射撃の手順も、そして刑法上の緊急避難ならばAAM-3の使用さえも。

 F-15J戦闘機二機はそのまま日本海上へと飛去っていった。緊急発進はこの数年後に一年間で1000回の大台を越えた、一日平均3回という年度さえもある。敵対行動に直面することも。防衛に関する厳しい現実というのはここにあるのですね。自衛隊は此れに備えている。

 55分後、轟音と共にF-15J戦闘機が戻ってきた、犬鷲の部隊マーク尾翼の向こうに。憲法問題、しかし国家の主権が蔑ろとされては国民の権利を守る国家そのものが破綻してしまい、憲法は平和主義を含めて自衛されなければならない、厳しい現実とは主としてここ。

 スクランブル発進と対領空侵犯措置を終えて列機の向こうに着陸の姿が。戦闘機が空戦機動を仕掛けてきている、こうした内部告発的な警鐘が鳴らされたのは、この数年後ですが、緊急発進の機体を逆に威嚇するために空戦機動を仕掛ける、これは普通にあり得る事態だ。

 ドラゴンの描かれたF-15には、今回も無事使わずに済んだAAM-3が。現実問題として小規模な小競り合いとして、例えばこの航空祭の少し後にはトルコ空軍がロシア空軍機を撃墜しましたが、緊急発進の延長上にミサイルを使用する小競り合いの蓋然性は、あります。

 F-15J戦闘機もう一機もAAM-3を使わずに無事任務を終えて着陸へ。航空祭というものは防衛への理解と自衛隊への理解、というもの、広報は主目的なのですけれども、自衛隊の現実の任務、ということをもっと我々は現実へ関心を寄せるべき、と改めて思いました。

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T-38練習機米アラバマ州で墜落し航空自衛隊2等空尉が殉職,T-4練習機不具合回復中の最中

2021-02-20 20:14:25 | 防衛・安全保障
■戦闘機要員派米養成の現状
 日本時間今朝、アメリカアラバマ州で訓練中の練習機が墜落し航空自衛隊2等空尉が殉職しました。先ずは殉職した方々のご冥福を祈りましょう。

 飛行訓練中の航空自衛隊2尉とアメリカ空軍の教官が殉職したという痛ましい事故が発生しまして。殉職した2尉は2019年から戦闘機操縦要員を目指しアメリカへ留学していたとNHK報道にありました、防衛省では現在アメリカ空軍に派遣している連絡官を通じて情報確認中とのこと。航空自衛官がアメリカで練習機を飛行させていた、その背景について。

 墜落したのはT-38とのこと。何故アメリカでT-38の操縦訓練を、と思われるかもしれませんが、これは2019年のT-4練習機エンジン不具合問題で、一時全てのT-4が飛行停止措置となり、順次飛行再開となっていますが2019年には千歳航空祭でブルーインパルスが2機しか飛行できないなど、問題が顕著化していました、今も影響しているのでしょうか。

 事故は日本時間の20日0800時ごろ、現地時間の19日1700時頃に発生しました。訓練に運用されたT-38はコロンバス基地のアメリカ空軍第14飛行教育航空団に所属し、航空団にはT-6を運用する第37飛行隊、第41飛行隊、T-38とT-6等の機種転換を担う第43飛行隊、T-1練習機を運用する第48飛行隊、そしてT-38練習機を運用する二つの飛行隊が。

 ミシシッピ州にあるコロンバス基地を離陸後、アラバマ州モンゴメリー空港に着陸する途中、空港3km手前の森林に墜落、航空自衛隊の隊員とアメリカのパイロット教官はいずれも殉職したとの事です。モンゴメリー空港は官民両用空港で、空港にはアラバマ州兵空軍第187戦闘航空団が展開、F-16を運用中、2023年にはF-35へ機種転換を予定しています。

 コロンバス基地のT-38飛行隊は戦闘機操縦課程の訓練を行う第49飛行隊と、T-38の飛行訓練を行う第50飛行隊が置かれていますので、報道を観る限り高等戦闘機操縦訓練を実施する第49飛行隊のT-38でしょうか。意外に思ったのは、航空自衛隊の派米訓練は数多く行われているのですが、初級操縦課程から戦闘機操縦課程まで、基本的に日本でも行える。

 航空教育集団には静浜基地の第11飛行教育団、防府北基地の第12飛行教育団、芦屋基地の第13飛行教育団、ここに初等練習機T-7やT-4練習機が配備されていまして、続いて浜松基地の第1航空団にT-4練習機が戦闘機操縦課程等を実施、また松島基地第4航空団にはF-2B戦闘機の第21飛行隊、新田原基地にはF-15戦闘機の第23飛行隊が教育に当たる。

 アメリカでの操縦訓練は行われているとは聞いていたのですが、航空教育集団の体系化されたカリキュラムの下での航空自衛隊全体で独立した訓練教育課程を有しており、今回の事故がレッドフラッグ等への参加というような教育訓練やアメリカ空軍指揮幕僚学校への留学というものでなく、単純に戦闘機操縦士を養成する為、とは勉強不足か、意外でした。

 T-7練習機での操縦課程を完了しますと、そのまま日本国内でT-4練習機へ進み操縦課程を完了させる訓練課程と、そのままアメリカに派遣しエンジン出力の強力なT-6練習機とジェット機であるT-38練習機の課程に進む方式と、現在航空自衛隊の戦闘機搭乗員養成は二分化しているとのこと。もっともどう区分けしているのかは、ちょっと分り難いのですが。

 T-38,これは優れた航空機なのですが、航空自衛隊では2006年に引退したT-2練習機が国産開発される際に、このT-38を国産案に代えて提案されたという、要するに古い航空機なのですね。初飛行は1959年、いや実は航空自衛隊でまだ運用が続くF-4EJも原型の初飛行が1958年、C-130原型に至っては1954年ですので一概に古いとは言えないのですが古い。

 T-38,製造終了は1972年ですので最も新しいT-38でも49年を経ていまして、1981年までライセンス生産で製造継続されたF-4EJよりもかなり古いものでして、しかも自衛隊のF-4は間もなく運用終了ですが、T-38は後継機T-7Aへの置き換えが2023年から、これまでに延命改修に延命改修を重ねて実施してきた、非常に老朽化が進んでいる機体なのですね。

 T-4練習機、さて。思い出されるのは2019年4月に発生したエンジン不具合問題です。三沢基地を離陸したT-4練習機が異常に気づき緊急着陸へ引き返し、結果、エンジンタービンブレード部分に異常が確認されました。これは単一の問題では無く全てのT-4改修が必要となり、一時日本全国のT-4が飛行停止となった事がありまして、大きな影響が出ました。

 T-4エンジン不具合はなにしろ双発機、しかも212機が製造された国産機ですので交換に時間を要し、2019年にはブルーインパルスもT-4飛行停止の例外ではなくが夏まで飛行停止に追い込まれ、飛行展示再開では2機しか飛行出来ませんでした。また2019年の岐阜基地航空祭にはT-4練習機が異機種編隊に参加しないという椿事を御記憶の方も多いでしょう。

 第1航空団のT-4も飛行できない状況が続きまして、文字通り航空教育の屋台骨が機能不随となってしまった状況、ブルーインパルスよりも教育第一線の要員を優先するという姿勢の裏返しでもあるのですが。さて、今回の事故はT-38練習機というかなり古い航空機による事故と云う事ではあるのですが、同時に我が国T-4の老朽化も無視できない問題です。

 T-4練習機はエンジン不具合、という部分が大きく思い出されるところではありますが、同時にT-4練習機そのものも老朽化は進んでいる一方、その後継機開発は防衛予算の装備調達がF-35戦闘機やミサイル防衛にC-2輸送機やE-2D早期警戒機など正面装備の調達に重点が置かれた結果、そろそろ本格化しているべき後継計画に着手さえしていない状況にある。

 T-4練習機後継機の問題は棚上げとなっている一方で、従来は日本国内で完結していた戦闘機搭乗員の養成が、アメリカに要員を派遣しなければならなくなっている状況、これは正面装備に配分するだけではなく、もう少し国産練習機もしくはT-7AやM-346等の海外製航空機を含めて、航空教育というものを真剣に考えねばならないようにも思うのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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令和二年度二月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2021.02.20-2021.02.21)

2021-02-19 20:21:30 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 日本国内ワクチン接種が開始されましたが皆様いかがお過ごしでしょうか、本日は接種本格化の際には輸送支援に当るであろう木更津駐屯地等の情景と共に。

 今週末はやはり自衛隊関連行事は行われません、世界規模で観れば感染拡大は鈍化しているのですが、我が国では緊急事態宣言継続下でも感染拡大は鈍化しているのですが、懸念事項としては鈍化の割合が低下、つまり一定以下の水準まで中々感染拡大が減らない状況があり、拡大期の入院患者、その死亡例が増え、まだ危機の最中です。そこでワクチンは。

 東京医療センター院長が日本最初の接種者となりました、2月17日0900時に接種開始、最初の接種では新型注射器が用いられました、これは六回分が内蔵されたアンプルから従来の注射器では五回分を取り出す非効率が指摘されていましたが、新型注射器により残す事無く効率的接種を行えることになります。厚生労働省は新型注射器確保を進めています。

 欧米の報告では25%で二度目の接種後に38度までの発熱が報告されているとのことで、医療関係者を優先接種とする事から、東京医療センターでは初の接種後の記者会見において、医療従事者先行接種とともに一定数の医療関係者が二度目の接種後に発熱が生じる事で医療業務に滞りの無いよう、ワクチン接種対象者を分けてゆく考慮してゆく方針とのこと。

 世界の感染拡大率はここ五週間一貫して減少に転じており、一日75万から40万の水準となり、この感染規模は2020年10月の水準まで抑える事が出来ているようです。これは世界最大の感染爆発に見舞われたアメリカ国内での感染拡大が抑えられ始めている点であり、ワクチン接種はまだまだ不十分ではありますが、それでも効果が出始めているといえます。

 コバックスファシリティとしまして世界では各国が資金を共同負担し世界中へのワクチン普及を経済格差に関係なく実現させる取り組みが進められています。コバックスファシリティでは年間に20億のワクチンを世界に供給する方針ですが、まだまだ世界の70%に普及させ集団免疫を構成するには遠く及ばない状況です。世界人口を考えれば2023年まで続く。

 シノファームワクチンのハンガリー接種開始、17日にハンガリーでは中国が独自開発したワクチンの接種が開始されました。これはEU加盟国では初めての事例で、EUは安全性の高いmRNAワクチンを中心に認可し供給していますが、シノファーム社は新型コロナウィルスを不活性化させたワクチンを採用しています、供給不足がまさに顕在化している形だ。

 アメリカでは100年ぶりの寒波が全米を襲い、ワクチン接種計画へもすでに影響が及んでいるとのこと。特に中西部を中心に広範囲が停電被害に見舞われており、ワクチンでは超低温保存を求められるものもある事から影響が懸念されています。世界の感染拡大歯止めはアメリカでの感染抑制が最も大きな成果であるだけに、寒波は看過できないでしょう。

 フランスでは病院へのサイバー攻撃が頻発しているとの事で、これはデータベースへの接触をできないようした上で解除を条件に金銭を要求する身代金型ウィルスというサイバー攻撃です。これによりコロナ感染対策にも支障が及んでいる状況で、パリ検察局ではランド県とローヌ県の病院サイバー攻撃に対して本格的な捜査を開始したと発表しています。

 サイバー攻撃はファイザーやアストラゼネカ社などコロナワクチンを生産する製薬会社に対しても行われ、攻撃が組織的かつ大規模であった事から、幾つかの国家の関与が疑われています。ウィズコロナの時代、その次にはポストコロナの時代は必ず到来するのですが、その新しい時代の対立要素が徐々に増大している点、やはり大きな関心事といえましょう。

 WHO武漢現地調査団の現地調査終了。世界ではポストコロナの時代とともに、何故一年以上に渡り地球規模の停滞と災厄を受容せざるを得なかったかへの答えを求めていますが、漸く実現した中国武漢、最初の大規模感染爆発地域での調査は、残念ながら不徹底に終わりました。唯一の成果は、COVID-19は中国の生物兵器では無かった、との再確認でした。

 武漢現地調査。陰謀論的に武漢に所在する武漢ウィルス研究所において開発されていた中国軍の秘密生物兵器が漏えいしたのではないか、という中々信じにくい、核兵器に対抗する核酸兵器、という視点はあったのですが、WHOは武漢ウィルス研究所の短時間とはいえ重要な調査が認められ、その可能性は非常に低い、との確認はできています。一歩進んだ。

 しかし、中国国内での感染拡大は世界がCOVID-19を認識したよりも相当早かった可能性、今回のWHO調査により示されました。中国国内での感染爆発を国家的恥辱と考え隠蔽した可能性、若しくは別の視点で、中国国内で発生した新型ウィルスを認識するまで時間が掛かり過ぎたのではないか、こうした可能性があり、WHOは再調査を希望しています。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭

・今週末の行事なし

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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