フォト俳句・天使の梯子

    時として見る天使のはしご
    まるで神の呼びかけのよう。

            花木柳太
   

東京

2019-03-20 01:13:11 | 創作


 江古田に5年住んでいた
 小奇麗なアパートだったがまるで赤ちょうちんの世界だった
 銭湯は近くに三軒あったのを記憶している。

 彼女は何時も静かに訪ねて来た
 可憐で美しい女だった。

 洋裁学校に通っている彼女は
 「生地の値段は安いものなのよ」と云った
 苦学生の私は彼女に十分な事をしてやれなかった。

 親友のよしおかは一年先に上京していた
 鹿児島の片田舎から意気揚々と夜行で東京に行った
 遠すぎる想い出。

 よしおかは司法試験に敗れやさぐれた
 私はもともとそんな野心もなかった
 一度だけ歌舞伎町の歌声喫茶に行った
 「灯」というその店は今もあるという。

 ロシア民謡を歌っていたら涙が出てきて
 トイレに駆け込んだ、恥ずかしかったのだ
 いい時代だったのか。
 
 池袋西口に純喫茶があってよくそこで話し込んだ
 当時は到るところに喫茶店があった
 よしおかは卒業するとすぐ所帯を持った。

 まだ若い奥さんは別れ際に
 「少年マガジンを買っておくね」と云った
 まだそんなものを読んでいるのかと思った。

 彼女とは結局結婚できなかった
 親の強い反対があった
 一時は結婚を許してくれたが何故かできなかった。

 苦くつらい思い出
 今も心に残って離れない。

       -おしまいー